37 / 56
学園編
3.剣術の授業
しおりを挟むアルのクラス、Fクラスの担任はやる気のない教師だった。
「はい、俺は剣術担当のハリヤマ・ハリネズミだ。魔法はぜんぜん教えられないからよろしくな」
魔法敵性の乏しいFクラスには、魔法が苦手な彼がお似合いだというのが教頭の狙いだった。
とはいっても彼も王立魔剣学院の教師であることに変わりはない。
魔法が苦手な分、彼は剣術に置いては学校随一の実力者だ。
「それじゃあおまえらの実力をみたいから一人づつ前に出てこい。相手してやる」
教室を出て、演習ホールにやって来た彼は、Fクラスに向けてそう言った。
「ようし、俺がいってやるぜ。俺は魔法はまだ勉強してないが、剣術なら村一番の実力者だったんだ。大人にも負けたことねえぜ」
太った小汚い生徒が、前に出た。いかにもなガキ大将といった手合いの人物で、こういった輩は決まって自分の実力を誇示したがる。
「ほう、生きのいい奴がいるな」
「先生、新入生に負けて恥をかくことになりますよ!」
太った生徒は、訓練用の木刀を構えて一直線に教師めがけて突っ込んだ。
だがその数秒後には彼は宙を舞っている。
「は?」
その場にいた誰もが、いや、アル以外の生徒は何が起こったのか全く分からなかった。
(ほう……あのハリヤマとかいう教師、やるなぁ……)
アルだけが唯一、なにが行われたのか正確に理解していた。
ようはハリヤマはとんでもない馬鹿力で太っちょ生徒の身体を投げ飛ばしたのだ。
それも、直接身体に触れることなく、剣での衝撃のみで。
「ふん、口ほどにもないな……。次、他にはだれかいないのか? 全員でかかってきてもいいぞ?」
ハリヤマがそう口にしたとたん、アル以外のほとんどの生徒がハリヤマに向かっていった。
「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」
「そりゃっ!」
だが生徒たちの猛攻もむなしく、みないちように投げ飛ばされていく。
「おい、あの教師、容赦ねえ……。バケモンだ……」
みなリタイアして、床にへたり込んでいる。中には意識を失って保健室へ運ばれる生徒もいた。
「おい、お前はかかってこないのか……?」
唯一まだ攻撃を仕掛けてこないアルを見て、教師は言った。
「いやぁ……僕がやっても結果は見えてますんで……」
「そんなこと言わずにかかってこい!」
「では、僕が勝ったら、剣術の授業を免除していただけますか……?」
「は……?」
「僕は一刻も早くAクラスに追いつきたいのです。そのためには退屈な剣術の授業などやっている暇はないのです」
「はっ! 言うねぇ……。まあ勝てたらいいだろ。まあもし本当にそんなことになったら、それこそ俺が教えることなんかないわけだしなぁ……。だがな、勝てたらの話だ。そういうからには剣に少しは覚えがあるみたいだが、俺をそこらの伊達の剣士とみくびってもらっちゃあ困るぜ?」
ハリヤマの目つきがかわる。アルの発言に、明らかに怒っているようだ。
(ふぅん……。相対しても僕の実力がわからないのか……。そりゃあ並みの剣士ではないな……。ポンコツ剣士ってとこだ……)
「じゃあ行きますよ!」
「おう、来い!」
次の瞬間、ハリヤマは宙にいた。
「は?」
アルは剣を抜きさえしなかった。
いや、抜くところが見えなかったのだ。
「どういう……ことだよ……」
そのまま地面にぶつかりハリヤマは意識を失った。
「あらら……やりすぎちゃったか……。でもあれくらいで気を失われてもなぁ……。手加減したつもりなんだけど……」
そう、この数年でアルは剣の腕もさらに磨いていたのだ。
「おいおいなんだよアイツ。なんであんなやつがFクラスなんだ……?」
必然、アルはクラスメイトたちからの注目を一身に集めることとなる。
以降クラスではアルの話題で持ちきりだった。
女生徒たちがよってたかってアルをもみくちゃにする。
剣の腕もさることながら、アルはいまではすっかり美少年だ。
「ねぇバーナモントくんって、どこで剣を習ったの?」
「いやぁ……しいて言うなら独学で……」
まさか前世でというわけにはいかない。
「私にも剣を教えて!」
「まあまたこんどね……」
(はぁ……はやくミュレットに会いたい……)
アルは女生徒たちのテンションとは裏腹に、上の空なのであった。
そして男子生徒たちからの視線が痛い。
「っは! あいつ魔力がないからFクラスなんだぜ。いくら剣の腕がいいからってFクラスのおちこぼれじゃあねぇ……。なんであんなキショいやつがモテるんだ?」
男子たちがやっかみの声を漏らす。
そこに女生徒たちがすかさずかみつく。
「ちょっとー男子! そんな言い方ないじゃない! 嫉妬なんてみっともないわよ。あんたたちだっておんなじFクラスじゃない。剣ができるだけバーナモントくんのほうが上よ。それにあんたたちみたいな無骨な男、モテないに決まってるじゃない! バーナモントくんみたいな美少年がここにいるんだもの!」
「な! 嫉妬じゃねえよ!」
クラスメイトたちはアルの扱いについて必至だ。
だが当の本人はというと。
(はぁ……帰りたい……)
アルは深くため息をついた。
12
あなたにおすすめの小説
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった
仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる