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第四章「歓喜の瞬間」
7、敗者の弁
カエインへ投げつけた決別の言葉に、まっ先に抗議したのはセドリックだった。
私の両肩を掴んで揺すりあげ、顔を間近に寄せて瞳を直視してくる。
「シア……! 二度も助けて貰ったのに、そんな言い方はないよ。
しかもレイヴンに聞いた話ではカエインは今回、君に胸を刺されたにもかかわらず、自分の立場を捨ててまで駆けつけてきてくれたというじゃないか」
どうやらセドリックにカエインを刺殺しようとしたことがバレているらしい。
私は開き直って「ふん」と鼻を鳴らし、目前で揺れるエメラルド色の瞳を強く見返す。
「セドリック、あなたこそ何言ってるの? そもそもそうなったのもカエインのせいじゃない。
考えてもみなさいよ――果たして現王は、建国以来アスティリア王国を守護してきた伝説の魔法使いを敵に回してまで、反乱を起こそうと思ったかしら?
そしてカエインと敵対してまで、反乱に加担することを決断できた諸侯がいくついたと思う?
何よりもエリオット王には大陸一の強国であるシュトラスの支援があったのだから、カエインが寝返らなければ負けることは有り得なかった。
カエインが管理している難攻不落のルーン城が占拠されることはなく、反乱軍側はデリアンの活躍なくば勝利しなかったと言われているのだから、彼がレスター王子に深手を負わされた時点でほぼ勝負はついていたのよ。
エリオット王の命だって、カエインがついていれば失われることはなかった。
感謝するどころか、すべての元凶はこの男じゃないの!」
「……それはっ……!?」
セドリックは一瞬口ごもってから、美しい顔をひきつらせて言葉を続ける。
「カエインは王国を裏切ったわけではないし、人心を失った父を見限ったのは彼だけではない……」
「はっ! 笑わせないでよセドリック。この男は単純にエルメティアの色じかけに落ちただけじゃないの。
それで今度は私を好きになったからこちら側へつく? 馬っ鹿じゃないの! 352年も生きてきて、毎回、選択理由が下らな過ぎるのよ!」
同じく個人的な感情で動いている自分のことは棚上げして、改めてカエインの最低さとセドリックのお人よしぶりに苛立った私は、さらに振り返って言いつのる。
「カエイン、あなたも確か洞窟で自分の非を認めて謝っていたわよね?
本気で悪いと思っているなら、頼むからもう私を放っておいてくれる?」
カエインはふーっと長い溜め息をつくと、おもむろに口を開いた。
「本気でシアを愛し、すまないと思ってばいればこそ、俺は今ここで手を引くわけにはいかない。
敵側にアロイスがいる以上、俺が居なければ対等な勝負にはならず、シアの破滅が確定してしまう」
セドリックが息を飲む気配がして、言われた私もはっとする。
「虫を飛ばされて、こちらの情報が筒抜けになるから……!」
「もちろんそれもあるが、アロイスは俺の次に長生きしていて世界で二番目に能力が高い魔法使いだ。
そのアロイスが洞窟で、幻影とはいえ、師匠であり塔主でもある俺を妨害してきたのは、当然ながら魔法使いの協会に逆らう覚悟あってのこと。十中八九、今後も協会の規則を無視して戦いに参加してくるだろう。
いずれにしても、俺の助力なくばお前達は確実に敗北する」
「……!?」
はっきり言いきられて私は絶句する。
カエインはなおも冷静な口調で続けた。
「そうでなくても、シア。勝てば醜態などさらす必要はないのに、『負ける』可能性を考えて俺を拒んでいる時点で、お前の思考は『敗者』のものだ。
シアの誇り高い性格は好きだし、比べるわけではないが、負けず嫌いでつねに勝つことしか考えていないエティーは、そのためならば手段を選ばず、使える物は何でも利用する女――そのような考え方では一生勝てない相手だ」
自分の駄目さ加減を直接指摘された私の脳裏に、母の失望の表情と、エルメティアの哄笑が浮かんでくる。
カエインの言うように、エルメティアならば誰を手にかけようと動揺なんてせず、つまらないミスも犯さなかっただろう。
幼い頃から母に再さんに渡って言われてきた私の心の軟弱さが、戦いも始まらないうちに死にかけるという、情けない今回の結果に繋がったのだ。
「……っ!?」
言い返せずに歯噛みする私の肩を、セドリックが庇うように抱き寄せる。
「いいや、そんなことはない! シアは何でもできて、意志が強く、決断力がある――僕なら必要であってもあなたを手にかけることはできなかった」
てっきりカエインを殺害しようとしたことを、批判されると思っていたのに。
意外に思って私はセドリックの顔を見つめる。
「私を軽蔑しないの?」
私の両肩を掴んで揺すりあげ、顔を間近に寄せて瞳を直視してくる。
「シア……! 二度も助けて貰ったのに、そんな言い方はないよ。
しかもレイヴンに聞いた話ではカエインは今回、君に胸を刺されたにもかかわらず、自分の立場を捨ててまで駆けつけてきてくれたというじゃないか」
どうやらセドリックにカエインを刺殺しようとしたことがバレているらしい。
私は開き直って「ふん」と鼻を鳴らし、目前で揺れるエメラルド色の瞳を強く見返す。
「セドリック、あなたこそ何言ってるの? そもそもそうなったのもカエインのせいじゃない。
考えてもみなさいよ――果たして現王は、建国以来アスティリア王国を守護してきた伝説の魔法使いを敵に回してまで、反乱を起こそうと思ったかしら?
