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忌み子編
1.魔力ゼロ
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戦場に、一人の男が立っていた。
重厚な鎧を身に纏い、経年劣化で擦り切れたマントを風にはためかせ、無数の死体の中に佇んでいる。
足元に転がるその手柄のほとんどは、彼一人によるものだった。
「剣聖、ご無事ですか」
若い斥候兵が、馬に乗って駆けつけた。
剣聖と呼ばれた男が静かに振り返ると、斥候兵の顔がみるみる引きつる。剣聖の顔は修羅――まさに戦いのためだけに生きる鬼の形相だった。
だがそれも一瞬のことで、その顔はすぐに普段の温和な雰囲気を取り戻す。剣聖といえども、普段はただの誠実な青年に過ぎない。無慈悲な戦のさなかにあった魂が、斥候兵の顔を見て、現実の社会に引き戻される。
「ああ、今しがた片付いたところだ」
剣聖は不器用に笑ってみせた。斥候兵も、ほっとする。と同時に、目の前に広がる惨状をいま一度理解する。
「本当にこの人数を剣聖お一人で……」
剣聖エルフォ・エルドエル――その御業を目の当たりにして、なぜこれほどまでに彼が最強の剣聖として崇められているのかを心の底から納得する。その切り口の鮮やかさと、異常なまでの返り血の少なさはまさに神業。斥候兵はこの場に居合わせたことに深く感動した。
そうやって斥候兵があっけにとられていると、剣聖がゆっくりと優しい口調で切り出した。
「それで、私になにか用があって来たのではないか……?」
「ええ、そうなんです……。それが……」
斥候兵が当初の目的を果たそうと、口を開いた矢先、剣聖に後光が差した。
彼は初め、それが剣聖のその神がかりな強さに、実際に神が祝福をもたらしたのではと思ったが、そうではない。それは魔法による背後からの攻撃だった。そのことは未熟な斥候兵でもすぐに悟ることができた。ここは戦場だ。不意打ち上等で襲い掛かってくる敵は、戦士に一時の油断も許さない。
「剣聖!あぶない!」
そう叫んだときにはもう遅かった。あまりに大きく、光速で飛来したその光の矢は、容赦なく剣聖の頭を吹き飛ばした。
いかに百戦錬磨の猛者といえども、背後からの不意の攻撃を避けることは難しく、剣聖の三十年に亘る研鑽もむなしく、塵と化した。
たとえ寸前で攻撃を察しようとも、剣聖が振り向く速度を攻撃の速度が凌駕していた。
剣聖エルフォは死の直前に後悔する。
(ああ……いくら剣を磨いても、最後はこんなにもあっけなく死ぬのだな……。それも魔法による不意打ちによって……。魔法使いたちは剣士のように正々堂々などとは言ってくれない……。こんなことならば、私も剣の道ではなく魔法を極めておけばよかった……)
◇
その日はとある家族にとって、とても特別な日だった。家族に新たな一員が加わるのだ。
父親は朝から落ち着きがなく、用もないのに家じゅうをあちこち歩きまわっては、娘たちに邪険にされている。
娘たちは母親のお産の手伝いに忙しかった。清潔なタオルや適温のお湯を用意したりと、父親のように狼狽えている時間などなかった。
バーナモント家は下級貴族の中でも特に影の薄い家で、使用人なども特に雇っていなかった。
お産というものは予定通りには進まないもので、結局生まれたのは夜が明けてからだった。
「ようやく産まれたか!?」
無駄な気苦労で疲れ果ててしまっていた父親が元気を取り戻す。寝室の扉を開けて中に入ると、娘たちから冷ややかな視線が注がれる。
「騒ぐだけ騒いでなんの役にも立たなかったくせに……」
「まあまあ、いいじゃないの。無事に産まれたんだから……。ほら、あなたの息子よ」
母親がそれをなだめながら、今産まれたばかりの赤子を抱き上げる。
「おおお……アルよ」
赤子の顔を一目見たとたん、父親が感嘆のあまり膝から崩れ落ちた。口にした名は、伝説の大魔術師アル・アルメシアに因んでつけたものだった。
(アル……それが私の今生での名前なのだろうか……?)
