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感情の暴走
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「ぐ、グラディオ様…こんなところでいったい何を…」
「………お前がやったのか」
処刑場にやってきた騎士はグラディオ様がいる事に驚いて、後ろめたい事があるのか怯えているようにも感じた。
そしてグラディオ様が手をかざすと、真っ黒な魔力の力が手を覆っていた。
そして触れる事なく、騎士は急に苦しみ出して…動かなくなった。
グラディオ様は王都の英雄、それと同時に反逆者となった。
何人この手を赤く染めただろうか、最初は涙が溢れていた…守ろうとした民を殺す自分は親友を殺した奴らと何も変わらない。
でもいつしか涙も出なくなり、殺人ロボットのように殺戮を繰り返していた。
逃げ惑う人達に手をかざして、その命を奪っていく。
そしてある日、上級階級の人達が集まりグラディオ様を止めるには殺すしかないと会議で決められた。
グラディオ様を殺そうと数人の魔法使いが囲い、押さえつけるために魔法を放った。
まともに抵抗されていたらきっと誰も勝てないだろうが、グラディオ様は無抵抗だったそうだ。
そして、グラディオ様は命を落とした。
何故俺がグラディオ様について詳しいのかは、本人が書いた手記を読んだからだ。
世間に出回る英雄録というグラディオ様の本はいろいろと自分達に都合のいい事しか書かれていなかった。
グラディオ様をたぶらかして王都を支配しようとした人間を処刑した。
しかしもう操られていたグラディオ様は罪のない人々を殺した。
だから仕方なくグラディオ様を殺す事にした、英雄として後世に語り継ぐために…
グラディオ様は罪のない人々を殺していたわけではない、親友を殺したであろう相手の証拠を掴んでターゲットにしていた。
確かにグラディオ様は闇の力に洗脳された部分もあるだろうがそれは少年がたぶらかしたからではない。
少年はグラディオ様の話によると人間だとバカにされ虐められていても笑っていたそうだ。
暗い顔をするとグラディオ様が心配するから明るく振る舞っていたと書いてある。
人間だから……ただそれだけの理由で彼は死んでしまった。
俺とグラディオ様の共通点は人を殺した闇の力を宿しただけ、それだけでも充分英雄と同じ力だと喜べない理由にはなる。
だから俺は屋敷の中で軟禁された、外に出ていつ呪の力が目覚めるか分からず両親はいつも怯えていた。
もし騎士団長になれなくても騎士団員でも、なにか出来る事はきっとある。
しかし俺を軟禁している両親が外に出してくれるとは思えなかった。
そんなある日、屋敷中に悲鳴が響き渡り目を覚ました。
恐る恐る部屋から出ると、玄関付近で両親が血を流して倒れていた。
すぐに遠くの人と通話が出来る魔導通信機で病院に連絡しようと思ったが、この広い屋敷の中…魔導通信機を探すのが一苦労だった。
俺が入った部屋の中で魔導通信機らしきものは見た事がないから、入った事がない両親の部屋から調べてすぐに魔導通信機らしきものを見つけた。
一見片手サイズの丸い水晶のようだが、魔法使いが触れて魔力を少し込めると水晶が光り…伝えたい相手の姿を思い浮かべて口にした言葉が相手の近くにある魔導通信機から声が聞こえるというものだ。
すぐに魔導通信機を手に持ち小さい頃お世話になった医師の顔を思い浮かべた。
俺は繋がった事を確認してから、今の状況を簡単に伝えた。
医師が家にやって来て病院に運ばれたが両親は即死で助からなかったと告げられた。
後に現場に来た騎士団の人に伝えられた、両親は裏で悪い事をしていたみたいで誰かに恨みでも買われたのだろうという結論で終わった。
俺の手元には両親の遺産が残ったが、使用人の給料を払わないといけないし…すぐになくなるだろう。
俺はすぐに騎士団に入る事にした、上級階級だからか呆気なく入れた。
入れはするが騎士団には上級階級が多いがすぐに騎士団の仕事が出来るわけではなく雑用の毎日で、たまに騎士団の仲間に魔力のコントロールを教えてもらっていた。
普通は学校で教えてもらうものだが、騎士団は入った時から魔法が自在に操れないといけないと言われている。
同じ歳で、同じ上級階級の騎士見習いのヤマトと張り合いながら俺は8歳で大人と同じように力を操れるようになった。
