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第八十五話「ターニングポイント」
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ユリリア国の最高戦力――大輪七騎士と、唯一彼女らを従わせることのできる存在――ユリリア国総統閣下。
今この場所には、ユリリアの最高権力が集まっている。
大輪七騎士第一席、黒鴉姫のウルカによって。
「今日集まってもらったのはユリリアの今後を決める大事な話があるの」
副総統ネームが開始の号令を行い始まった会議は、招集者であるウルカの第一声によって始まった。
発言者は席を立たないといけないというルールはないが、全員の注目をより集めるためにウルカは立ちあがり高い視点で切り出した。
「ユリリアの今後? 我々だけでなく閣下を同席させるとなると結構な事態だと思うが、それなら大臣連中も席につかせて方がいいのでは?」
ウルカの切り出しに、スノーホワイトの前髪の隙間から黄土色の眼光でウルカを射抜き、提案する深淵姫のマヴディル。
彼女とウルカは馬が合わず犬猿の仲と噂されているが、こういう場においては建設的に議論を進める。
マヴディルの提案をウルカはもっともだと一旦受け入れるが、議題が議題なので却下する。
「それは出来ないわ。今から話すのは超極秘事項。今この場にいるのはワタシとミルフィが念入りに身辺調査してユリリアを裏切ることがないと判断した人選よ」
ウルカは普段どこか掴みどころのない雰囲気を漂わせているが、今回は打って変わって真剣な眼差しと醸し出す緊張感に、この場の全員が身構え空気を引き締めた。
「先日、第一騎士学園通称ホワイトリリーの交流訓練で侵入事件があったことは知ってるかしら?」
「その件はお前が解決したってなってなかったか? 黒鴉姫よぉ」
拳闘姫のフィストは腕を組んで背もたれに体重を乗せながらウルカを見る。
黒い帽子から零れるくすんだ黒い前髪から覗かせる鋭い眼光を受けながらウルカは続けた。
「確かに解決したわ。でもあくまで解決したのはその事件そのもの。侵入者は捕らえたし、侵入者の魔法で連れ去られた生徒達も保護したし、侵入者を手引きしただろう教員も拘束したわ。でも、拉致された生徒によると、侵入者の仲間の一人に花紋に巻き付くような蛇の刺青をした奴がいたらしいのよ」
「それって……ラミアが関わってるってこと?」
「ラミアってあの?」
出てきた一級指定犯罪組織の名前に大海姫のパートナーであるジュジュは身構える。
黄土色をベースに明るい黄色のメッシュが入った短い髪に小柄な体と活力のある声に幼さを感じなくもないが、彼女もまたこの席に座るだけの実力を備え、ラミアとの戦闘実績もある。
そんなジュジュと対照的に、よく言えば余裕のある、悪く言えばどこか他人事のように反応する大海姫のルラキ。
透き通るような水色の長髪に結ばれたリボンや、肩回りや手首のシュシュやスリーブによって緊張感のあるこの場でも落ち着いた雰囲気を醸し出す。
「捕らえた侵入者や、その仲間を全員調べたけどラミアの刺青はどこにもなかったし、連中もラミアに関する情報はほとんど持ってなかったわ。あくまで依頼として生徒を連れ去ってたみたいね。でも依頼者がラミアというのなら、この事件は実行犯を捕まえて終わりというわけではなくなったわ」
「それもそうね。でもラミアが裏で関わってるけど結局たいして何も知らない実行犯だけが捕まるなんてパターンは今まで何度もあったじゃない? なんで今回はそんなに大事に受け取っているのよ」
ウルカの話を聞いて、結局はラミアにまで辿りつけず進展の無いその事件だけではこれほどの機密性を感じない壌森姫のレスト。
頭部に枝のようなものが生えた鮮やかで明るい黄緑色のボブの毛先が、ウルカを見る目の上で静かに揺れる。
