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第20話 おじさんとデートなんかしても楽しくないでしょ……?
しおりを挟む俺は久々にスーツを着込んで、駅前に立っていた。
ちなみに、今回はおもちとだいふくはお留守番だ。
長い間家を空けるのが不安だったので、カレンに頼んでおもりをしてもらっている。
「うう……こんなことあまりないから、緊張するなぁ……」
俺がなぜこんな格好で、待ち合わせ場所に突っ立っているかというと。
今日はひかるんと食事にいくことになっていた。
ひかるんは俺が助けたことのお礼に、フレンチのコース料理をおごってくれるのだそうだ。
高校生なのにそんな店知ってるとかどんなお嬢様だよ。
俺なんかこの歳で、そんな高級店になんかいったこともないし、作法もよくわからない。
いちおうスーツできたけど、いろいろと緊張することばかりだぜ……。
そもそも女子高校と二人で出かける時点でいろいろやばい。
おじさん、つかまったりしないかな……。
しないといいけど……。
などなど考えていると――。
「あ、辻風さん! お待たせしました!」
待ち合わせ場所に、天使が舞い降りた。
ひかるんは春色の爽やかなワンピースに、満面の笑顔、ラベンダーの香りに身を包んで現れた。
それはまるで天使だった。
俺は年甲斐もなく、顔が赤くなってしまう。
「こ、こんにちは……」
「あはは、辻風さん、硬いですね? 待ちました? すみません、遅れちゃって……」
「い、いや……俺も今きたとこ」
そんな定番の会話を交わす。
ひかるんは実際、遅れてなどいない。
まだ待ち合わせ時間の15分前だ。
俺は1時間前から待ってたんだけど……。
てか俺どんだけ楽しみにしてるんだよ!
「じゃあ、行きましょうか」
「う、うん」
俺はひかるんにエスコートされて、店まで導かれる。
ふつうこういうのって、男が、しかも年上の俺がやるべきなんだろうけど。
今日は女子高校生にエスコートしてもらっているという……。
店につくと、ひかるんは慣れた感じで店員と言葉を交わし、席まで案内してくれる。
レディファーストならぬ、おじさんファースト。
ひかるんのエスコートで、俺は席に座る。
「なんだか申し訳ないね。なにもかもお任せしちゃって……」
「いえ、私から言い出したことですから。それに、これはお礼なんですから」
緊張しながら、席に座る。
しばらくすると、食事が運ばれてきた。
まずは前菜らしい。
こういうのは順番があるんだろうな。
よくわからないけど。
前菜を食べ終わったくらいのタイミングで、ひかるんが口を開いた。
「辻風さん、本当に、その節はお世話になりました。辻風さんは命の恩人です。ありがとうございました」
「いやいや、そんな何度もお礼言わなくてもいいから……。俺はもう、十分お礼してもらったと思ってるから」
「そうはいきませんよ。今日はたくさん、お礼させてくださいね?」
「はは……」
本当に、いい子なんだと思う。
それこそ、俺なんかが本来関わってはいけないくらいの……。
食事はとても美味しくて、今まで食べたことのないものだった。
Jkに新しいこと教えてもらうなんてな……。
なんだかこうしているとデートみたいで、年甲斐もなく浮かれてしまう。
まあ、俺は若いころも仕事ばっかでろくにデートなんかしたことないんだけどな……。
それだからか余計に、ひかるんを意識してしまう。
いやいや、相手はJKなんだし、それにただお礼で会ってくれているだけなんだから。
変な考えを持つのはよそう。
そう思っていると、ひかるんが急にこんなことを口にした。
「ふふ、なんだかこうして二人で食べていると、デートみたいですね」
「え…………」
心を、見透かされたような気がした。
不覚にもドキッとしてしまった。
俺は照れ隠しに早口になる。
「そ、そんな……おじさんとデートなんかしても楽しくないでしょ……? ひかるん人気ものだし、綺麗だし、いくらでも同級生とデートすることあるでしょ」
「そんなことありませんよ! 私、同級生とデートなんかしたことないですもん……!」
「そ、そうなのか……?」
これには意外だ。
きっとひかるんなんか、みんなに誘われまくっていると思ったんだけどな……。
だって学年一くらいカワイイ美少女だし、人気ダンチューバーだし。
あ、まあでも、だからこそ逆にみんな誘いにくいのかな。
高値の花だしな。
実際俺がひかるんの同級生だったとしたら、絶対に誘えないだろうな……。
「それに、私辻風さんとデートするの楽しいですよ?」
「え…………」
またもや、心臓を打ち抜かれた気がする。
俺、今日だけで20歳は若返ったんじゃないのか?
いやまてまてさすがにJKにガチ恋はまずいだろ。
耐えろ。俺の理性。
そこからは必死に自分のドキドキする気持ちを押さえつけて、食事を食べた。
最後のほうのデザートの味はもはや覚えていない。
「ふぅ。ごちそうさま。美味しかったですねぇ」
「うん、本当に。ごちそうさまでした」
「じゃあ、行きましょうか」
二人で会計に。
俺は、一応ここは俺が全部払うというふうに言ってみる。
さすがに年齢差がアレだしな。
それに一応俺も男だ。
男として、デートではかっこつけたい。
正直JKとデートできるってだけで、俺にとっては十分お礼になってるしな。
「俺が出すよ」
「だ、だめですよ! 絶対だめです! これはお礼のお食事なんですから!」
「絶対?」
「絶対です!」
まあ、さすがにひかるんは譲ってくれなさそうだし、ここは大人しくおごられておくか。
JKに高級フレンチをおごられるオッサンの図。
なんだか妙だ。
店員さんも不思議に思っただろうな。
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