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第三章「忠実な魔法使い」
2、血まみれの宴 ※グロ注意
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同時に人波が真っ双つに割れ、人目もはばからず、私達めがけて一目散に駆け寄りながら、エルメティアが大仰に叫ぶ。
「カエイン! いったいどういう風の吹き回し? 人前に出るのが大嫌いなあなたが、こんな集まりに参加するだなんて!」
「――どうしてもシアと一緒にお祝いを言いたくてね――
19歳の誕生日、そしてカスター公とのご婚約、おめでとう、エルメティア王女殿下」
うやうやしくお辞儀するカエインに合わせ、私もスカートをつまんで深く腰を落とす。
エルメティアは勢い良く目の前で立ち止まると、不愉快そうに顔を歪め、私の姿を上から下まで見回した。
「まあ、そうなの、わざわざありがとう、カエイン!
――ところでシアはだいぶ良くなったようね?」
「ああ、賢者の珠の力を使って知識を授けたので、知識面ではほぼ年齢に追いついている。
感情面もこれから俺が愛情を注ぎ、時間をかけて育てていく予定だ」
カエインは私の腰をしっかり抱いて、身をぴったりと寄せた状態で説明する。
「賢者の珠ですって!」
エルメティアは甲高い声を上げ、カエインの空いているほうの腕を乱暴に掴むと、力任せに引っ張った。
「カエイン、ちょっとこっちへ来て!」
「……分かった。
シア、すぐ戻ってくる」
と、引きずられるように連行されていくカエインを見送っている最中、鋭く突き刺さるような視線を感じる。
とっさに斜め前方を見やると、そこにいたのは大勢の貴族達に囲まれているデリアンで、よほど私が目障りなのか、会話の合間に険しい目つきでこちらを睨みつけている。
思い起こす限り、ここまで強くデリアンの関心を引いたのも、真剣に見つめられるのも、生まれて初めての経験かもしれない。
皮肉な気分で思うと、私は記憶を失っていないことがバレないように、あえてデリアンから目線を外して会場内をゆっくり見回す。
私の婚約者を奪った王女の誕生会になど出たくなかったのだろう。ざっと見回した分には家族の姿は一人も見えない。
他の見知った顔が複数あっても、誰も私に近づくそぶりもみせなかった。
そのまま一人でぼんやり突っ立っていると、ふいに斜め後ろからクスクス笑いが聞こえてくる。
つられて振り返ると、エルメティアの取り巻きの令嬢達が三名ほど固まり、あきらかに私を見ながら笑っていた。
思えばそれも当然なことで、いかにこうして美しく着飾ろうと、所詮、私はデリアンに捨てられ、エルメティアに婚約者を奪われた惨めな女。
しかし、これしきの嘲笑は、地獄の絶望を味わったあとの私にとってはごく些細なこと。
どうでもいい思いで、通りかかった給仕に酒の入ったグラスを一つ貰い、喉を潤していると、懐かしい人物が歩いてくるのが見える。
銀色の髪にアイスブルーの瞳、甘く麗しい顔立ちをした、見た目だけはセドリックと良く似た容姿のイヴァンだ。
婚約発表を聞いたばかりのイヴァンは、いずれは二国の王冠を戴くというあてが外れたせいか、見るからに機嫌が悪く気が立っているようす。
口からふーっ、ふーっと、息を吹き出して近づいてきたかと思うと、いきなり血走った目を私の背後へと向け、「何が可笑しい!!」と爆発するように怒鳴りつけた。
私の横を素通りして迫るイヴァンの剣幕に、令嬢達は一斉に蒼ざめて怯え、身を寄せ合って後退していく。
「で、殿下を笑っていたわけではございません!」
気丈にも一人の令嬢が申し開きするのと、イヴァンの右手に白銀の剣が現れたのはほぼ同時だった。
アスティリア王家から分かれた大公国の世継ぎのイヴァンには、当然ながら王族の血が流れており、この場に守護剣を呼び出せるのだ。
「嘘をつくな!! 俺の名を口にしながら笑っていただろう!!」
逆上したような叫びとともに剣が二閃し、空中にポンポンと二つ首が跳ね上がったかと思うと、首無しの胴体から血しぶきがパーッと放射状に吹き出す。
近くにいた私の白いドレスにも、細かい霧のような血の飛沫が降りかかった。
私を笑っていたばかりに可愛そうにと思い、足元に転がってきた首を眺めていると――断末魔の叫びが耳をうがち――残り一名の令嬢も胸を串刺しにされて絶命した――
蜘蛛の子を散らすように周囲にいた人々は逃げ去っていき、ただ一人その場に留まる私へと、自然にイヴァンの狂気の眼差しがキッと向けられる。
「何を見ている!? お前も俺を憐れんで馬鹿にしているのかっ!?」
たしかに精神年齢が5歳ぐらいで止まってそうなイヴァンは、ある意味私より憐れに思える。
返事がわりに、私は床に落ちていた生首を一つ拾い、子供に自分の仕出かした罪を見せるようにイヴァンへと差し出す。
「ひっ、そんなものを寄越すな――寄るな!」
すると混乱状態のイヴァンは狂ったように剣を振り回し、避けようとした私の目の端に――真紅のマントを広げて飛ぶような勢いで疾駆してくるデリアンの姿が映った――
「カエイン! いったいどういう風の吹き回し? 人前に出るのが大嫌いなあなたが、こんな集まりに参加するだなんて!」
「――どうしてもシアと一緒にお祝いを言いたくてね――
19歳の誕生日、そしてカスター公とのご婚約、おめでとう、エルメティア王女殿下」
うやうやしくお辞儀するカエインに合わせ、私もスカートをつまんで深く腰を落とす。
エルメティアは勢い良く目の前で立ち止まると、不愉快そうに顔を歪め、私の姿を上から下まで見回した。
「まあ、そうなの、わざわざありがとう、カエイン!
