VRMMO レヴェリー・プラネット ~ユビキタス監視社会~

夏野かろ

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第9章 この社会を革命するために 前編

第155話 さらば豪月円太 Hasta la vista, brat

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 それからの日々は穏やかに過ぎていった。俺は仕事(大型トラックの改造)に精を出し、必要があれば”座談会”に出席してエライたちと情報を交換した。
 プラネットの夢を見ることはもうなかった。おかげで夜にたっぷりと心身を休めることができ、革命活動は大いにはかどった。

 やがてトラックの改造が終わり、暗殺の準備がすべて整った頃。武装戦線の本部からついに連絡がきた。

「今度の土曜、ターゲットはあの海沿いの崖の道をドライブする予定である。必ず始末せよ」

 ついに最終段階……正念場ってわけだ。



 この道を遠くから見下ろせる山がある。俺はエライの若い男と共にそこにいて、暗殺作戦の真っ最中だ。
 男の左耳のソケットからは一本の黒いコードが伸び、俺の右耳のソケットに挿さっている。俺たちはこのコードによってお互いの視覚的情報を共有している。

 具体的に説明すると、男が見る映像を同時に俺も見ることができる。もし彼が犬を見れば、俺は盲目であろうとその犬の映像を見られるのだ。
 なぜこんな面倒なことが必要かというと、俺は大型トラックを遠隔操作する仕事をしなければならず、したがって道の様子を観察している余裕がない。

 そこでこの男の出番だ。彼は双眼鏡を使ってあちこちを見張り、手に入れた映像情報を俺に送る。つまり彼は俺の両目の代役を果たすのだ。
 自分の視界と他人の視界が同時に見えるのはとても不思議な感覚だが、慣れれば問題ない。それよりもトラックの操作の方が厄介だ。

 俺は手元に抱えた大型のタブレット端末を見る。そいつから伸びたコードは俺の左耳のソケットに繋がっていて、おかげで俺は脳波のみで端末を使用できる。
 この端末が飛ばす電波によってトラックに命令を送り、動かす。すなわちトラックの事実上のドライバーは俺だ。

 あれの運転席にはオンボロなアンドロイドが座っているが、別に何もしちゃいない。無人運転だと不審すぎるからとりあえず置いただけだ。
 すべてはこの俺が取り仕切る。それだけに責任重大だ、ここでヘマするとこれまでの努力すべてが水泡に帰す。

 ひとまず心を落ち着けよう。暗殺の手順を確認し、いざという時にしっかり動けるよう準備するんだ。
 道の途中には急カーブがあり、豪月円太の車がそこを曲がるためには大きく減速しなければならない。

 そのとき車の動きは遅くなり、同時に、遠心力が発生して車を崖際へと追いやる。この瞬間にトラックを突っこませればまず避けられまい。
 問題となるのはやはりタイミングだ。俺はコードを使って男に脳波を送り、無音の会話を行う。

(おい、奴の車はまだなのか?)
(俺が見ている映像は久泉さんだって共有しているわけでしょう? ほら、ご覧のとおりです。影も形もない)
(くそっ……このままじゃまずいぞ! トラックはそろそろカーブにさしかかるんだ、通り過ぎたらもうチャンスはねぇ)
(焦ってもしょうがないですよ。とにかくノロノロ運転で時間を稼いで……)
(そう言われても限界が……あっ!)

 男が(来たッ!)と叫び、体の向きを変えて双眼鏡を覗く。彼の視界にゴツい防弾車の姿が映っている、もちろん俺の脳にも同じ映像が表示されている。
 情報担当のエライが買収によって得たネタが正しいなら、あの防弾車に円太が乗っているはず。悪いが死んでもらうぜ、さぁ……覚悟しろ。

 俺は防弾車の様子を確認する。なるほど、読み通り! 減速しつつ急カーブを曲がり始めている。
 おそらく約十秒後にカーブの頂点に達するだろう。ぶつけるタイミングはそこだ、うまく間に合わせるためにトラックを加速し、猛スピードで走らす。

 激しいプレッシャーが心にのしかかる中、トラックを操作する……防弾車との距離が縮まる……相手は気づいたらしい、慌てて向きを変えようとする。だがもう遅い。
 衝突! トラックの遠隔操縦装置が「ドォン!」という派手な音を俺に伝えてきて、直後に何も聞こえなくなる。壊れちまったらしい。
 
 状況を把握するためにエライが見ている映像を確認する。防弾車はトラックと共にガードレールをぶち破り、そのまま崖下の砂場へと落ちていく。
 ついに地面とぶつかる。トラックに積んだ爆弾が大爆発を起こす。

「ドォォォォォン!」

 もし円太の体が軍事用の完全サイボーグであったとしても、この爆発に巻き込まれれば絶対に即死だ。エライがコード越しに通信を送ってくる。

(やりました! おめでとうございます!)
(ありがとう。でも、俺たちは人を殺したんだ。それを祝うのはなんか違う気がするんだよな……)
(そりゃそうかもしれませんが、しかし我々は目的を果たしたんです。やはりめでたいことですよ)
(まぁ……確かにな)

 黒煙と爆炎が吹き荒れる事故現場の映像を見ながら俺は思う。こういった痛ましい犠牲を、LM打倒のためにあとどれだけ生み出せばいいのだろう?
 あのビッチが話し合いでおとなしくなってくれるなら、俺だって殺しなんぞやらんさ。だが絶対に譲歩しない相手は力で言うことをきかせるしかない。

 かつてヒトラーが戦争を始めた時、奴を倒すために多くの人が戦って死んだ。暴走を止めるとはそういうことだ。俺はレイザーズとの一件で言ったセリフを思い出す。

”困難な事態はなにかの犠牲を支払うことでようやく解決する。それがどれだけ重いコストでも、払うべき時は払わなくちゃいけない”

 LMの暴走を許したがゆえに、奴を止めるための犠牲がこのように必要となってしまった。そしてまだまだ犠牲を積み重ねないと事態は終わらないだろう。
 ふとエクレールのみんなの顔が思い浮かぶ。もしあいつらがここにいて、今の俺の姿を見たら、さて……どんなことを言うのか?

 ドレやパティは俺の行いを褒めてくれるだろうか。テルやガーベラは俺の主張を認めてくれるだろうか。
 わからん。とりあえず一つ言えるのは、豪月円太の暗殺を果たした今、なぜかこれをドレたちに報告したいってことだ。まったくおかしな気持ちだぜ。
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