クレハンの涙

藤枝ゆみ太

文字の大きさ
上 下
43 / 149
【クレハンの涙】第一章

43話

しおりを挟む
「……」

 ラビは光の前まで来たが、どうしても中に飛び込む気になれない。

 不安な気持ちが胸一杯に広がって、ここまで来た事を少し後悔していた。

「やっぱり、あそこで待ってた方が良かったかも。……戻ろ」

 ラビは急いでこの紫色の光から離れようとしたが、いくら走っても距離きょりが広がる事はない。

 むしろ、光が自分を呑み込もうと近付いて来るようにさえ見える。

「は、早く、早く早く早く早く早くっ!」

 もう、元の位置すら分からないまま全力で走った。

 あの光はダメ。

 何故かは分からないが、ラビの中の本能がそう叫んでいた。

 死に物狂いで逃げろ!と叫んでいた。

「誰かーっ、誰かいないのーっ!」

 必死に叫ぶが、その声も闇に呑まれてしまう。

 紫色の光は、今にもラビを包み込もうと言う程に接近していた。

「い、いやぁぁぁぁっ!お母さんお父さん助けてーーっ!」

……ラビッ!こっちっ……

 どこからか先程の声がした途端、彼女は強烈な真っ白い光に包まれた。


オオオォォォォォォォォォォォォォォォ


 獣の咆哮ほうこうのような音が空気を激しく震わせる。

 全てを包み込む程の真っ白い光が収まった時には、ラビを追い回していたあの紫色の光は、何処にも無くなっていた。

しおりを挟む

処理中です...