――ところでシアはだいぶ良くなったようね?」
「ああ、賢者の珠の力を使って知識を授けたので、知識面ではほぼ年齢に追いついている。
感情面もこれから俺が愛情を注ぎ、時間をかけて育てていく予定だ」
カエインは私の腰をしっかり抱いて、身をぴったりと寄せた状態で説明する。
「賢者の珠ですって!」
エルメティアは甲高い声を上げ、カエインの空いているほうの腕を乱暴に掴むと、力任せに引っ張った。
「カエイン、ちょっとこっちへ来て!」
「……分かった。
シア、すぐ戻ってくる」
と、引きずられるように連行されていくカエインを見送っている最中、鋭く突き刺さるような視線を感じる。
とっさに斜め前方を見やると、そこにいたのは大勢の貴族達に囲まれているデリアンで、よほど私が目障りなのか、会話の合間に険しい目つきでこちらを睨みつけている。
思い起こす限り、ここまで強くデリアンの関心を引いたのも、真剣に見つめられるのも、生まれて初めての経験かもしれない。
皮肉な気分で思うと、私は記憶を失っていないことがバレないように、あえてデリアンから目線を外して会場内をゆっくり見回す。
私の婚約者を奪った王女の誕生会になど出たくなかったのだろう。ざっと見回した分には家族の姿は一人も見えない。
他の見知った顔が複数あっても、誰も私に近づくそぶりもみせなかった。
そのまま一人でぼんやり突っ立っていると、ふいに斜め後ろからクスクス笑いが聞こえてくる。
つられて振り返ると、エルメティアの取り巻きの令嬢達が三名ほど固まり、あきらかに私を見ながら笑っていた。
思えばそれも当然なことで、いかにこうして美しく着飾ろうと、所詮、私はデリアンに捨てられ、エルメティアに婚約者を奪われた惨めな女。
しかし、これしきの嘲笑は、地獄の絶望を味わったあとの私にとってはごく些細なこと。
どうでもいい思いで、通りかかった給仕に酒の入ったグラスを一つ貰い、喉を潤していると、懐かしい人物が歩いてくるのが見える。
銀色の髪にアイスブルーの瞳、甘く麗しい顔立ちをした、見た目だけはセドリックと良く似た容姿のイヴァンだ。
婚約発表を聞いたばかりのイヴァンは、いずれは二国の王冠を戴くというあてが外れたせいか、見るからに機嫌が悪く気が立っているようす。
口からふーっ、ふーっと、息を吹き出して近づいてきたかと思うと、いきなり血走った目を私の背後へと向け、「何が可笑しい!!」と爆発するように怒鳴りつけた。
私の横を素通りして迫るイヴァンの剣幕に、令嬢達は一斉に蒼ざめて怯え、身を寄せ合って後退していく。
「で、殿下を笑っていたわけではございません!」
気丈にも一人の令嬢が申し開きするのと、イヴァンの右手に白銀の剣が現れたのはほぼ同時だった。
アスティリア王家から分かれた大公国の世継ぎのイヴァンには、当然ながら王族の血が流れており、この場に守護剣を呼び出せるのだ。
「嘘をつくな!! 俺の名を口にしながら笑っていただろう!!」
逆上したような叫びとともに剣が二閃し、空中にポンポンと二つ首が跳ね上がったかと思うと、首無しの胴体から血しぶきがパーッと放射状に吹き出す。
近くにいた私の白いドレスにも、細かい霧のような血の飛沫が降りかかった。
私を笑っていたばかりに可愛そうにと思い、足元に転がってきた首を眺めていると――断末魔の叫びが耳をうがち――残り一名の令嬢も胸を串刺しにされて絶命した――
蜘蛛の子を散らすように周囲にいた人々は逃げ去っていき、ただ一人その場に留まる私へと、自然にイヴァンの狂気の眼差しがキッと向けられる。
「何を見ている!? お前も俺を憐れんで馬鹿にしているのかっ!?」
たしかに精神年齢が5歳ぐらいで止まってそうなイヴァンは、ある意味私より憐れに思える。
返事がわりに、私は床に落ちていた生首を一つ拾い、子供に自分の仕出かした罪を見せるようにイヴァンへと差し出す。
「ひっ、そんなものを寄越すな――寄るな!」
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