34 / 35
第十四話 また来年も桜は咲く
scene34 想い出
しおりを挟む
ー透人ー
最初はメリーゴーランドなんて大人しいものに乗っていたのに、その次にはコーヒーカップに乗せられ、勢いよくハンドルを回されて目が回ってしまった。
「名木ちゃん、三半規管弱いなあ」
「桃瀬さんがおかしいんですよっ」
眩暈をこらえながらふらふらと歩いていると、あ、と桃瀬さんが指をさしたのは巨大な観覧車だった。
「観覧車乗ろうよ」
もう何も言う気が起きず、黙って頷いてついて行く。
「もうこれで最後かなあ。だいぶ暗くなってきちゃったね」
「そうですね……」
向かい合って座ると、ゆっくりとゴンドラが上昇していく。
「頂上着く頃には真っ暗かなあ。夜景、綺麗に見えたらロマンチックだね」
言われて下を見る。まだ地上が近いけれど、ちらほらと街に明かりが灯っていく様子が見えた。
「桃瀬さん、具合悪くないですか?」
心配になって聞くけれど、桃瀬さんは苦笑して首を横に振るだけだった。
「心配性だなあ、名木ちゃん」
「心配するに決まってるじゃないですか。俺、桃瀬さんの病気の事よく知らないし」
世良さんに、桃瀬さんの病状について聞いてみたけれど、家族でもないのに勝手に話せない、とすげなくあしらわれてしまったのだ。
「病気の事だけじゃなくて俺、桃瀬さんのこと、何も知らない……」
「俺だって名木ちゃんの事、ほとんど知らないよ?」
そう言うと、桃瀬さんは指を折って数え始めた。
「知ってる事って言ったら、背が高い事でしょ。前髪はいつも左から流してる事でしょ。あとは裕斗と同じ会社に勤めてる事と、めっちゃお酒に弱い事」
それと、と言って、最後の小指をゆっくり内側に折る。
「俺の作る、キャラメルラテが好き」
伏し目がちだった顔を上げ、俺を見る。
「ね。俺だってこれくらいしか知らないよ」
そう言って笑ってみせる。
「名木ちゃんは、俺の事どれくらい知ってる?」
言われて考えるけれど、本当に何も思い浮かばない。
「……手が小さくて。桜色の髪が綺麗で。コーヒー飲めないのに、バリスタしてて」
それと、と続ける声が小さくなる。
「心臓が、悪い……」
あとは知りません、と俯きがちに付け加える。
「そっかあ。じゃあ何から話そうかな」
言いながら桃瀬さんは、外を見た。
「生まれた時はね、元気だったんだよ。元々活発な性格じゃないから、外で走り回るよりも、家でゲームとかしてる方が好きな子供だったけどね」
ゴンドラは地上から半分くらい上昇していて、街に灯る明かりの数もさっきよりずっと増えてきた。
「小学校の、五年生の時だったかな。学校の検診で心電図検査があってさ。その時に偶然分かったんだ」
桃瀬さんが自分の病名を口にする。
「……聞いたことないです」
「だよね。俺も自分が罹らなかったら、きっと知らなかったと思う」
ゴンドラが軋む。所々が錆びているから、結構古いのかもしれない。
「それで、世良の父親が勤めてる病院に連れて行かれてさ。うちの両親も医者なんだけど、専門が畑違いなもんだから。あ。世良の父親とうちの父親は、大学の同級生なんだよ。それであいつとは幼馴染なの」
「ご両親、お医者さんなんですか?」
「うん。父親は今ロサンゼルスで研究職してて」
「ロサンゼルス?」
「そう。ずっと単身赴任。ていうかもう、別居状態かな。母親は都内で開業医してる。婦人科医だから、心臓のことは専門外なんだよね。名木ちゃんのご両親は何してるの?」
「うちは二人とも、千葉の田舎で公務員してます」
「ああそっか、名木ちゃんの実家は千葉だったね」
「えっ、何で知ってるんですか?」
「さあ?何ででしょう」
笑って、桃瀬さんは細い足を組み替える。
「そんなところかな。あとは何が知りたい?」
「……雅孝さんとは、本当に別れたんですか?」
「まだそれ気にしてたの?半年前に別れたって言ったじゃん」
「でも、まだ交流は続いてるんですね」
「違うって。向こうが俺に未練あるのか……たぶん、心配してくれてるんだろうけど」
桃瀬さんの表情が、ふと真顔になった。
「桃瀬さん?」
「あのね、名木ちゃん」
俺の方を見た、桃瀬さんの瞳が潤んで見えた。
「俺の心臓、もうダメなんだってさ」
頭が、真っ白になった。
「え……ダメ、ってどういう事?」
「手術しないと、もう保たないらしい」
「手術したら治るんですか?」
「今よりはマシになる、かも」
「なら早く手術を……っ」
「でもね、成功確率は五分五分なんだって」
「え?」
「失敗したら、死んじゃうかも知れないって事」
「……」
淡々と話される内容に思考が追い付かず、黙ってしまう。
そんな俺を見て、桃瀬さんは哀しげに微笑んだ。
「俺さ、たぶんほんとは怖かったんだ。今更いつどうなってもいいつもりで生きてたけど、死ぬかもって思ったらやっぱり怖くて、ずっと逃げてた」
桃瀬さんはどこか無理したように、いつも通り笑ってみせようとする。
「でも、もう逃げるわけにはいかないじゃん?死んだら、名木ちゃんが悲しむかもしれないからね」
死んだら。
桃瀬さんが、死んだら?
