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第七話 世界

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「えーと、どこから話そうかしら。 そうだ!」

リリーは自分の手についている指輪を見せるように、左手を開いて見せた。

薬指に綺麗な銀色の指輪がついている。

「この指輪は、ゴメちゃんとの絆なの。」

ゴメスと結婚しているということだろうか。 少し残念な気持ちである。

「基本的にゴメちゃん、継承戦戦闘機っていうんだけど、音声認識で私の指示を聞いて動いているのね。」

不穏な単語が聞こえる。
ゴメスさん、何かの戦闘機だったのか。

まぁ銃とかついてるしな。

「でも、指輪からリリーの生体データも取得しているの。だから、私がピンチの時にはすぐにかけつけてくれるのよ。」

ただの指輪ではなかったようだ。

技術的な用語がポンポン出てくる。
これももしかしたら、翻訳前だと、宗教用語とかだったりするのかな?

例えば「生体データの取得」=「魂の声が聞こえる」のように。

リリーの服装や家の雰囲気が「生体データや音声認識」とは不釣り合いな印象だったため、
俺はそんなことを考えながら話を聞いていた。

そういえば、俺の指輪にもそんな機能がついているのだろうか。
俺は右手の薬指を確認した。

リリーのものと比べてあまり艶がないが、銀色のリングだ。

リングには緑色の文字が書かれている。

宝石はついていないが、指輪の正面は、何かを嵌めることが出来そうなデザインになっていた。


「ツクルの指輪も同じ種類のものなの、簡単に外すことはできないわ。」

「ツクルも継承戦の参加者なんだと思うんだけど、まだ登録をしていないのね。」

「もしも登録されているのなら、ツクルが気絶した時に、戦闘機の助けが来るはずだもの。」

「これから町に行って契約してきたらいいと思うわ。 まだ馬車の時間も間に合うはずよ。」

契約すると、戦闘機、もといゴメちゃんと同じものがもらえるようだ。
継承戦とはなんのことだろう。

戦闘機とは言っているが、リリーとゴメスさんの関係を見るに、限りなくペットに近い。
つまり、俺にも炊飯器のペットをもらえる、ということだろう。

割と悪くないのでは。飯も美味いしな。

わからないことは色々とあったが、馬車の時間もすぐとのことで、俺は急いで出発準備をすることになった。

というか馬車って。

この世界の文明感がよくわからない。


契約所、契約方法など、リリーから一通りの説明を改めて受け、俺は出発準備を終わらせた。

といっても、荷物も少ないので、全部持ち歩くだけだ。

「お昼は町で食べるといいけど、夕方までには戻ってきてね。 今日は収穫日だから、おいしいもの食べさせてあげる。」

リリーは自身たっぷりな笑顔を浮かべ、楽しそうに言った。

既においしいものはたくさん食べさせてもらっているが、何を食べさせてくれるのだろう。 期待が高まる。


出かける前に、俺はリリーを振り向きながら確認した。

「俺は見ての通り無一文で、助けてもらったお礼をしたいんだが、まずはお金を稼がないといけない。」

「契約をすると、何か仕事につながったりするだろうか?」

リリーはあきれ半分、面白さ半分といった表情で俺の背中をたたいた。

「そんなこといいから、さっさと馬車に乗っておいで!」



馬車はすぐに見つかった。

村はずれに馬車停の文字を見つけた。(馬車停の文字はリリーにメモをもらった)

バス停のような時刻表とベンチがある。

ベンチには人がおらず、おれは時刻表が見える端の席に座った。


時刻表は、実際には表になっていなかった。


本来時刻表があるべき場所には、円形の時計のようなものが設置されていた。

数字はなく、針が1本だけ。
短針だろうか。 動いているのかはよくわからない。

表示は、左右それぞれ6分割にされており、赤い点が同一円周上に配置されていた。

これが時計だとすると、この世界も1日12時間か24時間なのだろう。

針はもうすぐ赤い点に重なる、これが時刻表の変わりであれば、そろそろ馬車が来るのだろう。

5分かかるのか10分先なのかはわからないが。



ベンチに座り馬車を待つ。

森へ吹きぬける風が、心地よかった。


馬車を待つ間に、リリーからもらったお金を確認することにした。

バス代・ご飯代・登録料としてもらったユーロ紙幣である。

そう、ユーロ紙幣。 うろ覚えだが、これは現実のユーロ紙幣で間違いない。

デザインも一緒こんな感じだったはずだ。
紙幣の左下に「EURO」と、俺が読める文字で書いてある。

俺は現代の延長線上の世界にいるのだろうか?
そういえば工具箱の裏の文字は日本語だった。

紙幣の裏表をゆっくり眺めながら、俺はバスを待つ。



俺のユーロ紙幣が1枚、すっと上に抜けていった。

「金、見せびらかしてっと、あぶねーぞ。 ガキィ。」

右に振り返ると、金髪の少年がベンチに後ろから肘をついていた。

なぜ気付かなかったのだ。

少年はリリーより少し若く見えた、14,5歳だろうか。

右手で俺のユーロ紙幣が弄ばれていた。
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