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第9章 この社会を革命するために 前編
第135話 悪夢の世界 Godforsaken City
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なんとも嫌な気分だ。自分の手も見えないほど深い闇を歩く時に似た不安が、この俺、久泉銀(ひさいずみ ぎん)を圧し潰そうとしている。
いったいここはどこだろう? おそらく夢の中だ。意識が中途半端に覚醒して夢を見ているんだ。
くそっ。こんなろくでもないものを見ていたら、睡眠不足になっちまう。
どうにかしなくては。だが、方法なんて思いつかない。夢の中では夢のなすがままに行動するしかないんだ。
俺は、悪夢が生み出す過去の世界に迷いこんでいく……。
気がつく。あたりを見回す。ここは……レヴェリー・プラネットのリベルタドにある中央広場じゃないか!
俺は何年も前にあのゲームを引退した。それなのになぜ今ここにいる? まぁ夢の中である以上、何でもありってことなのかもしれないが……。
突然の事態にとまどっていると、俺のすぐ横に立っている若い白人女性が話しかけてくる。
「どうしたの、ソリッド・シルバー? いきなり立ち止まって」
俺は彼女を見る。ソリッド・シルバー(Solid Silver)は俺がプラネット内で使っていた名前だが、俺をそう呼ぶこの人物はいったい誰だ? 確か……。
そうだ、パトリシアだ。俺が所属していたクラン、エクレールの副リーダーを務めていた人物だ。みんなからはよくパティと呼ばれていた。
つまり話をまとめるとこうか? 今の俺はプラネットを引退する少し前のことを悪夢によって再経験している……。
「シルバー、ねぇ、本当どうしたの?」
「あぁ……、いや、なんでもない。行こう」
とりあえず足を動かし、前へ進んでいく。しばらくすれば広場の出口にたどり着くだろう。それまでに記憶の大半が蘇ってくれるといいのだが。
俺とパトリシアは瓦礫だらけになったロンドンのような街にいて、そこにあるボロい青ベンチに座っている。
デートの時に2人きりで座るにはまったく不向きの野暮なベンチだ。それなのにそうしているのは、合流予定のクランの仲間たちを待っているからだ。
俺はこれからみんなと一緒にこの街を冒険するつもりなのだ。ここは単なる街ではない。「ゴッドフォーセイクン・シティ」という名のPK可能ダンジョンだ。
本来の英語つづりを表記すると"Godforsaken City"となる。どう解釈するかは人次第だが、俺なら「神に愛想をつかされた街」と翻訳する。
実際どんな宗教の神だろうと、こんな荒れた街を愛するには相当の努力が要るはずだ。崩壊した高層ビルが建ち並び、道は瓦礫だらけでとても歩きにくい。
そして生き物はゴキブリすらいない。かわりにイカれた機械系モンスターたちがのさばり、待ち伏せに適した場所が多いせいでPK狙いのワンダラーもよく出現する。
無法地帯のようなものだ。それでもワンダラーたちが訪れるのは、レア・アイテムや経験値を稼ぐのに都合がいいからだ。
ここはデッド・シティと似ているが、あっちよりも広々としているおかげでピンチの時に逃げやすい。それに、多数のモンスターが一斉に襲いかかってくることもない。
中級ワンダラーが出向くにはかっこうのダンジョンなのだ。もちろんそれは、PKのリスクを適切に処理できるという前提があってこその話だが。
俺が遊んでいた頃はゲーム内のインフレが進んでいなかったから、パワーが1億もあれば重課金の戦闘力と評価された。そして俺もパティも1億を確保している。
仲間をPK野郎から護衛するには充分だ。むしろ気をつけるべきはモンスターだろう、毒やマヒのような特殊攻撃を使う相手に囲まれると非常に辛い。
単純な肉弾戦しかできないような、いわゆる脳筋ばかりだと楽なんだがな。そう思っていると、パティが質問してきた。
「今日はどのあたりに行きましょうか?」
「”飛行船”でいいんじゃないか?」
ここから少し歩いたところに開けた場所があり、そこには墜落した飛行船の残骸がいくつも転がっている。あのあたりに出現するモンスターなら安全に倒せるだろう。
パティは「実はわたしもそう考えていたんだけど……」と言った。博打的なことが嫌いなお前ならそう主張するはずだと思っていたよ。
「じゃあそれで決定だな」
俺の返事にパティは「えぇ」とうなずいた。そしてそう言った直後、ベンチから少し離れたところに青い霧が2つ出現し、それぞれから人の姿が現れた。
仲間たちだ。街からワープで移動してきたのだ。
いったいここはどこだろう? おそらく夢の中だ。意識が中途半端に覚醒して夢を見ているんだ。
くそっ。こんなろくでもないものを見ていたら、睡眠不足になっちまう。
どうにかしなくては。だが、方法なんて思いつかない。夢の中では夢のなすがままに行動するしかないんだ。
俺は、悪夢が生み出す過去の世界に迷いこんでいく……。
気がつく。あたりを見回す。ここは……レヴェリー・プラネットのリベルタドにある中央広場じゃないか!
