大陸鉄道の死神 〜【二重人格】で【一時間しか動けない】異世界諜報員は復讐のために暗躍する〜

佐渡の鹿

文字の大きさ
36 / 51
第一章【ウォーレン連合王国動乱 ー大陸暗躍編ー】

23.【夢から連れ出して5】

しおりを挟む
 二人の周囲には巨大な幹を持つ大木、竹や長い蔦が生えている。
森に入ってから数十分は経った、日が暮れ始め木々の間に見える空の色が夕日の色に染まる。
ただでさえ草木で周囲を遮られているのに、森の中も暗くなる。
これからどうなるんだろう・・・というかここはどこなんだろう。

「ここは『黄平こうへい』と『緑窟りょくくつ』の間の地域と考えられます。
幸いこの地域は隠れられる洞穴も多い上に小さな集落も多く存在しています。」

「え!!口に出てた?」
「いえ、キョロキョロと不安そうだったので。」

 春ニくんは近くに落ちている枝を拾いながら目の前を歩く。
怪我をしてるのにやけに冷静だ・・・。

「ねえ、そろそろ休んだ方がいいんじゃない?怪我しているでしょ。」
「駄目です。もう少し遠くへ行かないとすぐに見つかります。」

「私も何かできることはない?」

 私も少しは役に立たないと!!守られているだけじゃ先輩失格よ!!
春ニくんは凄く爽やかな笑顔でこう言った・・・。

「じゃあ。」

「分かった!!・・・・はぁ!?ちょっとっ、えっ!?」

 麗奈は映画の衣装を着ている。
白くて袖の端がふんわりとしたシャツに赤い紐ネクタイを蝶結びにしている。
腰に茶色のコルセット、緑のロングスカートにブーツという格好だ。

(待って!!脱ぐ・・・え!?今一枚脱いだらみえちゃうよ!!)
「ああそうだった。麗奈さんそれ一枚でしたね。」

 春ニが制服を脱いで私に着せる。
春ニくんの匂いがする・・・いやいやそんな場合じゃない!!

 すると春ニくんが・・・・
ワイシャツのボタンを外して、いきなり上半身裸になる。

「えっ!!ちょっと!!いきなり、そういうのはまだ早いと・・・・・。」

 びっくりして慌てて顔を手で隠す。
え~!!何!!まさか・・・・とか思っていると。

 ブンブンブンブン 
  ヒュッー  チュン!!

 指を開いて間から覗く。ワイシャツを使って石を投擲している。
石が風を切って飛んでいき、枝に止まっていた小鳥を撃ち落とす。

「二匹。あ・・先輩は薪持っていてください。」

「う・・・うん、わかった。」

 春ニくんが集めた薪を両手で抱える。
チラリと見た春ニくんの体はあちこちに傷があった。体のいたるところに。

「やっぱり気になりますよね。この傷。」
「え・・・まぁ。」

 春ニくんは次々に撃ち落とした鳥を棒に刺しながら歩いていく。

「孤児院ににいたって話しましたよね。
決して良い孤児院というわけではなかったんです。食糧も少ないし、金もない。
けれど、院長たちは俺たちを働かせて、その金で贅沢を・・・。
もし逃げ出そうとすれば捕まって、折檻される。」

 春ニくんはまた一匹撃ち落とす。

「日を追う事に生活は苦しくなっていく、
だから俺は
・・・・忘れてください、こんな話。」

シャツを着た春ニくんは周囲を見回しす。

「先輩、洞穴があります。今日はここで休みましょう。」

「あ・・・うん。」

 私はぼんやりと春ニくんの背中を見つめていた。
三年一緒に過ごしたけれど彼の過去をあまり知らない、何処にいたくらいしか。
でもそれは私も同じ、彼に何も話してこなかった・・・・。

 春ニくんが近づいてくる。早歩きでどんどん近づいてくる。

 いきなり口を抑えられ、押し倒される。
彼の顔が鼻先にある。
体温がこっちに伝わってくる。

「ング!!」
(何なに!!どういう・・・まさか!!まさか~~!!)
「シッー」

パキッ
 
枝を踏む音が聞こえる。
カチャ カチャと金属音も混じっている。

「こっちにはいない!!クソ逃げられた!!」

 頭上から声が聞こえる、視線の端に先ほどの強盗の姿が見える。
二年前に列車を襲ったあの男の声がする。

「まだ近くにいるはずだ!!よく探せ。」
「駄目だ、日が暮れる!!それにそろそろ陽動の効果が切れるんじゃないか?」

「あのハーフエルフっ・・・!!クソォぉ!!また逃した!!
ええい一度引くぞ!!明日はもっと人手を増やす!!」

 足音が遠ざかっていく。

「行った・・・かな。
あの・・・春ニさん?」

 私の体の上に春ニくんが乗ったままだ。顔が私の顔の横にある。
手がっ・・・耳元にあって!!

 ドキドキドキドキ
心臓がバクバクと早鐘を打ち始める。

「春ニくん・・・ちょっと。・・・・えっ。」

 春ニくんは目を閉じて寝息を立てていた。

「もう!!」



 春ニくんが見つけた洞穴になんとか寝ている春ニくんを運び込み、薪や獲った鳥も運び込んだ。
でも・・・火がつけられない。
火が暮れて真っ暗だし、だんだん寒くなっていく。

「どうしよう・・・。」

 とにかく暖を取らないと・・・あと寝ている春ニくんが凍えたらいけない。
(そう・・・これは仕方ないことよ。)

 ジリジリと春ニくんに近づく、顔をどんどん近づけていく。
唇を・・・・

「はッ!!麗奈さん。おはようございます。」

「おっおおおおはよう。」
大慌てで飛び退く。
セーフ、気づかれていない!!

 春ニくんが不思議そうに私を見つめる。

「あれ・・・麗奈さんここは?」

「ああ、あの後春ニくんが突然寝ちゃったから近くにあった洞穴に運んだの。
あ!!春ニくんっ!!それ・・・」

 彼の手にはマッチ箱が握られていた。

 マッチで火を起こし、鳥を丸焼きにしてなんとか一息つけた。
彼は先程までの事は覚えていないらしい。

「じゃあこの鳥を石を投げて落としたことも?」
「はい。」

 火を間にして向かい合って話す。
パチパチと木が弾ける音と、木が揺れる音が聞こえる。
ここには二人しかいない。

(丁度よかったのかも。・・・。)

「・・・・・春ニくん私ずっと伝えたかったことがあるの。」

 私は一呼吸して口を開く。

「ずっと隠していたことがあるの。」

「・・・私はハーフエルフだけれど、魔力を持っていて魔法みたいな事ができるの。
』。」

 彼がカクッと項垂れると言葉を放つ。

「気付いていた・・・・という認識でいいのか??」


「だって貴方はもの。
それに春ニくんが持たない感情を常にもっているから・・・。」


 彼は頭をため息をついて続ける。

「あと五分だ。
あと魔法うんぬんあたりは春ニに聞かせていない、覚えておいてもらいたい。」

「貴方は誰なの?」
「その質問は答えられないな。」

「二年前、私を守ってくれたのは貴方なの?」
「さあな。」

「二年前、私が意識を失った後列車を襲った男たちを返り討ちにしたのは貴方?」
「・・・・・・」

「もう!!何なら答えてくれるの!?」
「ハハッ、すまない。怒らないでくれよ、先輩。」

 男は靴のヒールを取り外し中にある糸と針を取り出す。

「二つ教えられる。
一つ、これは警告だ。俺が何者かは今後、絶対に探るな。
二つ、俺自身どうしてこいつの中にいるのか分からない。」

 彼はベルトに隠されていたナイフを炎で炙ると、ナイフで肩の傷口を抉る。
銃弾を取り出すと、うめき声を一つもあげずに針で傷口を縫っていく。

「俺から質問だ。なぜ狙われている?」
「私にも正直よくわからないの、私自身のこともわからない。」

「どういうことだ?」
「・・・よくわからないの。
幼い頃の記憶は朧げだけどあるよ。
でも・・・おかしいの。
父と一緒に不思議な木下にいたら突然、別の場所にいた。
父はいないし、景色も違う、何にも分からない。
たまたま通りかかった『鈴島』さんに保護されて、私は『』になった。
この話も、『』も秘密にするようにって言いつけられてたの。
それもそうよね・・・・だってこんな話誰も信じないでしょ。」

「まあな。だが本当なんだろ?・・・・えっと。」

「『レーナ・ティーアガル』が本名。
生まれたのは『ウォーレン』よ。
鈴島さんから本名は隠し通すようにって言われているの。」

 彼は持っていた針を私の方へ向けてニヤリと笑う。

「あんた俺をそんなに信用していいのか?
そんなに秘密を明かして・・・悪い男に引っかかりますよ、先輩。」

 私は頬に手を添えて言う。


「貴方なら引っかかっても良いのだけれど・・・。」


「そういうのはちゃんとした男に使う殺し文句だ。
あと寝込みを襲うのは関心しないですよ、。」
「もう!!」

 男は出したものをヒールに隠し、真顔でこちらを見つめる。

「いいか、残り時間が少ないから手短に言う。
今回の襲撃はあんたを狙ったものではない、断言する。
だが、あいつらは『白髪のエルフは神の使い』と言っていた。
捕まったら何をされるか分からん。
とにかく今は『緑窟』の駅に向かえ、いざという時は俺が守る。」

「わかった。」

「最後に、俺のことを誰にも話すな。もちろんこの春二にもだ。
この会話も覚えていないから気をつけるように。」

「貴方名前は?」

「・・・・・死神。そう呼ばれている。」
「本気?」
「本名は絶対明かさない。俺も正直小っ恥ずかしいが・・・仕方ない。」

 死神さんはそういうと目をつぶる。

「ん~。いったたた。もしかして眠ってました?」
「あ・・・うんウトウトしていたよ。もう横になって眠った方がいいかもね。」

「すみません、そうさせてもらいます。」

 彼はその場に寝転がり寝息を立てる。

「もう、・・・。」

 私は彼に助けられた、二度も。
そして、私と彼はお互いの秘密を共有している。
それになんとも言えないドキドキがずっと続いている。

私は炎越しに春ニくん、死神さんの寝顔を見つめていた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました

まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。 その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。 理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。 ……笑えない。 人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。 だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!? 気づけば―― 記憶喪失の魔王の娘 迫害された獣人一家 古代魔法を使うエルフの美少女 天然ドジな女神 理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕! ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに…… 魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。 「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」 これは、追放された“地味なおっさん”が、 異種族たちとスローライフしながら、 世界を救ってしまう(予定)のお話である。

処理中です...