本能寺の変は何故起こったか?

桜小径

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本能寺の変は何故起こったか?3 真犯人は斎藤利三

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堂田「それはわからないんじゃないですか?光秀の連歌にも『土岐は今』と読まれてひどく土岐氏を意識しているし、土岐氏の末裔を自称していた明智氏、それに使える斎藤氏という構図を復活させようという魂胆もあったのでは?」

波子「古流の名家の復活か。それくらいが本心なら信長だって光秀との主従関係を認めたはずだ。伊勢では神戸や北畠なんかにも家名を残させているからね。でも信長は稲葉一鉄からの斎藤利三返還要請に同意している。もちろん、光秀も家臣にしたいと願い出ていたはずだ。こちらは無視されている。その上、それに従わない利三に対して、信長は「自害」を命じた。」

堂田「自害をさせようとしたのですか?」

波子「そうだ。でもこの時は信長の側近であり、かつては斎藤家に仕えた猪子兵介のとりなしで自害は免れている。」

堂田「信長は光秀の家臣であり、甥である利三を殺そうとしてたってわけですね。でも、自害を命じたというのだって家臣の側から三行半を突きつけられた稲葉家の体面を守るための信長のポーズだったってことも考えられますよね?」

波子「君にしてはいいところに気がついたね。織田家の一部といってもいいほど信長に取り立てられた明智家、そして信長が大きくなるきっかけに寄与した美濃の名家稲葉家との間で起こった紛争を、信長は子飼いともいうべき明智の側に罰を与える形で解決しようとしたってことだね?」

堂田「そう、そうです。」

波子「当時の人たちもそう考えたんだろうね。信長ももちろんそのつもりだった。でもね。信長に睨まれた当人にとってはどうだろう?」

堂田「当人というと、斎藤利三?」

波子「そうだ。斎藤利三は『いつか、信長に殺される』と思ったろうね。」

堂田「そりゃ、そうかもしれませんが。。。」

波子「やられる前にやれ。ってところだろうね。利三はそのチャンスを伺っていた。」

堂田「まさか!陪臣の利三がいくらチャンスを待ったって無駄でしょう。自前で信長と戦えるほどの武力もなかっただろうし。。」

波子「それに利三にとって一番大きな政治的な問題である四国征伐が目前に迫っていた。四国への調略活動は光秀というか斎藤利三その人が担当者だ。」

堂田「四国調略?あ、確か光秀は長宗我部氏と縁戚なんでしたよね。」

波子「もっというと利三と長宗我部元親は義兄弟だ。」

堂田「あっそうか、、光秀と長宗我部の関係ばかり考えてました。確か利三の同母妹が長宗我部元親の正室・・。」

波子「長宗我部は光秀とも利三とも縁を結んでいるわけだよ。」

堂田「ちょっとやそっとの関係じゃないってことか」

波子「光秀が信長に睨まれてでも利三を離さなかったのは、利三が縁戚でしかも有能だったからというだけではない。四国との関係がおそらく彼と彼の軍団にとって当時の最重要課題だったのだろう。」

堂田「で、光秀の四国政策を全部取し切っていたのが斎藤利三だった」

波子「その通りだ。」

堂田「でもなぁ。。光秀は四国政策からはずされていたわけでしょう?」

波子「斎藤利三が光秀の配下となった時は、まだ光秀が四国を担当していた。光秀は四国担当者となったから、もしくは四国を担当するために斎藤利三にヘッドハンティングをかけたんじゃないのかな。」

堂田「まさか・・・・」

波子「黒田官兵衛。かれも秀吉の播磨攻略で利三と同じ立場にたっている。」

堂田「播磨勢力と秀吉の間にたつ交渉窓口ではあったでしょうが。。彼の場合は軍師だから」

波子「そうだよ。利三も軍師だ。」

堂田「そうなんですか?三成に対しての島左近のような戦闘用の大物かと思っていました。」

波子「君はそもそも軍師の最高の役目って何か知ってるのかい?」

堂田「そりゃ諸葛孔明のように戦争のための作戦を立てるとか、軍の行動方針を立てるとか・・」

波子「ばかか、君は」

堂田「ええ?」

波子「軍師の最大の役目はそんなことじゃないんだよ。調略こそ最大最高の軍師の役目だ。いいかい?それが成功するか失敗するかは別にすると、方針や作戦なんてものは誰にでも立てられる。軍師と呼ばれるのには成功する作戦を執り行うってことだ。つまり戦わなくても勝つ情況を決戦前に調略で仕上げて置く事が最も大事な仕事なわけだ。諸葛亮が考えたとされる天下三分だって、考えるだけなら誰かが考えていたはずだ。成功しにくいであろう中勢力拮抗常態の播磨攻略には軍師が不可欠だ。竹中にできるのは、美濃勢を取り込んだことで一気に巨大化した織田軍団内部での調整、そして対策なんだ。赤松系の国人小勢力が割拠している播磨では竹中半兵衛にはそれができない。だから同じ赤松系黒田官兵衛が必要だったんだよ。」

