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第三話 マルチーズのアイコンとスイーツの写真
9.新規予約
―夏都―
「ありがとうございました。またお待ちしてます」
午前中最後の客を見送り一息つく。奥の席では、彩さんがまだカットをしている。
「夏都くん、休憩入っていいよ」
「あ、はい」
明穂さんに声をかけてもらえたので、昼食を食べにバックヤードへ下がった。
ロッカーから、家で握ったおにぎりを入れた袋を持ってきてパイプ椅子に座る。ラップをむいて冷めたおにぎりをかじりながら、店のインスタアカウントを開いてDMのチェックを始めた。
常連客の予約リクエストに混じって、見たことのないアカウントを見つける。新規の予約のようだ。メッセージを開く。
『こんにちは。星谷夏都さんから名刺を頂いたので、予約したいのですが。明日は空いていますか』
このあいだ居酒屋で会った、女性客の友人だろうか。
アカウント名は『haruka』で、ふわふわと白い毛が可愛らしいマルチーズの写真がアイコンになっていた。
机の隅に置いてある、店のタブレットを手元に引き寄せる。自分の予約状況を確認してみると、午前中に空き枠があった。
『こんにちは、ご予約ありがとうございます。明日、空いています。内容は、いかがいたしますか?』
すると、すぐに返信があった。
『とりあえず短くしたいです。仕上がりはお任せします』
なんだか大雑把だな、と戸惑いながら返信を打つ。
『かしこまりました。明日の朝九時でお取りします。お名前をフルネームで頂戴してもよろしいですか?』
『真砂遙風です。まさご、はるかと読みます』
『真砂様ですね、ありがとうございます。明日のご来店、お待ちしております』
『お願いします』
「まさご、はるか……さん」
タブレットに名前を打ち、朝一番の枠に予約を入れる。カットだけならすぐに終わりそうだ。
どんな感じにしよう、と想像を膨らませる。とりあえず短く、ということは結構長い髪だろうか。
居酒屋で会った女性を思い浮かべる。あの人だとしたら、そんなに長さは無かったはずだ。でも真っ直ぐで、癖のない髪だった気がする。お任せしてくれるならアレンジのやり甲斐がありそうだ。
ふと、マルチーズのアイコンを押してみた。何かストーリーが投稿されている。
すると、タオルケットをかき抱いて無防備に寝ているマルチーズの姿がアップで表示された。
『ねてる』と一言キャプションが付いている。
「……かわいい」
つい顔が綻ぶ。一人暮らしなのでペットを飼っても面倒を見れる自信が無いが、動物は好きだった。
他にも写真あるかな、と興味本位で投稿写真を見てみる。マルチーズの写真に混ざって、美味しそうなスイーツの写真が出てきた。数枚しか投稿がないが、どれも犬か食べ物だった。
「お疲れ様でーす」
聖くんが休憩に来た。スマホから顔を上げる。
「あ、お疲れ」
「はー、お腹すいたー」
コンビニ袋を広げながら俺の向かい側に座ると、聖くんは開きっぱなしのタブレットに目を留めた。
「また新しい予約入りました?」
「ああ、うん。俺で予約入れた」
目元にかかってくる前髪を指で払う。そうだ、と聖くんが俺を見た。
「そういえば夏都さん、俺に髪切らせてくれるって言ってましたよね」
「ああ、そうやね。店、早く終わった時にやろっか」
「はい、じゃあ夏都さんの予約が混んでない日……なんて無いっすよねー。夏都さん人気だし」
「そんなことないよ」
「うそうそ。夏都さんが担当した女の人たち、帰る頃には全員目がハートになってるの、知ってるっすよ」
「またそんな……自分こそ、お客さんからご飯誘われたりとかしてるやん」
そういえば、とふと思い出す。
「この間の合コンはどうだった?」
「あー散々すよ。何も良いことなかったです」
「そうなの?それは残念」
「夏都さんこそどうでした?また行ったんですよね、あの居酒屋」
どきっとした。突っ返されたクマのハンカチを思い出す。
「ちゃんと行けました?俺、酔ってたから店の名前も覚えてなかったけど」
「あ、うん……あかり、かな?店の名前。読み方、自信ないけど」
「あかり?ひらがなでしたっけ」
「いや、漢字で」
「明るいって字ですか?」
「ちがう、こう……」
検索エンジンを開き、自分のスマホで打ってみせる。すると、候補に『居酒屋 灯』が出てきた。
「あ、ここじゃないっすか」
画面を覗き込みながら、聖くんが勝手にページをタップする。黒い背景に、白文字デザインのサイトが開く。
「お、インスタアカウントありますよ」
「ほんとだ」
開くと、料理や店内の写真、サービスのちらしなどの投稿写真が出てきた。一番最初の投稿文を読んでいくと、店の名前について言及されている。
「へえ、あかりって読むんすね。合ってたじゃないすか、夏都さん」
「ああ、ね」
投稿を見ながら、そういえばあの人の名前すら知らないことに気がついた。
どこかに店長の紹介が書いてないかと見てみるが、見つからない。店のホームページに戻ってみたが、やはり店長の名前は書いていなかった。
「何探してるんすか?」
「いや、名前……店長さん、なんて言うのかなって」
「何でそんなこと気になるんすか?」
「……え」
聞かれ、目が泳ぐ。
「ほ、ほら。もしかしたら店の名前、店長さんの名前なのかなって思ったから」
「あー、なるほど。うちの店もそうですもんね。店長が小畑明穂、だからリトルブライトでしょ?」
「そうそう」
頷きながら、インスタのアカウントを自分のプライベート用に切り替える。
