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第二章
大切なもの
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「もう起きて歩いて大丈夫なんですか?」
「おかげ様で」
心配そうに見つめる顔に、私はにっこりと笑いかけた。
「……そうですか……本当に良かった」
セイレム様はそこでふーっと、深いため息をつき、
「改めて今回のことはすみませんでした。
全て、聖女ロザリーに破られるような簡単な術式で、扉に鍵をかけて出かけた私のせいです――どうか許して下さい」
心から申し訳なさそうに謝罪する。
私は否定するためにぶんぶんと頭を振った。
「ううん、違います――悪いのは私です。大切なお守りをしていなかったから、罰が当たったんです」
「お守り?」
私はそこで今度は身体を回してセイレム様に向き直り、胸元のペンダントを手で持って見せた。
「これをしていたら、すぐに来てもらえた筈なのに」
セイレム様は大きく目を見張り、私の手の虹色に輝く石を凝視したあと、
「――まさか、それをまた、つけてもらえるんですか?」
声を震わせて確認した。
「……大切なお守りですから。
今回私はセイレム様が来てくれなかったら死んでいました。
助けてくれて本当にありがとうございました!」
私は初めてセイレム様に素直な感謝の言葉を伝えた――
「フィーネ……」
そんな私を見つめるセイレム様の美しい水色の瞳は温かく潤んでいた。
その後、私はセイレム様に強く言われて、再びベッドに横になった。
とりあえず気になっていた、ロザリー様の事を訊いてみる。
「聖女ロザリーは当然ですが現在は牢の中です。そのうちしかるべき処罰が下されるでしょう」
殺されかけた時の生々しい恐怖を思い出し、私は一瞬、身ぶるいした。
「ロザリー様はセイレム様の事が、ずっと好きだったんですね」
「ええ……そうですね、私の方では、ああ言った邪念のある情の怖いタイプが一番苦手なんですが」
「そうなんですか?」
「似た者同士というのでしょうか。私は自分のそのような部分があまり好きではないのです……。
だからそういった部分がまったくない、あなたやセシリア様のような純粋無垢な人に強く惹かれる」
純粋無垢?
その四文字熟語を耳にして私はびっくりする。
「セシリア様はともかく――私は純粋無垢なんかじゃありません!」
邪念いっぱいです!
セイレム様はクスクスとおかしそうに笑った。
「自覚ないところが純粋さの証明なんです」
そういえば出会った頃にも似たような事を言われたっけ。
セイレム様はずっと私をそんな風に思っていてくれていたんだ。
なんだかいつだか一緒にいて楽しいと言われた時のように胸がいっぱいになる――
「しかし本当に、今回の出来事には思わず心臓が凍りつきました。だからそのペンダントはつねに身につけていて欲しいです。
と、いうか、これからは、大切なものを部屋に置いていくのは止めるようにします」
「え?」
――その宣言通り、次の外出時、セイレム様は私にも一緒について来るように言った。
「姿を変えるけど怒らないで下さいね」
一言断りを入れると、セイレム様は歩きながら――肩口で切りそろえた白髪と灰色の瞳――懐かしいセイさん姿になった。
「元の姿だと非常に目立つのと、この神殿内にはロザリーのような狂信的な私の信者が多いので、移動する時はつねにこの姿なんです。
あなたに正体がバレてからは、また怒らせてしまうのが怖くて使えませんでした。だから一緒にいる時は人気がない所にしか行けなかったんです」
ぎゃっ!
ロザリー様以外にも狂信的なファンがいるなんて怖すぎる!
あれっ……でも、と、いうことは、ひょっとして。
今まで無人の場所しか行かせて貰えなかったのは、私が原因だったってこと?
「ここからは元の姿になっても大丈夫なんです」
いくつかの階段を上り下りし、回廊を進み、入り組んだ経路を通った後そう言って、セイレム様は元の姿に戻る。
――そこは今まで私が一度も入ったことのない神殿区域だった――
「まあ、聖女フィーネ、もう身体は大丈夫なんですか?
