喪女がビッチな悪役令嬢になるとか、無理ゲー過ぎる!

黒塔真実

文字の大きさ
44 / 117
第三章

4年ぶりの再会

しおりを挟む
 エルファンス兄様は大扉を開くと一気に私のいる奥の間へと進んでいった。
 迎え入れたセイレム様はいえば、ずっと私に生気を送り続けていたせいだろう、今にも消えそうな儚い風情を漂わせている。

「あなたを待っていました。エルノアからすでに説明を受けたと思いますが、現在のフィーネは一見ただ眠っているように見えて魂のない抜け殻状態です。
 その魂は今頃いずこをさ迷っているのか……とにかく、呼び戻すには……あなたの力が必要です」

 エルファンス兄様は深い青の瞳を見開き一瞬息を飲むと、ベッドに横たわる私に近づいていく。

「フィーネ……」

「あなたならきっと呼び戻せるでしょう……私では……私では駄目だった……」

 憔悴しきった様子でセイレム様は長い睫毛を震わせ、呟く。

「どうすれば……?」

 エルファンス兄様の問いかけにセイレム様が苦笑いを浮かべた。

「たぶん、口づけでもして名前を呼べば戻ってくるでしょう。
 もしもフィーネの魂を肉体に戻すことが出来たなら、どうぞそのまま連れ帰って下さい」

「連れ帰る?」

 セイレム様の意外な発言に、お兄様の横にいた私も驚いてしまう。

 つ、つまり肉体に戻れば、お兄様とともに神殿から出られるってこと?
 セイレム様は本気なの?  
 今までのいきさつを思えばにわかには信じられない!

 まさか罠とかじゃ無いよね?

「ええ、こうなる前に本人が強く神殿から出たいと望んでいましたから。相当あなたの元へ帰りたかったのでしょう」

 寂しそうに目を伏せながら、セイレム様は私の頬を優しく撫でると、

「それでは私は部屋を出ますので、どうぞフィーネを呼んであげて下さい」

 青銀の髪とローブの裾を翻し奥の間から去って行った。


 二人きりになると、エルファンス兄様はベッドの上に屈みこみ、しばし瞳を揺らして私の顔を凝視した。

「フィー、かわいそうに、こんなに痩せて……! 俺の事で、辛い思いをさせたのか?」

 震える声で問い、両腕を回して私の上半身を抱き上げる。

 それからエルファンス兄様は顔を寄せ、私の額に頬に目尻にと唇を落としていくと、最後に長く唇を重ね合わせた――

「フィー、俺が悪かった。離れてからずっと後悔していた。
 たとえお前がどんな未来を見たとしても、死からも何からでも俺が絶対に守ってみせると、なぜあの時言えなかったのかと。
 神殿になどお前を行かせるべきではなかった。この腕の中でずっと守り続けるべきだったのに、俺がお前を止めなかったからこんな事になってしまった。許してくれ、フィー!
 頼むから、これからは必ず俺が全ての物からお前を守ると誓うから戻って来てくれ……愛してるんだ!」

 切ない想いが伝わってくる告白だった。

「フィー、お願いだから死なないでくれ……お前が死んだら、俺はいったいどうしたらいい?
 俺にはお前しかいないのに……たった一人残されて……!
 もしもこの世に戻りたくないというのなら、頼むから俺も連れて行ってくれ……!
 いつか俺とならば地獄まででも落ちていいと言っていただろう?
 ……俺だってお前と一緒なら地獄でもどこへでも行く……離れたくない……傍にいたいんだ!」

 魂の底から絞り出すようなエルファンス兄様の懇願の叫びが、私の心を激しく揺さぶる。

 その『傍に居たい』という言葉は、雷に打たれる前のフィーネが伝えた想いと同じだった。
 離れていても私達の気持ちは一つだったんだ……!

 感激に胸を震わせつつエルファンス兄様を見つめていた私は、そこでハッとする。

 これ以上、長く悲しませてはいけない!
 早く、早く身体に戻らなくちゃ。

 意を決した私は自分の肉体めがけて飛び込んでいく。

 ――次の瞬間、視界いっぱいに広がったのはお兄様の綺麗な顔のどアップ――
 まさに今エルファンス兄様に深く口づけされているまっ最中だった。

「あっ……」

「フィー?」

 瞼を開いた私に気がつき、エルファンス兄様が顔を離し、大きく息を飲む。

「やっと……起きたのか!」

 その声も、深い青の瞳も湿っていた。

「……うん」

「会いたかった!」

 万感の想いを込めるようにエルファンス兄様は私を強く強く抱きしめた。

「どんなに……心配したか……」

「ごめんなさい……お兄様……」

 と、涙ぐむ私に再びエルファンス兄様が長い口づけをする。
 私も必死にそれに応える。
 そうやってお互いの存在を確認しあっていると、視界の端にいつの間にか室内に戻って私達を見つめているセイレム様の姿が映る。
 とたん――私は飛び上がり、後ろめたさで死にそうになる。

「セ……セイレム様」

「やっと戻ってきたのですね、フィー。待っていましたよ」

「私……っ」

 言葉に詰まる私の肩をエルファンス兄様が強く抱き寄せて宣言する。

「約束通りフィーは連れて帰らせて貰う」

「ふふ、やはり帰さないと言ったらどうしますか?」

「……力づくでも連れて帰るまでだ……」

 不敵な笑みを浮かべるセイレム様に、険しい眼光を向けるエルファンス兄様。
 二人の間に飛び散る火花が見えるようだった。
 私は人生で初めて経験する修羅場的な空気に身の縮む思いがする。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...