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第五話「現実はクソだ」と少女は思っていた

Chapter11、救援の到着

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 突如、ドーーーーンという、派手な轟音が頭上で響き、はっとして見開いた瞳に、巨大ゾンビの両腕が続けざまに吹き飛んでいくさまが映った。

「――えっ――!?」

 それからも一定間隔で放たれる砲撃により、見る間に巨大ゾンビの身体は消し飛ばされてゆき――とうとう最後はバラバラになって崩れ落ちていった。

「晶、大丈夫っ?」

 思わぬ展開に唖然としていると、大きな重火器を担ぎ持った長身の人物がこちらへと駆け寄ってきた。

 思いきり見覚えのある茶髪イケメンの顔を見て、わたしは大きく息を飲む。

「……青……どうしてここに……?」

「遠くから異変が見えたから、急いで来たんだ! とにかく間にあって良かった」

 少し絶句したのち、わたしは青の抱える大きな武器を指差し、素朴な疑問を口にする。

「それ、なぁに?」
「ああ、これは、無限ロケットランチャ-」
「無限……ロケットランチャ-?」

 呆然とおうむ返ししてから、はっ、として、片足をひきずり、地面に横たる保の元へと駆け寄る。

「保……!」

 上半身を抱き起こしながら呼びかけると、切れ長の目と口が薄く開いた。

「……晶、あの化け物は……?」
「倒れたから安心して」
「そっか……お前が……無事で良かった……」
「保のおかげでね」

 あえてゾンビに足を噛まれた事実は伏せておいた。
 保は安心したように目を細め、喉を鳴らして笑った。

「……最期に……お前をたくさん抱けて……良かった……」

 わたしはこれから自分がゾンビになる運命を知っていてもなお、笑っていられる人物を初めて見た。

「晶っ……」
「なに、保?」
「……」

 しかしいくら待っても、その唇から続きの台詞が出ることはなく――保の瞳が混濁した。

「わたしもすぐ行くから、待ってて」

 約束しながら腰のベルトからマグナムを抜き、銃口をぐっと保のこめかみに押し当てる。

 ドゥン、ドゥン、ドゥン。

 思い切って引き金を引くたびに、ビシャッ、ビシャッと、血や脳漿が飛び散って顔面に振りかかる。
 生暖かいそれをぬぐいもせず、撃ち終わったわたしは青の顔を見上げた。

「悪いんだけど青、わたしが意識を失ったら、銃で頭を吹っ飛ばしてくれる?」

 圭じゃないけど、死んでも多数派ゾンビにはなりたくない。

「――いいよ――もしも、晶が意識を失ったらね……。その代わり、これを飲んで」

 青は含みのある言い方で、屈んで怪我を全快する青箱の「傷薬」を差し出してきた。
 わたしは即座にかぶりを振る。

「今さらそんなもの不要よ。これまでの例をみると、遅くとも十分以内にゾンビ化すると思うから……」

 この世界には残念ながらゾンビ化を防ぐようなアイテムはない。
 しかし青は強引にわたしの手に薬を押しつけてきた。

「だからいらないって……」
「晶はゾンビ化しない」
「え?」
「理由はうまく説明できないけど、なぜだか俺には分かるんだ」

 言われてみると、今まで見てきた例ならとっくに意識が朦朧としてくる頃合なのに、わたしの意識はしごく鮮明なままだった。

「どうして……?」

 動揺に震える声で問うと、すぐに答えがかえってくる。

「口には出さなかったけど、初めて会ったときにも同じように感じたんだ。晶は俺と同じ存在――この世界にとっての『異端』だって」

「異端?」

 思いがけない言葉に、わたしの全身が硬直する。
 それは映が言った台詞ではなかったか?

 そう思った瞬間、わたしの脳内で、いくつもの符号がかっちり噛み合う音がした。

「あっ……ああっ……!?」

 震える手を伸ばし、青の顔の輪郭をなぞり、薄茶の髪に触れる。

「……晶?」

「……そうか……そうだったのね……」

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