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月夜のダンスホールで口づけを

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 その翌日の夕食後に、クロードとミカは学園の校舎の一角にあるダンスホールにいた。
 ガラス張りの天井から、澄んだ月の光がよく届き、電気をつけなくてもよく見えた。

 ミカは、薄暗い中に二人っきりという状況に、緊張している事がバレないように、あえて明るく言った。

「それにしても、よく借りられたねー!こんな所をこんな時間に!」

「オリバー先生に上手く頼み込んだら、快く鍵を貸してくれたよ。ただ、あまり貸したことを公に出来ないから、電気はつけないでくれとのことだ。」

「さすがクロード!また、巧みな交渉術を使ったんでしょ!じゃあ、早速、練習と恐怖症克服訓練をやりますか!そうだ。私はドレスに着替えないとね。ドレスは用意出来たの?」

「これを·····私の恐怖症の原因は、母親に起因してると思われるので、生前母親が来ていたドレスをミカのサイズに仕立て直してもらった。」

「昨日の今日で、それが出来るって·····さすが、王族の力だね·····わぁ!綺麗な色のドレスだね!ファッションに疎い私でも、すごい高価なものって分かるよ!·····隣の部屋で着替えてくるね。」

 ミカは青空のような紺碧のドレスを、クロードから受け取り、そのシルクの滑らかな肌触りに驚いた。
 着替えを終えて、部屋に戻るとクロードが静かな口調で言った。

「似合うな·····とても綺麗だ。」

「あ、ありがとう。えーっと、あ!じゃあ、早速、私の男性パートの練習をさせてもらってもいいかな?」

 ミカはクロードの言葉に顔がほてるのを感じたが、バレないようにおどけた口調でまくしたてて言った。

「あ、あれだよねー!ダンスは男性パートのほうが圧倒的に難しよね!リードしないといけないから。ヤバいなぁ。ダンス自体久しぶりだし!あ、音楽どうしようか?人にバレないように大きな音を出すわけにいかないし!私が鼻歌でも歌うかな?でも、ワルツの音楽なんて頭に入ってないや!」

「ワルツなら、私がリズムを口ずさもう·····じゃあ、やるか。」

 クロードに手を取られ、肩に手をまわされたので、おずおずとミカもクロードの肩に手をまわし踊り出した。
 ミカは手汗がドッと出るのを感じた。

(そうだ·····ダンスって、こんなに密着するんだった!クロードの体臭って、なんでこんな甘くて心地いいんだろう·····!って言うか、クロードのリズムを口ずさむ声が色っぽすぎる!耳元で静かに歌われるとゾクゾクして、集中できない!!)

「わっ!·····と!ごめん!足踏んだ!·····大丈夫だった?·····全然ダメだ!ダンス自体も久しぶりだし、男性パートって本当に難しい!」

「ちょっと、一旦男性パートの見本を見せよう。ミカが女性パートをやってくれるか?」

 再びクロードとミカは、月夜の教室で踊り出した。

(うわー。クロードはリードするのが、本当に上手。すごい安心感がある。この人になら、この身をすべて任せられるって気分になるわー!·····って、何考えてんだ私は!集中集中!えーっと、そうそう足のステップはこんな感じで·····)

 「ありがとう!男性パートの感覚をだいぶ掴めたよ!それにしても、クロード上手だねー!ご令嬢恐怖症なのに、なんでこんなに上手なの?」

「昔はよくダンスを踊っていたからな。·····母が亡くなってからは、理由をつけてはダンスを避けてたから、私も久しぶりで、正直少し不安だったが·····本当に愛しい人を慈しむ気持ちで踊れば、自然と上手にリード出来るものなのだな·····」

 「え!えーっと、うん。分かった慈しむ感覚ね!ちょっと私も、もう一度男性パートやってみていいかな?」

 ミカはクロードの発言に動揺したが、受け止める心の余裕がなく、スルーして練習を再開した。
 感覚を掴めたせいか、ミカはさっきより自分が上達してるのを感じた。
 ダンスしながら、クロードがミカに語りかけた。

「この調子なら大丈夫そうだな。ミカ。」

「ありがとう。クロードのお陰だよ。クロードの恐怖症の方はどう?」

「そうだな·····相手をミカだと思い込めば、1曲くらいなら、なんとか踊れそうな気がしてきた」

「そっか。良かった。って····う。うわぁ!」

 ミカはドレスに足を引っ掛け、手を繋いでいるクロードを引っ張り込むようにして後ろに倒れる様に転んでしまった。
 クロードが、ミカの背を手で抱きしめるように転んでくれたため、ミカには転んだ衝撃があまり無かった。

「ご、ごめん!クロード!手を痛めなかった?大丈夫?」

「っく·····ちょっと左手を捻挫した程度だ·····大丈夫だ。」

「わぁ!本当に申し訳ない!左手捻挫だと、日常生活で困ること色々あるよね!剣も使いにくいだろうし·····!本当に申し訳ない!お詫びに何でもします!とりあえず、治療を!冷やさなきゃ!」

 クロードの下敷きになり倒れ込んだ状態のまま、ミカがあわあわ言うと、クロードが答えた。

「お詫びか·····じゃあ、このままキスさせてくれ·····」

「へっ!?」

 「·····っ冗談だ·····強引に迫るようなことはしないってこの前、言ったばかりだしな·····」

 クロードは、起き上がりながら言った。
 暗くてよく見えないが、どうやらクロードは耳まで赤くなっている。
 ミカはその様子を見て、意を決した。

「キス·····してもいいよ。私、クロードの事が異性として好きだって、この前ようやく自覚した。」

 床から身を起こした状態で、ミカはクロードを見上げながら思いを告げた。

「本当か·····?私が王族だから、断れなくてとかではないよな?」

「うん。生まれや血は関係ないよ。クロードの親がたとえ乞食でも、殺人鬼でも、関係なく私はクロードが好きだよ。·····でも、王族であることを否定してる訳では無いよ。冷遇された環境の中でも王族としての責務を果たそうと、1人で努力してきたから、今のクロードがいるんだと思うし·····その過去ごとクロードを愛おしく思うよ。」

「ありがとう。ミカ。·····キスしてもいいか?」

 ミカが恥ずかしそうに頷いたので、クロードはミカの前に跪き顔を近づけた。

 近づいてくるクロードのエメラルドグリーンの瞳がとても綺麗だなぁとミカが眺めていると、クロードに呆れたように言われた。

「目を閉じてもらえるか?」

「あ!そうか!うん!」


 クロードのとろけるような口づけに、ミカは脊髄に甘い痺れのような快感がはしるのを感じた。


「·····キスって、こんなに気持ちのイイものだったんだ·····」

「·····ミカ。私の理性が飛ぶから、そんな顔でそういうこと軽々しく言わないでくれ·····」

「へっ!?ご、ごめん!あ、クロード怪我してるし、もう夜も遅いから、今日はおしまいにしなきゃね。治療道具持ってくるね!」

「いや。いい。手は自分で治療できる。部屋に湿布もあるし、大丈夫だ。ちょっと頭も冷やしたいし、悪いが先に部屋に戻っていてくれるか?」

「あ。うん。分かった。クロード今日は色々ありがとう。じゃあ、先に戻るね。おやすみ」

 ミカは耳まで赤くなりながら、しゃがみ込むクロードを部屋に残し、ギクシャクしながら部屋を出ていったのだった。

 
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