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第9章 この社会を革命するために 前編

第137話 戦闘開始 All hell breaks loose

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 パティが通話方法を仲間内チャットに切り替えて話す。

(ジャマーのレーダーを見て。今わたしたちがいるのがここで、敵モンスターは……)

 敵モンスターは、俺たちが隠れている瓦礫の向こう側にいる。数は1体。お互いの距離は直線にして約20メートルというところか。
 テニス・コートの長さが約23.77メートルであることを考えると、それよりちょっと短い。そして、拳銃の弾を当てるに遠すぎる。

 サブマシンガンやアサルトライフルといった強力な銃が必要だろう。そういえば今の俺が装備している武器ってなんだ? あわてて確認する。
 これは……ミニ・サイズのウージーか。思い出した、たしか片手持ちでフル・オート射撃ができるように改造したはずだ。

 とりあえず左手でしっかり握り、いざという時に備えつつ、パティの話の続きに耳を傾ける。

(このモンスターはマーシレス・スレイヤー(Merciless Slayer)って名前だけど、戦った経験のない人はいる?)

 ガーベラがちょっと困った顔で(はは……まったく初めて)と言う。だからパティが敵の詳細を教える。

(スレイヤーは機械系のモンスターで、マネキンの下半身を玉乗りのボールに取り換えたような姿をしてる。
 左手には金属製の剣を、右手にはライフル銃を装備していて、どんな距離でも戦闘可能……)

 テルが横から(物理的な戦闘のプロってわけです)と付け足した。そういやスレイヤーってそんな奴だったな。
 特殊攻撃はまったく使わない、かわりに、こちらからの特殊攻撃を受けつけない。あくまで力勝負のみを望むタイプのモンスターだ。

 面白い。だったら叩きつぶしてやるまでだ。俺はパティに提案する。

(レーダーを見るとさ、俺たちはこの瓦礫の左右どちらからでも突っこんでいけるわけだろう?
 だったら、せっかく4人いるわけだし、頭数を活かして挟み撃ちにするってのは?)
(いいかもしれない。わたしは賛成、みんなは?)

 テルもガーベラも同意する。後は誰がどこから行くかを決めるだけだ、パティがそれを指示する。

(わたしとテルで左から攻めこむ。同時に、シルバーとガーベラが右側から突撃。それでいきましょう)

 全員がOKとこたえる。パティがカウント・ダウンを始める。

(4……3……2……1……ゼロ!)

 作戦開始! 俺たちは瓦礫の陰から飛び出し、素早く敵の姿を探す。
 いた! やや遠くに見える物体がきっとスレイヤーだ。ジャマーによってステルスが解けていることに気づいていないらしく、反応が鈍い。

 俺はウージーを構えて叫ぶ。「撃て!」。横のガーベラが「あいよ!」と言い、俺たちは仲良く撃ち始める。
 ほぼ同じタイミングでパティ&テルのペアも攻撃を開始する。いわゆる十字砲火を浴びる形になったスレイヤーのHPが減っていく。

 奴は、まずどちらのペアを攻めるべきかで悩んだらしい。すぐに決心し、俺とガーベラのいる方へ体を向けて叫ぶ。

「ヴヴヴッ!」

 スレイヤーはその脚がわりのボールを転がしながら猛スピードで俺たちに迫り、遠慮などいっさいせず撃ちまくってくる。
 いくつかの弾丸が俺に当たり、HPが減る。ガーベラが怒鳴る。「ちょっと、シルバー! バリアは!?」。そういやこのゲームにはそんなもんがあったな。

「わかってる、今やる!」

 大急ぎでバリアを張る。青白く光る透明な六角形が無数に現れ、ハチの巣のようなドームを形成して俺の周囲を包み、弾丸を次々に無力して守ってくれる。
 で……ここからどうすればいいんだろう? バリアしてるとこっちから撃つことはできないし、じゃあ反撃を諦めていったんさっきの瓦礫へ退避?

 いやいや、敵に背を向けてる場合じゃない。こういう時は……これだ!

「なめんなよ!」

 俺は本能的といっていいほどの滑らかな動きで右手を太ももへ伸ばし、そこに着けてあるソードの柄を握る。スイッチを押す。純銀(solid silver)に輝く刀身が現れる。
 もちろんこれは色が純銀なだけであって、材質そのものはまったく別だ。純銀はあまりに柔らかくて、斬った張ったに用いるには不向きすぎる。

 ともかく、敵はもう目前だ。スレイヤーはその左手の剣を大きく振り上げ、俺へと斬りつけてくる。

「ヴゥゥゥゥゥゥッ!」

 即座にソードで受け止める。そのまま上段蹴りを入れて相手の追撃を妨害し、その隙に後ろへ跳び退く。
 動きの止まったスレイヤーにガーベラが撃ちまくる。「くらぇーっ!」。結構なダメージが発生し、激怒したスレイヤーは復讐のためにガーベラへ突っこむ。

 俺は左手のウージーで援護射撃を入れながらパティに連絡する。「おい、ヘルプ!」「いま行く!」、テルも「はい」と冷静沈着に答えてくれる。
 このやり取りの間、スレイヤーと斬り合っていたガーベラが痛打をもらってしまう。彼女は「しまっ……」と苦悶の声を漏らす、そこに敵の追い打ちがくる。

「ヴッ、ヴヴッ、ヴォォォッ!」
「きゃぁッ!?」

 見事な連続斬りがガーベラのHPをごっそり削り、彼女は地面に倒れてしまう。やばい! 俺は大きく跳んでスレイヤーに近づき、ソードをちらつかせながら怒鳴る。

「やめろ、こっちだ! 俺が相手だ!」

 ウージーのトリガーを引いていくらかのダメージを与える。スレイヤーは俺という新たな脅威に対応すべく、ガーベラの相手をやめて向かってくる。
 奴の剣撃がくる……止める! ゲーム画面が軽く揺れるほどの大威力だ。それだけでなく、機械特有のめちゃくちゃな急テンポでがむしゃらに攻め立ててくる。

 これじゃあ防ぐのが精いっぱいだ。やられる……思わず叫ぶ。

「パティ、早く!」
「わかってる!」
「テル!」
「いま助けます……!」

 俺へ走ってくる途中のパティ、テルが足を止め、アサルトライフルでの射撃を開始する。無数の弾丸がスレイヤーのHPを奪っていく。

「ヴッ……!?」

 事態の急変に驚いたか、奴の動きが乱れて隙ができる。いまだ!

「いくぞ!」

 高くジャンプする。ソードを振り上げ、自由落下の勢いと共に唐竹割りをかます。

「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 スレイヤーがガードする前に攻撃が決まり、真っ二つに斬り裂く。

「ヴッ、ヴ、ヴッ……」

 絶命のうめきと共にスレイヤーは地面に倒れ、死亡する。紙一重の勝利だ、冷や冷やしたぜ。
 俺はスレイヤーの死体をながめる。それは光の粉をまき散らしながら消滅していき、かわりにドロップが現れる。それを確認するために動こうとした時……。
 
「こっちだ! ボケナスどもォ!」

 どこの誰とも知れぬ若い男の声が響き渡った。
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