「それだけならわざわざ集まってもらわないわ。今回はそのラミアについて大きな進展があったのよ。ホワイトリリーの生徒会長、最優姫のティアナを知ってるかしら?」
「…………」
その名前を聞いて、最速姫のアーリーは声に出さずとも眉が動き反応を示す。
微細な反応の理由に心当たりのあった治癒姫のパートナーであるスージは、アーリーに目をやった。
「ティアナって確かアーリー達が昔面倒みてた子よね? 生徒会長だなんて出世してるじゃない」
足の付け根くらいまで長くツインテールにまとめられている白群青色の髪のスージは自分のことのように喜ぶも、アーリーに笑顔はなく、そのパートナーであるヒュラもどこか後ろめたさを感じる表情をしている。
「それで、そのティアナって子がどうしたの?」
微妙な空気を感じ取り壌森姫レストのパートナーのフルールは山吹色の髪を耳にかき上げて話を続けた。
「彼女はとある理由で南のリゾート地アステルに行っていたのだけれど、そこでラミアと遭遇したわ。それも今までみたいにラミアに依頼された代行組織じゃなく、全員がラミアで構成された組織よ」
「それは本当なのですか!?」
まだ全員がラミアで構成された組織というだけの情報。
それでもフィメール総統閣下が思わず驚き立ち上がり、机に両手を置いて前のめりになりながらウルカを問い詰めるのは、ラミアへの思い入れの強さからだろうか。
前髪は眉辺りで切り揃えられ、長い後ろ髪も一直線に伸び、その毛先は揃っている黒髪に大人の落ち着きと魅力を感じさせるフィメール総統閣下の動揺に、その場の全員が困惑を隠せない。
「ええ。一人はホワイトリリー副会長のリサナの旧友らしいわ。メンバーの中には元特殊作戦群所属、影殺姫もいたそうよ。覚えているかしらマヴディル?」
「……ああ。この我から唯一逃げ切った奴らだからな」
「逃げ切った? ワタシの見立てではわざと見逃したように思えて仕方がないのだけど?」
ウルカの見解にマヴディルは鋭く睨みそれ以上の追及を拒む。
マヴディルがわざと影殺姫を逃がしたとしても、今回の話には深く関わらないのでウルカもそれ以上は何も言わない。
「んで、そいつらは捕まえたんですか?」
当然の疑問を暗褐色の髪には赤色のリボンが結ばれている少女、拳闘姫のパートナーであるフィンが投げかける。
「全員無力化したわ。拘束後、全員死んだそうよ」
「自決した、ということでしょうか?」
深淵姫のパートナー、リームが確認すると、ウルカは肯定も否定もせず間を置く。
「殺されたという表現の方が正しいのかしらね。ティアナの情報によるとラミアの構成員である証拠の蛇の刺青には能力を向上させる力、そして口封じに本人を殺す力があるそうよ」
「つまりあの刺青は魔法か特性によって入れられてるつーことか? だがそいつらが死んだのなら得られた情報は刺青に関することくらいか。せっかくラミアの尻尾を掴めそうだってのに残念だな」
「こんな情報はまだついでの範疇よフィスト。ラミアという組織の目的、とは言えないけれど行動理念の一つは分かったわ。まずラミアは構成員であっても組織の全体像を把握していない。ラミアという組織の中に複数のチームがあり、それぞれ目的があってラミアに属しているということ」
「今回アステルに居たラミアも、あくまでチームで動いていたということかしら?」
「そうです閣下。だから今から言うのはアステルに居たラミアの目的であり、ラミアという組織そのものの目的ではないことを分かった上で聞いてもらえるかしら」
ウルカの前置きに、肩透かしを食らったものは誰一人いない。
あくまでたった一つのチームの行動理由だが、ラミアの尻尾といえる情報に変わりはない。
「奴らの目的は始祖の魔女が一人――ブレイドの“サイ”、そして『庭園』の復活よ」
その言葉に全員があっけにとられて言葉を失う。