堂田「うーんそう考えればそうかもしれませんね。」

波子「信長は結局、利三の明智入りを認めた。信長からみても四国との関係を築くのには光秀と利三が必要だと一時は判断したんだろう。だから許した。黒田官兵衛も同じだ。荒木村重の謀反の時に一度は官兵衛の子を殺せと命令したが結局許した。」

堂田「なるほど。細部は違うけど明智と羽柴は相似形のような気がしてきました」

波子「似ているんだろうね。というか本当の意味での子飼いの少なかった両者は同じような方策で軍団の力を増幅していった。」

堂田「軍師かぁ。でもその軍師がやるってことは成功間違いなしの軍事行動なんですよね。そうか!実際本能寺は成功しちゃったわけかぁ。」

波子「そうだ。もう一つの考えもある。光秀が四国政策を完全にあきらめる事としていたとしよう。そうすると一番の高給取り軍師でもある斎藤利三っていうのは、もはや不要でもある。利三は古くからの光秀の家臣じゃない。光秀に仕えてたった2年の新参者だ。だから利三は光秀にもう一度四国担当になってほしかったはずだ。自分の存在意義にも通じる仕事だろうからね。」

堂田「でも、光秀は丹波へ。。。」

波子「そう、その通りだ、利三は諦めるしかなかったかもしれない。でもね。チャンスはやってきてしまったんだよ。運命の扉からね。」

堂田「運命の扉ですか?」

波子「そうだ、この扉さえ開かなかったら利三は事を起こせなかった。扉を開いてくれたのは光秀だ。利三はこのチャンスをおそらく狙っていた。だから本能寺までの軍行旅程はつつがなく行えた。」

堂田「叡山復興の請願と信忠の排斥を狙った光秀の作戦に乗ったと・・・・。」

波子「光秀には四国担当者復帰の気持ちもあったろう。光秀の信長拘束命令に乗じ、利三は自らの野望を達そうとした。それが本能寺の変、信長の死だ。一番面食らったのは信長でも、本能寺の守備兵でもなかっただろうな。光秀が一番驚いたんじゃないだろうか。こうなってしまっては後戻りはできないからね。」

堂田「そんな馬鹿な!利三は主君光秀の下知を敢えて曲げて全軍に伝えたと?」

波子「そうだろう。言ったもの勝ちだよ。どうせ一般の兵たちは、光秀ら幹部が本能寺を囲もうとしたり、攻めようとしていたことは直前までは知らなかったろう。「敵は本能寺にあり」と号令した人物が本当にいたとしたらそれは光秀じゃない。斎藤利三だよ。」

堂田「そりゃ、下っ端の中から抜け駆けしてチクル輩も出るかもしれませんからねぇ。極一部の幹部しか知らなかったのは間違いないでしょう。」

波子「そして重臣たちにも緘口令が布かれていた。という事は、『途中で作戦の確認ができない』ということになる。」

堂田「まあ確かに進軍中にそんなこと確認してたら情報は漏れてしまうかもしれませんねぇ」

波子「斎藤利三以外は「信長を殺す」ということは誰も知らなかったんだよ。光秀さえも軍を動かすということしか承知してなかった。」

堂田「でも、そんな事ってありえるのかな?」

波子「あり得るよ。現場で起こった混乱や命令無視や失敗、そして何よりやってしまった事を周囲に納得させる力、それらをひっくるめて後でうまく纏めるのが政治家の力量なんだよ。光秀には政治家としての力量がなかったのさ。けれど斎藤利三の眼にはその政治力と胆力が光秀にはあるように見えていたんだろうね。」

堂田「織田家随一の将軍なのに。。。」

波子「軍略と政略は違うのさ。」

堂田「じゃあ光秀は、どうしたらよかったのですか?」

波子「信長が死んでしまったことで、光秀の『信忠を排斥して信雄を立て叡山を復興するという計画』は水泡に帰したわけだ。それに許可を出すべき信長が死んでしまったわけだからね。その失敗を取り返そうとして改めて信雄の人となりを考えてみた。信雄が天下の仕置きをするよりも、自分が行う方がよいと思ったんだろうなぁ。光秀と信雄の個人の実績だけを比べた場合にかぎっては、これは間違いではないだろう。また信長に代わってその天下の仕置きの許可を出す立場にある朝廷の受けも自分の方が良いと判断したんだろう。」

堂田「信雄の天下よりは光秀の天下の方が上だったと?」

波子「いや、『光秀の方が上』っていうのはあくまでも個人のそれまでの実績の話だよ。でも天下云々になってくるとこれは大きな間違いになってくる。」

堂田「というと?」

波子「そもそも、光秀が兵を都にむけたとき、光秀は信忠の代わりに信雄を立てようとしていたのであって、信長の代わりに自分が立とうしたんではなかった。光秀は『織田の天下』のうちで光秀のやりたいことをやろうとして立ったはずだ。」

堂田「聞きました。黒幕のうちに信雄がいる。って話でしたよね。」

波子「光秀が犯罪者斎藤利三を庇おうとする意識が、光秀の判断力を大きく狂わせたんだろうね。もともと彼にも野望もあったろうし、そういうものも光秀がある意味開き直ってしまった原因の一つでもあるんだろう。そして歴史的に黒幕になるべきはずの信雄の登場場面がなくなっちゃったんだよ。」

堂田「なるほど、信雄は黒幕、いや主役になり損ねたわけですね。でもこの場合は傀儡のような気も・・・。」

波子「信雄が傀儡なんてとんでもない。光秀が兵を使って主君を脅すという行為をするためには織田家の内部でそれを教唆し、事後に光秀の立場を守る人物が必要だし、その人物こそがここまで派手な兵を使っての脅しまがいの諫言の原案を出したのだろう。光秀は、信長の死によって当初の計画が狂ったにせよ、天下人には予定通り信雄を立てるべきだったんだよ。斎藤利三を信長殺しの罪で処分してね。」

堂田「信雄をですか。。。」

波子「出損なった信雄は結果として光秀を牽制してしまうことになる。鈴鹿峠でとまってしまうんだ。信雄が光秀の傀儡でしかないのなら、光秀に早々と合流したはずだ。」

堂田「信雄はそんな近くにいたんですか!」

波子「そうだよ。信雄は光秀が京に招きいれてくれるのを鈴鹿峠で待ってたはずだ。天下人になってしまえば伊勢の混乱なんて後回しでいいはずだからね。信雄が牽制にまわってしまったおかげで、近隣の光秀と近しい関係にあった織田諸将はなおさら身動きがとれない。たとえ光秀に合流したくても大義名分にかけるからね。いくら下克上の時代とはいえ織田に反旗を翻すのと織田を利用とするのでは、周囲から見ての安心感が違う。みんな織田によって成り立ってるわけだからね。光秀の採った動きは織田家中枢に、というだけでなく、自分たちを含む織田政権全部に反旗を翻したと彼らの目には映ったのだろう。」

堂田「主君を殺したわけですからね。」

波子「主君を殺したという道義的な事は、大名たちが今後の身の振り方を考えるのに関して、つまり光秀に味方するかしないか決定することについては大した問題じゃないんだ。信長を殺したということは直接的に織田政権そのものを否定する事にはつながらない。織田家の人間である信雄を担ぎきれなかったということが織田政権を否定する事に繋がるんだ。織田政権を否定すること織田政権によって成り立っている近隣諸将にとっては自らの本領安堵の否定にも繋がる。自分の権益を守ってくれる人間にこそ忠誠心を尽くすんだ。戦国時代の忠誠心と江戸時代の忠誠心とは違う段階なんだ。」

堂田「うーん。でも秀吉は「信長の敵討」という名目で動いたじゃないですか?これなんか忠臣蔵の忠誠心を彷彿とさせますが。で結局この動きが天下人に繋がるわけだし。」

波子「それこそ、織田政権の政策を続けるという意思表示だよね。それに秀吉が天下人になれた直接の原因は清洲会議だよ。山崎の合戦ではない。もちろん清洲会議の主導権を握るために山崎の合戦の勝利は大きく影響しただろうがね。これだけでは秀吉の未来が約束されたわけではないんだ。秀吉は清洲会議で信雄でも信孝でもない信忠の嫡男の後見人になることによって織田家の中での執権のような立場を得ることができたわけだ。」
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