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第二章 フレンズ(Friends)

第7話-2 バッティング対決!

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 ピッチング・マシンが投げる球をテイターは次々に打っていく。時速百キロは慣れていないと中々打てないものだが、この程度、テイターにとっては難しいものではない。直球ならほぼ間違いなく打てる。しかし、ここから先に問題が存在する。それは合計二つ、ホームランの的に打球を当てることと、変化球を打つことである。
 直球が打てるということと、狙った場所に打球を飛ばせるということは別物である。小さな的に当てる、そのためにはパワーだけではダメで、バットをうまくコントロールする技術が要求される。そしてこれが難しい。

 バットを構え、テイターは気合を入れる。マシンが球を投げる、直球、飛んでくるそれの少し下を狙ってバットを振り、きちんと当てて高く飛ばす。そこまでは大丈夫だが、どうしても的に当たらない。すぐ側までは球がいくのだが、直撃しないのだ。そうこうしている内に変化球がやってくる。
 そのマシンが投げられる球種はカーブのみだが、変化球ゆえに直球よりも少し遅く、それがテイターの打撃のタイミングを狂わせる。プロの世界でもそうだが、緩急のあるピッチングは打ち崩しにくい。直球と変化球の速度差が大きい場合は特にそうである。

 彼女は直球を打つつもりでボールを待っている。マシンが投げてくる……。

(むっ、カーブ!)

 ボールが変化していく軌道は既に見切っている。しかしその遅さについていけない、バットを振るべきタイミングがつかめない。ボールがバットの射程内に入ってくる、スイング、だがバットは落ちていく球の遥か上を駆け抜けるだけの結果に終わる。空振りだ。
 ここまでで十五球を消化し、打ったのは十二球に達している。的に当てたのは一つもない、よって得点を計算すると十二になる。できればもう三つ打って合計十五点は獲得したいが、そう上手くいくかどうか、なかなか微妙なところである。

 マシンが十六球目を投げてくる。単なるファスト・ボールだ、テイターは軽く打ち返して追加の一点をとる。十七球目もファスト・ボール、あっさり打ち返してこれで計十四点。目標の十五点まであと一点に迫る。
 十八球目が投じられる。

(カーブ!)

 焦ってバットを振りにいかず、ギリギリまでボールを引きつける……スイング、どうにか当てる。だがきちんとした当たりではない、ボール上部を少し叩いただけだ。それでは前に飛ばない、ボールは僅かに軌道を変えて飛び続け、ファウル・チップの時のように後方へ駆け抜けていく。
 このままやっていたのでは埒が明かない。テイターはそう考え、賭けに出ることを決める。

(次の球がもしカーブなら、まったく手出しせず、その動きを観察するだけにしよう……)

 十九番目の球が投げられる、明らかにカーブの速度だ。直前に決断した通り、テイターは何もせずに球の動きを観察し続ける。まるで映画のスロー・モーションが発生したかのように、球がゆっくりと変化していくのが見える……。

(近づいてくる、変化が始まる、このタイミングで曲がり出して落ち始める……)

 そのボールはなんの障害もないホーム・プレートの上空を走り抜けて飛び去る。試合でいうなら、テイターはこの一球を見送ったということだ。一見、消極的な策かもしれない。だが、おかげで曲がっていくタイミングをしっかり把握できた。決して無駄な行動ではない。
 マシンはこのゲームの締めくくりとなる二十球目を投げる。球種は……カーブ!

(やって来る、まだ打ちにいっちゃダメ……。もう少し待って……このタイミングで!)

 バットはしっかりとボールをとらえ、勢いよく前方へ弾き飛ばす。打球は高く上がって、ホームランの的のすぐ側へいき……直撃する!

「やった!」

 後ろで見ている西詰は驚く。

「最後の最後でねぇ……」
「ふふ、これがあたしの実力ってやつよ! 凄いでしょ?」
「何だよ、調子乗っちゃって」
「それって嫉妬?」
「ふん、そんなんじゃないよ……」

 こうしてテイターは十七点を獲得した。西詰がこれに勝つためには、当然のことだが、十八点を取らなくてはならない。そのために彼が打つべき球の数は、ホームランの的に一つも当てないのならば十八球となる。
 一ゲーム二十球の勝負で十八球を打つのだから、かなりの打撃力が求められる。だがピッチャーである西詰にそんな力量などあるわけがない。そういうわけで、西詰の挑戦結果は十二点に終わった。彼の敗北である。

 バッティング対決を制したしたテイターはにこにこしながら言う。

「どんなもんよ、松浪テイター様は!」
「はいはい、凄いですよ……」
「あらあら、そんな顔なさってどうしたのかしら?」
「負けて楽しい奴がどこにいるんだよ……」
「そんなさー、機嫌悪くしないでよー。そりゃ勝ったのはあたしだけど、歩は頑張ったって!」
「安い慰めはやめろよ……。クソッ、だいたい卑怯だ、この勝負。こんなんバッターのお前が圧倒的有利に決まってんじゃん」
「だからハンデつけて公平にしたでしょ」
「それでもさ、この結果には納得いかねぇ。リターン・マッチを申し込むぜ、今度は俺有利のピッチング対決だ!」

 西詰は少し遠くを指さす。そこにはナイン・ターゲッツの設備がどーんと鎮座している。
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