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第12章 すべてを変える時
第206話 ひとつの決着 Natural outcome
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《アカネ/姉川の視点》
思考停止状態で戦場を歩く私の耳に、若い女性の絶叫が飛びこんでくる。
「あぁぁああぁぁぁああああぁぁあぁあぁああああああああぁぁぁぁぁああぁあぁぁあぁぁあああぁぁぁああぁああああぁ!」
この声はメセドナ? いったい何が起きている? 事態を確かめるため、私は声がした方角へ全力疾走する。
あたりに転がる敵味方の死体をよけて進み、どうにか☆のある場所に着く。アンドリューがメセドナを暴行している様子が見えてくる。
「やめてえええええぇぇぇええええぇぇぇぇええぇっ!」
「うるさい! クズッ! 死ねっ!」
私は即座にアンドリューに駆け寄って体をつかみ、暴行を止めようと試みる。
「アンドリューさん! やめてください!」
「邪魔をするなっ! 復讐はまだ終わっていない!」
「とにかく落ち着いて……」
「うるさい!」
ダメだ、私の力だけじゃ止められない。救援が必要だ。
(ボス! 応答願います!)
(どうしました?)
(アンドリューが大暴れして、ぜんぜん止められなくて……)
(分かりました、こちらで強制ログ・アウトさせます。しばらくの間、そのまま彼を抑えていてください)
(はい)
アンドリューが私に抗議してくる。
「離せと言っているだろう! 離せ!」
「もし離したらまた暴力を振るうでしょう!」
「それの何が悪い! プラネットは暴力を楽しむゲームだろうが!」
「仮にそうだとしても、やっていいことと悪いことが……」
「俺は重課金者だ! たくさん金を払ってきた! いわばこのゲームにおける神だ、じゃあ何をやろうと許されるはずだ! なのにお前は……」
セリフの途中でアンドリューの体が消え、直後、ボスの声が聞こえる。
(今、強制ログ・アウトさせました。もう大丈夫です)
(はい)
これで一安心。そう思った途端、精神的な疲れが私を襲う。私は呆然自失となる、目の前でメセドナが泣きだす。
「っひぐ……。あ、うぅっ……。ひっ、あっ、っえぐ……」
言葉では表現できない、虚しさのような感情がこみ上げてくる。どうして自分はビデオ・ゲームの仕事を選んだのだろう? 誰かを泣かせるため?
そもそもビデオ・ゲームってこんな悪魔じみた娯楽なのか。プレイヤー同士の怒りや憎しみによって成り立つ遊びなのか。
治さん、なぜあなたがチェスナット社からいなくなったか、今なら理解できます。きっとあなたもどこかの時点で、私と同じ疑問を感じた。そうでしょう?
だったら私も彼を見習おう。会社をやめてしまうのだ。そうと決まれば今後はもうサボってしまえ。レイザーズも連合軍も勝手に争ってろ!
《レーヴェの視点》
クラン内チャットにメセドナの涙声が流れている。
(っひぐ……。あ、うぅっ……。ひっ、あっ、っえぐ……)
私は静かにたずねる。
(どうした? 何があった?)
(アンドリューが……ひぐっ……すごい殴ってきて……)
(大変だったな)
(もうやだ……。やめる……)
(うん?)
(だってみんなやめちゃったもん……。負け試合は嫌だって、そう言ってログ・アウトしたもん……)
(とにかく落ち着いてくれ)
(やだ! もう嫌! 私もやめる、こんなクソゲー死んじまえ! バイバイ!)
ゲームからのメッセージが2つ続けて表示される。
(メセドナがログ・アウトしました)
(地下2階の☆が破壊されました)
チャットが静かになる。同時に、重苦しい雰囲気が場に広がっていく。まぁそれも当然だろう、メセドナ隊はどう見ても敗北してしまったのだ。
しかもただの敗北ではない。多くのメンバーがログ・アウトした以上、もう戦力として再活用できないという、最悪の形の敗北だ。
これからヘル・レイザーズは、開戦時の3分の2に減少した戦力で残る3つの☆を守らなければならない。果たして勝てるのか?
いや、最高指揮官たる私が弱気になってどうする。こういう時こそ強気になり、攻撃的で積極的な態度を皆に示さなくては。
(ゴホン……。諸君、気落ちしてはいけない。まだ☆は3つもある、充分な量の希望が残されているんだ)
ホワイト・ウィッチも私に続いて言う。
(そうだよ、みんな! こんくらいぜんぜん大丈夫、まだまだ余裕だから!)
スレイヤーZがイラついた口調で反論する。
(はぁ? 余裕? 何を言ってんだ、こんだけ人が減ったんだぞ! マジやべぇだろ!)
(確かに減っちゃったけどさー、でもあたし、さっき個人チャットで他の人から聞いたよ。
攻めたアンドリュー隊も、あまりに暴力を振るったんで運営に怒られて、強制ログ・アウトをくらったって)
(なんじゃそりゃ……)
(嘘じゃないって、事実だよ。まぁつまりね、こっちの戦力だけでなく連合軍の戦力も減ったわけだから、状況は五分五分だとあたしは思うな)
(いやぜんぜん五分じゃないだろ)
(でもさ、あの厄介なアンドリューとネメシスが消えたわけだから、それ考えたらまだこっちに勝ち目あるって)
(あのなぁ、お前。いいか、俺たちは……)
私は二人の会話を聞きながら歯ぎしりする。くそっ、アンドリューめ! やりたい放題に暴れてくれたな! 地獄に落ちろ!
思考停止状態で戦場を歩く私の耳に、若い女性の絶叫が飛びこんでくる。
「あぁぁああぁぁぁああああぁぁあぁあぁああああああああぁぁぁぁぁああぁあぁぁあぁぁあああぁぁぁああぁああああぁ!」
この声はメセドナ? いったい何が起きている? 事態を確かめるため、私は声がした方角へ全力疾走する。
あたりに転がる敵味方の死体をよけて進み、どうにか☆のある場所に着く。アンドリューがメセドナを暴行している様子が見えてくる。
「やめてえええええぇぇぇええええぇぇぇぇええぇっ!」
「うるさい! クズッ! 死ねっ!」
私は即座にアンドリューに駆け寄って体をつかみ、暴行を止めようと試みる。
「アンドリューさん! やめてください!」
「邪魔をするなっ! 復讐はまだ終わっていない!」
「とにかく落ち着いて……」
「うるさい!」
ダメだ、私の力だけじゃ止められない。救援が必要だ。
(ボス! 応答願います!)
(どうしました?)
(アンドリューが大暴れして、ぜんぜん止められなくて……)
(分かりました、こちらで強制ログ・アウトさせます。しばらくの間、そのまま彼を抑えていてください)
(はい)
アンドリューが私に抗議してくる。
「離せと言っているだろう! 離せ!」
「もし離したらまた暴力を振るうでしょう!」
「それの何が悪い! プラネットは暴力を楽しむゲームだろうが!」
「仮にそうだとしても、やっていいことと悪いことが……」
「俺は重課金者だ! たくさん金を払ってきた! いわばこのゲームにおける神だ、じゃあ何をやろうと許されるはずだ! なのにお前は……」
セリフの途中でアンドリューの体が消え、直後、ボスの声が聞こえる。
(今、強制ログ・アウトさせました。もう大丈夫です)
(はい)
これで一安心。そう思った途端、精神的な疲れが私を襲う。私は呆然自失となる、目の前でメセドナが泣きだす。
「っひぐ……。あ、うぅっ……。ひっ、あっ、っえぐ……」
言葉では表現できない、虚しさのような感情がこみ上げてくる。どうして自分はビデオ・ゲームの仕事を選んだのだろう? 誰かを泣かせるため?
そもそもビデオ・ゲームってこんな悪魔じみた娯楽なのか。プレイヤー同士の怒りや憎しみによって成り立つ遊びなのか。
治さん、なぜあなたがチェスナット社からいなくなったか、今なら理解できます。きっとあなたもどこかの時点で、私と同じ疑問を感じた。そうでしょう?
だったら私も彼を見習おう。会社をやめてしまうのだ。そうと決まれば今後はもうサボってしまえ。レイザーズも連合軍も勝手に争ってろ!
《レーヴェの視点》
クラン内チャットにメセドナの涙声が流れている。
(っひぐ……。あ、うぅっ……。ひっ、あっ、っえぐ……)
私は静かにたずねる。
(どうした? 何があった?)
(アンドリューが……ひぐっ……すごい殴ってきて……)
(大変だったな)
(もうやだ……。やめる……)
(うん?)
(だってみんなやめちゃったもん……。負け試合は嫌だって、そう言ってログ・アウトしたもん……)
(とにかく落ち着いてくれ)
(やだ! もう嫌! 私もやめる、こんなクソゲー死んじまえ! バイバイ!)
ゲームからのメッセージが2つ続けて表示される。
(メセドナがログ・アウトしました)
(地下2階の☆が破壊されました)
チャットが静かになる。同時に、重苦しい雰囲気が場に広がっていく。まぁそれも当然だろう、メセドナ隊はどう見ても敗北してしまったのだ。
しかもただの敗北ではない。多くのメンバーがログ・アウトした以上、もう戦力として再活用できないという、最悪の形の敗北だ。
これからヘル・レイザーズは、開戦時の3分の2に減少した戦力で残る3つの☆を守らなければならない。果たして勝てるのか?
いや、最高指揮官たる私が弱気になってどうする。こういう時こそ強気になり、攻撃的で積極的な態度を皆に示さなくては。
(ゴホン……。諸君、気落ちしてはいけない。まだ☆は3つもある、充分な量の希望が残されているんだ)
ホワイト・ウィッチも私に続いて言う。
(そうだよ、みんな! こんくらいぜんぜん大丈夫、まだまだ余裕だから!)
スレイヤーZがイラついた口調で反論する。
(はぁ? 余裕? 何を言ってんだ、こんだけ人が減ったんだぞ! マジやべぇだろ!)
(確かに減っちゃったけどさー、でもあたし、さっき個人チャットで他の人から聞いたよ。
攻めたアンドリュー隊も、あまりに暴力を振るったんで運営に怒られて、強制ログ・アウトをくらったって)
(なんじゃそりゃ……)
(嘘じゃないって、事実だよ。まぁつまりね、こっちの戦力だけでなく連合軍の戦力も減ったわけだから、状況は五分五分だとあたしは思うな)
(いやぜんぜん五分じゃないだろ)
(でもさ、あの厄介なアンドリューとネメシスが消えたわけだから、それ考えたらまだこっちに勝ち目あるって)
(あのなぁ、お前。いいか、俺たちは……)
私は二人の会話を聞きながら歯ぎしりする。くそっ、アンドリューめ! やりたい放題に暴れてくれたな! 地獄に落ちろ!
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