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第一章「復讐の序曲」
5、カエイン
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なんとしてもカエイン・ネイルを怒らせ、デリアンとエルメティア姫が忘れられないような、出来るだけ残忍な殺し方をして貰うのだ。
数百年とは言わないが、せめて二人が生きている数十年は語り草になるように、なるべく悲惨な、あるいは印象的な死に方がいい。
全身細切れにされるか、伝説のように首を斬られて腐らない魔法をかけられ、いつも二人が目にするような場所に飾られるのが理想だ。
そんな救いようのない最期の望みを遂げるべく訪れたルーン城は、王国一巨大な建物だけあって、内部はかなり複雑で入り組んだ構造となっていた。
幼い頃は前王の息子である王太子の遊び相手にと、頻繁に兄弟で両親に連れられてきていたが、最近は宮廷夜会の晩ぐらいしか城を訪れる機会がなかったので、現在も武官として出仕しているクリス兄様頼りで城内を進んでいく。
偶然かわざとかは分からないが、私達はエルメティア姫やデリアンに出くわさずに、魔法使い達の居住区画の入り口へと到達した。
複雑なレリーフと凝った装飾が施された巨大な両開き扉は、前に立っただけで触れずともひとりでに勝手に開き――
天井の高いホールに足を踏み入れるのとほぼ同時に、奥から光沢のある水色のローブを纏った、青髪の女性のように綺麗な顔をした青年が現れた。
「レイヴン様」
クリス兄様が呼びかけると、応えるように青年が私の顔を見ながら挨拶する。
「初めましてアレイシア様。私はカエイン様の二番弟子のレイヴンと申します。
いらっしゃるのをお待ちしておりました」
いったん言葉を切ると、レイヴンという魔法使いはクリス兄様に向き直り謝罪する。
「クリスティアン様、申し訳ありませんが、ここから先はアレイシア様のお一人のみお通しするように言われております」
「一人で大丈夫か?」
心配そうに尋ねるクリス兄様に私は頷く。
「大丈夫よ」
どっちみちカエイン・ネイルとは二人きりで話したかったので、クリス兄様には席を外して貰う予定だったからちょうど良かった。
「薬の調合には時間がかかりますゆえ、帰りは私共でお送りします」
「では、シア、俺は先に屋敷へ帰って待っている」
別れ際、私より頭一個分目線の高いクリス兄様の顔を見上げ、私は最後にお礼の言葉を伝えた。
「ええ、送ってくれてありがとう。クリス兄様」
小さな頃からいつも私を庇ってくれた、優しい兄への感謝とお別れの気持ちをこめて――
その後、レイヴンに付き従って歩き、何階分もの階段を上ってゆきながら、私は、つくづく無理して昼食を食べておいて良かったと思った。
どうやら王族以外がこの国の最高位魔法使いに会うには体力も必要らしい。
やがて階段が途絶えたのでこれで終わりかと思いきや、通路を突き当たりまで進むと、また階段場に出た。
「ここからはお一人でどうぞ。
この塔の最上部にカエイン様はいらっしゃいます」
レイヴンに示された果てしなく続くような螺旋階段を見上げた私は、殺して貰いに行くのもゆるくないものだと思った。
はっきり言って普段から体力を鍛えていない、ただのか弱い令嬢であったなら、とても上りきれなかっただろう。
しかし途方もない階段を上って到着した一番上の、中央にやけに豪華な大きなベッドが置かれている部屋は無人だった。
もしかしたら嫌がらせなのだろうかと疑いながら、ベッドを回って室内を観察すると、棚と棚の間の見えにくい位置に扉があった。
開くとさらに細い階段が続いていて、あやうくキレそうになったところで空気の流れを感じ、はっとして一気に駆け上がる。
塔の最上部へ飛び出すとそこは屋根つきの見晴台になっていて、高所特有の強い風が吹き抜けていた。
