テツとぼく 丑の刻詣り編

桜小径

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丑の刻詣りの現場

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次の夜、テツのお兄を連れて三人で、夏休みとはいえ深夜の公園に向かった。

公園について、しばらくすると山の中から「コーン」と音が響いてきた。

ぼくはテツ兄弟に向かって「始まったみたいやで」と言った。

テツは勇躍「さあ、行こ」。

テツのお兄は眠そうなまま動き出した。

山を登ってるうちに目が覚めてきたのか、テツのお兄はいつの間にか先頭にたって、棒で草を薙ぎ払いつつ現場への速度を早めた。

野球選手で身体も大きいので、小学生の僕らより山を登るのも早い。

テツのお兄が立ち止まって、こちらを向いた。

「やってやがる」

現場の方を見ると、蝋燭をいっばい立てて白装束を来た若目の女性が脚立を精一杯伸ばした上に登り、五寸釘を打っている。

「見た事ある」

テツのお兄は僕らに向かって小さな声で言った。

「知り合い?」

テツが聞いた。

「中学校の先輩女子や」

と、テツのお兄は答えた。

しばらく僕たちはその夢うつつが行き来する場面に見とれていた。

先輩が脚立から降りてきた。そのタイミングを計ってたのか、テツのお兄はその娘に声をかけた。

「南先輩ちゃうん?」

南先輩と呼ばれた娘は、心底驚いた顔をしてこっちを見た。無言のまま。

こちらを確認した娘は、慌てて脚立も蝋燭の火をそのままに、山の反対側、神社の方に逃げだした。

テツは「火事になるで」と言いながら、蝋燭を消す。

灯りはテツが持っている懐中電灯だけだ。

テツは辺りの木の上を照らす。藁人形の下には鶏の首も釘で打ち込まれていた。

僕は「こわー」と言ってその鶏の首を見上げた。

さっきまで静かだった山の虫や山鳥が鳴き始めた。

「えらいモン見てもたな」

テツのお兄は呟いた。

ぼくとテツは興味津々で現場のあちこちを見た。五寸釘も金槌も放りっぱなしだ。

よほど慌てたのだろう。

テツのお兄の学校の先輩といえば、まだ15歳。

そんな娘が何を呪っていたのか?

テツのお兄はいつの間にか脚立を立てて、藁人形の下に貼ってあった半紙をちぎりとった。

誰かの名前が書いてある。墨ではなく鶏の血で書かれた半紙だ。テツのお兄はその半紙も踏みつけて地面に埋めた。

テツのお兄は、蝋燭を地面に踏み込んで、完全に消したあと、こっちを振り向いて「帰ろか」と言った。

帰り道、テツはお兄に誰?としつこく聞いたが、お兄はだまったまんまだった。

公園の外まで出てくると、テツのお兄は僕らに向かって言った。

「内緒な。誰にも言うなよ」

と、言ってまた眠そうにあくびをして先に帰ってしまった。

ぼくとテツは「見いたなあー」とな言われるとか思ってたので、ちょっと拍子抜けだった。

「何の呪いやろなあ」

「さあ、お兄に聞いたらわかるやろ。オレらも帰ろう。聞いとくわ」

と、僕らはそこで解散した。ぼくは興奮して眠れずまた天井のアラビアの王子とにらめっこしていた。そのうち明るくなってきた。

数時間後のラジオ体操の時間。パトカーの音が神社の方で響いた。

ラジオ体操そっちのけで、ぼくとテツは神社の方へ向かった。

ちょうど、白装束の女の子とその母親らしき人がパトカーに乗り込んだ。

しばらく眺めていると近所の人がわらわらと出てきた。

数分、パトカーの中で話していた親子は警官と一緒に神社に登って行った。女の子は泣いていた。

着いて行こうとしたら、近所のエラそうなジジイが「子どもは帰れ!」と怒鳴った。

僕らは仕方なく、ラジオ体操の会場に向かった。

「何やったんやろな」

と僕はテツに聞いた。

「恋、らしいで」

「恋?」

「そう。ライバルを呪ってたみたいやな」

「お兄に聞いたん?」

「うん。誰にも言うなよ言うてた」

と、早速てつはぼくに言ってる。

朝一のパトカー事件でラジオ体操どこらじゃなくなり、その日はすぐ解散になった。

午後からまたテツと二人で丑の刻詣りの現場に行った。

警察官と近所の大人が呪いの紙垂を外していた。藁人形は既に外されていた。

山は周囲を調べている警官以外、いつもの様子に戻っていた。

セミの鳴き声が山の中にこだましている。

まだ残っていた「呪い」をかき消すように。鶏はかわいそうだなと思った。

当時はキミが悪いとしか思わなかったが、ぼくとテツも初恋を経験した後、呪いたくなる心境がわかったような気がした。もちろん、呪いはしなかったが。

結局、あの娘の恋はどうなったのだろう?

丑の刻詣りの呪いは、僕らのせいで頓挫した。あの子に呪いは返ってきてしまうのだろうか?

とにかく、ぼくらの預かり知らぬところで、事件は終わったようだった。村はすぐに日常に戻った。

その夜、また神さまがやってきた。

「止めてくれてありがとな。東の山の神様は女なんや。あの娘に同調してしもたんやろなあ。あのままでは酷いことになるところやった。ありがとな」

その声だけがぼくの頭の中に響いてきた。神様はおるんやなあ。と、ぼくは何となく思った。

その夜、また神様がやってきた。

「ありがとう。だが、お主らはやんちゃすぎる。大事にならぬよう見守ってはやるが、ワシは西の山周辺でしか力が発揮できない。悪い事はするなよ。」

と、これが神様からの言葉だった。

神様の名前を調べた。

柿本人麻呂公。

奈良時代の歌聖だそうだ。これからも神様と僕らの少年時代はいろんな事が起こる。さてさて、どうなるのか?
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