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第4章 現代の監視社会における具体的な監視方法とその運用の実態について
第73話 処刑 Little Mother's great fury
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大伝馬は特別調査室の室長室に入っていく。室長の冬川タカ子、中年の日本人女性だが、彼女は机で資料を読んでいる。
そこから少し離れたところにあるカウチには、三十代に見える別の日本人女性が座っていて、業務用のスマートフォンを脳波操作している。
この女性の名前は森琴美。調査室の実働部隊のリーダーだ。隊員たちは彼女を「チーフ」と呼ぶ、それは尊敬や親愛の念の証であり、鬼の訓練への恐れでもある。
森は大伝馬に気づき、スマートフォンを脇に置いてから話しかける。
「へぇ、講義はもう終わり?」
「おうよ。理堂は飲みこみが早いからな。さっさと片づいた」
「私は彼のそういうとこを評価して引き抜いたんだし、当然でしょ」
「で、話ってなんだ?」
「その前にドアは閉めた?」
「バッチリよ」
「了解。じゃあそこ座って」
大伝馬がカウチへ移動する間、冬川は資料を引き出しにしまい、二人に話をする準備を整える。そして二人が座った後、説明しだす。
「それでは伝えます。まずスケルトンの件ですが、新型の試作品が完成しました。いずれ貴方たちに工場へ行ってもらって、試し運転をしてもらいます」
やっぱりなぁという顔つきの大伝馬が質問する。
「性能はどうなんです?」
「まず軽量化、生産コストの低減。それと、自動マルチ・ロックオン、ステルス機能の搭載」
「ステルス! ついに完成ってわけか」
「まだまだ未熟なレベルだと聞いています。短時間の稼働が精いっぱいで、しかも、水に濡れると強制的に解除される」
「水で解除って、この時代に今さら大昔のステルス技術かよ」
「仕方ありませんよ。あれだけ大型の機械ににステルス装置を積むこと自体、難しいのですから」
森が口を挟む。
「私の記憶が正しければ、世界で初めてステルス技術、正確に言うなら光学迷彩だが、それが確立されたのが2019年前後だ」
「カナダの会社の、えぇーと、なんて名前だ?」
「ハイパーステルス・バイオテクノロジー社」
「そう、それ! 学生の頃、動画サイトでプロモーション映像を見たぜ。特殊な布の後ろに隠れると、魔法の服を着たみたいに透明になっちまうんだよな」
「新しい技術が生まれれば、それを使った新しい兵器が発明される。世界各国はステルス機能を持った軍服を開発し、採用した」
「もちろんうちだってそうだろ?」
「当然」
「いやぁ、技術の進歩ってのはすごいねぇ!」
信じがたい話かもしれない。だが、森たちの話は、少なくとも前半部分は事実だ。
もし興味を持つ者がネットで調べれば、大伝馬が見たのと同じプロモーション映像を見つけ出せるだろう。
冬川が話を本筋に戻す。
「豆知識はそれくらいにしてください。急ぎの案件ではないとはいえ、大事なことです。しっかりお願いします」
二人は「了解」と答える。冬川はうなずき、新たな話題を始める。
「では、最重要案件についてお伝えします。LMからの命令がきました。大規模掃除です」
大規模掃除。大伝馬の顔から笑みが消える。真面目な顔で冬川に聞く。
「内容は?」
「"怒られる"対象は10人。すでに解放軍が誘拐作戦を実行中です」
「10人か……」
「例の岩川もターゲットですよ」
「へぇ、そいつはいい!」
森が喋る。
「岩川だけじゃない。若海も処分決定だ」
「若海ってあの水道会社の子だろ?」
「情報班が報せてきた。すべてリークする寸前らしい」
「やべぇな」
「幸い、行動に移る前に身柄を確保できた。今ごろは倉庫かどこかでおねんねだ」
「グッド」
「数日中に解放軍がテロを起こす。10人みんな公開処刑して、終わったら脱出」
「で、あとはいつも通りだろ。逃げてきたところを俺たちが殺して、ミッション・コンプリート」
「その通りだけど、今回は別の仕事も同時にやらなくちゃいけない」
「なんだ?」
「さっき試作品の話があったでしょ。あれ、天気が良ければ今度の作戦で使うことに決まったから」
「どのタイミングで使うんだ?」
「解放軍を殺す時。自動マルチ・ロックオンがどれだけ機能するか、実戦データを取りたい」
「あれだろ、四本の腕が複数のターゲットを同時に狙うっていう……」
「そうだ。実験ではうまく機能しても、実戦で人間が相手ならどうなるか、わからないからね。実際に試すしかない」
「なるほど、了解」
これで終わりかなと大伝馬は思う。だが話はまだ残っている。冬川が言う。
「最後になりますが、情報班から連絡がきています。武装戦線と革命戦団の動きが活発になっているようです」
喋り疲れた大伝馬にかわり、森がたずねる。
「いったい何が起きてるの?」
「まず武装戦線ですが、最近の暴力的なデモのせいで世間が騒がしいでしょう。この機会に乗じ、誰かを暗殺する計画を進めているそうです」
「ちっ、あいつら……」
「革命戦団の計画は詳細不明です。なにせ情報戦に長けた連中ですから、なかなか尻尾がつかめない」
「でも大事(おおごと)になる前に対処すべきでは?」
「えぇ。だからこそ、全力で事に当たるよう、情報班に厳命してあります」
「私からも発破をかけたほうが?」
「そのほうがいいでしょうね。単なる個人的な憶測にすぎませんが、革命戦団の今回の動きは非常にきな臭い。充分に気をつけてください」
「了解」
武装戦線や革命戦団とはいったいなにか? テロ組織のようだが、それは解放軍と何が違うのか?