まだあの闇の力の使い方が分からないが、きっと大丈夫だと自分に言い聞かせた。
夜遅くまで騎士団員に同行して見回りをした帰り道、夜道を歩いている時に彼に出会った。
最初は倒れているし、死んでいると思ったがお腹がグーグー鳴っているからただ腹が減っているのだろう。
最近こういう子供が増えたな、人間だからと親に捨てられてそのまま飢え死にする。
彼も魔力を感じないからきっと人間なのだろう、夜食に買っていたパンを差し出した。
するとお腹が限界だったのか、少年は勢いよくパンを頬張っていた。
彼の瞳はとても綺麗な黒い瞳で美しくて俺の心を掴むのは簡単だった。
彼がほしい、子供ながらに初めて危うい独占欲を感じた。
お腹が満たされて俺の胸の中で眠る彼を見つめてそう思った。
エルを家族に迎えて、俺の人生が大きく変わっていった。
ただいまと迎えてくれる可愛い存在に気持ちが穏やかになる。
騎士団にも人間はいる、でもそれは人間を受け入れているわけではない。
戦場の前線に立たせて、鉄砲玉にするつもりで雇っている。
だから人間の騎士に対して、嫌な仕事を押し付けたりストレス発散で殴りつける奴もいる。
俺は何度かそれを止めたりするが、それでも俺が見えないところで繰り返されている。
ストレスが溜まっても家に帰ると、エルの顔を見つめて癒されている。
エルがいれば他なんて何もいらない、君だけがいてくれたら俺は…
だからエルと初めて喧嘩のような事をしていなくなった時は凄く動揺して、俺の全てが壊れていく…そんな気がした。
必死に探してもエルは何処にもいない、もしエルがただの人間だと誰かにバレたらと思うと血の気が引いた。
エルと騎士団の中にいる人間が記憶の中で重なり、吐き気を感じる。
エルが心配だったから学校はダメだと言った、騎士団ほどではないが学校でも差別はあるそうで、エルが誰かになにかされていると考えるだけで死にそうな気分になる。
……俺はエルを愛している、それは兄弟愛でも家族愛でもない。
エルの瞳を見たあの日から…エルと離れたくなくてあの日家族になりたいと言ったが、一目惚れだった。
でも俺を「兄様」と慕うエルにどうしても気持ちを伝えられなかった。
エルが帰ってくるなら、この命を差し出しても構わない……だからどうか…
エルが俺の元に帰ってきてくれた時、エルの気持ちを考えないで縛り付けたら俺の両親と同じ事をしている事になってしまうと考えた。
エルにとって俺はいったいどう見えているのか分からず怖かった。
俺の気持ちを分かってくれるためには、まずは兄弟という見方を変える必要がある。
エルを否定するとまた居なくなってしまう気がして、俺の気持ちを分かってもらう条件として毎日キスしてもらう事になった。
嫌だったら悲しいけど、学校を諦めてくれるかもしれないと思った。
でも、エルは俺の条件を受け入れてくれた…少しは期待してもいいかな。
今はキスだけで満たされた、エルはまだ子供だから傷付けたくなくて手は出せなかった。
でも路地裏であの日、俺はある新人騎士を殴っている騎士団長を見つけた。
躾だと言うが、躾にしてはやり過ぎなほど新人騎士の体は痣だらけだった。
騎士団長の前に立って止めるように言ったが、一発頬を殴られそうになった。
避けるのは簡単だが、俺は先祖のグラディオ様のように同じ王都を守る騎士団長に魔法は使いたくなかった。
俺と騎士団長の間に小さな体が割って入ってきた。
先に帰っててと言ったのに、と声を掛けようとしたら小さな体が大きく揺れた。
水溜まりの地面に吸い込まれるように倒れるその体はまるで死んでいるように動かなくなった。
全身に黒いものがざわざわと感情が揺れていて、息苦しくなる。
もしかしてこれがグラディオ様も感じた負の力なのだろうか。
大切なものを失う恐怖、こんなにぽっかりと穴が開いた感じなのか。
君のいない世界で、生きている価値はないし生きたいとも思えなかった。
手を黒いなにかが覆っていて、騎士団長を見ると顔を青くしていた。
「な、なんだお前それは!!」
「………エルを、俺のエルを」
力が強くなり、暴走しかけているのが自分でも分かる。
このままじゃ、力に呑まれてしまう……エルを早く病院に連れていかないと…
そう思いながら騎士団長に向かって腕を伸ばすと誰かに腕を掴まれた。
医師が言っていたグラディオ様に興味があり、自分なりに調べた。
