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異世界に転生してしまったようです

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♢ ♢ ♢




 簡潔に思い出したものをまとめてみれば、どうやら私は地球という星の日本という国に住んでいたただの大学生のようだった。当時、21歳。毎日それなりに充実した毎日を送っていたようだが、ある日の飲み会の帰り道、夜道を歩いているところで通り魔に遭い、刺されたようだ。薄れゆく意識の中で、やけに月が綺麗だったのを覚えている。


そのときに、私はその月に何かを願った。あれは、私は一体あのとき何を願ったのだろうか。




♢ ♢ ♢



……というところで目が覚めた。

まだぼんやりとする頭を押さえ、ゆっくりと体を起こせば、そこは見慣れた一室。

「お嬢様!!」
「ミーナ……」

声のした方を見ると昔から私のお付きをしてくれるメイドのミーナが心配そうに私に駆け寄ってくれるところだった。

「よかったです、目が覚められて」
「あれ?私……」
「レベッカ様が、お嬢様に失礼なことを言われて」

『その……』と言いよどむようにいうミーナ。

 そうだ。そうだった。あの令嬢は、レベッカという名前だったと思い出す。確か、マーベル家よりも下の下級貴族のご令嬢ではなかっただろうかとうろんな頭で思い出した。

「あぁ、私に魔力がないってことよね」
「……はい」
「レベッカ様は?」
「……一度、領地に戻っております。お嬢様の目が覚めて、後日処罰は言い渡すといってあります」

ミーナは恐る恐るというように私に言った。

「なんで?処罰?」
「……お嬢様に対する失言罪です」
「必要ないわ。だって、事実だもの」
「……え?」

 あっけらんという私に対して、ミーナはまるで空飛ぶペンギンでも見たように目を見張っている。この世にアリア・マーベルとして生まれてからペンギン見たことないから、この世界にペンギンがいるのかは定かではないけれども。

「だから、魔力がないのは事実だわ。たかがそれを言ったくらいで罪だなんておかしいでしょう」

 私に魔力がないのは、転生の影響かはわからない。前世も当然だが、魔力なんてなかった。けれども、それで困ったことなんてなかった。

 記憶を思い出す前ならば、失言罪でお父様に頼んで、一家もろとも僻地に飛ばしていたかもしれない。現に、レベッカを一度家に戻して、わざわざ私の目が覚めるまで待たせていたということは、お父様は私の意見を聞き入れようとしていたのだろう。

 しかしながらに、さきほど地球の日本という国で生きた21年分の記憶が入ってきた私としては、そんなことで罪だと問うのは違うと思うし、以前のように傲慢に振る舞うなんて持って、身が萎縮してできそうもない。そもそも、今回癇癪を起こした私が悪いし。うん、全面的に。


「……ですが」
「いいの。当の私が不問に処すと言っているのだから、お父様にもそう伝えて」
「かしこまりました」

 ミーナはどこか困惑したような表情を浮かべながらも私の言葉に頷いた。


♢ ♢ ♢






 私に丁寧に礼をしお父様に伝えに行ったミーナを見送って、そっとため息。

「しかし参ったわ」

 思わず独りごちて、ベットに仰向けに倒れ込む。

 前世の私は、本当は違う世界の住民で、死因が通り魔による刺殺。それだけで、正直ショッキングな出来事なのに。まぁ、死んでしまったものはしょうがない。そのまま死んだままではなく、こうして転生できたのだ。違う人生だけれども、十分にラッキーだ。現世のアリア・マーベルとして、今度の生こそ最後まで天寿を全うしよう。

 だから、それはもういい。私が、今頭を悩ませているのは、前世の自分が思い出したのは自分の死の原因だけではなかったのである。もう一つ重要なことを思い出した。これが、悩みなのである。

 何を思いだしたか…。それは、その自分のルーツというか、習性というか、何というか。

 一言で言ってしまえば、前世の私は「オタク」だったのである。アニメ、ゲーム、小説、漫画、とにかく、自分の好きな物に対しては、とことん追求するオタクだったのだ。

 そんな私は特に男性同士の恋愛を愛好するタイプのオタク。イケメン同士の戯れにトキメキを覚えていた。

 そう、属にいう「腐女子」という奴なのだ。

 そして、私がはまさに頭を悩ましている原因はこれである。

「……貴族令嬢が腐女子だなんて」

 まずい、絶対にまずい。いや、そもそも、こちらに腐女子という考え方があるのだろうか。


「……隠すしかないわね」

 結論、このようになる。これはバレるわけにはいかない。絶対に、だ。

「……はぁ」

深くため息をついて、ふと窓の外を見る。すると、外は当に真っ暗で、窓に反射して、現世の自分の顔を捉えた。現世での自分は、自分でもそれなりに整った顔をしていると思う。

「う~ん」

よりよく見るために周りを見渡せば、私が求めていたそれが見つかる。おそらく目を覚ました私が身支度を調えやすいように近くにミーナが置いてくれたのであろう手鏡を取って鏡をのぞき見る。

「……にしても、どこかで見たことがあるのよね」

亜麻色の軽くウェーブがかった長い髪に、エメラルドグリーンの瞳。桃色の唇はまだあどけない。
そう、前世の何かで……。

「……思い出せないわ」

 ただそれがどこで見たのか思い出せない。
 
 しばらく考えてみたけれど、これはもうお手上げだ。手鏡を元の机の上に置いて、ベットに寝っ転がって天井を見上げる。

「それに、困ったわ……」

前世を思い出した私には今の状況が耐えられない。というか物足りない。

 暇さえあれば某呟きサイトで男の子同士の恋愛を描いた神絵師さんの漫画にハートを投げたり、同人誌を買い漁って生きてきた。だからこそ、思うのだ。

「萌えが足りないわ……」と。

私の呟いた言葉は、思いの外広い部屋に大きく響き渡った。
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