驚くべきことだが、この赤子にはすでに自我と呼べるものがあった。視界はまだぼやけているが、意識ははっきりしている。
赤子にはいわゆる前世の記憶というものがあった。
(剣聖エルフォ・エルドエル……確か以前はそう呼ばれていた。ふん、皮肉なものだ……。剣聖として名を馳せたこの私が、大魔術師様の名を借りることになるなんてな……)
以前のエルフォであれば、憤慨ものの事件であったが、アルと名付けられたその瞬間から、前世への未練は消え去っていた。人の感情というものは、存外、環境やそのときどきによって柔軟に適応するものだ。
(アル……魔法で殺された私にはぴったりの名じゃないか!)
エルフォ――いやアルは心の中で皮肉たっぷりにそう笑ってみせた。
(今生では魔法を極めよう!魔法に生き、魔法に死ぬんだ。なに、剣を極めた私なら、魔法を極めることもできるだろう……。なんだか希望が湧いてきたぞ!)
アルがそう決意した矢先だ。両親はそんなこととはつゆ知らず。
「おい!この子、身体から魔力が感じられないぞ……!?」
父親が再び狼狽えておろおろし始めた。
「なんですって!?ちょっと、こっちに」
アルの姉にあたる人物が、その小さな身体を取り上げて抱きかかえる。赤子のアルの胸に頬を寄せて確かめてみるが、確かに心臓の鼓動は感じ取れるものの、そこには肝心の魔力が一切流れていない。
「ほんとだ……。なんで……なんでこんなこと!?」
「ああ、神様……。どうしてかような残酷な仕打ちを……!」
(どうやら先行きが怪しいな……。私の身体に魔力が流れていないなんて、そんなおかしなことがあり得るのだろうか……)
この世界の住人はみな、魔力を宿して産まれる。それはアルが転生する前から変わらない不変の法則だった。
もし魔力を持たない人間が産まれたと知れたら大変な騒ぎになるだろう。忌み子として扱われ、一族ともども虐げられるに違いない。
「ねえ、今のうちに……殺してしまったほうがいいんじゃない……?」
長女であるキムが両親の顔色をうかがいながら恐る恐る提案した。
「ば、馬鹿なことを言うんじゃない……!今しがた産まれたばかりの弟によくそんなことが言えるな!」
「そ、そうよ……!私だって、お腹を痛めて産んだこの子を手にかけるだなんて、嫌よ……。たとえこの子に魔力がないとしても、私が愛する気持ちは変わらない……」
「で、でも……!もしこのことが近所にバレたら?私たちまで殺されるわ……」
「そんなことにはならないさ……。この子の秘密がバレないように、私たち家族で大切に育てよう……」
家族会議が終わると、アルは深く安堵して眠りに落ちてしまった。
(とにかく殺されないで済んだけど……。大変な人生になりそうだな……)
◇
アル・バーナモントは九歳になっていた。そのころには前世の人格はなりをひそめ、すっかり今生の自我を確立していた。もちろん剣聖エルフォとしての記憶は依然としてはっきり存在する。だが一人称も「私」から「僕」になり、そのアイデンティティは青年ではなく間違いなく少年のものだった。
母親譲りの栗色の髪に、まんまるとした赤茶色い目、まつ毛は目に入るくらい長い。年の割に背丈も小さいので、よく女の子に間違われた。
アルには同年代の友達がいない。その肉体にまつわる「秘密」を守るために、両親があまり家から出さなかったからだ。
その代わり、家で本を読んで暮らした。家には祖父の残したたくさんの魔導書があり、それはアルの好奇心を搔き立てた。
魔力を持たないアルにとって、魔法の本を読むなんてことは無意味以外の何物でもなかったが、それでも何もしないよりはましだった。
前世で死ぬときに、魔法をもっと勉強しておけばよかったなと後悔したのだ。本を読むだけでも気がまぎれる。
