喪女がビッチな悪役令嬢になるとか、無理ゲー過ぎる!

黒塔真実

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第五章

ラディア王国の世継ぎ事情

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「そうはいかないわ、カーク! いいこと? 四カ国同盟は一国でも欠けたら、帝国との力の拮抗が崩れるのよ?
 つまりラディアが滅びるということはロイズもブロリーもエストリアも巻き添えで滅びるって事なの!
 だからこそあなたには歯止めになる私のような妃が必要なのよ!」

 コーデリア姫はそういう深い考えでカークの婚約者を志願していたのか。
 同じ転生者でも、単純に好きだからという理由でお兄様を選んだ私とは大違い!

「俺は口うるさい女が一番嫌いなんだ! ぎゃんぎゃん喚かれては逆らいたくもなる! 歯止めどころかお前は俺にとって最悪の妃だ」

 カークの暴言に穏やかな性格の筈のレナード王子が強く抗議する。

「カーク兄さん、今の言葉を撤回して! 最悪だなんて言葉は聞き捨てならない! コーデリア姫のような女性から夫に望まれて何が不満なんですか?
 こんな美しく聡明で人柄も素晴らしい方なのに!」

「だったらレナード、お前に譲ってやるよ。俺は大人しく素直な性格の女が好みなんだ」

 苛立ちもあらわにカークが言い返し、一気に二人の間の空気が険悪化する。
 誰かこの場をおさめて欲しい、と思って視線を巡らせてみると、エルファンス兄様は私の髪をいじったりしてまったく関わる気が無いみたい。
 次にキルアスを見ると、ぱちっと目が合ってしまった。

「やあ、フィー、一晩眠って少しは旅の疲れが取れたかい?」

 あれ、普通に日常会話を始めた……?

「け、喧嘩の仲裁をしなくていいの?」

「そうだね、いつもの俺なら、カークをいさめて止めるところだね。
 しかし俺はそういった役目からもう降りようと思っているんだ」

「え?」

 言い合う三人を背景に、キルアスはエルファンス兄様の正面に立ち、志も新たに語り出す。

「実は今しがた伯母上にも今後はカークのお目付け役は出来ないと、はっきり断わってきたところなんだ。
 エル、俺はこれからは、あなたのような人物を目指そうと思う。
 自分にとって最も大切なもの、フィー以外はいっさい無視した、その潔い姿勢に憧れる。
 今後は俺も、八方美人は止めて己にとって重要なものだけを見つめていきたい」

 なんだか分からないけど、エルファンス兄様を尊敬していることだけはよーく伝わった。

「……キルアス、悪いが、言っている言葉の意味が分からない。
 それに俺はフィー以外を別に無視している訳ではない」

「すみません、表現が適切じゃなかったみたいですね」

「キルアスにとって大切な物って何?」

 非常に気になって質問してみる。

「残念ながら今はそれを探している段階なんだ。
 平原は今のところ部族間の抗争も無く落ち着いているし、しばらく旅をしながら自分探しをしたいと思っている。
 それでコーデリア姫に聞いたんだけど、二人はラディアを出た後も彼女と共に行動する予定なんだって?
 エル、俺も仲間に加えて貰ってもいいだろうか?」

 訊かれたお兄様は、諦めたような表情で溜め息混じりに言う。

「好きにしろ。二人きりでないのなら何人でも同じだ。
 一緒に来ることを許可するからキルアス、そろそろあのうるさい言い合いを止めてくれ」

「分かりました!」

 忠実な臣下のように即答するとキルアスは指示に従い、腰に手をあてて三人へと向き直る。

「カーク、レナード、それにコーデリア姫。
 兄弟喧嘩も痴話喧嘩もいい加減にしたほうがいい。第三者がいる前で見苦しい言い合いは止めるんだ。
 大体カークは分かっているのか? コーデリア姫を弟に譲るということは、王太子の座を譲るも同然だと?
 ただでさえ粗野で短絡的なお前よりも、聡明で思慮深い第二王子を次期王にと押す声が大きくなっている。
 この上、ロイズの後ろ盾まで得たとなれば、レナード王子を王太子に立てお前を下ろそうとする流れは止められなくなる」

 言われたカークはキルアスの顔を睨みつけ、

「何も他国の姫はコーデリアだけではないだろう。だったら俺はブロリーのリナリー姫に求婚するまでだ!」

 噛みつくように反論すると、緋色のマントを翻し、大股にその場を立ち去っていった。

 リナリーは女好きのカークと結婚しないと思うし、今の話を総括すると、コーデリア姫を逃せばカークは王太子の地位を失うのか……。
 確かに弟の方が人望ありそうだなぁと、改めてレナード王子のほうを見やれば、切なそうな表情でコーデリア姫を見つめている。
 鈍い私でも分かるほどの、紛れもない恋する者の瞳を見て、ひょっとしたらカークがコーデリア姫を拒むのは、弟の気持ちを知っているからでは? という疑念が頭をかすめる。

 ――その後は、そのまま日中を五人で過ごし、一緒に昼食を食べたり、城内を案内して貰いながら、ラディアやロイズの様々な情報を聞くことが出来た。
 カークがいないとなぜもこう平和なのだろうと思いつつ、穏やかな時を過ごしているうちに、あっという間に夜の宴の時間が訪れた。

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