あり得ない、出来るはずがないと思う半分、方法があるのかと戦慄するのが半分だ。
冷静に情報を受け入れる為、動揺をぐっと飲み込んでフィメール総統はウルカに問う。
「で、その目的を果たすために彼女らはアステルで何をしようとしていたのでしょうか?」
「とある人物の確保よ。ワタシが今回この場を設けた理由でもある」
ウルカの言う人物に全員が集中する。
大輪七騎士と総統閣下の視線に一切緊張しないウルカは淡々と続ける。
「応化特性者が見つかったわ。それも始祖の魔女が一人、シースのリリウムと同じ“適応進化”よ」
ウルカの語る事実に、この大袈裟な機密会議の意味を全員が思い知る。
応化特性者は良くも悪くも時代を変えてきた。
今回はそうならないという確証はないし、今回も同じようになるという予感は全員に生まれている。
「で、誰だその応化特性者は。国で保護しねぇと敵に奪われれば大変なことになる」
マヴディルが詰めるもウルカは飄々とそれを否定する。
「誰かは教えてもいいのだけれど、彼女の件はワタシが預かるから手出し無用よ。当の本人は国での保護を求めていない。それに本当ならワタシも誰にも口外するなと言われてるから、貴女達が下手に手を出して話したのがワタシだとバレたらワタシが怒られるもの」
「ふん、大輪七騎士の第一席であるテメェを怒れる奴なんて総統閣下のほかに…………あー一人いたな。今回の件、剣神姫が関わってるのか? かの黒鴉姫も学園時代の先輩は恐いのか」
おちょくるように豪快に笑うフィストだが、そんな姿にウルカが嫌がる素ぶりは無い。
フィストの笑い声が響く中、話を進めるようにマヴディルが約束する。
「分かった。応化特性者の件は貴様に預けよう。だが今後円滑に連携しないといけない場合に備え、誰かということは教えろ。もちろんその名は他言しない」
マヴディルとはそりが合わないが、彼女の口約束は誰よりも信頼できると評価しているウルカ。
マヴディル以外の表情を確認し、全員がマヴディルに同意していることを察したウルカは、その応化特性者の名を口に出す。
「応化特性――適応進化の持ち主の名前はサラ。今はホワイトリリーで学生をしているわ」
「学生ですか。アステルにはそのサラさんもいたのでしょうか? もしそうでしたら敵も彼女のことを知っている。となればやはりホワイトリリーで匿うのは難しいのでは?」
フィメール総統は顎に手を置きウルカに問う。
「敵の知っている情報は応化特性者が現れたという事実のみ。アステルに応化特性者がいるかもしれないという情報は持っていたみたいだけれど、誰がそれなのかは知らなかったそうよ。敵の特性で一時はサラの名前を知られたみたいだけど、今回アステルに居たラミアは全員死んでいるし情報共有されている素振りはなかったそうよ」
「しつこいようで申し訳ありませんが、応化特性者の護衛について再度問題ないか確認しても構いませんか?」
「閣下の心配は当然だろうよ。ウルカよ、お前もそのサラって学生にずっと付きっきりって訳にもいかねぇだろうし、その辺どうなんだ?」
フィメール総統の心配な眼差しをフィストは補完してウルカに問う。
「まずホワイトリリーには元大輪七騎士の剣神姫がいるわ。それにこの件には最優姫のティアナとリサナもいるし、ワタシの妹だっているわ。あとはワタシの妹周りで実力があって信頼も出来る友人が固めているし、サラには誰かは言えないけど護衛を忍ばせてるわ」
ウルカの警護内容にこの場の一人が僅かに反応を示すも、全員ウルカに注目している為その表情の機微に気が付く者は居ない。
「それに国として保護してしまったら仮に囮作戦で利用したとしても大々的になって存在が周囲にバレる。周囲にバレれば国民の耳に入り、国民は不安に陥ってしまうわ。応化特性者が現れた時代は決まって混沌の時代になるもの」
「だからあくまで一学生として保護する……。分かりました、この件、貴女に任せましたよ黒鴉姫。全責任は私が取ります。必ずやこの代でラミアを潰しましょう」