さっと見回した瞳に、一方の端で黒いマントをはためかせて立つ、カエイン・ネイルらしき人物の背中が映った。
私は歩み寄りつつ、王でさえ恐れる存在をいきなり呼び捨てにする。
「会いに来てやったわよ、カエイン・ネイル!」
ピクッと肩が反応するにように動いて振り返ったのは――濡れたような漆黒の髪に妖しく輝く金色の瞳、白皙の極めて整った顔立ちをした、魔性的なほどの凄絶せいぜつな美貌の、どう見ても見た目20代前半から半ばの青年。
――昨日、意識を失う寸前に見た美しい悪魔だった――
「王族以外に呼び捨てにされるのは206年ぶりだ」
どうやら細かい記憶の持ち主らしい。
「あなたみたいな裏切り者には敬称をつける価値もないわ!」
一瞬、見惚れてしまった自分を口惜しく思いながら、さっそく憎まれ口を叩く。
「裏切り者?」
興味を引かれたように問い返し、カエインは私の顔をじっと見つめた。
「そうよ、前王を裏切り、今は簒奪王に仕える卑しい身分でしょう?」
「とてもその簒奪王に仕えている侯爵家の娘とは思えない台詞だな」
ともすれば風の音で聞き逃しそうなその静かな声の受け答えに、普段、口汚い台詞を言い慣れておらず、なかなか効果的な煽あおり文句を吐けない自分に苛立つ。
あえてカエインの言葉を無視して、私は嫌みったらしい口調で続けた。
「しかも前王を裏切った理由が、エルメティア姫への恋で盲目になったゆえというじゃないの!
300歳のいい年をして色に惚けて主人を裏切るなんて、あなた、自分が恥ずかしくないの?」
「352歳だ」
カエインは冷静に訂正して、口元を歪め、初めて無表情だった顔に笑みを浮かべた。
「男に捨てられたという理由で舌を噛みきったお前がそれを言うのか?」
「……っ!?」
逆に痛い部分を突かれて言葉に詰まる。
「そういえばエティーも一昨日、お前を笑い者にしていたな。
武勇で鳴らすバーン家の娘が、花嫁修行に明け暮れた挙げ句、肝心の花婿に逃げられるなんて、王国中のいい笑い者だとな」
「黙りなさいよ!」
一瞬目の前がカッと赤くなって、思わずカエイン・ネイルの胸倉を掴んで睨み上げる。
怒りと悲しみの感情が溢れて止まらなかった。
数百年とは言わないが、せめて二人が生きている数十年は語り草になるように、なるべく悲惨な、あるいは印象的な死に方がいい。
全身細切れにされるか、伝説のように首を斬られて腐らない魔法をかけられ、いつも二人が目にするような場所に飾られるのが理想だ。
そんな救いようのない最期の望みを遂げるべく訪れたルーン城は、王国一巨大な建物だけあって、内部はかなり複雑で入り組んだ構造となっていた。
幼い頃は前王の息子である王太子の遊び相手にと、頻繁に兄弟で両親に連れられてきていたが、最近は宮廷夜会の晩ぐらいしか城を訪れる機会がなかったので、現在も武官として出仕しているクリス兄様頼りで城内を進んでいく。
偶然かわざとかは分からないが、私達はエルメティア姫やデリアンに出くわさずに、魔法使い達の居住区画の入り口へと到達した。
複雑なレリーフと凝った装飾が施された巨大な両開き扉は、前に立っただけで触れずともひとりでに勝手に開き――
天井の高いホールに足を踏み入れるのとほぼ同時に、奥から光沢のある水色のローブを纏った、青髪の女性のように綺麗な顔をした青年が現れた。
「レイヴン様」
クリス兄様が呼びかけると、応えるように青年が私の顔を見ながら挨拶する。
「初めましてアレイシア様。私はカエイン様の二番弟子のレイヴンと申します。
いらっしゃるのをお待ちしておりました」
いったん言葉を切ると、レイヴンという魔法使いはクリス兄様に向き直り謝罪する。
「クリスティアン様、申し訳ありませんが、ここから先はアレイシア様のお一人のみお通しするように言われております」
「一人で大丈夫か?」
心配そうに尋ねるクリス兄様に私は頷く。
「大丈夫よ」
どっちみちカエイン・ネイルとは二人きりで話したかったので、クリス兄様には席を外して貰う予定だったからちょうど良かった。
「薬の調合には時間がかかりますゆえ、帰りは私共でお送りします」
「では、シア、俺は先に屋敷へ帰って待っている」
別れ際、私より頭一個分目線の高いクリス兄様の顔を見上げ、私は最後にお礼の言葉を伝えた。
「ええ、送ってくれてありがとう。クリス兄様」
小さな頃からいつも私を庇ってくれた、優しい兄への感謝とお別れの気持ちをこめて――
その後、レイヴンに付き従って歩き、何階分もの階段を上ってゆきながら、私は、つくづく無理して昼食を食べておいて良かったと思った。
どうやら王族以外がこの国の最高位魔法使いに会うには体力も必要らしい。
やがて階段が途絶えたのでこれで終わりかと思いきや、通路を突き当たりまで進むと、また階段場に出た。
「ここからはお一人でどうぞ。
この塔の最上部にカエイン様はいらっしゃいます」
レイヴンに示された果てしなく続くような螺旋階段を見上げた私は、殺して貰いに行くのもゆるくないものだと思った。
はっきり言って普段から体力を鍛えていない、ただのか弱い令嬢であったなら、とても上りきれなかっただろう。
しかし途方もない階段を上って到着した一番上の、中央にやけに豪華な大きなベッドが置かれている部屋は無人だった。
もしかしたら嫌がらせなのだろうかと疑いながら、ベッドを回って室内を観察すると、棚と棚の間の見えにくい位置に扉があった。
開くとさらに細い階段が続いていて、あやうくキレそうになったところで空気の流れを感じ、はっとして一気に駆け上がる。
塔の最上部へ飛び出すとそこは屋根つきの見晴台になっていて、高所特有の強い風が吹き抜けていた。
さっと見回した瞳に、一方の端で黒いマントをはためかせて立つ、カエイン・ネイルらしき人物の背中が映った。
私は歩み寄りつつ、王でさえ恐れる存在をいきなり呼び捨てにする。
「会いに来てやったわよ、カエイン・ネイル!」
ピクッと肩が反応するにように動いて振り返ったのは――濡れたような漆黒の髪に妖しく輝く金色の瞳、白皙の極めて整った顔立ちをした、魔性的なほどの凄絶せいぜつな美貌の、どう見ても見た目20代前半から半ばの青年。
――昨日、意識を失う寸前に見た美しい悪魔だった――
「王族以外に呼び捨てにされるのは206年ぶりだ」
どうやら細かい記憶の持ち主らしい。
「あなたみたいな裏切り者には敬称をつける価値もないわ!」
一瞬、見惚れてしまった自分を口惜しく思いながら、さっそく憎まれ口を叩く。
「裏切り者?」
興味を引かれたように問い返し、カエインは私の顔をじっと見つめた。
「そうよ、前王を裏切り、今は簒奪王に仕える卑しい身分でしょう?」
「とてもその簒奪王に仕えている侯爵家の娘とは思えない台詞だな」
ともすれば風の音で聞き逃しそうなその静かな声の受け答えに、普段、口汚い台詞を言い慣れておらず、なかなか効果的な煽あおり文句を吐けない自分に苛立つ。
あえてカエインの言葉を無視して、私は嫌みったらしい口調で続けた。
「しかも前王を裏切った理由が、エルメティア姫への恋で盲目になったゆえというじゃないの!
300歳のいい年をして色に惚けて主人を裏切るなんて、あなた、自分が恥ずかしくないの?」
「352歳だ」
カエインは冷静に訂正して、口元を歪め、初めて無表情だった顔に笑みを浮かべた。
「男に捨てられたという理由で舌を噛みきったお前がそれを言うのか?」
「……っ!?」
逆に痛い部分を突かれて言葉に詰まる。
「そういえばエティーも一昨日、お前を笑い者にしていたな。
武勇で鳴らすバーン家の娘が、花嫁修行に明け暮れた挙げ句、肝心の花婿に逃げられるなんて、王国中のいい笑い者だとな」
「黙りなさいよ!」
一瞬目の前がカッと赤くなって、思わずカエイン・ネイルの胸倉を掴んで睨み上げる。
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