両親はアルを溺愛し育て、それはもう過保護と言えるほどだった。
上には二人の姉――キムとヘラがいて、二人はそれをあまりおもしろく思わなかった。
そればかりか、ある程度まで弟が成長すると、やっかいないじめが始まった。それはアルの六歳の誕生日に母親が鬼籍に入ってしまってからは、さらに顕著なものとなった。
「体に魔力が流れていないなんて……生きてるのか死んでるのかわからないじゃない。気味が悪いわ……」
「私は産まれてすぐあなたを殺せと言ったのに……。お父様とお母様の慈悲でここに置いてやってるんだからね……。あなたはうちの家族なんかじゃない。まして、人間であるかどうかすら怪しいものだわ」
精神的に大人なアルは、最初それをそよ風のように聞き流した。
(ああ……また分別のつかないガキが巫山戯たたわ言を喚いてるな……)といった感じに。
だがそれも長くは持たなかった。人間というものは本人の意志の強さに関係なく環境に染まりやすい性質を持った生き物だ。環境によって人は簡単に壊れうる。
「僕は……再び産まれるべきではなかった。あの時、一度の生涯で満足し、魂ごとこの世を去るべきだったのだ……」
九歳になった頃には、そういった考えに取りつかれていた。かといって自殺を試みるなどという馬鹿な真似はしない。
姉に反抗することもできたであろうが、それもしなかった。魔力を擁する姉に、力でこそ勝てたとしても、魔力で対抗されては、ついぞ逃れることはできなかったであろう。
そんな暮らしの中である日転機となる事件が起こった。
その日はたまたま父が外出していたので、姉二人はアルに買い出しを言いつけた。父がいればそのような危険なことはさせなかったであろう。
だが分別のつかない姉二人は、アルの秘密がバレるかもしれないというのに、自分たちのいびりを優先した。
「ほら、もう九歳にもなったんだから、出来損ないのあんたでも買い物くらい一人でいけるわよね?」
「で、でも姉さん。僕が一人で出かけて、もし秘密がバレたら大変なことになりますよ?それこそお父様や姉さんにも迷惑がかかるような……」
「ちょっとそこまで行くくらい大丈夫よ。それに、魔力布を羽織っていけば、精密検査でもされないかぎりバレやしないわ」
魔力布というのはアルの秘密を隠すために幼少期に母親が編んでくれた特性のマントで、それを羽織っていればマントが微量な魔力を帯びているので、アルの身体に魔力が流れていなくても違和感を感じられずに済むのだ。
「不安だ……」
その不安は杞憂に終わらず、現実のものとなる。
【あとがき】
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重厚な鎧を身に纏い、経年劣化で擦り切れたマントを風にはためかせ、無数の死体の中に佇んでいる。
足元に転がるその手柄のほとんどは、彼一人によるものだった。
「剣聖、ご無事ですか」
若い斥候兵が、馬に乗って駆けつけた。
剣聖と呼ばれた男が静かに振り返ると、斥候兵の顔がみるみる引きつる。剣聖の顔は修羅――まさに戦いのためだけに生きる鬼の形相だった。
だがそれも一瞬のことで、その顔はすぐに普段の温和な雰囲気を取り戻す。剣聖といえども、普段はただの誠実な青年に過ぎない。無慈悲な戦のさなかにあった魂が、斥候兵の顔を見て、現実の社会に引き戻される。
「ああ、今しがた片付いたところだ」
剣聖は不器用に笑ってみせた。斥候兵も、ほっとする。と同時に、目の前に広がる惨状をいま一度理解する。
「本当にこの人数を剣聖お一人で……」
