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番外編⑵
しおりを挟む完全獣人の中でも群を抜いて人外な見た目。思わず目を輝かせて見詰めてしまう。懐かしい少年の心が揺さぶられるようだ…。
「カッコイイ…」
リザードンマンは、少し驚いた表情をしたものの、直ぐに元の表情に戻った。
「おっと、お仕事お仕事…ご主人様ご案内致します」
案内したテーブルに座るリザードマンを見下ろし、いけないと分かりつつもマジマジ見てしまう。鋭い目付き、爬虫類特有の目だ。あまりにも見詰め過ぎたのだろう、ふっ、と笑われてしまった。ヤベェ…。顔が火照る。
「俺のような獣人は初めて会ったか?」
「へっ?俺…ですか?」
「あぁ、君に聞いている」
「すみません…ジロジロと…嫌でしたよね…」
「そんな事はない。目を逸らされる事が多くてな。私に熱い視線を送ってくれる君は珍しい」
見た目と違い紳士的な話し方に悶えそうになる。反則的萌え。クッソー!!是非ともお友達になりたい!!しかし俺は今お仕事中だ…。堂々とナンパなんか出来ん!!頭を悩ませていると、ガシャーンッ!!と派手に食器が割れる音が聞こえてきた。床に飛び散った食器が目に入る。
「お前の持ってきた飲み物なんて飲めるかよッ!!」
「違う子が良いんだけど?チェンジで」
如何にも我儘貴族のような発言が聞こえてきた。そのそばに怯えた顔で立つタキシードを身にまとった可愛い羊の完全獣人。羊が執事…あの子は絶対メイド服が似合っただろう!!ミニスカで強調される内股萌えだろ?!誰だチョイスしたやつ。
「なぁ?!聞いてんのかよッ?!」
ガンッ!!と机を蹴りあげ更に脅しに拍車をかける。小さく縮こまる羊さんに俺の足は勝手に歩き出した。あぁ、俺が行っても役立たずだろう…でも、もふもふのピンチなんだぜ?!助けない選択肢なんてない。ガイにもヘラにも迷惑をかけてしまうかもしれん…。
「すみません。他のお客さんの迷惑になるんで止めてもらえませんか?」
物腰丁寧な姿勢で相手の様子を窺う。俺を見た途端、クレーマー達の目の色が変わった。ニヤつきながら器用に片方の口の端を吊り上げる。
「そうそう!!こーいう子を待ってたんだよ!!」
「可愛い!!お仕事なんてほっといて俺達と遊ぼうよ」
腕を捕まれた上にお腹に手を回され、我儘貴族の膝の上に強制的に座らされた。こいつッ…!!俺を抱き締めるなんざ100万年はぇーんだよ!!ってかガイにか許していない特権を…こんな奴にぃ!!お腹をワサワサされて嫌悪の鳥肌が立つ。髪型と服装で頑張ってるけどな、お前は所詮雰囲気イケメンだ!!連れに至っては服装が奇抜すぎて顔はそこそこなのに残念イケメンだし、何よりも口説き文句が定型文過ぎてつまらん!!
「離せッ!!」
近づく雰囲気イケメンの顔に頭突きをお見舞する。見事に鼻にクリーンヒット!!しかし、それが雰囲気イケメンを激怒させた。
「俺を誰だと思ってやがる?!お前の家なんか直ぐに潰せるんだぞ?!」
お前が偉いわけではなく親が力を持ってるんだろうが…。いるよね~勘違いしちゃう子供って。だからこんなアホな子が出来るんですよー。親の躾がなってないわ。もう一度離せよと言えば、雰囲気イケメンはニヤリと笑った。
「そんな強がり言えなくしてやろうか?」
ガイに触れて欲しかった絶対領域に雰囲気イケメンの手が這う。ひぃッ…突然の事に悲鳴が喉に張り付く。内太ももを這い回る手はスカートの中に侵入しようとしている。周りから悲鳴が上がった。コイツ…!!最終手段…ヘラ召喚を唱えようとした時、俺の体は雰囲気イケメンから解放された。
何が起こったのか、一瞬の出来事過ぎて頭の処理が追いつかない。そばには倒れた2人組みと、見慣れたヘラが…じゃぁ俺を抱っこしてくれている人は…?見上げると先程まで会話していたリザードマンの顔が近くにあった。2人が助けてくれたのか…。
「ありがとう…無茶してゴメン」
申し訳なさそうに謝ると、ヘラが頭をなでなでしてくれた。久しぶりのヘラのなでなでにご満悦な俺は、ヘラの手を取りスリスリと頬ずりして堪能する。たまりませんな~この感覚。何度でも触りなくなっちゃうよ。
「シオン様お怪我はありませんか?」
「うんッ!!ヘラが助けに来てくれるって信じてた」
そうですかと短い返事をし微笑んでくれた。タキシードを着てるからその様が余計に格好良い。出来る執事さんッ!!皆が惚れてしまうやろッ!!
「ヘラがイケメン過ぎて眩しい…」
うっとりと呟けば頭上から笑い声が聞こえた。見上げるとリザードマンが大きな口を開けて笑っている。すげー、ガイより大きいんじゃないか?
「そうか、君が噂のシオン様か…」
「噂…?」
「バレット様、御協力感謝致します」
ヘラがお辞儀をしながらお礼を述べた。知り合いなんか?疑問が顔に出ていたのだろう、ヘラが紹介してくれた。この方は公爵だと…うぇ…獣人って年齢不詳だと思ったけど…もしかして随分と年上の方…。大丈夫、俺のもふもふストライクゾーンは広いから!!もふもふしてないけど個人的に大好き。
「いや、私は何もしていないよ。面白い物が見れた私の方が感謝したいぐらいだ」
縦長の瞳孔に見つめられたので、お返しにと見つめ返す。目の周りも鱗に囲まれている。目だけで人を殺せるな。強者の目をしていますわ。しばらく見つめ合っていると、教室の外が騒がしくなった。
「問題を起こしているのは誰だ?」
聞きなれた声の方に顔を向けると、そこにはきっちりと制服を着こなしたガイ達生徒会一同が居た。誰かが呼びに行ったのか。周りから歓喜と黄色い悲鳴が聞こえる。やっぱりガイ達は攻略対象者だけあって学園でも人気者なんだ…。ちょっと寂しさが込み上げてくる。無意識にバレットさんの胸に擦り寄ってしまう。ってか硬ッ!!…めちゃくちゃ硬い…布越しに伝わるこの硬さ、生で触らせて頂きたい!!鎧でも着てんのか?シャツをひん剥いてやりたい。
「シオン…?」
自分の名前を呼ばれただけなのにビクッと体が跳ねる。あー不味い、これは雷が落ちるんじゃないか…。顔をバレットさんに押し付け、完全に聞こえない、知らん振りを決め込む。どんどん近づいてくる複数の足音。俺のすぐそばで足音が止んだ。振り返ったら死ぬ。間違いなく死ぬ。
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