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忌み子編
18.魔性の一族
しおりを挟む寝る時間になって、寝室ではまた二人きりになった。
「アル……その、今日はいっしょに寝ることになるのよね……」
ミュレットが緊張したおももちで訊く。
「そ、そうだね……」
気まずい沈黙が部屋を支配する。二人とも赤面が止まらない。
「その……何をしてもいいんだからね……?」
「……へ?」
ミュレットはミレーユの娘だけあって、少し年の割にませた子だ。
「な、なにを言っているんだ!? ぼぼぼぼ、僕はなんにもしないよ?」
アルはさらに顔を真っ赤にしてうろたえる。
「ふーん、まあ私は別に何をされてもオーケーだから……ね?」
「いやぁ……僕たちまだ子供なんだけど……?」
アルは中身は分別のある大人だ。子供にちょっと誘惑されたところで、それにほいほい乗るわけにはいかない。
「まだ……ってことは、大人になったらいいんだ?」
「そ、そうだね……ってなんでそうなるのさ!」
「じゃあアルは私のことが嫌いなの……?」
ミュレットが上目遣いでアルに顔を寄せる。
息遣いや心臓の鼓動まで聞こえる距離だ。
「いや、そんなことない……よ?」
「じゃあ好きってこと……?」
どう答えたものかとアルは迷う。
「あ、ああ明日も早く起きないといけないからもう寝ようか!」
とごまかして、アルは布団をかぶって背を向けた。
「もう! アルったら……」
ミュレットはがっかりしつつも自分も布団に入る。
そうしているうちにミュレットはすぐに寝てしまった。
どこででもすぐに寝られるタイプの子だ。
一方のアルはなかなか寝付けないでいた。
(ううう……こんな状況で寝られるわけないよ……)
背中にはミュレットの温かいぬくもりが伝わっている。
振り向けばキスできそうなくらい近くにミュレットの顔がある。
そして寝息をたててぐっすり眠っている彼女には、何をしても大丈夫だろう。
もしそれで目を覚ましたとしても、彼女はなにも抵抗しないだろう。
そう考えるともんもんとして眠れないのだ。
結局アルは、なんだか前にもこんなことがあったなとデジャヴを感じつつ、眠りに落ちた。
◇
明け方早く、アルは誰よりも早くに目を覚ますことになる。
びくっとした震えとともに、彼は飛び起きる。
嫌な予感を覚えつつ、下半身を確認する。
「はぁ……やっぱり、またか……」
きっと昨晩もんもんとしたまま眠りについたせいだろう。
幸いにもミュレットはまだ深い寝息をたてて眠っている。
「誰かが目を覚ますまえに、ズボンを洗う必要があるな」
アルは水洗い場へと直行した。
すると、途中でレミーユに出くわした。
アルが起きた物音で、目を覚ましたのだろうか。
「あら、アル……おはよう」
「お、おはようございます」
動揺して、声が変なところで裏返ってしまった。
不審に思ってレミーユがアルの身体を見渡すと、下半身が湿っていることに気がついた。
「あらあら、おもらししちゃったのかしら?」
レミーユはいたずらっ子の目でアルへ微笑む。ミレーユと同じ目だ。
「いやこれはその違うんです、その、とにかくおもらしなんかじゃありませんから!」
そこで彼女はなにかを察したようで、
「ああ、おもらしじゃなくて、そっちね……」
にやにやうふふという感じでレミーユはなぜか嬉しそうだ。
その微笑みはまさに魔性の女といった感じ。
「うう……見ないでくださぃ……」
アルはいたたまれなくなって、このまま小さくなって消えてしまいたくなった。
どうして彼女ら姉妹は、こうもひとを恥ずかしめてよろこぶのだろう。
「おいで、アル。ママが慰めてあげるから」
「レミーユさんまでミレーユさんと同じようなこと言わないでください!」
どうしてこの姉妹はすぐ他人を子供にしたがるのだろうか。とにかくママ属性が強すぎる。
(もしそのまま本当に身を委ねてしまったら、どこまでもダメにされそうな感じがする……)
「とにかく、ズボンを脱いで。私が洗ってあげるから」
拒否するも、むりやり脱がされ、洗われるアルなのであった。
ひと段落して、朝ごはんの前に、アルは紅茶を入れてもらった。
レミーユなりにアルを気遣って、落ち着くようにとはからったのだろう。
「ああ……この紅茶、ほんとうに美味しいです」
「それはよかったわ」
「さっきは、本当に見苦しいところをお見せしてしまって……」
「いいのよ。男の子だものね、しょうがないわ。だって、ミュレットと同じ布団で寝たのだものね。あの子に手を出さなかっただけでも偉いわ。あの子はおませさんだけど、あれでもまだまだ子供だからね」
「あはは……」
「そうねぇ……もし本当にがまんできなくなりそうだったら、いつでも私の部屋にきなさいね?」
「ぶふーーーーっっつぉ!!!!」
アルは勢いよく紅茶を吐き出した。
「なんってこと言うんですか!? 僕もまだ子供なんですよ!?」
「あらぁ? 私はホームシックで寂しかったらっていう意味でいったんだけれど? アル君はどういう想像をしていたのかしら?」
「っく……」
「うふふふふ……」
レミーユはミレーユよりもさらに一枚上手だなと感じるアルであった。
(本当に恐ろしい家族だ……)
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