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第六章「結びあう魂」
1、ボーク砦攻略
順調にエルナー山脈を下ったあとは、裾野に広がる森に隠れてしばらく進んでいく。
ちょうど木々の終わり目が見えてきたとき、近くにあるボーク砦の者だと思われる騎士達と遭遇したが、こちらの大軍を見ただけで慌てて引き返していった。
その夜、野営の火を囲みながら、セドリックがカエイン、レイヴン、ギモスの顔を見回す。
「誰かこの降伏勧告状をボーク砦と、デヴァン城へ、それぞれ届けに行ってくれないか?」
「私が影を使者として飛ばしましょう」
「ありがとギモス」
事前の調べによると、ボーク砦には百人程度、デヴァン城には二千人弱の兵士が詰めているらしい。
拠点としてはデヴァンを抑えることが最優先なので、降伏勧告が受け入れられず、短期戦でボーク砦が落ちなければ放置して先へ進む予定だった。
けれど一度致命的なミスを犯した私は、もう二度とつまずかないよう、セドリックの目の前にある石ころは確実に取り除いていきたかった。
今なら慈悲深い彼が駆け寄る前に、道で行き倒れている者を見かけたら、迷わず斬撃を飛ばして息の根を止めてみせるだろう。
だから見張り以外は寝静まった真夜中過ぎ、私はこっそり寝床から起きあがって一人でテントを抜けだした。
勝手についてくるのは分かっていたので、少し歩いてからふり返る。
「カエイン。悪いんだけど、とある場所まで送ってくれる?」
「ああ、どこへでも連れて行こう」
当然のように背後で答えるカエインの後ろから、その時、さらに歩いてくる第三者の影があった。
「こんな夜中に守護剣を持って起き出すとは、いったいどこへ行くつもりだアレイシア?」
月光を照り返す銀髪と片方だけ開いた瞳――どうやら顔は似ててもセドリックと違い、レスター王子は眠りが浅いらしい。
私は大きく諦めの溜め息をついた――
それから少し時間が経過した頃、私とレスター王子は飛行するカエインの腕にぶら下がって夜空を移動していた。
やがてボーク砦の上までくると自ら手を離し、屋上に降り立ったそばから歩哨を斬り倒してゆく。
レスター王子に先んじて突入した砦内部の幅の狭い通路は、かつて母と二人で踏み込んだ盗賊のアジトを彷彿とさせた。
当時まだ9歳だった私は守護剣をうまく扱えず、人を殺すのも初めてで、たった一人の盗賊を片付けるのにも手間取り、何度も何度も剣を打ちつけては、無駄に相手の苦痛を長引かせたものだ。
ところが守護剣を覚醒させた今では、立ちふさがる敵を一撃で簡単に沈めることができる。
いまだに脳裏に焼きついている母の失望の表情と、盗賊の無残な遺体を思い浮かべていると、飾りのついた兜と立派な鎧をまとった人物が視界に現れた。
末端の物でも高価な魔法剣が手に握られているところを見ると、間違いなく指揮官クラスだろう。
「あなたが、こちらの砦の責任者?」
「いかにも。して、貴様は何者だ?」
私の問いに老齢特有のしわがれ声が答えた。
「私はこの国の真の王であるセドリック様の使いよ。直接、降伏勧告状の返事を貰いに来たわ」
老騎士はふんと鼻を鳴らす。
「あんな紙切れ、届いたそばから破り捨ててやったわ」
「そう……。では最後に口頭で尋ねるけど、降伏したら生かしておいてあげるわよ?」
「笑止!」
気概のある返事とともに斬りかかってきた老騎士の魔法剣は、だが、私の復讐の女神の剣とぶつかった瞬間に脆くも砕け散った。
ああ、あの頃はあんなに重たかった守護剣が、今はこんなに軽い――
剣を振る勢いのままに跳ね飛ばした首が石床に転がるのを目の端で捉えると、私は通路の向こう側で固まっている他の騎士達を見やって問いかける。
「さて? 他に死にたい人間はいる?」
砦を制圧し終わったあと、レスター王子が笑って訊いてきた。
「一つ質問するが、俺がつきあわなかった場合、お前は一人で百人を相手にするつもりだったのか?」
「ええ。たった百人程度を一人で相手取れないようでは、一騎当千の英雄と呼ばれるデリアンを倒すことなど百年経っても無理ですから」
「それは頼もしいな」
レスター王子は感心したように言ってから、先日の話を蒸し返した。
「なあ、幸い俺はまだ婚前だし、愛妾ではなく正妻ならどうだ?
デリアンへの恨みを果たせば、また白銀の光をまとう戦女神の剣に戻ろう。
お前さえ隣にいれば、俺は世界さえも征服できそうな気がする」
よりにもよってそんな申し出をこの私にするとは――どうして私が「こうなった」か知っていながら……!
