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第三章
4年ぶりの再会
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エルファンス兄様は大扉を開くと一気に私のいる奥の間へと進んでいった。
迎え入れたセイレム様はいえば、ずっと私に生気を送り続けていたせいだろう、今にも消えそうな儚い風情を漂わせている。
「あなたを待っていました。エルノアからすでに説明を受けたと思いますが、現在のフィーネは一見ただ眠っているように見えて魂のない抜け殻状態です。
その魂は今頃いずこをさ迷っているのか……とにかく、呼び戻すには……あなたの力が必要です」
エルファンス兄様は深い青の瞳を見開き一瞬息を飲むと、ベッドに横たわる私に近づいていく。
「フィーネ……」
「あなたならきっと呼び戻せるでしょう……私では……私では駄目だった……」
憔悴しきった様子でセイレム様は長い睫毛を震わせ、呟く。
「どうすれば……?」
エルファンス兄様の問いかけにセイレム様が苦笑いを浮かべた。
「たぶん、口づけでもして名前を呼べば戻ってくるでしょう。
もしもフィーネの魂を肉体に戻すことが出来たなら、どうぞそのまま連れ帰って下さい」
「連れ帰る?」
セイレム様の意外な発言に、お兄様の横にいた私も驚いてしまう。
つ、つまり肉体に戻れば、お兄様とともに神殿から出られるってこと?
セイレム様は本気なの?
今までのいきさつを思えばにわかには信じられない!
まさか罠とかじゃ無いよね?
「ええ、こうなる前に本人が強く神殿から出たいと望んでいましたから。相当あなたの元へ帰りたかったのでしょう」
寂しそうに目を伏せながら、セイレム様は私の頬を優しく撫でると、
「それでは私は部屋を出ますので、どうぞフィーネを呼んであげて下さい」
青銀の髪とローブの裾を翻し奥の間から去って行った。
二人きりになると、エルファンス兄様はベッドの上に屈みこみ、しばし瞳を揺らして私の顔を凝視した。
「フィー、かわいそうに、こんなに痩せて……! 俺の事で、辛い思いをさせたのか?」
震える声で問い、両腕を回して私の上半身を抱き上げる。
それからエルファンス兄様は顔を寄せ、私の額に頬に目尻にと唇を落としていくと、最後に長く唇を重ね合わせた――
「フィー、俺が悪かった。離れてからずっと後悔していた。
たとえお前がどんな未来を見たとしても、死からも何からでも俺が絶対に守ってみせると、なぜあの時言えなかったのかと。
神殿になどお前を行かせるべきではなかった。この腕の中でずっと守り続けるべきだったのに、俺がお前を止めなかったからこんな事になってしまった。許してくれ、フィー!
頼むから、これからは必ず俺が全ての物からお前を守ると誓うから戻って来てくれ……愛してるんだ!」
切ない想いが伝わってくる告白だった。
「フィー、お願いだから死なないでくれ……お前が死んだら、俺はいったいどうしたらいい?
俺にはお前しかいないのに……たった一人残されて……!
もしもこの世に戻りたくないというのなら、頼むから俺も連れて行ってくれ……!
いつか俺とならば地獄まででも落ちていいと言っていただろう?
……俺だってお前と一緒なら地獄でもどこへでも行く……離れたくない……傍にいたいんだ!」
魂の底から絞り出すようなエルファンス兄様の懇願の叫びが、私の心を激しく揺さぶる。
その『傍に居たい』という言葉は、雷に打たれる前のフィーネが伝えた想いと同じだった。
離れていても私達の気持ちは一つだったんだ……!
感激に胸を震わせつつエルファンス兄様を見つめていた私は、そこでハッとする。
これ以上、長く悲しませてはいけない!
早く、早く身体に戻らなくちゃ。
意を決した私は自分の肉体めがけて飛び込んでいく。
――次の瞬間、視界いっぱいに広がったのはお兄様の綺麗な顔のどアップ――
まさに今エルファンス兄様に深く口づけされているまっ最中だった。
「あっ……」
「フィー?」
瞼を開いた私に気がつき、エルファンス兄様が顔を離し、大きく息を飲む。
「やっと……起きたのか!」
その声も、深い青の瞳も湿っていた。
「……うん」
「会いたかった!」
万感の想いを込めるようにエルファンス兄様は私を強く強く抱きしめた。
「どんなに……心配したか……」
「ごめんなさい……お兄様……」
と、涙ぐむ私に再びエルファンス兄様が長い口づけをする。
私も必死にそれに応える。
そうやってお互いの存在を確認しあっていると、視界の端にいつの間にか室内に戻って私達を見つめているセイレム様の姿が映る。
とたん――私は飛び上がり、後ろめたさで死にそうになる。
「セ……セイレム様」
「やっと戻ってきたのですね、フィー。待っていましたよ」
「私……っ」
言葉に詰まる私の肩をエルファンス兄様が強く抱き寄せて宣言する。
「約束通りフィーは連れて帰らせて貰う」
「ふふ、やはり帰さないと言ったらどうしますか?」
「……力づくでも連れて帰るまでだ……」
不敵な笑みを浮かべるセイレム様に、険しい眼光を向けるエルファンス兄様。
二人の間に飛び散る火花が見えるようだった。
私は人生で初めて経験する修羅場的な空気に身の縮む思いがする。
迎え入れたセイレム様はいえば、ずっと私に生気を送り続けていたせいだろう、今にも消えそうな儚い風情を漂わせている。
「あなたを待っていました。エルノアからすでに説明を受けたと思いますが、現在のフィーネは一見ただ眠っているように見えて魂のない抜け殻状態です。
その魂は今頃いずこをさ迷っているのか……とにかく、呼び戻すには……あなたの力が必要です」
エルファンス兄様は深い青の瞳を見開き一瞬息を飲むと、ベッドに横たわる私に近づいていく。
「フィーネ……」
「あなたならきっと呼び戻せるでしょう……私では……私では駄目だった……」
憔悴しきった様子でセイレム様は長い睫毛を震わせ、呟く。
「どうすれば……?」
エルファンス兄様の問いかけにセイレム様が苦笑いを浮かべた。
「たぶん、口づけでもして名前を呼べば戻ってくるでしょう。
もしもフィーネの魂を肉体に戻すことが出来たなら、どうぞそのまま連れ帰って下さい」
「連れ帰る?」
セイレム様の意外な発言に、お兄様の横にいた私も驚いてしまう。
つ、つまり肉体に戻れば、お兄様とともに神殿から出られるってこと?
セイレム様は本気なの?
今までのいきさつを思えばにわかには信じられない!
まさか罠とかじゃ無いよね?
「ええ、こうなる前に本人が強く神殿から出たいと望んでいましたから。相当あなたの元へ帰りたかったのでしょう」
寂しそうに目を伏せながら、セイレム様は私の頬を優しく撫でると、
「それでは私は部屋を出ますので、どうぞフィーネを呼んであげて下さい」
青銀の髪とローブの裾を翻し奥の間から去って行った。
二人きりになると、エルファンス兄様はベッドの上に屈みこみ、しばし瞳を揺らして私の顔を凝視した。
「フィー、かわいそうに、こんなに痩せて……! 俺の事で、辛い思いをさせたのか?」
震える声で問い、両腕を回して私の上半身を抱き上げる。
それからエルファンス兄様は顔を寄せ、私の額に頬に目尻にと唇を落としていくと、最後に長く唇を重ね合わせた――
「フィー、俺が悪かった。離れてからずっと後悔していた。
たとえお前がどんな未来を見たとしても、死からも何からでも俺が絶対に守ってみせると、なぜあの時言えなかったのかと。
神殿になどお前を行かせるべきではなかった。この腕の中でずっと守り続けるべきだったのに、俺がお前を止めなかったからこんな事になってしまった。許してくれ、フィー!
頼むから、これからは必ず俺が全ての物からお前を守ると誓うから戻って来てくれ……愛してるんだ!」
切ない想いが伝わってくる告白だった。
「フィー、お願いだから死なないでくれ……お前が死んだら、俺はいったいどうしたらいい?
俺にはお前しかいないのに……たった一人残されて……!
もしもこの世に戻りたくないというのなら、頼むから俺も連れて行ってくれ……!
いつか俺とならば地獄まででも落ちていいと言っていただろう?
……俺だってお前と一緒なら地獄でもどこへでも行く……離れたくない……傍にいたいんだ!」
魂の底から絞り出すようなエルファンス兄様の懇願の叫びが、私の心を激しく揺さぶる。
その『傍に居たい』という言葉は、雷に打たれる前のフィーネが伝えた想いと同じだった。
離れていても私達の気持ちは一つだったんだ……!
感激に胸を震わせつつエルファンス兄様を見つめていた私は、そこでハッとする。
これ以上、長く悲しませてはいけない!
早く、早く身体に戻らなくちゃ。
意を決した私は自分の肉体めがけて飛び込んでいく。
――次の瞬間、視界いっぱいに広がったのはお兄様の綺麗な顔のどアップ――
まさに今エルファンス兄様に深く口づけされているまっ最中だった。
「あっ……」
「フィー?」
瞼を開いた私に気がつき、エルファンス兄様が顔を離し、大きく息を飲む。
「やっと……起きたのか!」
その声も、深い青の瞳も湿っていた。
「……うん」
「会いたかった!」
万感の想いを込めるようにエルファンス兄様は私を強く強く抱きしめた。
「どんなに……心配したか……」
「ごめんなさい……お兄様……」
と、涙ぐむ私に再びエルファンス兄様が長い口づけをする。
私も必死にそれに応える。
そうやってお互いの存在を確認しあっていると、視界の端にいつの間にか室内に戻って私達を見つめているセイレム様の姿が映る。
とたん――私は飛び上がり、後ろめたさで死にそうになる。
「セ……セイレム様」
「やっと戻ってきたのですね、フィー。待っていましたよ」
「私……っ」
言葉に詰まる私の肩をエルファンス兄様が強く抱き寄せて宣言する。
「約束通りフィーは連れて帰らせて貰う」
「ふふ、やはり帰さないと言ったらどうしますか?」
「……力づくでも連れて帰るまでだ……」
不敵な笑みを浮かべるセイレム様に、険しい眼光を向けるエルファンス兄様。
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