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しおりを挟む満足いくまで短髪もふもふと戯れたあと、ブライアンが泣き声のまま教えてくれた内容に、俺は石のように固まった…。
まず、俺を初めて見たのは騎士団で訓練をしている時。まぁ、俺が覗き見している時ですね。あのシオン様が見ているぞと、騎士達は騒然としたらしい。あのシオンとは、完全獣人差別主義をしていた俺の事ですね。
最初は何を企んでるんだと皆怪訝そうにしていましたが、何度も訓練を見に来て下さるシオン様は太陽に照らされて大変お美しく輝いておられました。それに…ニコニコと笑顔の時もあれば、食入るように真剣にご覧なられる時もあって…騎士達はとても士気が上がってました。シオン様に良いところを見せようと特に俺達のような完全獣人は頑張ってましたね、と嬉しそうに教えてくれた。
えっ、待ってくれよ…何度もって…毎回俺の覗きってバレてたの?!しかもニヤつく顔までバッチリ見られてただと?!そうか…完全獣人や獣人は人間の俺と違って視力も良かった…あぁ、失念していた!!人間の基準で考えていた俺のバカ!!
そんなシオン様の護衛任務に抜擢されて本当に誇らしかったです。立候補者は沢山居たので、俺のような身分の低い者が選ばれるとは思いもしませんでした。シオン様が記憶喪失だとはガイ様よりお伺いしておりましたが半信半疑で…直ぐに自分の考えを悔い改めるのですが…。シオン様は俺の事を怖がる事もなく、身分で差別する事もなく、優しすぎる程に接してくれました…。
「この命に代えても御守りしようと誓ったんです。なのに…そのシオン様を害そうとするなど…俺は…俺は…シオン様の護衛として失格です…」
膝の上で震えるほど強く握られた拳。確かに同じ様に誰かにブライアンが脅されて、今日みたいな事をまたしでかすかもしれない。でも、その大きな手に何度も助けられたのも事実。
「ブライアン…俺はそんなに良い人じゃないよ。嫌われ者だしな~ってか俺に対してそんなに忠誠誓ってくれるのなんてブライアンぐらいじゃねぇ?俺、このままブライアンに守って欲しい。ただし、自分の命は大切にな!!俺、逃げ足には自信あるから!!」
可愛いお耳をモフりながら自慢げに言うと、ブライアンはうぉぉぉおッ!!と雄叫びのような泣き声を上げた。お尻が浮くほどびっくりする俺。えっ、俺的には有難うございます!と抱き着いてくれるの期待したんだけど…ちょっ…何で俺の思い描く通りの反応してくれないかな…。ふむ、もふもふは奥が深い…。
「たらし」
「天然たらしですね」
「はっ?」
たらし?俺が?嘘付けよ。それじゃ、今頃俺は
完全獣人ハーレム作れてるはずだろ。まっ、恋愛感情はガイにしか持ってないけど…癒し要素はどれほどあっても困らないよ!!もふもふ大歓迎!!
「さぁ…話も落ち着いた事だ。後は彼奴らの帰りを待とうじゃねぇか」
心底愉しそうな顔で顎を擦るガイは、今か今かと獲物を待ちわびる。少し可哀想な気がせんでもない。この3人に囲まれたら…俺の場合はご褒美でしかないが、あの完全獣人差別主義の2人ならば卒倒もんだろう。しっかし…おっそいな!!何発ヤってんだよ?!盛りすぎたろう!!キースすげぇな…。
イケオジな上に絶倫…素晴らしい!!たくましい妄想力を発揮しようとした時、乱暴にドアが開いた。
「ブライアン!!シオン様を孕む勢いで犯したんだろうな?!」
「こんな獣に犯されてご愁傷さまですぅ~」
少し怒り気味のキースに、ウキウキ気分のロゼが部屋に入ってきたと同時に3人に取り囲まれた。俺はソファに座り成り行きを見守る。さて、どんな言い訳が飛び出すのやら…。
「ガッ、ガイ様ッ?!何故ここに?!」
動揺が隠せないのだろうしっぽとお耳が動いている。キースが取り乱す姿なんて貴重だわ。ふふ、思わずちょっと可愛いと笑いが漏れてしまった。
「いや、何…散歩中に偶然シオンの声が聞こえてな、偶然一緒に居たヘラと、偶然窓が空いていたこの部屋に入ったんだ」
砕けた話し方ではなく、いつもの威厳がある言い方に戻ったガイは、目を細めキースとロゼを見た。偶然だと…?自然と口から漏れてしまったのだろう…キースは一瞬顔を歪めた後、いつもの様に演じだした。完全獣人に嘘は通じないって知らないのかな。
「偶然ですな!!私共もシオン様の悲鳴が聞こえたので部屋に来た次第で…」
「しっ、シオン様~。お怪我はないですかぁ?」
ロゼは顔を真っ青に染め、見てるこちらが心配する程に怯えていた。キースはこの場が乗り切れる算段をつけたのだろう、先程までの動揺はなくなっていた。
「ほう?では2人は無関係だと?」
「全くもってその通りです。シオン様を心配して駆けつけた私共を疑うなど…あんまりではありませんか?」
両手で顔を覆い頭を振るキースの演技は、相変わらず大袈裟で下手過ぎた。もっと普通に出来んのかね…。見ているこっちが恥ずかしくなってくるわ。ロゼもキースの腕にしがみつき、うんうんと頷く。
「ショック療法…中々のアイディアだな?」
「ええ、とても良い考えです」
あっ、2人が悪い顔をしているぞ…。何が始まるんだ…何をしようとしているんだ…。2人を挟むようして立っていたヘラとブライアンが1歩前に出る。怯むキースとロゼ。更に1歩前に踏み出すとキースとロゼはお互いに手を組合い震え出す。ラスト1歩…キースとロゼの姿は見えなくなり、部屋中に絶叫も悲鳴が木霊する。何それー?!もふもふサンドウィッチとか俺もやりたい!!されたい!!うやらましいぞコラァー!!俺も心の中で叫び続けた。
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