聖女ロザリーがあなたにした酷い行いを聞きましたよ!」
大きな扉をくぐってすぐの位置で、聖女長のエルノア様に話しかけられる。
「あ……! エルノア様ご無沙汰しています。
この通り、もう、すっかり大丈夫です!」
「そうですか、良かった。大聖女修行頑張って下さいね」
「……!?」
って!? 頑張るも何も、そんなものは全然していないんだけど……。
これって、つっこんでいいのだろうか?
疑問に思いながら、私はさらに青銀の長髪をなびかせて進んでいく、セイレム様の後に付き従って行く。
「これはこれは、はじめまして、聖女フィーネ」
「あ、はじめまして」
次に出会ったのは赤毛の中年男性だった。
「私は大神官補佐官のダグラスです。おもにセイレム様のかわりにこの神殿内のことを取り仕切っております。
大聖女修行頑張られていると伺っておりますよ」
彼は訊く前に勝手に説明的な台詞を言ってくれた。
挨拶を返したかったけれどセイレム様は立ち止まらず、お辞儀だけして慌てて私は次の部屋へ飛び込む。
と、今度はそこにいた黒髪の壮年の男性を紹介される。
「こちらが神官長のラムズです」
「始めまして、聖女フィーネ。大聖女の修行の方はいかがですか?」
「ラムズは祭事関係を私の代わりに行っています」
「そうなんですね、よろしくお願いします」
頷きつつ、私はここに来て確信した。
私も薄々セイレム様があまり働いていないことには気がついてたけれど――どうやら大半の仕事を他人に丸投げしているみたい!
それになんだか私も先刻から、同じことばかり言われているような気がする!
「みんな私が大聖女修行をしていると思っているんですね!?」
「まあそういう名目で私があなたを囲っていますからね。
私はこれでも信頼の厚い大神官なんです」
セイレム様がいたずらっぽく笑って言う。
信頼か……実際にセイレム様が私と二人でいる様子を、ぜひとも皆さんにライブ中継で見せてやりたい!
「お待ち下さいセイレム様! 大切な用件を伝え忘れていました」
そこで後ろから慌てた声がして、先ほど別れたばかりのエルノア様が追ってきた。
「用件とは?」
「はい、セイレム様。セシリア様からまた改めて会いに来て欲しい伝言が届いております」
「おかげ様で」
心配そうに見つめる顔に、私はにっこりと笑いかけた。
「……そうですか……本当に良かった」
セイレム様はそこでふーっと、深いため息をつき、
「改めて今回のことはすみませんでした。
全て、聖女ロザリーに破られるような簡単な術式で、扉に鍵をかけて出かけた私のせいです――どうか許して下さい」
心から申し訳なさそうに謝罪する。
私は否定するためにぶんぶんと頭を振った。
「ううん、違います――悪いのは私です。大切なお守りをしていなかったから、罰が当たったんです」
「お守り?」
私はそこで今度は身体を回してセイレム様に向き直り、胸元のペンダントを手で持って見せた。
「これをしていたら、すぐに来てもらえた筈なのに」
セイレム様は大きく目を見張り、私の手の虹色に輝く石を凝視したあと、
「――まさか、それをまた、つけてもらえるんですか?」
声を震わせて確認した。
「……大切なお守りですから。
今回私はセイレム様が来てくれなかったら死んでいました。
助けてくれて本当にありがとうございました!」
私は初めてセイレム様に素直な感謝の言葉を伝えた――
「フィーネ……」
そんな私を見つめるセイレム様の美しい水色の瞳は温かく潤んでいた。
その後、私はセイレム様に強く言われて、再びベッドに横になった。
とりあえず気になっていた、ロザリー様の事を訊いてみる。
「聖女ロザリーは当然ですが現在は牢の中です。そのうちしかるべき処罰が下されるでしょう」
殺されかけた時の生々しい恐怖を思い出し、私は一瞬、身ぶるいした。
「ロザリー様はセイレム様の事が、ずっと好きだったんですね」
「ええ……そうですね、私の方では、ああ言った邪念のある情の怖いタイプが一番苦手なんですが」
「そうなんですか?」
「似た者同士というのでしょうか。私は自分のそのような部分があまり好きではないのです……。
だからそういった部分がまったくない、あなたやセシリア様のような純粋無垢な人に強く惹かれる」
純粋無垢?
