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第五章「苦しみを終わらせる者」
9、エルナー山脈越え
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それから数日後、イルス傭兵隊を乗せた船が港に到着したとの知らせが城へ届いた。
上陸後さっそくこちらに向かうとのことで、元々アスティリアに攻め込む用意をしていたシュトラスでは、合流しだいただちに出兵できるように詰めの戦準備が整えられた。
私も最高司令官に任命されたセドリックにつきあい、率先してシュトラス軍の訓練に参加して戦いに備える。
さらに十日ほど経った初秋を迎えたある日、いよいよ私達はシュトラス軍とイルス傭兵隊を率いてエルナー山脈へと入った。
私にとっては初めての登山だが、母による幼い頃からの過酷な訓練とデリアンへの恨みの力のおかげで、険しい道も全く苦にならない。
入山してから5日目の昼過ぎ。
少しでも馬の負担を減らすために、急勾配に入るのに合わせて下馬した私に、騎上からレスター王子が問う。
「アレイシア。女のお前はいつでも来た時のように、大鳥に乗ってアスティリアへ渡ってもいいのだぞ?」
からかい混じりに提案された私は断固として断る。
「いいえ、あくまでも兵士達と一緒に行動するわ」
指揮官が楽をしていたのでは配下の者はついてこないと、母から実地の演習の際に教えられていた。
だから食事も自ら希望して一兵卒と同じものを食し、寝る時も紅一点でありながら皆と一緒に雑魚寝していた。
とはいえ、傍らにはつねに世界最強の魔法使いがいるので、誰にも寝込みを襲われる心配などなかったが。
空を飛べるカエインは、私よりも山登りする必要がないのに、連日とても楽しそうにしている。
山頂越えを翌日に控えたその晩も、テント内で私と同じ硬い黒パンを食べるカエインは終始笑顔だった。
「こうして毎日シアと寝食を共にし、一日中一緒にいられるのは幸せなものだ」
その酔ったような口調に内心イラつきながら、無言で食事を終えた私は、身体にマントと毛布を重ねて巻き、布を敷いただけの地面にごろっと寝転がる。
山の上とはいえどもっと上等な寝床を用意することもできたのだが、デリアンに捨てられてからというもの、寝心地が悪いほうがかえって安眠できるのだ。
私に続いてカエインが、少し遅れてセドリックが両脇に横たわった。
一人だけ起きて寝酒を飲んでいるレスター王子が、男二人に挟まれて寝る私を皮肉る。
「なあ、アレイシア。考えてみると、自分に夢中な男二人を引き連れて昔の男に報復しに行くお前は、ずいぶんといいご身分じゃないか?」
すかさずセドリックが跳ね起きて抗議する。
「レスター、それ以上シアを侮辱したら許さないよ!」
「いいのよ、セドリック。レスター王子のおっしゃる通りだし、私は全く気にしていないわ」
本心からどうでも良かった私はあくびを噛み殺し、カエインとセドリック、どちらの方向も見ないで済むよう仰向けになる。
幸い疲れているので、目を瞑ると同時に眠りにつくことができた。
翌朝は、軍を安全な場所に待機させた状態で、レスターとセドリックとともに巨鳥になったカエインに乗って飛び、先行して峠へと向かう。
「セドリック、レスター王子、いくわよ!」
巨大な背にまたがったまま上空で合図して、全員でタイミングを合わせ、剣に溜めた力を一気に放出する。
すると、巻き起こった三本分の強力な剣圧が、勢い良く白い山肌へとぶつかっていく。
直後、ドコォオンと、派手な爆発音がしたあと、どうっと巨大な雪崩が発生した。
背後からレスター王子の感嘆の声が響く。
「凄いな、これが戦神の兄妹剣が揃ったときの力か!
なあアレイシア、デリアンを殺し終わったらぜひシュトラスに来て、愛妾を兼ねた俺の片腕にならないか?」
本気とも冗談ともつかない言葉に、セドリックがムキになったように言い返す。
「シアは妾になどならない! なるとしたら僕が王位を取り返した後のアスティリア王妃だ!」
カエインも負けじと大きな嘴を開いて主張する。
「悪いがセド、結婚に関しては俺のほうが先約だ。なにせすでに婚礼衣装まで一式揃えてあるからな」
私は三人の無駄な期待を粉砕すべく、高く守護剣を掲げ、
「何度でも言うけど、今やこの剣は戦女神の剣ではなく、その娘たる処女神にして黒い劫火を抱く、復讐の女神の剣に生まれ変わったの! 私はこの剣の持ち手に相応しく、生涯純潔を貫くつもりよ!」
叫びしな思い切り振り下ろし、逆巻く黒炎を積雪へと放りこんだ――
そうして念入りに通り道付近の雪を流しきったあと、ついに峠の頂きに降り立った私は、はるか眼前に広がるアスティリア王国の大地を眺め、いよいよ近く迫った決戦の刻を思う。
今のところ被害なしで合わせて一万数千の、強国シュトラスの騎兵と長弓兵、長槍を持ったイルスの歩兵部隊を従えている。
おまけに伝説の魔法使い効果か、早くも先の内戦で中立だったレイクッド大国を始め、アスティリア国内のいくつかの諸侯がこちら側につくと表明しているらしい。
残念ながらその中にバーン家は含まれていないとはいえ、今度ばかりは、デリアン個人の神がかった武力をもってしても、状況を引っくり返すのは難しいかもしれない。
ああ、心底楽しみでたまらない。
完全に負け戦だと悟ったときに、あのデリアンが私にどんな顔を向けるのかと想像するだけで、思わず喜びで全身が打ち震えてしまう。
