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番外編 「禁断の花」(ルシアン視点)
3、再会と自覚
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生徒会長として挨拶のために壇上に立った僕は、大勢の新入生の中にいる彼女を一瞬で見つけてしまう。
一つは彼女特有の非常に珍しい青みがかった銀髪。
そして二つ目は、一種周囲の者とは隔絶した神秘的なまでの美貌に目が引かれたから。
そう、8年ぶりに見た彼女は遠目に見ても息を呑むほど、想像をはるかに超えて美しく成長していた。
まさに精霊としかたとえようのない、夢のように儚げで麗しい姿になっていたのだ。
おかげで、あっという間に心が引き戻される。
その日から僕の頭の中は見事にカリーナ一色に染まってしまった。
彼女の良くない評判を聞いては心を痛めながらも目はつねにその姿を探し求める。
昼休みになれば用事もないのに一年のいる校舎に足を向け、彼女がいないわかると夢遊病者のようにあちこちさまよう。
我ながら、弟の婚約者に対し何をしてるのかと情けなくなる有様だ。
そんなある日、ふらふらと歩き回っていた僕の耳が、偶然悲鳴を捉える。
急いで声のしたほう――裏庭に駆けつけてみれば、こともあろうにオリバーが彼女に馬乗りになって乱暴を働いているところだった。
僕は逆上して怒鳴り、オリバーは飛び退くように彼女の上からどける。
急いで走り寄り、カリーナを助け起こしてみれば頬が赤い。
「お前がやったのか、オリバー?」
腹の底から怒りが込み上げてきた。
「カリーナが俺を侮辱するから、ついカッとなって……」
「オリバー、貴様、王族としての恥を知れ!」
どんな理由があろうとも、こんなに綺麗なカリーナの顔を叩けるなんて信じられないし、許せない。
僕は腹立ちのままに言い訳しようとするオリバーを叱りつけてから、激しい剣幕で追い払った。
「いいからもうどっかに行け!」
「わかった、わかった」
そうしてオリバーが逃げるようにいなくなった後、僕は改めてカリーナに目を向ける。
とたん、あらわになった彼女の真っ白な胸元に視線が吸い込まれ、慌てて顔を背けた。
「まずは胸元をなおしてくれ」
頬を熱くしながらそう指摘すると、彼女はブラウスを締め、報告してきた。
「……直しました」
再び視線を戻した僕は、彼女に怪我がないか確認して、すぐに気づく。
「膝から血が出ている。医務室へ行こう」
「大丈夫、軽い擦り傷です」
本人はそう言ったが、僕はカリーナの陶器のような肌にわずかな傷一つ残ることさえ耐えられなかった。
だから、「駄目だ」と、強引に彼女の手を引いて医務室へ向かう。
着いてみると校医はいなかった。
代わりに僕が治療することにして、ちょうど良いのでここでオリバーと何があったのか話を聞くことにする。
まずはカリーナに椅子をすすめてから、棚から消毒液や包帯や布を手早く取り出してゆく。
カリーナは評判とは違い、ここに向かう間も今もほぼ無言。借りてきた猫のように大人しく僕に従っていた。
一方、僕はといえば、8年ぶりにカリーナを間近で見て接しながら、思わず喜びと感動に胸が震えて熱くなる。
さっそく怪我を消毒すると共にカリーナに質問しながら、感情を押し殺すのに必死だった。
ところが、目を向ければカリーナの顔にはあきらさまな僕への好意が浮かんでいる。
彼女はいかにも恥じらうように頬を染め、潤んだ瞳でじっと僕の顔を見つめながら答え始めたのだ。
その熱を帯びた表情を見返すうちに、僕は胸の高鳴りにあわせて憤りを覚える。
自ら縁を望んだ婚約者がいながら、なぜをそんな僕を勘違いさせるような目で見るのか。
僕に気を持たせ、自分の魅力で惑わそうとしているとしか思えない。
やはり、彼女は公爵夫妻とリリアやオリバー、同じクラスや寮の者達の証言から察せられる通り、性悪なのか。
激しい失望の感情が沸いて胸を覆い、長年想ってきたぶんやるせなく、つい受け答えが冷たくきつくなってしまう。
「すまないが、僕には他人の悪口を言う人間の言葉を信じることはできない。カリーナ、君はリリアが計算高く嘘つきだと言うが、僕の前で彼女が君を悪く言ったことなど、ただの一度もない」
あるいは媚びれば僕が自分の言い分を信じるとでも思ったのか。
僕がそう言うと、カリーナはとても衝撃を受けたような表情をした。
それから泣きそうな顔になる。
『カリーナは自分の美しさを盾にすれば何でも許されると思っているのです』
あわせてデッカー公爵夫人が以前言っていた言葉が蘇り、それも演技かと思ってさらに苛立つ。
結局、カリーナは性根が悪かった。
実際に再会して話してそう理解した僕は、最後は彼女に冷たく背を向け、医務室を立ち去る。
この上なく苦い最低な気持ちで――
いくら見た目が聖女セリーナとそっくりで美しかろうと、内面が醜いのではお話にならない。
本性を確認した今、ようやく初恋を諦められる――筈だった。
しかし、それからも脳裏には終始、再会したカリーナの精霊のような美しい姿が浮かぶ。
いくら頭から振り払おうとしても、「僕は断じて、女性の見た目になど惑わされたりしない」と、自分の心に言い聞かせても、無駄だった。
あきらかに僕はカリーナの美しさの魅入られている。
そう、自覚したある日のこと。