フィメール総統は納得し、信頼しているウルカに任せる。
フィメール総統の正式な許可が下りて、あのウルカは珍しく頭を下げて感謝を示した。
「応化特性者の出現で間違いなく状況は変化する。ラミアは先々代時点では活動しており、未だ実態をつかめていなかった。それがサラが現れてから状況は一気に進展した。ラミアとの決着をつけるにはこの流れに乗るしかない。今がターニングポイントなのよ」
ウルカの主張に誰一人反対するものは居なかった。
そして同時に、未だ眠り話を一切聞いていない治癒姫のリープを除き、全員が次にラミアが仕掛けるであろう時期を予測する。
「なら次に奴らが動くとしたら“双花祭”か」
マヴディルの予想に全員がうなずき同意を示す。
「敵はアステルに応化特性者がいる情報を持っていた。個人を特定できていないということは情報が流出したというより、魔法か特性の類で情報を提供しているとワタシは睨んでいるわ。その情報源がまだ生きているのであれば学生であるサラも当然参加する“双花祭”でちょっかいを出してくるに違いない。まーあくまでワタシの推測と勘によるものなのだけど」
「敵の情報源について、内通者がいるという可能性はあんのか?」
フィストの当然な指摘だが、ウルカは自身の見解でそれを否定する。
「応化特性者のことを知っているのは、同時にサラ個人のことも知っているわ。敵が応化特性者の位置しか情報がバレていないということは内通者の可能性を大きく下げる」
情報源がサラ個人のことを伏せるメリットは無い。
だが内通者はいないと断言出来ないのは、確たる根拠がないからだ。
「まーもし内通者がいたのなら今さらどうこうしたって意味はないし、疑って徹底的に調べてもいいのだけれど、もし杞憂だったときの時間のロスは大きい。こっちから仕掛けることは現状出来ないのだから、情報はある程度漏れているという前提で仕掛けてきたラミアの尻尾を引きずり出すわ」
ウルカの力強い声に周りも呼応し闘気が込み上げる。
ウルカの話したいことを終え、その後は“双花祭”に向けての作戦会議とせっかく集まった大輪七騎士の情報交換でお開きとなった。
会議が終わる頃にはとっくに日が変わり、リープでなくても眠気が出てくる。
そして帰路に就くウルカに、後ろを歩きついていくミルフィが会議が始まってからようやく口を開いた。
「良かったのですか? サラ様のこと話してしまって」
「まー先輩にバレたら恐いのだけれど仕方がないわね。ラミアと対抗するには他の大輪七騎士の助力は必須。下手に詮索されてバレるのなら先に公開してサラをワタシの受け持ちに持っていく方が都合がいい」
「……あくまで可能性なのですが、あの中にラミアと繋がりがあるという可能性は?」
「会議の場でも言ったでしょ。その辺はもう疑ったって仕方がない。もしあの中にラミアと繋がっている内通者がいたのなら、それはもうお手上げよ。遅かれ早かれ、あの場に居たメンバーにはバレる。ここからは出てきた情報を素早く読み取り、次々に変化する状況に対応出来る者が勝者よ」
「……ウルカ様、少し焦っていますか?」
心境をパートナーに見抜かれて、ウルカは冷静さを取り戻すように笑みを浮かべる。
「そうね。これは自慢なのだけれど、ワタシは過去のユリリアの歴史で見ても最強の魔女だと自負しているわ」
「それは無論でございます」
「ワタシのような傑物が今後現れる保証はない。だからワタシが最強でいるうちにラミアの件を解決したいのよ。だからミルフィ、貴女の力を貸して頂戴」
「……もちろんでございます。我が身はウルカ様のために」
愛国心か責任感か、ウルカの思いを聞いてミルフィは感心する。
そして立ち止まり、改めて主人でありパートナーであるウルカに頭を下げた。
その姿にウルカは満足そうに足を進める。
「さ、楽しんでいくわよ」