かっと込み上げてきた怒りをぐっと飲み込み、
「その話はもう終わったはずです。失礼いたします」
素早く挨拶してその場を離れた。
屋上に出て頭を冷やしていると、急に身にしみるような夜風が止み、見ると濡れたような漆黒の髪とマントを靡かせたカエインが風上に立っていた。
ちょうど木々の終わり目が見えてきたとき、近くにあるボーク砦の者だと思われる騎士達と遭遇したが、こちらの大軍を見ただけで慌てて引き返していった。
その夜、野営の火を囲みながら、セドリックがカエイン、レイヴン、ギモスの顔を見回す。
「誰かこの降伏勧告状をボーク砦と、デヴァン城へ、それぞれ届けに行ってくれないか?」
「私が影を使者として飛ばしましょう」
「ありがとギモス」
事前の調べによると、ボーク砦には百人程度、デヴァン城には二千人弱の兵士が詰めているらしい。
拠点としてはデヴァンを抑えることが最優先なので、降伏勧告が受け入れられず、短期戦でボーク砦が落ちなければ放置して先へ進む予定だった。
けれど一度致命的なミスを犯した私は、もう二度とつまずかないよう、セドリックの目の前にある石ころは確実に取り除いていきたかった。
今なら慈悲深い彼が駆け寄る前に、道で行き倒れている者を見かけたら、迷わず斬撃を飛ばして息の根を止めてみせるだろう。
だから見張り以外は寝静まった真夜中過ぎ、私はこっそり寝床から起きあがって一人でテントを抜けだした。
勝手についてくるのは分かっていたので、少し歩いてからふり返る。
「カエイン。悪いんだけど、とある場所まで送ってくれる?」
「ああ、どこへでも連れて行こう」
当然のように背後で答えるカエインの後ろから、その時、さらに歩いてくる第三者の影があった。
「こんな夜中に守護剣を持って起き出すとは、いったいどこへ行くつもりだアレイシア?」
月光を照り返す銀髪と片方だけ開いた瞳――どうやら顔は似ててもセドリックと違い、レスター王子は眠りが浅いらしい。
私は大きく諦めの溜め息をついた――
それから少し時間が経過した頃、私とレスター王子は飛行するカエインの腕にぶら下がって夜空を移動していた。
やがてボーク砦の上までくると自ら手を離し、屋上に降り立ったそばから歩哨を斬り倒してゆく。
レスター王子に先んじて突入した砦内部の幅の狭い通路は、かつて母と二人で踏み込んだ盗賊のアジトを彷彿とさせた。
当時まだ9歳だった私は守護剣をうまく扱えず、人を殺すのも初めてで、たった一人の盗賊を片付けるのにも手間取り、何度も何度も剣を打ちつけては、無駄に相手の苦痛を長引かせたものだ。
ところが守護剣を覚醒させた今では、立ちふさがる敵を一撃で簡単に沈めることができる。
いまだに脳裏に焼きついている母の失望の表情と、盗賊の無残な遺体を思い浮かべていると、飾りのついた兜と立派な鎧をまとった人物が視界に現れた。
末端の物でも高価な魔法剣が手に握られているところを見ると、間違いなく指揮官クラスだろう。
「あなたが、こちらの砦の責任者?」
「いかにも。して、貴様は何者だ?」
私の問いに老齢特有のしわがれ声が答えた。
「私はこの国の真の王であるセドリック様の使いよ。直接、降伏勧告状の返事を貰いに来たわ」
老騎士はふんと鼻を鳴らす。
「あんな紙切れ、届いたそばから破り捨ててやったわ」
「そう……。では最後に口頭で尋ねるけど、降伏したら生かしておいてあげるわよ?」
「笑止!」
気概のある返事とともに斬りかかってきた老騎士の魔法剣は、だが、私の復讐の女神の剣とぶつかった瞬間に脆くも砕け散った。
ああ、あの頃はあんなに重たかった守護剣が、今はこんなに軽い――
剣を振る勢いのままに跳ね飛ばした首が石床に転がるのを目の端で捉えると、私は通路の向こう側で固まっている他の騎士達を見やって問いかける。
「さて? 他に死にたい人間はいる?」
砦を制圧し終わったあと、レスター王子が笑って訊いてきた。
「一つ質問するが、俺がつきあわなかった場合、お前は一人で百人を相手にするつもりだったのか?」
「ええ。たった百人程度を一人で相手取れないようでは、一騎当千の英雄と呼ばれるデリアンを倒すことなど百年経っても無理ですから」
「それは頼もしいな」
レスター王子は感心したように言ってから、先日の話を蒸し返した。
「なあ、幸い俺はまだ婚前だし、愛妾ではなく正妻ならどうだ?
デリアンへの恨みを果たせば、また白銀の光をまとう戦女神の剣に戻ろう。
お前さえ隣にいれば、俺は世界さえも征服できそうな気がする」
よりにもよってそんな申し出をこの私にするとは――どうして私が「こうなった」か知っていながら……!
かっと込み上げてきた怒りをぐっと飲み込み、
「その話はもう終わったはずです。失礼いたします」
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