生徒会室で事務作業に負われていたとき、中庭で生徒が揉めているという知らせを受ける。
急いで駆けつけてみれば、騒ぎの中心に立っていたのは、オリバーとカリーナだった。
一つは彼女特有の非常に珍しい青みがかった銀髪。
そして二つ目は、一種周囲の者とは隔絶した神秘的なまでの美貌に目が引かれたから。
そう、8年ぶりに見た彼女は遠目に見ても息を呑むほど、想像をはるかに超えて美しく成長していた。
まさに精霊としかたとえようのない、夢のように儚げで麗しい姿になっていたのだ。
おかげで、あっという間に心が引き戻される。
その日から僕の頭の中は見事にカリーナ一色に染まってしまった。
彼女の良くない評判を聞いては心を痛めながらも目はつねにその姿を探し求める。
昼休みになれば用事もないのに一年のいる校舎に足を向け、彼女がいないわかると夢遊病者のようにあちこちさまよう。
我ながら、弟の婚約者に対し何をしてるのかと情けなくなる有様だ。
そんなある日、ふらふらと歩き回っていた僕の耳が、偶然悲鳴を捉える。
急いで声のしたほう――裏庭に駆けつけてみれば、こともあろうにオリバーが彼女に馬乗りになって乱暴を働いているところだった。
僕は逆上して怒鳴り、オリバーは飛び退くように彼女の上からどける。
急いで走り寄り、カリーナを助け起こしてみれば頬が赤い。
「お前がやったのか、オリバー?」
腹の底から怒りが込み上げてきた。
「カリーナが俺を侮辱するから、ついカッとなって……」
「オリバー、貴様、王族としての恥を知れ!」
どんな理由があろうとも、こんなに綺麗なカリーナの顔を叩けるなんて信じられないし、許せない。
僕は腹立ちのままに言い訳しようとするオリバーを叱りつけてから、激しい剣幕で追い払った。
「いいからもうどっかに行け!」
「わかった、わかった」
そうしてオリバーが逃げるようにいなくなった後、僕は改めてカリーナに目を向ける。
とたん、あらわになった彼女の真っ白な胸元に視線が吸い込まれ、慌てて顔を背けた。
「まずは胸元をなおしてくれ」
頬を熱くしながらそう指摘すると、彼女はブラウスを締め、報告してきた。
「……直しました」
再び視線を戻した僕は、彼女に怪我がないか確認して、すぐに気づく。
「膝から血が出ている。医務室へ行こう」
「大丈夫、軽い擦り傷です」
本人はそう言ったが、僕はカリーナの陶器のような肌にわずかな傷一つ残ることさえ耐えられなかった。
だから、「駄目だ」と、強引に彼女の手を引いて医務室へ向かう。
着いてみると校医はいなかった。
代わりに僕が治療することにして、ちょうど良いのでここでオリバーと何があったのか話を聞くことにする。
まずはカリーナに椅子をすすめてから、棚から消毒液や包帯や布を手早く取り出してゆく。
カリーナは評判とは違い、ここに向かう間も今もほぼ無言。借りてきた猫のように大人しく僕に従っていた。
一方、僕はといえば、8年ぶりにカリーナを間近で見て接しながら、思わず喜びと感動に胸が震えて熱くなる。
さっそく怪我を消毒すると共にカリーナに質問しながら、感情を押し殺すのに必死だった。
ところが、目を向ければカリーナの顔にはあきらさまな僕への好意が浮かんでいる。
彼女はいかにも恥じらうように頬を染め、潤んだ瞳でじっと僕の顔を見つめながら答え始めたのだ。
その熱を帯びた表情を見返すうちに、僕は胸の高鳴りにあわせて憤りを覚える。
自ら縁を望んだ婚約者がいながら、なぜをそんな僕を勘違いさせるような目で見るのか。
僕に気を持たせ、自分の魅力で惑わそうとしているとしか思えない。
やはり、彼女は公爵夫妻とリリアやオリバー、同じクラスや寮の者達の証言から察せられる通り、性悪なのか。
激しい失望の感情が沸いて胸を覆い、長年想ってきたぶんやるせなく、つい受け答えが冷たくきつくなってしまう。
「すまないが、僕には他人の悪口を言う人間の言葉を信じることはできない。カリーナ、君はリリアが計算高く嘘つきだと言うが、僕の前で彼女が君を悪く言ったことなど、ただの一度もない」
あるいは媚びれば僕が自分の言い分を信じるとでも思ったのか。
僕がそう言うと、カリーナはとても衝撃を受けたような表情をした。
それから泣きそうな顔になる。
『カリーナは自分の美しさを盾にすれば何でも許されると思っているのです』
あわせてデッカー公爵夫人が以前言っていた言葉が蘇り、それも演技かと思ってさらに苛立つ。
結局、カリーナは性根が悪かった。
実際に再会して話してそう理解した僕は、最後は彼女に冷たく背を向け、医務室を立ち去る。
この上なく苦い最低な気持ちで――
いくら見た目が聖女セリーナとそっくりで美しかろうと、内面が醜いのではお話にならない。
本性を確認した今、ようやく初恋を諦められる――筈だった。
しかし、それからも脳裏には終始、再会したカリーナの精霊のような美しい姿が浮かぶ。
いくら頭から振り払おうとしても、「僕は断じて、女性の見た目になど惑わされたりしない」と、自分の心に言い聞かせても、無駄だった。
あきらかに僕はカリーナの美しさの魅入られている。
そう、自覚したある日のこと。
生徒会室で事務作業に負われていたとき、中庭で生徒が揉めているという知らせを受ける。
急いで駆けつけてみれば、騒ぎの中心に立っていたのは、オリバーとカリーナだった。
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