すべてを知るにはまだ時が必要ということだ。
そこから少し離れたところにあるカウチには、三十代に見える別の日本人女性が座っていて、業務用のスマートフォンを脳波操作している。
この女性の名前は森琴美。調査室の実働部隊のリーダーだ。隊員たちは彼女を「チーフ」と呼ぶ、それは尊敬や親愛の念の証であり、鬼の訓練への恐れでもある。
森は大伝馬に気づき、スマートフォンを脇に置いてから話しかける。
「へぇ、講義はもう終わり?」
「おうよ。理堂は飲みこみが早いからな。さっさと片づいた」
「私は彼のそういうとこを評価して引き抜いたんだし、当然でしょ」
「で、話ってなんだ?」
「その前にドアは閉めた?」
「バッチリよ」
「了解。じゃあそこ座って」
大伝馬がカウチへ移動する間、冬川は資料を引き出しにしまい、二人に話をする準備を整える。そして二人が座った後、説明しだす。
「それでは伝えます。まずスケルトンの件ですが、新型の試作品が完成しました。いずれ貴方たちに工場へ行ってもらって、試し運転をしてもらいます」
やっぱりなぁという顔つきの大伝馬が質問する。
「性能はどうなんです?」
「まず軽量化、生産コストの低減。それと、自動マルチ・ロックオン、ステルス機能の搭載」
「ステルス! ついに完成ってわけか」
「まだまだ未熟なレベルだと聞いています。短時間の稼働が精いっぱいで、しかも、水に濡れると強制的に解除される」
「水で解除って、この時代に今さら大昔のステルス技術かよ」
「仕方ありませんよ。あれだけ大型の機械ににステルス装置を積むこと自体、難しいのですから」
森が口を挟む。
「私の記憶が正しければ、世界で初めてステルス技術、正確に言うなら光学迷彩だが、それが確立されたのが2019年前後だ」
「カナダの会社の、えぇーと、なんて名前だ?」
「ハイパーステルス・バイオテクノロジー社」
「そう、それ! 学生の頃、動画サイトでプロモーション映像を見たぜ。特殊な布の後ろに隠れると、魔法の服を着たみたいに透明になっちまうんだよな」
「新しい技術が生まれれば、それを使った新しい兵器が発明される。世界各国はステルス機能を持った軍服を開発し、採用した」
「もちろんうちだってそうだろ?」
「当然」
「いやぁ、技術の進歩ってのはすごいねぇ!」
信じがたい話かもしれない。だが、森たちの話は、少なくとも前半部分は事実だ。
もし興味を持つ者がネットで調べれば、大伝馬が見たのと同じプロモーション映像を見つけ出せるだろう。
冬川が話を本筋に戻す。
「豆知識はそれくらいにしてください。急ぎの案件ではないとはいえ、大事なことです。しっかりお願いします」
二人は「了解」と答える。冬川はうなずき、新たな話題を始める。
「では、最重要案件についてお伝えします。LMからの命令がきました。大規模掃除です」
大規模掃除。大伝馬の顔から笑みが消える。真面目な顔で冬川に聞く。
「内容は?」
「"怒られる"対象は10人。すでに解放軍が誘拐作戦を実行中です」
「10人か……」
「例の岩川もターゲットですよ」
「へぇ、そいつはいい!」
森が喋る。
「岩川だけじゃない。若海も処分決定だ」
「若海ってあの水道会社の子だろ?」
「情報班が報せてきた。すべてリークする寸前らしい」
「やべぇな」
「幸い、行動に移る前に身柄を確保できた。今ごろは倉庫かどこかでおねんねだ」
「グッド」
「数日中に解放軍がテロを起こす。10人みんな公開処刑して、終わったら脱出」
「で、あとはいつも通りだろ。逃げてきたところを俺たちが殺して、ミッション・コンプリート」
「その通りだけど、今回は別の仕事も同時にやらなくちゃいけない」
「なんだ?」
「さっき試作品の話があったでしょ。あれ、天気が良ければ今度の作戦で使うことに決まったから」
「どのタイミングで使うんだ?」
「解放軍を殺す時。自動マルチ・ロックオンがどれだけ機能するか、実戦データを取りたい」
「あれだろ、四本の腕が複数のターゲットを同時に狙うっていう……」
「そうだ。実験ではうまく機能しても、実戦で人間が相手ならどうなるか、わからないからね。実際に試すしかない」
「なるほど、了解」
これで終わりかなと大伝馬は思う。だが話はまだ残っている。冬川が言う。
「最後になりますが、情報班から連絡がきています。武装戦線と革命戦団の動きが活発になっているようです」
喋り疲れた大伝馬にかわり、森がたずねる。
「いったい何が起きてるの?」
「まず武装戦線ですが、最近の暴力的なデモのせいで世間が騒がしいでしょう。この機会に乗じ、誰かを暗殺する計画を進めているそうです」
「ちっ、あいつら……」
「革命戦団の計画は詳細不明です。なにせ情報戦に長けた連中ですから、なかなか尻尾がつかめない」
「でも大事(おおごと)になる前に対処すべきでは?」
「えぇ。だからこそ、全力で事に当たるよう、情報班に厳命してあります」
「私からも発破をかけたほうが?」
「そのほうがいいでしょうね。単なる個人的な憶測にすぎませんが、革命戦団の今回の動きは非常にきな臭い。充分に気をつけてください」
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参考文献
松井奈美子 一発合格! 毒物劇物取扱者試験テキスト&問題集
船山信次 史上最強カラー図解 毒の科学 毒と人間のかかわり
齋藤勝裕 毒の科学 身近にある毒から人間がつくりだした化学物質まで
鈴木勉 毒と薬 (大人のための図鑑)
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