「……名木ちゃん、こないだから泣いてばっかりだなあ」
ぼろぼろと涙をこぼし始めた俺に苦笑して、桃瀬さんが向かい側から手を伸ばしてくる。
俺の頬に流れた涙を拭ってくれる、小さな手を掴んだ。
「嫌です、桃瀬さん……っ、死んじゃ、嫌です……!」
「なら、勇気出さなきゃね。こんなに俺の事を想って泣いてくれる、愛しい名木ちゃんの為にも」
桃瀬さんは立ち上がると、俺の隣に腰掛けた。
「俺さあ、観覧車乗ったらやりたい事があったんだよね」
手を握ったまま、桃瀬さんがゴンドラの窓から下を見る。
「もうすぐ、てっぺんだ」
それがどうしたのかと思ったら、不意に顔が近づいて唇を塞がれた。
柔らかな桃瀬さんの唇から伝わる温もりを感じて、胸が苦しくなる。
唇を離すと、桃瀬さんは照れたように笑った。
「観覧車の一番上に来たら、ちゅーしたかったの」
「……っ」
ますます涙が止まらない俺に呆れたように、もう、と言いながら頭を撫でてくれる。そっと、そのまま抱きしめられた。
「すきだよ、名木ちゃん」
耳元で囁く声が、優しくて、哀しげで……切なくて。
「永遠なんて信じてないけれど、俺はもう少しだけ名木ちゃんの側にいたい。必ず生きて帰ってくるから、待っててくれる?」
「当たり前です……!」
小柄な体を、精一杯抱きしめ返した。
時々錆びついた音が鳴るゴンドラの中で、何度もキスをした。段々と地上が近づいてくる。外はもう、真っ暗だ。
「名木ちゃんは本当、泣き虫だね」
いつまでも啜り泣く俺の背中を撫でながら、桃瀬さんは困ったように笑う。
「そんなに泣いてばかりいたら、心配になるじゃん。俺が死んで一人になったらどうするの?」
「そんな事言わないで……っ」
「名木ちゃん、何度も言ってるでしょ。永遠なんてない。人はいつか死ぬから、生きている今を愛おしく感じられるんだよ」
「やめてよ……っ」
地上が、もうすぐそこまで近づいてくる。それが何故か怖くなって、桃瀬さんにしがみついた。
嫌だ、終わらないで。
ここから出たら、止まってたはずの時が動き出してしまうようで、怖い。
ずっとこのまま桃瀬さんと二人でいたいのに。
「たとえ俺が死んでも、いつまでも泣いてちゃだめだよ。俺がいなくなっても時間は進むんだから。立ち止まったまま取り残されたりしないように、ちゃんと前を向いて歩いて」
「遺言みたいなこと言わないで」
「言える時に言っておかないと後悔するじゃん」
「今すぐ死ぬみたいな事言わないでよ……!」
「そんな事は分からないよ。名木ちゃんだって、いつ何があって死ぬか分からないのに」
とうとう乗り場に戻って来てしまった。係の人がゴンドラの鍵を開ける。桃瀬さんは泣いてる俺の顔を見られないように先に降りて、俺の手を引いたまま前に立って、歩き出す。
「名木ちゃん、そんなすごい顔で電車乗る気?」
「ならこれ以上、悲しくなる事言うのやめてください」
桃瀬さんは遊園地の入り口の手前で振り返ると、嗚咽を堪えて口元を押さえていた俺の手を退け、背伸びしてキスをした。
「名木ちゃん、俺はここにいるよ?」
いつか桜の木の下でそう言った時みたいに、小さくて赤ちゃんみたいな手を、俺の手に絡めて見せてくれる。
「今日の事を忘れないで。一緒に遊園地に来て、観覧車の一番てっぺんでキスしたこと」
「……っ」
「真っ暗で夜景が綺麗だったでしょ、見た?」
首を横に振る。ずっと泣いていて、外を見る余裕なんてなかった。
「ひどいなあ。じゃあ……俺の唇の感触は覚えてる?」
こくりと頷くと、桃瀬さんは小さく微笑んだ。
「忘れないでいて。俺も、忘れないから」
何も言えなくて頷くしかできない俺の髪を撫でながら、帰ろうか、と言う桃瀬さんの手を引き寄せる。
「桃瀬さん」
「うん?」
「桜は毎年咲きます。たとえすぐに散ってしまっても、必ず来年また咲くから……!」
ぎゅ、と、俺より小さな手を握る。
「だから、そんな風に諦めないで。死なないで。生きてください。お願いだから……!」
「……うん」
頷いてくれた桃瀬さんの目尻から一筋、涙がこぼれ落ちた。
最初はメリーゴーランドなんて大人しいものに乗っていたのに、その次にはコーヒーカップに乗せられ、勢いよくハンドルを回されて目が回ってしまった。
「名木ちゃん、三半規管弱いなあ」
「桃瀬さんがおかしいんですよっ」
眩暈をこらえながらふらふらと歩いていると、あ、と桃瀬さんが指をさしたのは巨大な観覧車だった。
「観覧車乗ろうよ」
もう何も言う気が起きず、黙って頷いてついて行く。