その四文字熟語を耳にして私はびっくりする。
「セシリア様はともかく――私は純粋無垢なんかじゃありません!」
邪念いっぱいです!
セイレム様はクスクスとおかしそうに笑った。
「自覚ないところが純粋さの証明なんです」
そういえば出会った頃にも似たような事を言われたっけ。
セイレム様はずっと私をそんな風に思っていてくれていたんだ。
なんだかいつだか一緒にいて楽しいと言われた時のように胸がいっぱいになる――
「しかし本当に、今回の出来事には思わず心臓が凍りつきました。だからそのペンダントはつねに身につけていて欲しいです。
と、いうか、これからは、大切なものを部屋に置いていくのは止めるようにします」
「え?」
――その宣言通り、次の外出時、セイレム様は私にも一緒について来るように言った。
「姿を変えるけど怒らないで下さいね」
一言断りを入れると、セイレム様は歩きながら――肩口で切りそろえた白髪と灰色の瞳――懐かしいセイさん姿になった。
「元の姿だと非常に目立つのと、この神殿内にはロザリーのような狂信的な私の信者が多いので、移動する時はつねにこの姿なんです。
あなたに正体がバレてからは、また怒らせてしまうのが怖くて使えませんでした。だから一緒にいる時は人気がない所にしか行けなかったんです」
ぎゃっ!
ロザリー様以外にも狂信的なファンがいるなんて怖すぎる!
あれっ……でも、と、いうことは、ひょっとして。
今まで無人の場所しか行かせて貰えなかったのは、私が原因だったってこと?
「ここからは元の姿になっても大丈夫なんです」
いくつかの階段を上り下りし、回廊を進み、入り組んだ経路を通った後そう言って、セイレム様は元の姿に戻る。
――そこは今まで私が一度も入ったことのない神殿区域だった――
「まあ、聖女フィーネ、もう身体は大丈夫なんですか?
聖女ロザリーがあなたにした酷い行いを聞きましたよ!」
大きな扉をくぐってすぐの位置で、聖女長のエルノア様に話しかけられる。
「あ……! エルノア様ご無沙汰しています。
この通り、もう、すっかり大丈夫です!」
「そうですか、良かった。大聖女修行頑張って下さいね」
「……!?」
って!? 頑張るも何も、そんなものは全然していないんだけど……。
これって、つっこんでいいのだろうか?
疑問に思いながら、私はさらに青銀の長髪をなびかせて進んでいく、セイレム様の後に付き従って行く。
「これはこれは、はじめまして、聖女フィーネ」
「あ、はじめまして」
次に出会ったのは赤毛の中年男性だった。
「私は大神官補佐官のダグラスです。おもにセイレム様のかわりにこの神殿内のことを取り仕切っております。
大聖女修行頑張られていると伺っておりますよ」
彼は訊く前に勝手に説明的な台詞を言ってくれた。
挨拶を返したかったけれどセイレム様は立ち止まらず、お辞儀だけして慌てて私は次の部屋へ飛び込む。
と、今度はそこにいた黒髪の壮年の男性を紹介される。
「こちらが神官長のラムズです」
「始めまして、聖女フィーネ。大聖女の修行の方はいかがですか?」
「ラムズは祭事関係を私の代わりに行っています」
「そうなんですね、よろしくお願いします」
頷きつつ、私はここに来て確信した。
私も薄々セイレム様があまり働いていないことには気がついてたけれど――どうやら大半の仕事を他人に丸投げしているみたい!
それになんだか私も先刻から、同じことばかり言われているような気がする!
「みんな私が大聖女修行をしていると思っているんですね!?」
「まあそういう名目で私があなたを囲っていますからね。
私はこれでも信頼の厚い大神官なんです」
セイレム様がいたずらっぽく笑って言う。
信頼か……実際にセイレム様が私と二人でいる様子を、ぜひとも皆さんにライブ中継で見せてやりたい!
「お待ち下さいセイレム様! 大切な用件を伝え忘れていました」
そこで後ろから慌てた声がして、先ほど別れたばかりのエルノア様が追ってきた。
「用件とは?」
「はい、セイレム様。セシリア様からまた改めて会いに来て欲しい伝言が届いております」
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