剣聖エルフォ・エルドエル――その御業を目の当たりにして、なぜこれほどまでに彼が最強の剣聖として崇められているのかを心の底から納得する。その切り口の鮮やかさと、異常なまでの返り血の少なさはまさに神業。斥候兵はこの場に居合わせたことに深く感動した。
そうやって斥候兵があっけにとられていると、剣聖がゆっくりと優しい口調で切り出した。
「それで、私になにか用があって来たのではないか……?」
「ええ、そうなんです……。それが……」
斥候兵が当初の目的を果たそうと、口を開いた矢先、剣聖に後光が差した。
彼は初め、それが剣聖のその神がかりな強さに、実際に神が祝福をもたらしたのではと思ったが、そうではない。それは魔法による背後からの攻撃だった。そのことは未熟な斥候兵でもすぐに悟ることができた。ここは戦場だ。不意打ち上等で襲い掛かってくる敵は、戦士に一時の油断も許さない。
「剣聖!あぶない!」
そう叫んだときにはもう遅かった。あまりに大きく、光速で飛来したその光の矢は、容赦なく剣聖の頭を吹き飛ばした。
いかに百戦錬磨の猛者といえども、背後からの不意の攻撃を避けることは難しく、剣聖の三十年に亘る研鑽もむなしく、塵と化した。
たとえ寸前で攻撃を察しようとも、剣聖が振り向く速度を攻撃の速度が凌駕していた。
剣聖エルフォは死の直前に後悔する。
(ああ……いくら剣を磨いても、最後はこんなにもあっけなく死ぬのだな……。それも魔法による不意打ちによって……。魔法使いたちは剣士のように正々堂々などとは言ってくれない……。こんなことならば、私も剣の道ではなく魔法を極めておけばよかった……)
◇
その日はとある家族にとって、とても特別な日だった。家族に新たな一員が加わるのだ。
父親は朝から落ち着きがなく、用もないのに家じゅうをあちこち歩きまわっては、娘たちに邪険にされている。
娘たちは母親のお産の手伝いに忙しかった。清潔なタオルや適温のお湯を用意したりと、父親のように狼狽えている時間などなかった。
バーナモント家は下級貴族の中でも特に影の薄い家で、使用人なども特に雇っていなかった。
お産というものは予定通りには進まないもので、結局生まれたのは夜が明けてからだった。
「ようやく産まれたか!?」
無駄な気苦労で疲れ果ててしまっていた父親が元気を取り戻す。寝室の扉を開けて中に入ると、娘たちから冷ややかな視線が注がれる。
「騒ぐだけ騒いでなんの役にも立たなかったくせに……」
「まあまあ、いいじゃないの。無事に産まれたんだから……。ほら、あなたの息子よ」
母親がそれをなだめながら、今産まれたばかりの赤子を抱き上げる。
「おおお……アルよ」
赤子の顔を一目見たとたん、父親が感嘆のあまり膝から崩れ落ちた。口にした名は、伝説の大魔術師アル・アルメシアに因んでつけたものだった。
(アル……それが私の今生での名前なのだろうか……?)
驚くべきことだが、この赤子にはすでに自我と呼べるものがあった。視界はまだぼやけているが、意識ははっきりしている。
赤子にはいわゆる前世の記憶というものがあった。
(剣聖エルフォ・エルドエル……確か以前はそう呼ばれていた。ふん、皮肉なものだ……。剣聖として名を馳せたこの私が、大魔術師様の名を借りることになるなんてな……)
以前のエルフォであれば、憤慨ものの事件であったが、アルと名付けられたその瞬間から、前世への未練は消え去っていた。人の感情というものは、存外、環境やそのときどきによって柔軟に適応するものだ。
(アル……魔法で殺された私にはぴったりの名じゃないか!)
エルフォ――いやアルは心の中で皮肉たっぷりにそう笑ってみせた。
(今生では魔法を極めよう!魔法に生き、魔法に死ぬんだ。なに、剣を極めた私なら、魔法を極めることもできるだろう……。なんだか希望が湧いてきたぞ!)