「もうこれで最後かなあ。だいぶ暗くなってきちゃったね」
「そうですね……」
向かい合って座ると、ゆっくりとゴンドラが上昇していく。
「頂上着く頃には真っ暗かなあ。夜景、綺麗に見えたらロマンチックだね」
言われて下を見る。まだ地上が近いけれど、ちらほらと街に明かりが灯っていく様子が見えた。
「桃瀬さん、具合悪くないですか?」
心配になって聞くけれど、桃瀬さんは苦笑して首を横に振るだけだった。
「心配性だなあ、名木ちゃん」
「心配するに決まってるじゃないですか。俺、桃瀬さんの病気の事よく知らないし」
世良さんに、桃瀬さんの病状について聞いてみたけれど、家族でもないのに勝手に話せない、とすげなくあしらわれてしまったのだ。
「病気の事だけじゃなくて俺、桃瀬さんのこと、何も知らない……」
「俺だって名木ちゃんの事、ほとんど知らないよ?」
そう言うと、桃瀬さんは指を折って数え始めた。
「知ってる事って言ったら、背が高い事でしょ。前髪はいつも左から流してる事でしょ。あとは裕斗と同じ会社に勤めてる事と、めっちゃお酒に弱い事」
それと、と言って、最後の小指をゆっくり内側に折る。
「俺の作る、キャラメルラテが好き」
伏し目がちだった顔を上げ、俺を見る。
「ね。俺だってこれくらいしか知らないよ」
そう言って笑ってみせる。
「名木ちゃんは、俺の事どれくらい知ってる?」
言われて考えるけれど、本当に何も思い浮かばない。
「……手が小さくて。桜色の髪が綺麗で。コーヒー飲めないのに、バリスタしてて」
それと、と続ける声が小さくなる。
「心臓が、悪い……」
あとは知りません、と俯きがちに付け加える。
「そっかあ。じゃあ何から話そうかな」
言いながら桃瀬さんは、外を見た。
「生まれた時はね、元気だったんだよ。元々活発な性格じゃないから、外で走り回るよりも、家でゲームとかしてる方が好きな子供だったけどね」
ゴンドラは地上から半分くらい上昇していて、街に灯る明かりの数もさっきよりずっと増えてきた。
「小学校の、五年生の時だったかな。学校の検診で心電図検査があってさ。その時に偶然分かったんだ」
桃瀬さんが自分の病名を口にする。
「……聞いたことないです」
「だよね。俺も自分が罹らなかったら、きっと知らなかったと思う」
ゴンドラが軋む。所々が錆びているから、結構古いのかもしれない。
「それで、世良の父親が勤めてる病院に連れて行かれてさ。うちの両親も医者なんだけど、専門が畑違いなもんだから。あ。世良の父親とうちの父親は、大学の同級生なんだよ。それであいつとは幼馴染なの」
「ご両親、お医者さんなんですか?」
「うん。父親は今ロサンゼルスで研究職してて」
「ロサンゼルス?」
「そう。ずっと単身赴任。ていうかもう、別居状態かな。母親は都内で開業医してる。婦人科医だから、心臓のことは専門外なんだよね。名木ちゃんのご両親は何してるの?」
「うちは二人とも、千葉の田舎で公務員してます」
「ああそっか、名木ちゃんの実家は千葉だったね」
「えっ、何で知ってるんですか?」
「さあ?何ででしょう」
笑って、桃瀬さんは細い足を組み替える。
「そんなところかな。あとは何が知りたい?」
「……雅孝さんとは、本当に別れたんですか?」
「まだそれ気にしてたの?半年前に別れたって言ったじゃん」
「でも、まだ交流は続いてるんですね」
「違うって。向こうが俺に未練あるのか……たぶん、心配してくれてるんだろうけど」
桃瀬さんの表情が、ふと真顔になった。
「桃瀬さん?」
「あのね、名木ちゃん」
俺の方を見た、桃瀬さんの瞳が潤んで見えた。
「俺の心臓、もうダメなんだってさ」
頭が、真っ白になった。
「え……ダメ、ってどういう事?」
「手術しないと、もう保たないらしい」
「手術したら治るんですか?」
「今よりはマシになる、かも」
「なら早く手術を……っ」
「でもね、成功確率は五分五分なんだって」
「え?」
「失敗したら、死んじゃうかも知れないって事」
「……」
淡々と話される内容に思考が追い付かず、黙ってしまう。
そんな俺を見て、桃瀬さんは哀しげに微笑んだ。
「俺さ、たぶんほんとは怖かったんだ。今更いつどうなってもいいつもりで生きてたけど、死ぬかもって思ったらやっぱり怖くて、ずっと逃げてた」
桃瀬さんはどこか無理したように、いつも通り笑ってみせようとする。
「でも、もう逃げるわけにはいかないじゃん?死んだら、名木ちゃんが悲しむかもしれないからね」
死んだら。
桃瀬さんが、死んだら?
「……名木ちゃん、こないだから泣いてばっかりだなあ」
