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第一章「復讐の序曲」
7、初恋の記憶
愛人?
可愛がる?
この男はいったい何を言っているの?
「ふざけないでっ……離して……!」
拒絶の意志を示すために力いっぱい肩に置かれた手を振りほどき、大きく横に飛び退いてカエインから身を離す。
カエインは小瓶を懐に戻すと、両手を広げて芝居がかった身振りをした。
「ふざけてなどいない、俺は極めて本気だ。
約束通り、俺自身が辛い恋を忘れるお前の特効薬になってやる。
この205年ばかり同じ女を一晩以上抱いたことがなかった俺が、愛人にしてやると言うのだから有りがたく思え」
虫酸むしずの走るような提案に寒気がして、身体が細かく震えだす。
「何が特効薬よ。そんなもの効くわけがないじゃない!」
この上こんな悪魔みたいな男の慰み者になるなんて絶対にごめんだ。
「試してみもしないうちに効果がないと判断するのは早計というものだ。
――だが、いいだろう。
もしも効果が無かった際にはお詫びとして、俺がお前の身体に飽きた時点で、何でも一つ望みを叶えてやるという条件ではどうだ?」
「……何でも?」
「ああ、殺して欲しいというならそうするし、俺が出来る範囲のことなら可能な限り叶えてやろう。
その場合は自慢ではないが俺は物凄く飽きっぽいから、そんなに時を待たずしてお前の願いは叶えられるだろう――」
最後の部分の最低発言に内心ムカつきながらも、言われた内容をまとめる。
「――つまりあなたにこの身を捧げれば、そう遠くないうちに、私の願いは叶えられるというわけね?」
「その通りだ。自ら舌を噛みきるほどの想いがあれば、他の男に抱かれることなどたやすいものだろう?」
軽い調子で言ったカエインの言葉は、しかし私の心に大きな波紋を広げ、遠い昔の辛い記憶を呼び覚ます――
前世の私は小国の二番目の王女として生まれ、まだ恋も知らない15の歳に、王妃を亡くした隣国の王の元へ嫁がされた。
運命の出会いは皮肉なことに、父親ほどの年齢の夫となる王との顔合わせの後だった。
挨拶に現れたその息子、14歳の若く麗しい王子ジークフリードの姿を一目見た瞬間、私は初めての恋に落ちたのだ――
それからは遠くからジークの顔を眺めるだけでも嬉しくて、すれ違うだけでも甘く胸がときめいた。
見つめていると必ず見返してくれることが、ただ幸せで。
当然ながらジークへの想いが募るごとに、夫である王との夜の営みの苦痛度が増していった。
そうして数年後、ついにお互いの想いを伝え合い、ジークフリードも私に一目惚れしていたという事実を知った後では、いよいよ王と寝所を共にすることが耐えがたい地獄となった――
「お前もせっかく美しい娘に生まれたのだから、男を知らないまま死ぬのは勿体ない。
この俺が女の喜びを教えるついでに、願いまで叶えてやろうというのだ。こんな良い話はないだろう?」
得意気に語りかけるカエインの声に、私は、はっ、と追憶から覚める。
「……たしかに、魅力的な申し出ね……」
口ではそう言いながらも、私は襟から懐に手を差し入れて短剣を取り出す。
カエインが意外そうに金色の瞳を見開いた。
「まさか俺の愛人になるのを断って、昨日のように自害するつもりではないだろうな?
先に言っておくが、剣で刺そうと舌を噛み切ろうと、何度でも俺が治すだけだからな」
この男なら本気でそうするだろうし、352年も生きてきた化け物のような存在なのだ。逃げたり抵抗しても無駄だろう。
「いいえ、違うわ」
私ははっきりと否定すると、右手で剣の柄を握り直す。
可愛がる?
この男はいったい何を言っているの?
「ふざけないでっ……離して……!」
拒絶の意志を示すために力いっぱい肩に置かれた手を振りほどき、大きく横に飛び退いてカエインから身を離す。
カエインは小瓶を懐に戻すと、両手を広げて芝居がかった身振りをした。
「ふざけてなどいない、俺は極めて本気だ。
約束通り、俺自身が辛い恋を忘れるお前の特効薬になってやる。
この205年ばかり同じ女を一晩以上抱いたことがなかった俺が、愛人にしてやると言うのだから有りがたく思え」
虫酸むしずの走るような提案に寒気がして、身体が細かく震えだす。
「何が特効薬よ。そんなもの効くわけがないじゃない!」
この上こんな悪魔みたいな男の慰み者になるなんて絶対にごめんだ。
「試してみもしないうちに効果がないと判断するのは早計というものだ。
――だが、いいだろう。
もしも効果が無かった際にはお詫びとして、俺がお前の身体に飽きた時点で、何でも一つ望みを叶えてやるという条件ではどうだ?」
「……何でも?」
「ああ、殺して欲しいというならそうするし、俺が出来る範囲のことなら可能な限り叶えてやろう。
その場合は自慢ではないが俺は物凄く飽きっぽいから、そんなに時を待たずしてお前の願いは叶えられるだろう――」
最後の部分の最低発言に内心ムカつきながらも、言われた内容をまとめる。
「――つまりあなたにこの身を捧げれば、そう遠くないうちに、私の願いは叶えられるというわけね?」
「その通りだ。自ら舌を噛みきるほどの想いがあれば、他の男に抱かれることなどたやすいものだろう?」
軽い調子で言ったカエインの言葉は、しかし私の心に大きな波紋を広げ、遠い昔の辛い記憶を呼び覚ます――
前世の私は小国の二番目の王女として生まれ、まだ恋も知らない15の歳に、王妃を亡くした隣国の王の元へ嫁がされた。
運命の出会いは皮肉なことに、父親ほどの年齢の夫となる王との顔合わせの後だった。
挨拶に現れたその息子、14歳の若く麗しい王子ジークフリードの姿を一目見た瞬間、私は初めての恋に落ちたのだ――
それからは遠くからジークの顔を眺めるだけでも嬉しくて、すれ違うだけでも甘く胸がときめいた。
見つめていると必ず見返してくれることが、ただ幸せで。
当然ながらジークへの想いが募るごとに、夫である王との夜の営みの苦痛度が増していった。
そうして数年後、ついにお互いの想いを伝え合い、ジークフリードも私に一目惚れしていたという事実を知った後では、いよいよ王と寝所を共にすることが耐えがたい地獄となった――
「お前もせっかく美しい娘に生まれたのだから、男を知らないまま死ぬのは勿体ない。
この俺が女の喜びを教えるついでに、願いまで叶えてやろうというのだ。こんな良い話はないだろう?」
得意気に語りかけるカエインの声に、私は、はっ、と追憶から覚める。
「……たしかに、魅力的な申し出ね……」
口ではそう言いながらも、私は襟から懐に手を差し入れて短剣を取り出す。
カエインが意外そうに金色の瞳を見開いた。
「まさか俺の愛人になるのを断って、昨日のように自害するつもりではないだろうな?
先に言っておくが、剣で刺そうと舌を噛み切ろうと、何度でも俺が治すだけだからな」
この男なら本気でそうするだろうし、352年も生きてきた化け物のような存在なのだ。逃げたり抵抗しても無駄だろう。
「いいえ、違うわ」
私ははっきりと否定すると、右手で剣の柄を握り直す。
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