そしてカエインと敵対してまで、反乱に加担することを決断できた諸侯がいくついたと思う?
何よりもエリオット王には大陸一の強国であるシュトラスの支援があったのだから、カエインが寝返らなければ負けることは有り得なかった。
カエインが管理している難攻不落のルーン城が占拠されることはなく、反乱軍側はデリアンの活躍なくば勝利しなかったと言われているのだから、彼がレスター王子に深手を負わされた時点でほぼ勝負はついていたのよ。
エリオット王の命だって、カエインがついていれば失われることはなかった。
感謝するどころか、すべての元凶はこの男じゃないの!」
「……それはっ……!?」
セドリックは一瞬口ごもってから、美しい顔をひきつらせて言葉を続ける。
「カエインは王国を裏切ったわけではないし、人心を失った父を見限ったのは彼だけではない……」
「はっ! 笑わせないでよセドリック。この男は単純にエルメティアの色じかけに落ちただけじゃないの。
それで今度は私を好きになったからこちら側へつく? 馬っ鹿じゃないの! 352年も生きてきて、毎回、選択理由が下らな過ぎるのよ!」
同じく個人的な感情で動いている自分のことは棚上げして、改めてカエインの最低さとセドリックのお人よしぶりに苛立った私は、さらに振り返って言いつのる。
「カエイン、あなたも確か洞窟で自分の非を認めて謝っていたわよね?
本気で悪いと思っているなら、頼むからもう私を放っておいてくれる?」
カエインはふーっと長い溜め息をつくと、おもむろに口を開いた。
「本気でシアを愛し、すまないと思ってばいればこそ、俺は今ここで手を引くわけにはいかない。
敵側にアロイスがいる以上、俺が居なければ対等な勝負にはならず、シアの破滅が確定してしまう」
セドリックが息を飲む気配がして、言われた私もはっとする。
「虫を飛ばされて、こちらの情報が筒抜けになるから……!」
「もちろんそれもあるが、アロイスは俺の次に長生きしていて世界で二番目に能力が高い魔法使いだ。
そのアロイスが洞窟で、幻影とはいえ、師匠であり塔主でもある俺を妨害してきたのは、当然ながら魔法使いの協会に逆らう覚悟あってのこと。十中八九、今後も協会の規則を無視して戦いに参加してくるだろう。
いずれにしても、俺の助力なくばお前達は確実に敗北する」
「……!?」
はっきり言いきられて私は絶句する。
カエインはなおも冷静な口調で続けた。
「そうでなくても、シア。勝てば醜態などさらす必要はないのに、『負ける』可能性を考えて俺を拒んでいる時点で、お前の思考は『敗者』のものだ。
シアの誇り高い性格は好きだし、比べるわけではないが、負けず嫌いでつねに勝つことしか考えていないエティーは、そのためならば手段を選ばず、使える物は何でも利用する女――そのような考え方では一生勝てない相手だ」
自分の駄目さ加減を直接指摘された私の脳裏に、母の失望の表情と、エルメティアの哄笑が浮かんでくる。
カエインの言うように、エルメティアならば誰を手にかけようと動揺なんてせず、つまらないミスも犯さなかっただろう。
幼い頃から母に再さんに渡って言われてきた私の心の軟弱さが、戦いも始まらないうちに死にかけるという、情けない今回の結果に繋がったのだ。
「……っ!?」
言い返せずに歯噛みする私の肩を、セドリックが庇うように抱き寄せる。
「いいや、そんなことはない! シアは何でもできて、意志が強く、決断力がある――僕なら必要であってもあなたを手にかけることはできなかった」
てっきりカエインを殺害しようとしたことを、批判されると思っていたのに。
意外に思って私はセドリックの顔を見つめる。
「私を軽蔑しないの?」
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