ぼろぼろと涙をこぼし始めた俺に苦笑して、桃瀬さんが向かい側から手を伸ばしてくる。
俺の頬に流れた涙を拭ってくれる、小さな手を掴んだ。
「嫌です、桃瀬さん……っ、死んじゃ、嫌です……!」
「なら、勇気出さなきゃね。こんなに俺の事を想って泣いてくれる、愛しい名木ちゃんの為にも」
桃瀬さんは立ち上がると、俺の隣に腰掛けた。
「俺さあ、観覧車乗ったらやりたい事があったんだよね」
手を握ったまま、桃瀬さんがゴンドラの窓から下を見る。
「もうすぐ、てっぺんだ」
それがどうしたのかと思ったら、不意に顔が近づいて唇を塞がれた。
柔らかな桃瀬さんの唇から伝わる温もりを感じて、胸が苦しくなる。
唇を離すと、桃瀬さんは照れたように笑った。
「観覧車の一番上に来たら、ちゅーしたかったの」
「……っ」
ますます涙が止まらない俺に呆れたように、もう、と言いながら頭を撫でてくれる。そっと、そのまま抱きしめられた。
「すきだよ、名木ちゃん」
耳元で囁く声が、優しくて、哀しげで……切なくて。
「永遠なんて信じてないけれど、俺はもう少しだけ名木ちゃんの側にいたい。必ず生きて帰ってくるから、待っててくれる?」
「当たり前です……!」
小柄な体を、精一杯抱きしめ返した。
時々錆びついた音が鳴るゴンドラの中で、何度もキスをした。段々と地上が近づいてくる。外はもう、真っ暗だ。
「名木ちゃんは本当、泣き虫だね」
いつまでも啜り泣く俺の背中を撫でながら、桃瀬さんは困ったように笑う。
「そんなに泣いてばかりいたら、心配になるじゃん。俺が死んで一人になったらどうするの?」
「そんな事言わないで……っ」
「名木ちゃん、何度も言ってるでしょ。永遠なんてない。人はいつか死ぬから、生きている今を愛おしく感じられるんだよ」
「やめてよ……っ」
地上が、もうすぐそこまで近づいてくる。それが何故か怖くなって、桃瀬さんにしがみついた。
嫌だ、終わらないで。
ここから出たら、止まってたはずの時が動き出してしまうようで、怖い。
ずっとこのまま桃瀬さんと二人でいたいのに。
「たとえ俺が死んでも、いつまでも泣いてちゃだめだよ。俺がいなくなっても時間は進むんだから。立ち止まったまま取り残されたりしないように、ちゃんと前を向いて歩いて」
「遺言みたいなこと言わないで」
「言える時に言っておかないと後悔するじゃん」
「今すぐ死ぬみたいな事言わないでよ……!」
「そんな事は分からないよ。名木ちゃんだって、いつ何があって死ぬか分からないのに」
とうとう乗り場に戻って来てしまった。係の人がゴンドラの鍵を開ける。桃瀬さんは泣いてる俺の顔を見られないように先に降りて、俺の手を引いたまま前に立って、歩き出す。
「名木ちゃん、そんなすごい顔で電車乗る気?」
「ならこれ以上、悲しくなる事言うのやめてください」
桃瀬さんは遊園地の入り口の手前で振り返ると、嗚咽を堪えて口元を押さえていた俺の手を退け、背伸びしてキスをした。
「名木ちゃん、俺はここにいるよ?」
いつか桜の木の下でそう言った時みたいに、小さくて赤ちゃんみたいな手を、俺の手に絡めて見せてくれる。
「今日の事を忘れないで。一緒に遊園地に来て、観覧車の一番てっぺんでキスしたこと」
「……っ」
「真っ暗で夜景が綺麗だったでしょ、見た?」
首を横に振る。ずっと泣いていて、外を見る余裕なんてなかった。
「ひどいなあ。じゃあ……俺の唇の感触は覚えてる?」
こくりと頷くと、桃瀬さんは小さく微笑んだ。
「忘れないでいて。俺も、忘れないから」
何も言えなくて頷くしかできない俺の髪を撫でながら、帰ろうか、と言う桃瀬さんの手を引き寄せる。
「桃瀬さん」
「うん?」
「桜は毎年咲きます。たとえすぐに散ってしまっても、必ず来年また咲くから……!」
ぎゅ、と、俺より小さな手を握る。
「だから、そんな風に諦めないで。死なないで。生きてください。お願いだから……!」
「……うん」
頷いてくれた桃瀬さんの目尻から一筋、涙がこぼれ落ちた。
10
あなたにおすすめの小説
オメガはオメガらしく生きろなんて耐えられない
子犬一 はぁて
BL
「オメガはオメガらしく生きろ」
家を追われオメガ寮で育ったΩは、見合いの席で名家の年上αに身請けされる。
無骨だが優しく、Ωとしてではなく一人の人間として扱ってくれる彼に初めて恋をした。
しかし幸せな日々は突然終わり、二人は別れることになる。
5年後、雪の夜。彼と再会する。
「もう離さない」
再び抱きしめられたら、僕はもうこの人の傍にいることが自分の幸せなんだと気づいた。