もう一度『居酒屋 灯』を探し、こっそりフォローボタンを押した。
「ありがとうございました。またお待ちしてます」
午前中最後の客を見送り一息つく。奥の席では、彩さんがまだカットをしている。
「夏都くん、休憩入っていいよ」
「あ、はい」
明穂さんに声をかけてもらえたので、昼食を食べにバックヤードへ下がった。
ロッカーから、家で握ったおにぎりを入れた袋を持ってきてパイプ椅子に座る。ラップをむいて冷めたおにぎりをかじりながら、店のインスタアカウントを開いてDMのチェックを始めた。
常連客の予約リクエストに混じって、見たことのないアカウントを見つける。新規の予約のようだ。メッセージを開く。
『こんにちは。星谷夏都さんから名刺を頂いたので、予約したいのですが。明日は空いていますか』
このあいだ居酒屋で会った、女性客の友人だろうか。
アカウント名は『haruka』で、ふわふわと白い毛が可愛らしいマルチーズの写真がアイコンになっていた。
机の隅に置いてある、店のタブレットを手元に引き寄せる。自分の予約状況を確認してみると、午前中に空き枠があった。
『こんにちは、ご予約ありがとうございます。明日、空いています。内容は、いかがいたしますか?』
すると、すぐに返信があった。
『とりあえず短くしたいです。仕上がりはお任せします』
なんだか大雑把だな、と戸惑いながら返信を打つ。
『かしこまりました。明日の朝九時でお取りします。お名前をフルネームで頂戴してもよろしいですか?』
『真砂遙風です。まさご、はるかと読みます』
『真砂様ですね、ありがとうございます。明日のご来店、お待ちしております』
『お願いします』
「まさご、はるか……さん」
タブレットに名前を打ち、朝一番の枠に予約を入れる。カットだけならすぐに終わりそうだ。
どんな感じにしよう、と想像を膨らませる。とりあえず短く、ということは結構長い髪だろうか。
居酒屋で会った女性を思い浮かべる。あの人だとしたら、そんなに長さは無かったはずだ。でも真っ直ぐで、癖のない髪だった気がする。お任せしてくれるならアレンジのやり甲斐がありそうだ。
ふと、マルチーズのアイコンを押してみた。何かストーリーが投稿されている。
すると、タオルケットをかき抱いて無防備に寝ているマルチーズの姿がアップで表示された。
『ねてる』と一言キャプションが付いている。
「……かわいい」
つい顔が綻ぶ。一人暮らしなのでペットを飼っても面倒を見れる自信が無いが、動物は好きだった。
他にも写真あるかな、と興味本位で投稿写真を見てみる。マルチーズの写真に混ざって、美味しそうなスイーツの写真が出てきた。数枚しか投稿がないが、どれも犬か食べ物だった。
「お疲れ様でーす」
聖くんが休憩に来た。スマホから顔を上げる。
「あ、お疲れ」
「はー、お腹すいたー」
コンビニ袋を広げながら俺の向かい側に座ると、聖くんは開きっぱなしのタブレットに目を留めた。
「また新しい予約入りました?」
「ああ、うん。俺で予約入れた」
目元にかかってくる前髪を指で払う。そうだ、と聖くんが俺を見た。
「そういえば夏都さん、俺に髪切らせてくれるって言ってましたよね」
「ああ、そうやね。店、早く終わった時にやろっか」
「はい、じゃあ夏都さんの予約が混んでない日……なんて無いっすよねー。夏都さん人気だし」
「そんなことないよ」
「うそうそ。夏都さんが担当した女の人たち、帰る頃には全員目がハートになってるの、知ってるっすよ」
「またそんな……自分こそ、お客さんからご飯誘われたりとかしてるやん」
そういえば、とふと思い出す。
「この間の合コンはどうだった?」
「あー散々すよ。何も良いことなかったです」
「そうなの?それは残念」
「夏都さんこそどうでした?また行ったんですよね、あの居酒屋」
どきっとした。突っ返されたクマのハンカチを思い出す。
「ちゃんと行けました?俺、酔ってたから店の名前も覚えてなかったけど」
「あ、うん……あかり、かな?店の名前。読み方、自信ないけど」
「あかり?ひらがなでしたっけ」
「いや、漢字で」
「明るいって字ですか?」
「ちがう、こう……」
検索エンジンを開き、自分のスマホで打ってみせる。すると、候補に『居酒屋 灯』が出てきた。
「あ、ここじゃないっすか」
画面を覗き込みながら、聖くんが勝手にページをタップする。黒い背景に、白文字デザインのサイトが開く。
「お、インスタアカウントありますよ」
「ほんとだ」
開くと、料理や店内の写真、サービスのちらしなどの投稿写真が出てきた。一番最初の投稿文を読んでいくと、店の名前について言及されている。
「へえ、あかりって読むんすね。合ってたじゃないすか、夏都さん」
「ああ、ね」
投稿を見ながら、そういえばあの人の名前すら知らないことに気がついた。
どこかに店長の紹介が書いてないかと見てみるが、見つからない。店のホームページに戻ってみたが、やはり店長の名前は書いていなかった。
「何探してるんすか?」
「いや、名前……店長さん、なんて言うのかなって」
「何でそんなこと気になるんすか?」
「……え」
聞かれ、目が泳ぐ。
「ほ、ほら。もしかしたら店の名前、店長さんの名前なのかなって思ったから」
「あー、なるほど。うちの店もそうですもんね。店長が小畑明穂、だからリトルブライトでしょ?」
「そうそう」
頷きながら、インスタのアカウントを自分のプライベート用に切り替える。
もう一度『居酒屋 灯』を探し、こっそりフォローボタンを押した。
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