アルがそう決意した矢先だ。両親はそんなこととはつゆ知らず。
「おい!この子、身体から魔力が感じられないぞ……!?」
父親が再び狼狽えておろおろし始めた。
「なんですって!?ちょっと、こっちに」
アルの姉にあたる人物が、その小さな身体を取り上げて抱きかかえる。赤子のアルの胸に頬を寄せて確かめてみるが、確かに心臓の鼓動は感じ取れるものの、そこには肝心の魔力が一切流れていない。
「ほんとだ……。なんで……なんでこんなこと!?」
「ああ、神様……。どうしてかような残酷な仕打ちを……!」
(どうやら先行きが怪しいな……。私の身体に魔力が流れていないなんて、そんなおかしなことがあり得るのだろうか……)
この世界の住人はみな、魔力を宿して産まれる。それはアルが転生する前から変わらない不変の法則だった。
もし魔力を持たない人間が産まれたと知れたら大変な騒ぎになるだろう。忌み子として扱われ、一族ともども虐げられるに違いない。
「ねえ、今のうちに……殺してしまったほうがいいんじゃない……?」
長女であるキムが両親の顔色をうかがいながら恐る恐る提案した。
「ば、馬鹿なことを言うんじゃない……!今しがた産まれたばかりの弟によくそんなことが言えるな!」
「そ、そうよ……!私だって、お腹を痛めて産んだこの子を手にかけるだなんて、嫌よ……。たとえこの子に魔力がないとしても、私が愛する気持ちは変わらない……」
「で、でも……!もしこのことが近所にバレたら?私たちまで殺されるわ……」
「そんなことにはならないさ……。この子の秘密がバレないように、私たち家族で大切に育てよう……」
家族会議が終わると、アルは深く安堵して眠りに落ちてしまった。
(とにかく殺されないで済んだけど……。大変な人生になりそうだな……)
◇
アル・バーナモントは九歳になっていた。そのころには前世の人格はなりをひそめ、すっかり今生の自我を確立していた。もちろん剣聖エルフォとしての記憶は依然としてはっきり存在する。だが一人称も「私」から「僕」になり、そのアイデンティティは青年ではなく間違いなく少年のものだった。
母親譲りの栗色の髪に、まんまるとした赤茶色い目、まつ毛は目に入るくらい長い。年の割に背丈も小さいので、よく女の子に間違われた。
アルには同年代の友達がいない。その肉体にまつわる「秘密」を守るために、両親があまり家から出さなかったからだ。
その代わり、家で本を読んで暮らした。家には祖父の残したたくさんの魔導書があり、それはアルの好奇心を搔き立てた。
魔力を持たないアルにとって、魔法の本を読むなんてことは無意味以外の何物でもなかったが、それでも何もしないよりはましだった。
前世で死ぬときに、魔法をもっと勉強しておけばよかったなと後悔したのだ。本を読むだけでも気がまぎれる。
両親はアルを溺愛し育て、それはもう過保護と言えるほどだった。
上には二人の姉――キムとヘラがいて、二人はそれをあまりおもしろく思わなかった。
そればかりか、ある程度まで弟が成長すると、やっかいないじめが始まった。それはアルの六歳の誕生日に母親が鬼籍に入ってしまってからは、さらに顕著なものとなった。
「体に魔力が流れていないなんて……生きてるのか死んでるのかわからないじゃない。気味が悪いわ……」
「私は産まれてすぐあなたを殺せと言ったのに……。お父様とお母様の慈悲でここに置いてやってるんだからね……。あなたはうちの家族なんかじゃない。まして、人間であるかどうかすら怪しいものだわ」
精神的に大人なアルは、最初それをそよ風のように聞き流した。
(ああ……また分別のつかないガキが巫山戯たたわ言を喚いてるな……)といった感じに。
だがそれも長くは持たなかった。人間というものは本人の意志の強さに関係なく環境に染まりやすい性質を持った生き物だ。環境によって人は簡単に壊れうる。
「僕は……再び産まれるべきではなかった。あの時、一度の生涯で満足し、魂ごとこの世を去るべきだったのだ……」
九歳になった頃には、そういった考えに取りつかれていた。かといって自殺を試みるなどという馬鹿な真似はしない。
姉に反抗することもできたであろうが、それもしなかった。魔力を擁する姉に、力でこそ勝てたとしても、魔力で対抗されては、ついぞ逃れることはできなかったであろう。
そんな暮らしの中である日転機となる事件が起こった。
その日はたまたま父が外出していたので、姉二人はアルに買い出しを言いつけた。父がいればそのような危険なことはさせなかったであろう。
だが分別のつかない姉二人は、アルの秘密がバレるかもしれないというのに、自分たちのいびりを優先した。
「ほら、もう九歳にもなったんだから、出来損ないのあんたでも買い物くらい一人でいけるわよね?」
「で、でも姉さん。僕が一人で出かけて、もし秘密がバレたら大変なことになりますよ?それこそお父様や姉さんにも迷惑がかかるような……」
「ちょっとそこまで行くくらい大丈夫よ。それに、魔力布を羽織っていけば、精密検査でもされないかぎりバレやしないわ」
魔力布というのはアルの秘密を隠すために幼少期に母親が編んでくれた特性のマントで、それを羽織っていればマントが微量な魔力を帯びているので、アルの身体に魔力が流れていなくても違和感を感じられずに済むのだ。
「不安だ……」
その不安は杞憂に終わらず、現実のものとなる。
【あとがき】
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