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【クレハンの涙】第三章
143話
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フェグは一人王都を出て、城塞遺跡に向かっていたのだが、この間と同じ……いや、この間以上に体がおかしい。
激しい動悸がフェグを襲い、どうして立っていられるのか、どうしてこんな距離を歩けるのか不思議に感じるほどだ。
「……すぐ……もうすぐだ……あと、少し」
朦朧とする意識の中、彼は必死に自分に言い聞かせる。
巨大な月はだいぶ高い位置にあり、ようやっと着いた一枚岩を怪しく照らしている。
「……」
フェグは力を振り絞り石段を登って行く。
一段一段に、泣き出しそうな程の懐かしさを感じながら。
石段を登りきり、フェグは誰もいない遺跡に視線を巡らせる。
ボロボロに朽ちた壁に手を添えると、当時の日常の様子が鮮明に甦る。
瞳を閉じると……
朽ちた壁や柱は色鮮やかな本来の姿に戻り、気づけばフェグは、重厚な建物の中に立っていた。
そこは巨大な城の中。
長い廊下には趣味の良い絨毯が敷き詰められており、あちこちからそれは楽しげな笑い声が聞こえてくる。
「あぁ……懐かしい。何て懐かしいのだ」
フェグの閉じた瞳にはあの日の、幸せだった頃の城の様子が写し出されていた。
「この部屋は……兄上の。ああっ、思い出したぞっ。あそこの部屋は……そう、あそこの部屋は違う兄上の寝室だったっ。
中央の大ホールではいつでも母上が花のように笑っておられた。社交界の宝石だった」
廊下を走る子供達の姿を目で追いかけて、フェグは謁見の間に急ぐ。
「父上にお会いしようっ。そうだ、全ては悪い夢だったんだとっ、何も変わってなどいなかったんだと報告に行かなければっ」
夢中で王宮内を走り、謁見の間に行く途中、フェグをいつも可愛がってくれていた兄の部屋を見つける。
嬉しくなってドアをノックするが返事が無い。
「兄上も謁見の間にいらっしゃるのか?」
急ぎ謁見の間に向かおうとすると、遠くから彼を引き留める低い声が聞こえた気がした。
……ラ……ギ……ル……
「?何だ??今のは?」
彼は首を傾げながら改めて走り出した。
激しい動悸がフェグを襲い、どうして立っていられるのか、どうしてこんな距離を歩けるのか不思議に感じるほどだ。
「……すぐ……もうすぐだ……あと、少し」
朦朧とする意識の中、彼は必死に自分に言い聞かせる。
巨大な月はだいぶ高い位置にあり、ようやっと着いた一枚岩を怪しく照らしている。
「……」
フェグは力を振り絞り石段を登って行く。
一段一段に、泣き出しそうな程の懐かしさを感じながら。
石段を登りきり、フェグは誰もいない遺跡に視線を巡らせる。
ボロボロに朽ちた壁に手を添えると、当時の日常の様子が鮮明に甦る。
瞳を閉じると……
朽ちた壁や柱は色鮮やかな本来の姿に戻り、気づけばフェグは、重厚な建物の中に立っていた。
そこは巨大な城の中。
長い廊下には趣味の良い絨毯が敷き詰められており、あちこちからそれは楽しげな笑い声が聞こえてくる。
「あぁ……懐かしい。何て懐かしいのだ」
フェグの閉じた瞳にはあの日の、幸せだった頃の城の様子が写し出されていた。
「この部屋は……兄上の。ああっ、思い出したぞっ。あそこの部屋は……そう、あそこの部屋は違う兄上の寝室だったっ。
中央の大ホールではいつでも母上が花のように笑っておられた。社交界の宝石だった」
廊下を走る子供達の姿を目で追いかけて、フェグは謁見の間に急ぐ。
「父上にお会いしようっ。そうだ、全ては悪い夢だったんだとっ、何も変わってなどいなかったんだと報告に行かなければっ」
夢中で王宮内を走り、謁見の間に行く途中、フェグをいつも可愛がってくれていた兄の部屋を見つける。
嬉しくなってドアをノックするが返事が無い。
「兄上も謁見の間にいらっしゃるのか?」
急ぎ謁見の間に向かおうとすると、遠くから彼を引き留める低い声が聞こえた気がした。
……ラ……ギ……ル……
「?何だ??今のは?」
彼は首を傾げながら改めて走り出した。
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