VRMMO レヴェリー・プラネット ~ユビキタス監視社会~

夏野かろ

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第8章 マフィア・ラプソディ

第133話 なんでもお金で買う奴ら Whatever money can buy

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 医師は憂うつな顔で話す。

「毎度のことながら、あんた達も苦労するねぇ」

 ジェーンが「そういうお仕事ですから仕方ありません」と返す。

「でもさ、闇医者のあたしが言えた義理じゃないけど、こんな稼業は心と体によくないよ。さっさとやめて堅気になるべきさ。
 いつも逮捕の危険と隣り合わせ、ビクビク怯えながら暮らさなくちゃいけない。そしてもし捕まったら間違いなく執行猶予なし! 初犯にして実刑判決だ」

 ウーファンが主張する。

「まぁでも、今の日本は死刑がないから、うちらみたいな重犯罪者も終身刑で勘弁してもらえる。いい時代ですよ。
 そりゃ二度とシャバに戻れないのはキツいですけど、死んじゃうよりはマシかなぁ~って……」
「何をズレたこと言ってんだい! LMがその気になりゃぁ誰だって殺されちまう世の中だよ? それって事実上の死刑でしょうが」
「あはは……」
「こんな話を知ってるかい? ここ10年間で終身刑になった犯罪者のうち、95パーセントはお勤めを始めてから2年以内に死ぬ」
「マジですか?」
「マジだよ! ム所の中だってのにナイフを手に入れて自殺したり、いきなり心筋梗塞になったり、平らな場所で転んで頭を打ったり、こういう謎の死に方をする。
 なんでそうなるかは言わなくてもわかるだろう? LMが情報局の奴らを使って暗殺してるわけさ」
「はぁ~! 恐ろしい!」

 冷たい気持ちと共にジェーンが思いを吐き出す。

「ドクター。私だってウーファンだって、昔は堅気の仕事を目指してましたよ。本当に」
「あたしだってそうさ。真っ当な医者をやりたくて必死に勉強した」
「でもこの日本という国はとことん ”ガイジン” に冷たい。差別的に取り扱う。昔、不動産屋で部屋を借りようとしてこんなことを言われました。

”あぁ~、おたくってガイジンさん? 悪いけど他を当たってもらえる? うちはガイジン相手の物件って扱ってないから”

 ガイジンに対する日本人の考え方ってどういうものか、非常によくわかる言葉です」

 苦々しい顔で医師はうなずき、ジェーンに賛同する。

「まったくね! そうやって社会から爪弾きにするなら、じゃあガイジンはどうやって生きればいいんだか!」
「言わずと知れたことですよ。”ガイジンは奴隷みたいにあくせく働いて暮らせ”。それが日本人の答えです」
「ふん……!」
「2020年代、日本が人手不足だった頃、政府は外国人労働者をたくさん受け入れて働かせた。ひどい待遇でね!
 外国人労働者を雇いたければ、その人たちの権利を守るような法律や行政機関をきちんと整備しないといけない。しかし大した取り組みは行われなかった。
 労働力だけ吸い取って権利はないがしろ、これが搾取でないというならいったい何が搾取なんでしょうね!」
「こういう安い奴隷労働が嫌だってんなら、芸能人や学者、もしくはスポーツ選手にでもなるしかないよね。でも殆どの人にはそんな難しいこと無理だしさ。
 じゃあどうしたらいいって、あんた達やあたしみたいなアウトローになって、ヤバい仕事で大きく稼ぐって結論になっちまう」
「日本で人間らしく生きられるガイジンは、幸運に恵まれたごく一部だけ……」

 医師は嘆く。

「昔はねぇ、良心的な日本人がたくさんいて、ガイジンのためにいろいろ頑張ってくれたって話だけど。LMができてからはそれも終わりさ。
 外国人労働者の賃金を日本人と同じに引き上げようって誰かが主張して、そういう講演会とかデモ行進をすると、公安警察や情報局がとんできて叩きつぶす。
 だって彼女は大企業という子どもを愛する”小さなお母さん”だものね。賃上げなんていう企業が損する話を認めるわけがないんだ、絶対に!」

 シケ面のウーファンが喋る。

「しょせんこの世は弱肉強食ってことですよ。強いやつが弱いやつを支配して、殺してその肉を食べて生きる。ピンハネみたいなもんです。
 強い日本人が弱いガイジンを酷い条件で働かせて搾取するのも、似たような話ですよ。いや、それだけじゃない。
 金持ちが貧乏人の臓器を買って長生きする。それだって一種の弱肉強食であり、弱者からのピンハネだろうってあたしは思いますよ」
「へぇ、面白いこと言うねぇ」
「お金があればなんだって買える、そんな世の中がどんどん金持ちを調子に乗らせ、貧乏人いじめを加速させてきた。
 金で買っていいものと悪いものがありますよ。たとえば、宝石だったら金で売り買いしても問題ない。
 でも臓器は命にかかわるもので、それを売り買いするって、つまり命を売り買いすることじゃないですか。ひどい話だ!」
「けどさ、そういう世の中になっちまっただろ? それに、臓器を買う奴がいるから、あたしらの商売だってこうして成立するわけだしさ」
「そりゃそーです。でも正直、あたしはこんなこと認めたくはない。悪いことにも限度がありますよ。」
「あぁ、そうさ、そうとも。あたしだってそう思う。
 でも、ガイジンがこの日本でしっかり稼いで生きてくには、嫌でもこういう汚いビジネスをするしかないだろ?」
「クソッ!」

 ウーファンは興奮してくる。勢いに任せて医師にぶちまける。

「金持ちばかりが得する世の中にはうんざりですよ! だってそのせいでゲームの世界ですら金持ちが威張り散らしてる!
 たいして操作技術がうまいわけでも、頭が良くてすごい作戦立てられるわけでもない、そういうクソザコがですよ、金に物をいわせて戦いに勝つんです」
「いわゆるペイ・トゥ・ウィンのゲームだっけ?」
「そうです! ねぇ、ドクター、考えてみてくださいよ。チェスで普通に勝負して名人に勝ったなら、それはすごいことじゃないですか。
 でもですよ? もしそのチェスにおいて、試合途中でコマを買って使っていいってルールが採用されてたとします。
 自分の番が来るたびにクイーンやナイトを買って投入し、とにかくゴリ押してゴリ押してゴリ押して勝つ。
 でもそれ、チェスがうまいから、頭がいいから勝ったわけじゃない。ただ単にお金持ちだから勝てただけだ。こんな勝利になんの意味があるんです!」
「けど、そういう札束で殴り合うゲームが今のゲーマーたちの大好物なんだろう? だからあんなに売れてるわけで」
「えぇそうです、えぇ、えぇ!」
「こうしてよくよく考えてみると、今の時代は金さえありゃぁ臓器も命もゲームの勝利も買えちまうんだねぇ」
「まったく素晴らしいことですよね! Brave pay to win!」

 彼女の心の中で音楽が鳴り出す。ガンマ・レイの "Last before the storm" だ。そして結論する。
 こんな思いをするくらいなら、いっそ生まれなかったほうがよっぽどマシだッ!
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