彼は温かい手のひらを持つ人だった。
身分差×年上アルファ×溺愛再会BL短編。
兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?
perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。
その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。
彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。
……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。
口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。
――「光希、俺はお前が好きだ。」
次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。
愛おしい、君との週末配信☆。.:*・゜
立坂雪花
BL
羽月優心(はづきゆうしん)が
ビーズで妹のヘアゴムを作っていた時
いつの間にかクラスメイトたちの
配信する動画に映りこんでいて
「誰このエンジェル?」と周りで
話題になっていた。
そして優心は
一方的に嫌っている
永瀬翔(ながせかける)を
含むグループとなぜか一緒に
動画配信をすることに。
✩.*˚
「だって、ほんの一瞬映っただけなのに優心様のことが話題になったんだぜ」
「そうそう、それに今年中に『チャンネル登録一万いかないと解散します』ってこないだ勢いで言っちゃったし……だからお願いします!」
そんな事情は僕には関係ないし、知らない。なんて思っていたのに――。
見た目エンジェル
強気受け
羽月優心(はづきゆうしん)
高校二年生。見た目ふわふわエンジェルでとても可愛らしい。だけど口が悪い。溺愛している妹たちに対しては信じられないほどに優しい。手芸大好き。大好きな妹たちの推しが永瀬なので、嫉妬して永瀬のことを嫌いだと思っていた。だけどやがて――。
×
イケメンスパダリ地方アイドル
溺愛攻め
永瀬翔(ながせかける)
優心のクラスメイト。地方在住しながらモデルや俳優、動画配信もしている完璧イケメン。優心に想いをひっそり寄せている。優心と一緒にいる時間が好き。前向きな言動多いけれど実は内気な一面も。
恋をして、ありがとうが溢れてくるお話です🌸
***
お読みくださりありがとうございます
可愛い両片思いのお話です✨
表紙イラストは
ミカスケさまのフリーイラストを
お借りいたしました
✨更新追ってくださりありがとうございました
クリスマス完結間に合いました🎅🎄
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
鈴木さんちの家政夫
ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
孤毒の解毒薬
紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。
中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。
不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。
【登場人物】
西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。
白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。
三ヶ月だけの恋人
perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。
殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。
しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。
罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。
それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる