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武装

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(な、何だ…どうなっている?)

液体に包まれながら、コウはゆっくりと目を開けた。

その動きにシンクロして、オリジナルフィギュアも目を開けた。

(フィギュア?)

目の前に立つノアを見て、コウは呟くように言った。

まだ頭がぼおっとしており、体の感覚もなかった。

闇が包んでいるように思えたが、どこか優しく…安らぎを覚えていた。





「なぜ、動かん!」

白髭の老人は、立ち上がったオリジナルフィギュアがずっと、突っ立っていることに驚いていた。

敵が、前にいるのにである。

「戦かわんか!オリジナルフィギュアは、その為に!」

叫ぶ老人の腕を、整備員が掴んだ。

「ここは、危険です!早く避難を!」

「何をしている!戦え!」

絶叫する老人は、整備員に強引に連れていかれた。

格納庫から避難する整備員や軍人を尻目に、トニーは舌舐めずりをした。

「貰ってやるぞ!オリジナルフィギュアを!これで、貴様らと対等になれる!」

トニーは銃口を向けながら、ノアをゆっくりと動かした。

引き金を弾けば、玉が出る。

服も着ていない全裸のフィギュアは、撃たれた瞬間、脆くも血塗れになるように思えた。

「女型のフィギュア…。人形遊びの好きなオタクが作りそうな品物だぜ!」

トニーは銃口を向けながら、ノアを走らせた。

「ジャパニーズは、人形やアニメをつくってりゃ!よかったんだよ!」

興奮から威嚇の為に、銃弾をオリジナルフィギュアの足下に、着弾させた。

「怯えろ!」

床の一部が破裂し、破片がオリジナルフィギュアの太ももを切り裂いた。

「オリジナルフィギュアの癖に!何て脆い装甲だ!」

トニーは機体を止めると、銃口をオリジナルフィギュアの額に向けた。

「少佐!本当に、こいつがオリジナルフィギュアなのですか?量産機よりも劣りますよ」

トニーの通信を受け、フェーンはガルの攻撃を避けながら、答えた。

「間違いはない!早めに確保しろ!傷付けるなよ」

「すいません〜少佐。ちょっとだけ、傷をつけてしまいましたよ」

笑いながらのトニーの報告を聞いて、フェーンはある人物の言葉を思い出していた。

(少佐。初期のオリジナルフィギュアは、子犬と同じじゃ。傷付けなければ、簡単に奪うことができる。傷付けなければな)