緊張などするはずなく楽しそうに笑みを浮かべ、大輪七騎士第一席、黒鴉姫の足取りは自信に満ちて素早く進んだ――――。
今この場所には、ユリリアの最高権力が集まっている。
大輪七騎士第一席、黒鴉姫のウルカによって。
「今日集まってもらったのはユリリアの今後を決める大事な話があるの」
副総統ネームが開始の号令を行い始まった会議は、招集者であるウルカの第一声によって始まった。
発言者は席を立たないといけないというルールはないが、全員の注目をより集めるためにウルカは立ちあがり高い視点で切り出した。
「ユリリアの今後? 我々だけでなく閣下を同席させるとなると結構な事態だと思うが、それなら大臣連中も席につかせて方がいいのでは?」
ウルカの切り出しに、スノーホワイトの前髪の隙間から黄土色の眼光でウルカを射抜き、提案する深淵姫のマヴディル。
彼女とウルカは馬が合わず犬猿の仲と噂されているが、こういう場においては建設的に議論を進める。
マヴディルの提案をウルカはもっともだと一旦受け入れるが、議題が議題なので却下する。
「それは出来ないわ。今から話すのは超極秘事項。今この場にいるのはワタシとミルフィが念入りに身辺調査してユリリアを裏切ることがないと判断した人選よ」
ウルカは普段どこか掴みどころのない雰囲気を漂わせているが、今回は打って変わって真剣な眼差しと醸し出す緊張感に、この場の全員が身構え空気を引き締めた。
「先日、第一騎士学園通称ホワイトリリーの交流訓練で侵入事件があったことは知ってるかしら?」
「その件はお前が解決したってなってなかったか? 黒鴉姫よぉ」
拳闘姫のフィストは腕を組んで背もたれに体重を乗せながらウルカを見る。
黒い帽子から零れるくすんだ黒い前髪から覗かせる鋭い眼光を受けながらウルカは続けた。
「確かに解決したわ。でもあくまで解決したのはその事件そのもの。侵入者は捕らえたし、侵入者の魔法で連れ去られた生徒達も保護したし、侵入者を手引きしただろう教員も拘束したわ。でも、拉致された生徒によると、侵入者の仲間の一人に花紋に巻き付くような蛇の刺青をした奴がいたらしいのよ」
「それって……ラミアが関わってるってこと?」
「ラミアってあの?」
出てきた一級指定犯罪組織の名前に大海姫のパートナーであるジュジュは身構える。
黄土色をベースに明るい黄色のメッシュが入った短い髪に小柄な体と活力のある声に幼さを感じなくもないが、彼女もまたこの席に座るだけの実力を備え、ラミアとの戦闘実績もある。
そんなジュジュと対照的に、よく言えば余裕のある、悪く言えばどこか他人事のように反応する大海姫のルラキ。
透き通るような水色の長髪に結ばれたリボンや、肩回りや手首のシュシュやスリーブによって緊張感のあるこの場でも落ち着いた雰囲気を醸し出す。
「捕らえた侵入者や、その仲間を全員調べたけどラミアの刺青はどこにもなかったし、連中もラミアに関する情報はほとんど持ってなかったわ。あくまで依頼として生徒を連れ去ってたみたいね。でも依頼者がラミアというのなら、この事件は実行犯を捕まえて終わりというわけではなくなったわ」
「それもそうね。でもラミアが裏で関わってるけど結局たいして何も知らない実行犯だけが捕まるなんてパターンは今まで何度もあったじゃない? なんで今回はそんなに大事に受け取っているのよ」
ウルカの話を聞いて、結局はラミアにまで辿りつけず進展の無いその事件だけではこれほどの機密性を感じない壌森姫のレスト。
頭部に枝のようなものが生えた鮮やかで明るい黄緑色のボブの毛先が、ウルカを見る目の上で静かに揺れる。
「それだけならわざわざ集まってもらわないわ。今回はそのラミアについて大きな進展があったのよ。ホワイトリリーの生徒会長、最優姫のティアナを知ってるかしら?」
「…………」
その名前を聞いて、最速姫のアーリーは声に出さずとも眉が動き反応を示す。
