あの日あこがれた瞬間移動

暁雷武 

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序章

序章7 復讐と協力者

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 俺は自分でもびっくりするほど落ち着いていたように感じる。ただ絶望してただけなのかもしれない。ただひたすらにあいつらについての情報を集めた。
 が、わかったのはあいつらが危険であるという風に知られているぐらいだ。関わりたくないからか、話すら聞かせてくれない人がほとんどだ。それでも俺がかわいそうだからなのか、話してくれる人がほんの少しいた。

 やはり情報が集まりにくい。とにかく1年前から犯罪をしだした悪い連中であること。一人だけとんでもない実力を持ったやつがいて、傭兵を雇っても犯罪を防げないこと。

(そんな情報があっても、まったく意味がない。俺が欲しいのはあいつらがいる場所だ。今すぐにでもリアを取り返しに行く。それだけだ。)

「なぁ、領主さんの息子さんよ。」
 そんな俺に話しかけてくる奴がいた。
「あんたは…誰だ?」


 そこには中年の小太りの男がいた。ひげを生やし、あまり清潔感はなかった。
「あぁ、そうだったな。俺はラダーバだ。武器商人のラダーバ。あんたがあいつらの情報を集めてるっていうのを聞いたんでな。ちょっとうちの店に来ないか?」
「ただ、商売をするだけなら俺は行かないぞ。一瞬でも時間が惜しいんだ。」
 どうせ冷やかしついでに売りつけようとしてくるだけだ。
 そう思っていたが、男はこんなことを言い放った。

「俺は、あいつらがいる場所を知っている。って言ったらどうだ?」
 こいつの目は嘘を言っている目じゃなかった。それに、その目の奥には復讐の感情があるように感じた。
「分かった、話を聞こう。」
 俺はそういって、ラダーバについていった。



「ここが俺の店だ。ほしい武器があるなら売ってやるぞ。一番の武器は少し高いがな。」
 そこにはたくさんの武器防具が置いてあった。品揃え自体はあまりよくはない。都会の方の武器屋を見たことがあるから、そのギャップを感じた。
「ラダーバ、本題に入れ。」
「あぁ、そうだな。俺からは情報と武器を。あんたはその力を貸してくれればいい。」
 ラダーバはそんなことを言ったが、
「俺に力はないぞ。」
「いや、ある。あんた学校に行っていたんだろう。つまりは少しの剣術があるってわけだ。だったら十分戦力としてみることができる。」
 戦力としてみることができる、か。
「情報と武器があるだけの俺じゃ、あいつらには勝てない。そんなことわかり切ってるだろう。いったいどうするんだ?」
 悔しいが実際そうなのだ。あの力は普通のものじゃなかった。ただの素人じゃない。

「あんたにはおとりになってもらう。」
「本気で言ってるのか?俺に見殺しになれ、と?」
「当然、そういうわけじゃない。あんたがおとりとしてあいつらと戦ってる間に俺が仕掛けた罠を作動させて、相手を窮地に追い込んでから俺も武器を持って戦う。これならどうだ?」
 確かにそっちの方が勝率は高いか。

「そういうことか、ならわかった。さっそくだが、行くぞ。時間が惜しい、妹が心配なんだ。」
「いや、待て。心配なのはわかるが、行くのは夜にした方がいい。夜になるとあの連中は酒を飲み始める。素面の相手と酔ってる相手、敵にするのなら酔っている方を相手にした方がいい。」
「よく調べてるんだな。なら、夜まで待とう。その間に詳しい場所を教えてくれ。」
「分かった。と、その前に。」
 そういって、ラダーバは店の奥に入っていった。帰ってきたラダーバは一つの剣を持っていた。それを俺に差し出した。

「あんたにはこれを渡す。なかなかの業物だぜ、うまく使ってくれ。」
 ただの剣のようにしか見えないが、俺自身剣を持っていないのでありがたく貰っておこう。
「後で、金を請求してきても払える金はないからな。」
「そんなつもりねえさ。」
 そんなことを言い合って、俺たちは夜が来るのを待った。
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