その言葉を思い出したフェーンは、機体を格納庫に向けた。

「トニー!何か変化はないか!」

通信機に向かって叫んだ瞬間、格納庫の壁がふっ飛び、中からノアが飛び出してきた。

「少佐!」

トニーは、背中から倒れた機体を起き上がらす前に、マシンガンを格納庫内に向けて、ぶっぱなした。

「何があった!トニー!」

ここで突然、通信が切れた。

雑音が混ざり、通信不能になった。

それは、フェーン達ではなく…基地内すべての通信が使えなくなっていた。



「何がありましたか!第一格納庫、応答してください!」

管制室でオペレーターが、回線を何とか繋ごうとしていたが、まったく反応しなかった。

「駄目です!すべての通信が遮断されています」

「そうか…」

先程まで、いらいらしていた司令官は、何故か冷静に頷いた。




「何が起こっている!」

ガルで黄金の鳥を狙いながら、河村もそのことに気付いていた。

「少佐!」

足を破壊されながら、三機のブシを相手にしていたアーサーも、繋がらないことに気付いた。


「うわああっ!」

さっきとはうって変わって、軽いパニック状態になったトニーは、引き金を引き続けた。

爆煙の中、空いた壁より外に出てくるオリジナルフィギュアの姿を空中で、フェーンは確認し、眉を寄せた。

「あ、あれは!?」

オリジナルフィギュアの皮膚が、淡く光を発していた。

その為か、ノアが放つ銃弾は、すべて跳ね返されていた。




「はじまるぞ!」

整備員の腕を振り切り、格納庫から飛び出した老人は、オリジナルフィギュアを見上げた。 

「な、何だ!?」

破壊されたブシのユーテラスから脱出した真也もまた、ふらつく足で、外に出てきた。

「コーティングじゃ!」

歓喜の声を上げた老人の目の前で、オリジナルフィギュアはその姿を変えた。

実質的には、姿を変えたのではない。

皮膚の細胞が変わったのである。

あらゆる攻撃から、その身を守る為に。

全身が、白い真珠のような鎧に包まれ、ブロンドの髪だけが重力に逆らうように、逆立っていた。


「あの髪から、通信を遮断する電波が出されているのか」

オリジナルフィギュアの全身を、ユーテラスの中でスキャンしたフェーンは、機体の背中につけられたビームキャノンを地上に向けた。

「普通の機体なら、墜落されていたがな!」

機体を下に向けると、ノアに向かって立つオリジナルフィギュアに、照準を合わせた。

「させるかよ!」

河村は機体を滑らすと、フェーンの前に出て、マシンガンをぶっぱなした。

「フッ」

フェーンは笑うと、スピードを一気に上げ、ノアの横を通り過ぎた。

「な」

河村が見失ったと思った時には、黄金の鳥から放たれたビームは、オリジナルフィギュアを直撃していた。

しかし、オリジナルフィギュアには傷一つつかない。

「トニー!今の内だ!離れろ!」

通信が繋がっていないが、フェーンの行動を理解したトニーは、機体を起き上がらせた。

「すいません…少佐」

そのまま離れようとした瞬間、機体は再び地面に押し付けられた。

「な!」
「え!」

瞬きの間で、オリジナルフィギュアは距離を詰め、ノアの頭を掴むと、強引に背中から倒したのだ。


「仕方あるまい。彼女は目覚めたばかりだ…」

老人は、頭を下げた。


「どうなっている!?」

信じられない程の握力で、オリジナルフィギュアはノアの頭を握り潰した。

その為、痛みは共有していないが、トニーの視界は失われた。

ユーテラスの中で液体に包まれた…自分の目でしか見ることができなくなった。

ブースターを起動させて逃げようとしても、ノアはオリジナルフィギュアに押さえつけられて、身動きできない。


「そうじゃ…彼女の目的は!」

老人の目の前で、オリジナルフィギュアは二本の腕で、ノアを押さえつけたまま、口を…ノアの腹の下に持っていった。

そして、そのまま…ノアの装甲を噛んで剥がすと、露になった表面の肉に似た物質に口を近付けた。

肉を何度も噛みきっていると、ついにユーテラスにたどり着いた。

「うわあああ!」

トニーの視界が突然、開け…空とオリジナルフィギュアの顔が目に飛び込んできた。



「人が…」

隣に来て、唖然とする真也の言葉に、老人は首を横に振った。 

「彼女の狙いは、コアじゃ…。しかし、コアはコクピットの後ろにある」

老人は、オリジナルフィギュアに向けて合掌した。

「うぎゃあ!」

ユーテラスごと、噛み千切られたトニー。 

オリジナルフィギュアは、その後ろにあるコアを、口でもぎ取った。

その瞬間、機体の全身に伸びていた侵食が消えた。

ノアは形を維持することができなくなり、プロテクターの中で液体に戻った。

「フィギュアを喰うのか…」

真也の驚きに、老人は頷いた。

「実際には、コアをな。半永久的に動くと言われるオリジナルフィギュアの理由が、あれじゃよ。そして…」

ここで言葉を切ると、老人はノアから離れ、新しい獲物を求めて、立ち上がったオリジナルフィギュアに目をやった。

「やつらが、コアを生み続ける理由がある」

「理由?」

真也が、老人に訪ねている間に、オリジナルフィギュアはノアが持っていたマシンガンを手にすると、銃口をアーサーのノアに向けた。


「もう学んだか」

ため息をついた老人の前で、オリジナルフィギュアは、銃をぶっぱなした。

「トニー!アーサー!」

フェーンは機体を、急降下させ、後ろからオリジナルフィギュアを狙い撃ちしょうとした。

「あら〜もう起動しているのね」

通信が通じないはずなのに、フェーンはその声を聞いた。

「な!」

その瞬間、フェーンは機体を斜めにさせ、上空に逃げた。

背中に走った悪寒が、危険を告げたからだ。

「でも、間に合ったみたいね」

基地内に突然現れた…蛇のように長い胴体をもったフィギュア。

「チッ!来たのか!」

フェーンは舌打ちした。

「テラの新型に、鳥ちゃん。そして〜妹!」

ユーテラス内で、舌舐めずりにした女のパイロット。

彼女が乗るフィギュアの名は、陸奥。

オリジナルフィギュア…五番目の機体。
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