微細な反応の理由に心当たりのあった治癒姫のパートナーであるスージは、アーリーに目をやった。
「ティアナって確かアーリー達が昔面倒みてた子よね? 生徒会長だなんて出世してるじゃない」
足の付け根くらいまで長くツインテールにまとめられている白群青色の髪のスージは自分のことのように喜ぶも、アーリーに笑顔はなく、そのパートナーであるヒュラもどこか後ろめたさを感じる表情をしている。
「それで、そのティアナって子がどうしたの?」
微妙な空気を感じ取り壌森姫レストのパートナーのフルールは山吹色の髪を耳にかき上げて話を続けた。
「彼女はとある理由で南のリゾート地アステルに行っていたのだけれど、そこでラミアと遭遇したわ。それも今までみたいにラミアに依頼された代行組織じゃなく、全員がラミアで構成された組織よ」
「それは本当なのですか!?」
まだ全員がラミアで構成された組織というだけの情報。
それでもフィメール総統閣下が思わず驚き立ち上がり、机に両手を置いて前のめりになりながらウルカを問い詰めるのは、ラミアへの思い入れの強さからだろうか。
前髪は眉辺りで切り揃えられ、長い後ろ髪も一直線に伸び、その毛先は揃っている黒髪に大人の落ち着きと魅力を感じさせるフィメール総統閣下の動揺に、その場の全員が困惑を隠せない。
「ええ。一人はホワイトリリー副会長のリサナの旧友らしいわ。メンバーの中には元特殊作戦群所属、影殺姫もいたそうよ。覚えているかしらマヴディル?」
「……ああ。この我から唯一逃げ切った奴らだからな」
「逃げ切った? ワタシの見立てではわざと見逃したように思えて仕方がないのだけど?」
ウルカの見解にマヴディルは鋭く睨みそれ以上の追及を拒む。
マヴディルがわざと影殺姫を逃がしたとしても、今回の話には深く関わらないのでウルカもそれ以上は何も言わない。
「んで、そいつらは捕まえたんですか?」
当然の疑問を暗褐色の髪には赤色のリボンが結ばれている少女、拳闘姫のパートナーであるフィンが投げかける。
「全員無力化したわ。拘束後、全員死んだそうよ」
「自決した、ということでしょうか?」
深淵姫のパートナー、リームが確認すると、ウルカは肯定も否定もせず間を置く。
「殺されたという表現の方が正しいのかしらね。ティアナの情報によるとラミアの構成員である証拠の蛇の刺青には能力を向上させる力、そして口封じに本人を殺す力があるそうよ」
「つまりあの刺青は魔法か特性によって入れられてるつーことか? だがそいつらが死んだのなら得られた情報は刺青に関することくらいか。せっかくラミアの尻尾を掴めそうだってのに残念だな」
「こんな情報はまだついでの範疇よフィスト。ラミアという組織の目的、とは言えないけれど行動理念の一つは分かったわ。まずラミアは構成員であっても組織の全体像を把握していない。ラミアという組織の中に複数のチームがあり、それぞれ目的があってラミアに属しているということ」
「今回アステルに居たラミアも、あくまでチームで動いていたということかしら?」
「そうです閣下。だから今から言うのはアステルに居たラミアの目的であり、ラミアという組織そのものの目的ではないことを分かった上で聞いてもらえるかしら」
ウルカの前置きに、肩透かしを食らったものは誰一人いない。
あくまでたった一つのチームの行動理由だが、ラミアの尻尾といえる情報に変わりはない。
「奴らの目的は始祖の魔女が一人――ブレイドの“サイ”、そして『庭園』の復活よ」
その言葉に全員があっけにとられて言葉を失う。
あり得ない、出来るはずがないと思う半分、方法があるのかと戦慄するのが半分だ。
冷静に情報を受け入れる為、動揺をぐっと飲み込んでフィメール総統はウルカに問う。
「で、その目的を果たすために彼女らはアステルで何をしようとしていたのでしょうか?」
