39 / 67
第五章「苦しみを終わらせる者」
3、惨い真実
しおりを挟む
「……母を……辱めた?」
怪訝そうな顔で訊くセドリックに、ガートルード王太女が重ねてはっきりと言う。
「そうです。お前の母親は、リューク王に陵辱されたのを苦に自殺したのです」
「……ですが、母は、父が討たれたのを苦に自殺したと……」
言い淀みつつもセドリックの顔からはみるみる血の気が引き、全身が小刻みに震えだしていた。
「いいえ、違います。そこにいる我が国の宮廷魔法使いギモスの遠見の術を介し、実際にこの目で見たので間違いありません。
卑劣なリューク・バロアによって隠されていただけで、夫であるエリオット3世が戦死するより前にセレーナは自ら命を絶っていました。白髪の魔法使いに命じて遺体を凍らせて死亡時期を偽装して葬儀を行ったのです」
衝撃を受けたように固まるセドリックのかわりに、私が確認する。
「……カエイン、この話は真実なの?」
「さあな、その件について俺はいっさい関与していない。セレーナ妃が監禁されていた塔を管理していたのもアロイスだからな。
ただ言えるのは、ギモスは俺の次に遠見の術を極めているので、アロイスの結界では覗き見を防ぎきれなかっただろうということだけだ」
カエインは美しい金の瞳を細め、遠回りに事実を肯定した。
「母が……そんな……!!」
発作的に叫ぶセドリックに向かって、王太女はさらに追い打ちをかけるように言いつのる。
「セレーナは連日に渡るリュークからの辱めに耐えきれず、最期は見るからに正気を失っていました……。
こうなったからこそ明かしますが、妹は嫁いだ頃からずっと長きに渡ってあの男に執着され続け、そのことをかなり気に病んでいたのです。
夫や息子のあなたにはとても言えなかったようですが……」
つまりリューク王は兄から王位だけではなく、絶世の美女である妻まで力づくで奪ったということか。
なんとも胸糞の悪い話だ。
「……そんな……そんな……母が……」
あまりに惨い母の死の真相を聞かされたセドリックは、がっくりと床に膝を落とし、両手で頭を抱えて深く腰を折った。
言葉にならない呻きをあげ、床の上で悶絶するセドリックの苦しみは計り知れず、かける言葉も見つからない。
いったん話し合いはそこで中断され、続きはセドリックの精神状態が落ち着いてからということになった。
「……少し、一人になりたい……」
亡霊のように虚ろな顔で呟いたセドリックは、おぼつかない足どりで廊下の向こうへと消えていった。
苦い気分で親友を見送った私は、つねに背後にいるカエインを振り返る。
「私も一人で休みたいから、夕食まで放っておいてくれる?」
「分かった」
私の言葉を受けたカエインは後方へと視線を流す。
「ギモス、俺の部屋はシアと続きの部屋にしてくれ」
「畏まりましたカエイン様。急ぎ、そのように取りはからいます」
その口ぶりや王族中心のあの場にいたことから、この国の宮廷魔法使いのギモスはそれなりの権限を持っているらしい。
ただしレイヴンより後ろを歩いているところを見ると、魔法使いとしての順位は上から三位以下なのだろう。
ともかく、案内された個室で一人になった私は、ひとまずセドリックのことはそっとしておくことにして、夜まで頭の中を整理しながら身体を休めた。
怪訝そうな顔で訊くセドリックに、ガートルード王太女が重ねてはっきりと言う。
「そうです。お前の母親は、リューク王に陵辱されたのを苦に自殺したのです」
「……ですが、母は、父が討たれたのを苦に自殺したと……」
言い淀みつつもセドリックの顔からはみるみる血の気が引き、全身が小刻みに震えだしていた。
「いいえ、違います。そこにいる我が国の宮廷魔法使いギモスの遠見の術を介し、実際にこの目で見たので間違いありません。
卑劣なリューク・バロアによって隠されていただけで、夫であるエリオット3世が戦死するより前にセレーナは自ら命を絶っていました。白髪の魔法使いに命じて遺体を凍らせて死亡時期を偽装して葬儀を行ったのです」
衝撃を受けたように固まるセドリックのかわりに、私が確認する。
「……カエイン、この話は真実なの?」
「さあな、その件について俺はいっさい関与していない。セレーナ妃が監禁されていた塔を管理していたのもアロイスだからな。
ただ言えるのは、ギモスは俺の次に遠見の術を極めているので、アロイスの結界では覗き見を防ぎきれなかっただろうということだけだ」
カエインは美しい金の瞳を細め、遠回りに事実を肯定した。
「母が……そんな……!!」
発作的に叫ぶセドリックに向かって、王太女はさらに追い打ちをかけるように言いつのる。
「セレーナは連日に渡るリュークからの辱めに耐えきれず、最期は見るからに正気を失っていました……。
こうなったからこそ明かしますが、妹は嫁いだ頃からずっと長きに渡ってあの男に執着され続け、そのことをかなり気に病んでいたのです。
夫や息子のあなたにはとても言えなかったようですが……」
つまりリューク王は兄から王位だけではなく、絶世の美女である妻まで力づくで奪ったということか。
なんとも胸糞の悪い話だ。
「……そんな……そんな……母が……」
あまりに惨い母の死の真相を聞かされたセドリックは、がっくりと床に膝を落とし、両手で頭を抱えて深く腰を折った。
言葉にならない呻きをあげ、床の上で悶絶するセドリックの苦しみは計り知れず、かける言葉も見つからない。
いったん話し合いはそこで中断され、続きはセドリックの精神状態が落ち着いてからということになった。
「……少し、一人になりたい……」
亡霊のように虚ろな顔で呟いたセドリックは、おぼつかない足どりで廊下の向こうへと消えていった。
苦い気分で親友を見送った私は、つねに背後にいるカエインを振り返る。
「私も一人で休みたいから、夕食まで放っておいてくれる?」
「分かった」
私の言葉を受けたカエインは後方へと視線を流す。
「ギモス、俺の部屋はシアと続きの部屋にしてくれ」
「畏まりましたカエイン様。急ぎ、そのように取りはからいます」
その口ぶりや王族中心のあの場にいたことから、この国の宮廷魔法使いのギモスはそれなりの権限を持っているらしい。
ただしレイヴンより後ろを歩いているところを見ると、魔法使いとしての順位は上から三位以下なのだろう。
ともかく、案内された個室で一人になった私は、ひとまずセドリックのことはそっとしておくことにして、夜まで頭の中を整理しながら身体を休めた。
5
あなたにおすすめの小説
【完結】私が愛されるのを見ていなさい
芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定)
公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。
絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。
ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。
完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。
立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
【完結】時戻り令嬢は復讐する
やまぐちこはる
恋愛
ソイスト侯爵令嬢ユートリーと想いあう婚約者ナイジェルス王子との結婚を楽しみにしていた。
しかしナイジェルスが長期の視察に出た数日後、ナイジェルス一行が襲撃された事を知って倒れたユートリーにも魔の手が。
自分の身に何が起きたかユートリーが理解した直後、ユートリーの命もその灯火を消した・・・と思ったが、まるで悪夢を見ていたように目が覚める。
夢だったのか、それともまさか時を遡ったのか?
迷いながらもユートリーは動き出す。
サスペンス要素ありの作品です。
設定は緩いです。
6時と18時の一日2回更新予定で、全80話です、よろしくお願い致します。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる