クレハンの涙

藤枝ゆみ太

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【クレハンの涙】序章

17話

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 アンクロトンの元気な姿を見られて、ランギルは心から安心していた。

 カックルのふざけ話を真に受け過ぎていたから、だからあんなに心乱れてしまったのだ。

 自慢じまんの兄が、あのアンクロトンがどうにかなってしまうなんて有り得ない。

 有り得ないに決まっているではないか。

 自身にそう言い聞かせながら勢いよく廊下を走り抜け、先ずは城の右側をおおい尽くす医療棟いりょうとうへと向かう。

 ランギルが赤ん坊の頃に完成したこの城と、医術、魔術の二棟。

 この二棟は、対の存在として建てられていて、まったく同じ構造になっている。

 二棟の相乗効果で中央にある王宮、王族達をとこしえに守護しゅごする筈だったのだが、今のところまったく効果は無いようだ。

「医師長殿っ」

 医療棟の更に奥、一際大きな部屋のその先に、医師長が詰める真っ白な部屋がある。

「こ、これはランギル殿下。一体どうされました、そのように急がれて」

 医療棟総括。

 病と言う病を一手に引き受けている彼等医師のまとめ役が、この禿げ上がった老人なのだ。

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