「とある人物の確保よ。ワタシが今回この場を設けた理由でもある」
ウルカの言う人物に全員が集中する。
大輪七騎士と総統閣下の視線に一切緊張しないウルカは淡々と続ける。
「応化特性者が見つかったわ。それも始祖の魔女が一人、シースのリリウムと同じ“適応進化”よ」
ウルカの語る事実に、この大袈裟な機密会議の意味を全員が思い知る。
応化特性者は良くも悪くも時代を変えてきた。
今回はそうならないという確証はないし、今回も同じようになるという予感は全員に生まれている。
「で、誰だその応化特性者は。国で保護しねぇと敵に奪われれば大変なことになる」
マヴディルが詰めるもウルカは飄々とそれを否定する。
「誰かは教えてもいいのだけれど、彼女の件はワタシが預かるから手出し無用よ。当の本人は国での保護を求めていない。それに本当ならワタシも誰にも口外するなと言われてるから、貴女達が下手に手を出して話したのがワタシだとバレたらワタシが怒られるもの」
「ふん、大輪七騎士の第一席であるテメェを怒れる奴なんて総統閣下のほかに…………あー一人いたな。今回の件、剣神姫が関わってるのか? かの黒鴉姫も学園時代の先輩は恐いのか」
おちょくるように豪快に笑うフィストだが、そんな姿にウルカが嫌がる素ぶりは無い。
フィストの笑い声が響く中、話を進めるようにマヴディルが約束する。
「分かった。応化特性者の件は貴様に預けよう。だが今後円滑に連携しないといけない場合に備え、誰かということは教えろ。もちろんその名は他言しない」
マヴディルとはそりが合わないが、彼女の口約束は誰よりも信頼できると評価しているウルカ。
マヴディル以外の表情を確認し、全員がマヴディルに同意していることを察したウルカは、その応化特性者の名を口に出す。
「応化特性――適応進化の持ち主の名前はサラ。今はホワイトリリーで学生をしているわ」
「学生ですか。アステルにはそのサラさんもいたのでしょうか? もしそうでしたら敵も彼女のことを知っている。となればやはりホワイトリリーで匿うのは難しいのでは?」
フィメール総統は顎に手を置きウルカに問う。
「敵の知っている情報は応化特性者が現れたという事実のみ。アステルに応化特性者がいるかもしれないという情報は持っていたみたいだけれど、誰がそれなのかは知らなかったそうよ。敵の特性で一時はサラの名前を知られたみたいだけど、今回アステルに居たラミアは全員死んでいるし情報共有されている素振りはなかったそうよ」
「しつこいようで申し訳ありませんが、応化特性者の護衛について再度問題ないか確認しても構いませんか?」
「閣下の心配は当然だろうよ。ウルカよ、お前もそのサラって学生にずっと付きっきりって訳にもいかねぇだろうし、その辺どうなんだ?」
フィメール総統の心配な眼差しをフィストは補完してウルカに問う。
「まずホワイトリリーには元大輪七騎士の剣神姫がいるわ。それにこの件には最優姫のティアナとリサナもいるし、ワタシの妹だっているわ。あとはワタシの妹周りで実力があって信頼も出来る友人が固めているし、サラには誰かは言えないけど護衛を忍ばせてるわ」
ウルカの警護内容にこの場の一人が僅かに反応を示すも、全員ウルカに注目している為その表情の機微に気が付く者は居ない。
「それに国として保護してしまったら仮に囮作戦で利用したとしても大々的になって存在が周囲にバレる。周囲にバレれば国民の耳に入り、国民は不安に陥ってしまうわ。応化特性者が現れた時代は決まって混沌の時代になるもの」
「だからあくまで一学生として保護する……。分かりました、この件、貴女に任せましたよ黒鴉姫。全責任は私が取ります。必ずやこの代でラミアを潰しましょう」
フィメール総統は納得し、信頼しているウルカに任せる。
フィメール総統の正式な許可が下りて、あのウルカは珍しく頭を下げて感謝を示した。