「あはははははははっ――!」
高笑いを山々へと響かせ、私は復讐達成への期待に胸を躍らせた――
上陸後さっそくこちらに向かうとのことで、元々アスティリアに攻め込む用意をしていたシュトラスでは、合流しだいただちに出兵できるように詰めの戦準備が整えられた。
私も最高司令官に任命されたセドリックにつきあい、率先してシュトラス軍の訓練に参加して戦いに備える。
さらに十日ほど経った初秋を迎えたある日、いよいよ私達はシュトラス軍とイルス傭兵隊を率いてエルナー山脈へと入った。
私にとっては初めての登山だが、母による幼い頃からの過酷な訓練とデリアンへの恨みの力のおかげで、険しい道も全く苦にならない。
入山してから5日目の昼過ぎ。
少しでも馬の負担を減らすために、急勾配に入るのに合わせて下馬した私に、騎上からレスター王子が問う。
「アレイシア。女のお前はいつでも来た時のように、大鳥に乗ってアスティリアへ渡ってもいいのだぞ?」
からかい混じりに提案された私は断固として断る。
「いいえ、あくまでも兵士達と一緒に行動するわ」
指揮官が楽をしていたのでは配下の者はついてこないと、母から実地の演習の際に教えられていた。
だから食事も自ら希望して一兵卒と同じものを食し、寝る時も紅一点でありながら皆と一緒に雑魚寝していた。
とはいえ、傍らにはつねに世界最強の魔法使いがいるので、誰にも寝込みを襲われる心配などなかったが。
空を飛べるカエインは、私よりも山登りする必要がないのに、連日とても楽しそうにしている。
山頂越えを翌日に控えたその晩も、テント内で私と同じ硬い黒パンを食べるカエインは終始笑顔だった。
「こうして毎日シアと寝食を共にし、一日中一緒にいられるのは幸せなものだ」
その酔ったような口調に内心イラつきながら、無言で食事を終えた私は、身体にマントと毛布を重ねて巻き、布を敷いただけの地面にごろっと寝転がる。
山の上とはいえどもっと上等な寝床を用意することもできたのだが、デリアンに捨てられてからというもの、寝心地が悪いほうがかえって安眠できるのだ。
私に続いてカエインが、少し遅れてセドリックが両脇に横たわった。
一人だけ起きて寝酒を飲んでいるレスター王子が、男二人に挟まれて寝る私を皮肉る。
「なあ、アレイシア。考えてみると、自分に夢中な男二人を引き連れて昔の男に報復しに行くお前は、ずいぶんといいご身分じゃないか?」
すかさずセドリックが跳ね起きて抗議する。
「レスター、それ以上シアを侮辱したら許さないよ!」
「いいのよ、セドリック。レスター王子のおっしゃる通りだし、私は全く気にしていないわ」
本心からどうでも良かった私はあくびを噛み殺し、カエインとセドリック、どちらの方向も見ないで済むよう仰向けになる。
幸い疲れているので、目を瞑ると同時に眠りにつくことができた。
翌朝は、軍を安全な場所に待機させた状態で、レスターとセドリックとともに巨鳥になったカエインに乗って飛び、先行して峠へと向かう。
「セドリック、レスター王子、いくわよ!」
巨大な背にまたがったまま上空で合図して、全員でタイミングを合わせ、剣に溜めた力を一気に放出する。
すると、巻き起こった三本分の強力な剣圧が、勢い良く白い山肌へとぶつかっていく。
直後、ドコォオンと、派手な爆発音がしたあと、どうっと巨大な雪崩が発生した。
背後からレスター王子の感嘆の声が響く。
「凄いな、これが戦神の兄妹剣が揃ったときの力か!
なあアレイシア、デリアンを殺し終わったらぜひシュトラスに来て、愛妾を兼ねた俺の片腕にならないか?」
本気とも冗談ともつかない言葉に、セドリックがムキになったように言い返す。
「シアは妾になどならない! なるとしたら僕が王位を取り返した後のアスティリア王妃だ!」
カエインも負けじと大きな嘴を開いて主張する。
「悪いがセド、結婚に関しては俺のほうが先約だ。なにせすでに婚礼衣装まで一式揃えてあるからな」
私は三人の無駄な期待を粉砕すべく、高く守護剣を掲げ、
「何度でも言うけど、今やこの剣は戦女神の剣ではなく、その娘たる処女神にして黒い劫火を抱く、復讐の女神の剣に生まれ変わったの! 私はこの剣の持ち手に相応しく、生涯純潔を貫くつもりよ!」
叫びしな思い切り振り下ろし、逆巻く黒炎を積雪へと放りこんだ――
そうして念入りに通り道付近の雪を流しきったあと、ついに峠の頂きに降り立った私は、はるか眼前に広がるアスティリア王国の大地を眺め、いよいよ近く迫った決戦の刻を思う。
今のところ被害なしで合わせて一万数千の、強国シュトラスの騎兵と長弓兵、長槍を持ったイルスの歩兵部隊を従えている。
おまけに伝説の魔法使い効果か、早くも先の内戦で中立だったレイクッド大国を始め、アスティリア国内のいくつかの諸侯がこちら側につくと表明しているらしい。
残念ながらその中にバーン家は含まれていないとはいえ、今度ばかりは、デリアン個人の神がかった武力をもってしても、状況を引っくり返すのは難しいかもしれない。
ああ、心底楽しみでたまらない。
完全に負け戦だと悟ったときに、あのデリアンが私にどんな顔を向けるのかと想像するだけで、思わず喜びで全身が打ち震えてしまう。
「あはははははははっ――!」
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