嫌われ悪役王子は死にたくない!!《本編完結済》

えの

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めっちゃ痛い…頭痛い…これは深刻な二日酔いなんかより全然酷い…。頭が割れるぅ…。

「いてぇ…ガイ…許すまじ」

ゆっくりとベッドから上体を起こす。頭が痛くて堪らんわ。こめかみをグリグリ押していると、不安そうな顔でベッドから少し距離を置き座っているガイとヘラが見えた。何2人で可愛く並んでんの?是非とも間に挟んで欲しい。

どこか緊張した面持ちの2人。全く話し掛けてもこない。いつもならヘラもガイも心配な言葉を掛けてくれそうなもんだが…違和感を感じる。ちょっと俺も話し掛けづらい。仕方ないのでちょいちょい、と小さく手招きしてみた。話しかけるには微妙に遠い距離なんだよな。

「ヘラ、お前が行けよ…」 

「元はと言えばガイのせいでしょうが…」

小声でお互い肘で小突き合い急に揉め出す2人。2人の攻防は続き埒が明かないので俺から近寄る事にした。全く俺抜きにイチャコラしてんじゃねぇよ!!溜息をつき、座ってる2人の前まで歩くと、腰に手を当ててポーズを取った。

「なぁ…」

少し呼び掛けただけなのに2人は耳をペしゃんと下げ俯く。マジで何なの?気を失ってる間に俺が暴れたりしたんか?意を決したようにヘラが言葉を言おうと顔を上げるが、俺と目が合うと目を逸らしてしまった。

再び沈黙が訪れる。えっ…普通にショックなんだけど…。避けられてるの?俺は2人に嫌われる様な事をしてしまったのだろうか…。俺から話し掛けても良いのか躊躇われる。このままガイとヘラにまで嫌われてしまったらどうしよう、そう思っただけで目が潤んだ。

「ごめん…俺2人に嫌われる様な事しちゃったのかな…?謝るから…ダメな所も直す…だからお願い
…俺の事嫌いにならないで…」

声がだんだん曇っていく。ちゃんと笑えていただろうか?顔の表情が上手く作れない。堪えきれない想いが頬を伝い流れ落ちた。俺は乱暴に袖で顔を拭うと、そのまま顔を覆って隠した。2人の顔を見るのが怖い。

息が整わず、肩を震わす俺の体を大きな手が引き寄せ抱き込んだ。ぎゅうと痛い程に強い力で、広くて硬い胸に頭が押し付けられた。顔を見なくても分かる。大好きなガイの匂いがする。

「シオン…わりぃ…」

「シオン様、申し訳ございません」

2人は何に対する謝罪をしているのか?皆目見当もつかない。ガイはそのまま俺を横抱きにし、もう一度ベッドに俺を横たえた。ガイ達に顔を見られたくない俺は背を向け小さく丸まる。

「シオン、嫌われると思ったのは俺達の方なんだ…」

ガイはポツリポツリと遠慮がちに話し出した。
俺が頭を強打して気を失った後、ホスト保健医が診察をしてくれたらしいが、その時に言った言葉が今回の発端らしい。もしかしたら、今の頭に受けた衝撃で記憶が戻ったかもしれないぞ、と…。最悪の場合、記憶が全て失われているかもしれない…。これに焦ったのがガイとヘラだ。以前のシオンが完全獣人に対する態度はお察しの通り。目が覚めた時が明暗を分ける。

もし、以前のシオンならば、ガイとヘラは近づく事さえ嫌がられる、罵られる事間違いなしで話しかける事も億劫。でも、記憶喪失後のシオンだったら…心配だけど近寄っても良いものか…葛藤した挙句の謎の距離感だったらしい。

なるほど、俺の早とちりだったのか~恥ずかしッ!!でも元はと言えば、ガイのせいでは?と思わなくもない。まぁ2人に嫌われてなくて良かったわ。あーみっともなく泣いてしまったよ…。泣き顔は見られていないと思いたい。なんか気まづいな。

「ガイとヘラに嫌われてなかったら良い」

喉に絡む声でボソリと告げた。勿論、背は向けたままだ。

「シオン、こっちを向いてくれ…」

「シオン様、お願いします…」

向けと言われて振り向くやつは居ない。しかもみっともない泣き顔見せる奴も居ない。このまま不貞寝してしまおうかな…。横になると人間っていつの間にか寝てるよな。ほら、だんだん瞼が重くなってきた…。

ぼふっ。

音を立てベッドが沈む。薄ら目を開けると、ガイの大好きな顔がドアップで映された。ちょっと拗ねたような顔が可愛すぎて、思わずぷッと吹き出してしまう。あぁーダメだ。

「なぁ、ガイ。頭めちゃくちゃ痛かったんだよ。実際今も痛い。だからさ、お詫びに俺の抱き枕になってよ」

ガイの返事を待たずに腰に足を絡め大好きホールドをした。吐息がかかるほど体を密着させると、ガイの激しい鼓動が俺にまで伝わってくる。布越しじゃなくて直に感じたい。シャツのボタンに手をかけ、ガイを見上げると耐えるような顔をしていた。第一ボタン、第二ボダン、第三ボタンを外し、シャツを寛げた。何度見ても美しいもふもふだ。シャツの中に手を滑り込ませガイをがっちり抱き締めた。ヘラが居るから今日はこれぐらいで勘弁してやろう。俺は満足気な顔でもふもふに顔を埋めて眠りについた。ガイの我慢など知らん。

その後、俺は変わらぬ毎日を過ごしていた。いや、少しだけ変わったな。1つは本当に護衛が付いた事。ガイが選んだ護衛なので間違いはないだろう。この護衛とにかく凄い。何が凄いって最上級クラスのもふもふパラダイスってところ。もうね、凄いクマさんなの。ほんと凄いしか言葉が出ない。動物園でしか見た事ないようなビックベアさん。野生で会ったら即死だね。性格はクソ真面目な堅物。俺の事をどう思ってるかは知らないけど、他でもないガイの頼みだし、しゃーなしで引き受けたんかな?俺はクマさんに抱き着きたいといつも目の保養にしてますよ!!

もう1つはお勉強のサボりが出来なくなった事。これもクマさん要因がデカい。なんせ優秀なのだ。俺の行動と思考が3日でバレてしまった…。よって全ての脱走ルートは対策済みだ。勉強三昧でストレスが溜まってると思うだろ?違うんだなぁー。ほんとクマのぬいぐるみが歩いてるみたいでさぁ…可愛いんだよ…。ついつい目で追いかけちゃうから勉強に全然身が入らない。罪なクマさん、元いブライアン。こうして、俺の日常にゲームには登場しない新しいキャラクターが加わった。


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