しかし屋敷の本棚にあるのは全て人間を悪者にする内容の書物しかない。
まだ幼かった俺でも人間と魔法使いに勝手に階級を付けて人間をバカにするのは可笑しい事なんだと分かる。
そして自分の部屋の片付けをしていたら見知らぬ本が出てきた。
古い本だが読めなくはないと一文字一文字解読して読んだ。
これがグラディオ様の手記だった、そしてそれが俺の家にあるという事はきっとグラディオ様は俺の先祖なのかもしれない。
グラディオ様の真実を知った俺は、グラディオ様と同じ騎士団に入り…この王都を変えたいと思った。
グラディオ様だってきっとそう思っていた筈だ、腐りきった騎士団を正せばきっと国民達の心もなにか変わるのかもしれない。
王様はどう思っているのかは分からない、国民の前に滅多に姿を表さないけど差別に対して何も言ってはいないから何とも思っていないのだろう。
騎士団長は目の前でただ怯えているだけだ、じゃあこの手はいったい誰が…
隣から「まぁまぁ落ち着きなよ」と呑気な声が聞こえた。
隣をチラッと見つめると、ヤマトがこちらを見つめていた。
声からしてまたヘラヘラと不気味に笑っていると思っていた。
しかしヤマトの顔は真面目で、ふざけているようには見えなかった。
「ゼロ、それ以上はダメでしょ?」
「………」
手を下ろすとヤマトは怪我をした新人騎士と恐怖で気絶した騎士団長を引きずる。
俺はエルに近付いて抱き抱えて、温かい体温にホッと一安心する。
ヤマトからなにかを投げられて、それを受け取ると小さな小瓶だった。
ヤマトは騎士であり、医師見習いでもあるからこういう医療道具を常に持ち歩いている。
これは俺も何度かお世話になったヤマトの万能薬だ。
飲むと致命傷以外の傷は何でも治るという便利なものだ。
エルは意識を失っているから、薬を口に含んでエルの口を開けて口付けた。
これでエルはしばらくしたら目覚めるだろう、ヤマトは騎士団の兵舎に二人を運ぶために路地裏を後にした。
でも負の力はだんだん蝕んでいき、まともに歩けるほどではなかった。
エルを膝の上で寝かせて、呑まれまいと意識を保つ。
でもエルは起きても俺から離れる事を選択しなかった。
そしてエルと一緒に負の力の中に呑まれてしまった。
なにが起きたか分からずベッドの上で意識を取り戻して、すぐに起き上がりエルを抱き寄せる。
というか、なんでこの男がエルと仲良さそうなんだよ…俺が寝ている間になにがあったんだ?
「………お前がやったのか」
処刑場にやってきた騎士はグラディオ様がいる事に驚いて、後ろめたい事があるのか怯えているようにも感じた。
そしてグラディオ様が手をかざすと、真っ黒な魔力の力が手を覆っていた。
そして触れる事なく、騎士は急に苦しみ出して…動かなくなった。
グラディオ様は王都の英雄、それと同時に反逆者となった。
何人この手を赤く染めただろうか、最初は涙が溢れていた…守ろうとした民を殺す自分は親友を殺した奴らと何も変わらない。
でもいつしか涙も出なくなり、殺人ロボットのように殺戮を繰り返していた。
逃げ惑う人達に手をかざして、その命を奪っていく。
そしてある日、上級階級の人達が集まりグラディオ様を止めるには殺すしかないと会議で決められた。
グラディオ様を殺そうと数人の魔法使いが囲い、押さえつけるために魔法を放った。
まともに抵抗されていたらきっと誰も勝てないだろうが、グラディオ様は無抵抗だったそうだ。
そして、グラディオ様は命を落とした。
何故俺がグラディオ様について詳しいのかは、本人が書いた手記を読んだからだ。
世間に出回る英雄録というグラディオ様の本はいろいろと自分達に都合のいい事しか書かれていなかった。
グラディオ様をたぶらかして王都を支配しようとした人間を処刑した。
しかしもう操られていたグラディオ様は罪のない人々を殺した。
だから仕方なくグラディオ様を殺す事にした、英雄として後世に語り継ぐために…
グラディオ様は罪のない人々を殺していたわけではない、親友を殺したであろう相手の証拠を掴んでターゲットにしていた。
確かにグラディオ様は闇の力に洗脳された部分もあるだろうがそれは少年がたぶらかしたからではない。
少年はグラディオ様の話によると人間だとバカにされ虐められていても笑っていたそうだ。
暗い顔をするとグラディオ様が心配するから明るく振る舞っていたと書いてある。
人間だから……ただそれだけの理由で彼は死んでしまった。
俺とグラディオ様の共通点は人を殺した闇の力を宿しただけ、それだけでも充分英雄と同じ力だと喜べない理由にはなる。
だから俺は屋敷の中で軟禁された、外に出ていつ呪の力が目覚めるか分からず両親はいつも怯えていた。
もし騎士団長になれなくても騎士団員でも、なにか出来る事はきっとある。
しかし俺を軟禁している両親が外に出してくれるとは思えなかった。
そんなある日、屋敷中に悲鳴が響き渡り目を覚ました。
恐る恐る部屋から出ると、玄関付近で両親が血を流して倒れていた。
すぐに遠くの人と通話が出来る魔導通信機で病院に連絡しようと思ったが、この広い屋敷の中…魔導通信機を探すのが一苦労だった。
俺が入った部屋の中で魔導通信機らしきものは見た事がないから、入った事がない両親の部屋から調べてすぐに魔導通信機らしきものを見つけた。
一見片手サイズの丸い水晶のようだが、魔法使いが触れて魔力を少し込めると水晶が光り…伝えたい相手の姿を思い浮かべて口にした言葉が相手の近くにある魔導通信機から声が聞こえるというものだ。
すぐに魔導通信機を手に持ち小さい頃お世話になった医師の顔を思い浮かべた。
俺は繋がった事を確認してから、今の状況を簡単に伝えた。
医師が家にやって来て病院に運ばれたが両親は即死で助からなかったと告げられた。
後に現場に来た騎士団の人に伝えられた、両親は裏で悪い事をしていたみたいで誰かに恨みでも買われたのだろうという結論で終わった。
俺の手元には両親の遺産が残ったが、使用人の給料を払わないといけないし…すぐになくなるだろう。
俺はすぐに騎士団に入る事にした、上級階級だからか呆気なく入れた。
入れはするが騎士団には上級階級が多いがすぐに騎士団の仕事が出来るわけではなく雑用の毎日で、たまに騎士団の仲間に魔力のコントロールを教えてもらっていた。
普通は学校で教えてもらうものだが、騎士団は入った時から魔法が自在に操れないといけないと言われている。
同じ歳で、同じ上級階級の騎士見習いのヤマトと張り合いながら俺は8歳で大人と同じように力を操れるようになった。
まだあの闇の力の使い方が分からないが、きっと大丈夫だと自分に言い聞かせた。
夜遅くまで騎士団員に同行して見回りをした帰り道、夜道を歩いている時に彼に出会った。
最初は倒れているし、死んでいると思ったがお腹がグーグー鳴っているからただ腹が減っているのだろう。
最近こういう子供が増えたな、人間だからと親に捨てられてそのまま飢え死にする。
彼も魔力を感じないからきっと人間なのだろう、夜食に買っていたパンを差し出した。
するとお腹が限界だったのか、少年は勢いよくパンを頬張っていた。
彼の瞳はとても綺麗な黒い瞳で美しくて俺の心を掴むのは簡単だった。
彼がほしい、子供ながらに初めて危うい独占欲を感じた。
お腹が満たされて俺の胸の中で眠る彼を見つめてそう思った。
エルを家族に迎えて、俺の人生が大きく変わっていった。
ただいまと迎えてくれる可愛い存在に気持ちが穏やかになる。
騎士団にも人間はいる、でもそれは人間を受け入れているわけではない。
戦場の前線に立たせて、鉄砲玉にするつもりで雇っている。
だから人間の騎士に対して、嫌な仕事を押し付けたりストレス発散で殴りつける奴もいる。
俺は何度かそれを止めたりするが、それでも俺が見えないところで繰り返されている。
ストレスが溜まっても家に帰ると、エルの顔を見つめて癒されている。
エルがいれば他なんて何もいらない、君だけがいてくれたら俺は…
だからエルと初めて喧嘩のような事をしていなくなった時は凄く動揺して、俺の全てが壊れていく…そんな気がした。
必死に探してもエルは何処にもいない、もしエルがただの人間だと誰かにバレたらと思うと血の気が引いた。
エルと騎士団の中にいる人間が記憶の中で重なり、吐き気を感じる。
エルが心配だったから学校はダメだと言った、騎士団ほどではないが学校でも差別はあるそうで、エルが誰かになにかされていると考えるだけで死にそうな気分になる。
……俺はエルを愛している、それは兄弟愛でも家族愛でもない。
エルの瞳を見たあの日から…エルと離れたくなくてあの日家族になりたいと言ったが、一目惚れだった。
でも俺を「兄様」と慕うエルにどうしても気持ちを伝えられなかった。
エルが帰ってくるなら、この命を差し出しても構わない……だからどうか…
エルが俺の元に帰ってきてくれた時、エルの気持ちを考えないで縛り付けたら俺の両親と同じ事をしている事になってしまうと考えた。
エルにとって俺はいったいどう見えているのか分からず怖かった。
俺の気持ちを分かってくれるためには、まずは兄弟という見方を変える必要がある。
エルを否定するとまた居なくなってしまう気がして、俺の気持ちを分かってもらう条件として毎日キスしてもらう事になった。
嫌だったら悲しいけど、学校を諦めてくれるかもしれないと思った。
でも、エルは俺の条件を受け入れてくれた…少しは期待してもいいかな。
今はキスだけで満たされた、エルはまだ子供だから傷付けたくなくて手は出せなかった。
でも路地裏であの日、俺はある新人騎士を殴っている騎士団長を見つけた。
躾だと言うが、躾にしてはやり過ぎなほど新人騎士の体は痣だらけだった。
騎士団長の前に立って止めるように言ったが、一発頬を殴られそうになった。
避けるのは簡単だが、俺は先祖のグラディオ様のように同じ王都を守る騎士団長に魔法は使いたくなかった。
俺と騎士団長の間に小さな体が割って入ってきた。
先に帰っててと言ったのに、と声を掛けようとしたら小さな体が大きく揺れた。
水溜まりの地面に吸い込まれるように倒れるその体はまるで死んでいるように動かなくなった。
全身に黒いものがざわざわと感情が揺れていて、息苦しくなる。
もしかしてこれがグラディオ様も感じた負の力なのだろうか。
大切なものを失う恐怖、こんなにぽっかりと穴が開いた感じなのか。
君のいない世界で、生きている価値はないし生きたいとも思えなかった。
手を黒いなにかが覆っていて、騎士団長を見ると顔を青くしていた。
「な、なんだお前それは!!」
「………エルを、俺のエルを」
力が強くなり、暴走しかけているのが自分でも分かる。
このままじゃ、力に呑まれてしまう……エルを早く病院に連れていかないと…
そう思いながら騎士団長に向かって腕を伸ばすと誰かに腕を掴まれた。
医師が言っていたグラディオ様に興味があり、自分なりに調べた。
しかし屋敷の本棚にあるのは全て人間を悪者にする内容の書物しかない。
まだ幼かった俺でも人間と魔法使いに勝手に階級を付けて人間をバカにするのは可笑しい事なんだと分かる。
そして自分の部屋の片付けをしていたら見知らぬ本が出てきた。
古い本だが読めなくはないと一文字一文字解読して読んだ。
これがグラディオ様の手記だった、そしてそれが俺の家にあるという事はきっとグラディオ様は俺の先祖なのかもしれない。
グラディオ様の真実を知った俺は、グラディオ様と同じ騎士団に入り…この王都を変えたいと思った。
グラディオ様だってきっとそう思っていた筈だ、腐りきった騎士団を正せばきっと国民達の心もなにか変わるのかもしれない。
王様はどう思っているのかは分からない、国民の前に滅多に姿を表さないけど差別に対して何も言ってはいないから何とも思っていないのだろう。
騎士団長は目の前でただ怯えているだけだ、じゃあこの手はいったい誰が…
隣から「まぁまぁ落ち着きなよ」と呑気な声が聞こえた。
隣をチラッと見つめると、ヤマトがこちらを見つめていた。
声からしてまたヘラヘラと不気味に笑っていると思っていた。
しかしヤマトの顔は真面目で、ふざけているようには見えなかった。
「ゼロ、それ以上はダメでしょ?」
「………」
手を下ろすとヤマトは怪我をした新人騎士と恐怖で気絶した騎士団長を引きずる。
俺はエルに近付いて抱き抱えて、温かい体温にホッと一安心する。
ヤマトからなにかを投げられて、それを受け取ると小さな小瓶だった。
ヤマトは騎士であり、医師見習いでもあるからこういう医療道具を常に持ち歩いている。
これは俺も何度かお世話になったヤマトの万能薬だ。
飲むと致命傷以外の傷は何でも治るという便利なものだ。
エルは意識を失っているから、薬を口に含んでエルの口を開けて口付けた。
これでエルはしばらくしたら目覚めるだろう、ヤマトは騎士団の兵舎に二人を運ぶために路地裏を後にした。
でも負の力はだんだん蝕んでいき、まともに歩けるほどではなかった。
エルを膝の上で寝かせて、呑まれまいと意識を保つ。
でもエルは起きても俺から離れる事を選択しなかった。
そしてエルと一緒に負の力の中に呑まれてしまった。
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