クレハンの涙

藤枝ゆみ太

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【クレハンの涙】第三章

132話

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 一通り注文を済ませ、いつもの如くフェグには女性店員からのサービスが付く。

 運ばれて来た料理を口に運びながら、ラビは溜まりにたまった鬱憤うっぷんをはらすかの様に、延々とグチりはじめた。

「何なのよ!あんのクソ店員っ!『そのお召し物では当店の品をいちじるしく損ないますので御入店はー』ですってっ!ケッ!お願いされたってもうあんな店行くもんですかっ!あーっ腹立つー。あの店員、絶対私達がお金持ってないと思ってたのよっ!」

「品を重んじている店と言うのは、どこもあんなもんじゃい」

「だからってさぁっ、あんな人を見下したような言い方で良いわけぇっ?……私、この街あんまり好きくない」

「下品なラビには確かに酷な街だなあ、ぐはははははっ」

「やかましーっ」

 ラビの怒りはフェグの前にある、美味しそうな魚料理へと向いた。

 あっと言う間にフェグのメインをつまんで口の中へ……

「あっ、おまっ、人の料理に何て事をするっ」

「ふっふーん♪」

「ぬぐぅー、この卑しい小娘めっ!」

「爺さんが早く食べないから手伝ってあげたんじゃなーい」

「むぎーっ、覚えてろよーっ、この借りは高いぞっ」

「はいはいっ、ふふふふっ」

 何だかんだ言いつつも二人はワイワイと夕食を終え、ホテルに戻った来た。

 ホテルの一室、ツインテールを下ろしたラビはベッドに寝転がると、染みだらけの天井を見つめていた。

 床に寝転がっているフェグは、今日買った本『謎の超巨大文明』と『太古の建築技術』を一生懸命読んでいる。

「はー」

「ん、どうした?また腹でも壊したか」

「いや、そうじゃなくて。……何かさぁ、よくここまで来れたなーって。私、旅行はおろか、こーんな長旅なんて生まれて初めてだったから」

「んむ、実は私も初めてだった。ずっと城にいたような気がしたのでな」

「ねぇ、フェグ」

「うん?」

「フェグはこの旅で、自分のこと何か分かった?探してたのがここのお城じゃなかったって事以外でさぁ」

「そうだな……少し前に、城にいた頃の……夢を見た」

「夢?」

「あぁ、あまり楽しいものでは無かったが、多分……あれが事実なのだろうな」

「良い夢では無かったんだ……怖い夢?」

「……さて、な…………忘れてしまったわいっ!」

「えぇぇっ」

「いやー、年は取りたくないなあ。物覚えが悪くていかん、うははははっ」

「もーっ」

 ラビの膨れっ面を見ながら、フェグはとぼけた調子で笑う。

 心の奥に夢で見た光景を封印して。





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