俺は何年も前にあのゲームを引退した。それなのになぜ今ここにいる? まぁ夢の中である以上、何でもありってことなのかもしれないが……。
突然の事態にとまどっていると、俺のすぐ横に立っている若い白人女性が話しかけてくる。
「どうしたの、ソリッド・シルバー? いきなり立ち止まって」
俺は彼女を見る。ソリッド・シルバー(Solid Silver)は俺がプラネット内で使っていた名前だが、俺をそう呼ぶこの人物はいったい誰だ? 確か……。
そうだ、パトリシアだ。俺が所属していたクラン、エクレールの副リーダーを務めていた人物だ。みんなからはよくパティと呼ばれていた。
つまり話をまとめるとこうか? 今の俺はプラネットを引退する少し前のことを悪夢によって再経験している……。
「シルバー、ねぇ、本当どうしたの?」
「あぁ……、いや、なんでもない。行こう」
とりあえず足を動かし、前へ進んでいく。しばらくすれば広場の出口にたどり着くだろう。それまでに記憶の大半が蘇ってくれるといいのだが。
俺とパトリシアは瓦礫だらけになったロンドンのような街にいて、そこにあるボロい青ベンチに座っている。
デートの時に2人きりで座るにはまったく不向きの野暮なベンチだ。それなのにそうしているのは、合流予定のクランの仲間たちを待っているからだ。
俺はこれからみんなと一緒にこの街を冒険するつもりなのだ。ここは単なる街ではない。「ゴッドフォーセイクン・シティ」という名のPK可能ダンジョンだ。
本来の英語つづりを表記すると"Godforsaken City"となる。どう解釈するかは人次第だが、俺なら「神に愛想をつかされた街」と翻訳する。
実際どんな宗教の神だろうと、こんな荒れた街を愛するには相当の努力が要るはずだ。崩壊した高層ビルが建ち並び、道は瓦礫だらけでとても歩きにくい。
そして生き物はゴキブリすらいない。かわりにイカれた機械系モンスターたちがのさばり、待ち伏せに適した場所が多いせいでPK狙いのワンダラーもよく出現する。
無法地帯のようなものだ。それでもワンダラーたちが訪れるのは、レア・アイテムや経験値を稼ぐのに都合がいいからだ。
ここはデッド・シティと似ているが、あっちよりも広々としているおかげでピンチの時に逃げやすい。それに、多数のモンスターが一斉に襲いかかってくることもない。
中級ワンダラーが出向くにはかっこうのダンジョンなのだ。もちろんそれは、PKのリスクを適切に処理できるという前提があってこその話だが。
俺が遊んでいた頃はゲーム内のインフレが進んでいなかったから、パワーが1億もあれば重課金の戦闘力と評価された。そして俺もパティも1億を確保している。
仲間をPK野郎から護衛するには充分だ。むしろ気をつけるべきはモンスターだろう、毒やマヒのような特殊攻撃を使う相手に囲まれると非常に辛い。
単純な肉弾戦しかできないような、いわゆる脳筋ばかりだと楽なんだがな。そう思っていると、パティが質問してきた。
「今日はどのあたりに行きましょうか?」
「”飛行船”でいいんじゃないか?」
ここから少し歩いたところに開けた場所があり、そこには墜落した飛行船の残骸がいくつも転がっている。あのあたりに出現するモンスターなら安全に倒せるだろう。
パティは「実はわたしもそう考えていたんだけど……」と言った。博打的なことが嫌いなお前ならそう主張するはずだと思っていたよ。
「じゃあそれで決定だな」
俺の返事にパティは「えぇ」とうなずいた。そしてそう言った直後、ベンチから少し離れたところに青い霧が2つ出現し、それぞれから人の姿が現れた。
仲間たちだ。街からワープで移動してきたのだ。
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