「応化特性者の出現で間違いなく状況は変化する。ラミアは先々代時点では活動しており、未だ実態をつかめていなかった。それがサラが現れてから状況は一気に進展した。ラミアとの決着をつけるにはこの流れに乗るしかない。今がターニングポイントなのよ」
ウルカの主張に誰一人反対するものは居なかった。
そして同時に、未だ眠り話を一切聞いていない治癒姫のリープを除き、全員が次にラミアが仕掛けるであろう時期を予測する。
「なら次に奴らが動くとしたら“双花祭”か」
マヴディルの予想に全員がうなずき同意を示す。
「敵はアステルに応化特性者がいる情報を持っていた。個人を特定できていないということは情報が流出したというより、魔法か特性の類で情報を提供しているとワタシは睨んでいるわ。その情報源がまだ生きているのであれば学生であるサラも当然参加する“双花祭”でちょっかいを出してくるに違いない。まーあくまでワタシの推測と勘によるものなのだけど」
「敵の情報源について、内通者がいるという可能性はあんのか?」
フィストの当然な指摘だが、ウルカは自身の見解でそれを否定する。
「応化特性者のことを知っているのは、同時にサラ個人のことも知っているわ。敵が応化特性者の位置しか情報がバレていないということは内通者の可能性を大きく下げる」
情報源がサラ個人のことを伏せるメリットは無い。
だが内通者はいないと断言出来ないのは、確たる根拠がないからだ。
「まーもし内通者がいたのなら今さらどうこうしたって意味はないし、疑って徹底的に調べてもいいのだけれど、もし杞憂だったときの時間のロスは大きい。こっちから仕掛けることは現状出来ないのだから、情報はある程度漏れているという前提で仕掛けてきたラミアの尻尾を引きずり出すわ」
ウルカの力強い声に周りも呼応し闘気が込み上げる。
ウルカの話したいことを終え、その後は“双花祭”に向けての作戦会議とせっかく集まった大輪七騎士の情報交換でお開きとなった。
会議が終わる頃にはとっくに日が変わり、リープでなくても眠気が出てくる。
そして帰路に就くウルカに、後ろを歩きついていくミルフィが会議が始まってからようやく口を開いた。
「良かったのですか? サラ様のこと話してしまって」
「まー先輩にバレたら恐いのだけれど仕方がないわね。ラミアと対抗するには他の大輪七騎士の助力は必須。下手に詮索されてバレるのなら先に公開してサラをワタシの受け持ちに持っていく方が都合がいい」
「……あくまで可能性なのですが、あの中にラミアと繋がりがあるという可能性は?」
「会議の場でも言ったでしょ。その辺はもう疑ったって仕方がない。もしあの中にラミアと繋がっている内通者がいたのなら、それはもうお手上げよ。遅かれ早かれ、あの場に居たメンバーにはバレる。ここからは出てきた情報を素早く読み取り、次々に変化する状況に対応出来る者が勝者よ」
「……ウルカ様、少し焦っていますか?」
心境をパートナーに見抜かれて、ウルカは冷静さを取り戻すように笑みを浮かべる。
「そうね。これは自慢なのだけれど、ワタシは過去のユリリアの歴史で見ても最強の魔女だと自負しているわ」
「それは無論でございます」
「ワタシのような傑物が今後現れる保証はない。だからワタシが最強でいるうちにラミアの件を解決したいのよ。だからミルフィ、貴女の力を貸して頂戴」
「……もちろんでございます。我が身はウルカ様のために」
愛国心か責任感か、ウルカの思いを聞いてミルフィは感心する。
そして立ち止まり、改めて主人でありパートナーであるウルカに頭を下げた。
その姿にウルカは満足そうに足を進める。
「さ、楽しんでいくわよ」
緊張などするはずなく楽しそうに笑みを浮かべ、大輪七騎士第一席、黒鴉姫の足取りは自信に満ちて素早く進んだ――――。
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