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詩方夢那

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番外編4:お盆の死神は深煎りエスプレッソ

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 開店前、純喫茶の趣を残す一階の厨房にはコーヒーの香りが漂っていた。
「ねー、なんでこんなに暑っいのに、こんなにお茶挽いてるわけー?」
「お茶じゃなくてそれ、コーヒー豆じゃん」
 ファーリはコーヒーミルをあっちの手やこっちの手で回しながら、なんで今日に限ってピクラーが居ないのかと愚痴をこぼした。
「そりゃ、あのわんこ達は夏休みだからに決まってるじゃない。初夏のトマト祭りで散々こき使ったんだからさー。それにー、ピクラーは元々ピザ屋なんだから、コーヒー祭りと言えばファーリ呼ばれるにきまってるじゃない」
 ノーチェはサイフォンをぼんやりと眺めながら、ポップコーンが食べたいと呟いた。
「だったらさー、飲茶ヤムチャフェアで出してたスイカの種食べたい。あれ楽しい」
「たしかにー」
 コーヒーの香りだけが空間を満たした頃、二階の厨房からミーリャがやってきた。
「どう? コーヒー出来た?」
「サイフォンちょーのろまだから全然だけど」
「それは仕方ないわ。でも、ハンドミル挽きサイフォンコーヒーは数量限定だから心配しないで。それよりノーチェ、今日は此処じゃランチメニュー出せないから、お客さんの誘導、お願いね」
「はーい……でもさぁ、なんでこの夏の書き入れ時にわんこ休みにしちゃったわけ?」
「お盆休みっていうのが終わったら、夏野菜フェアの続きがあるのよ」
「でも、そのお盆休みってお客さんがいっぱい来るんでしょ? それなのに、なんでわざわざ限定のコーヒーなんて出すの?」
 コーヒーミルを回す手を止め、ファーリはミーリャに問い掛けた。
「なんかね、夏休みはただでさえ子づれのお客さんが来るのに、お盆休みって子連れのお客さんがふえるらしいの。でも、此処は、小さな子供が走ったり騒いだりすると迷惑なだけだから、わざと子供が来ない様にコーヒーフェアにしてるんだって、ロディア様は言ってたわよ」
「へー」
 ファーリは再びコーヒーミルを回し、ノーチェは終わったらバターのポップコーンを食べさせてと言う。
 ミーリャはキャラメルポップコーンがおいしいのにと言いながら、再び二階の厨房へと戻って行った。



「ボクー? ここ、走ったら危ないよねー?」
 プルートは満面の笑みを浮かべ、テーブルの間を全力疾走する子供の前に立ちはだかった。
「おにいさん、すごーくアツアツのグラタン持ってるの、キミの頭に落ちたら、大変だよね?」
 何も知らない子供には、プルートの纏う暗黒のオーラが見えたのか、立ち止まった子供はその表情を見る前に泣き顔へと変える。
「う……ぅ……」
「ちょっとーっ、ウチの子に」
「あぁ、貴女がこの躾の悪い坊やのお母さんでしたか」
 自分の席から言葉だけを投げ掛ける母親に対し、彼は辛らつな言葉を吐き捨てる。だが、言葉に反して彼は満面の笑みを浮かべていた。
「このグラタンは僕が頂きますから、お帰りになって下さい」
「はぁ?」
 威圧的な目つきで母親はプルートを見ていたが、プルートは笑顔のまま続けた。
「坊やが突っ込んできたおかげで、アツアツのグラタンはもうお出しできませんから、さっさとお帰り下さい」
「ちょっと、アンタ!」
「それとも、坊やの頭にアツアツ煮え煮えのグラタンをおかけしてお出ししましょうかー?」
 その母親と連れ立っていた同じ年頃の女もまた、プルートの纏う暗黒に気付いたのか、憤りをあらわに暴言を吐く母親をいさめた。
「ユウ、こんな店出ていこ? あんな店員に金出したく無いじゃん!」
「でも!」
「いいから、さっさと出よ! ほら、ライくん、こっちおいで!」
 立ち上がった女はプルートの前で立ちすくむ男児の手を引き、もう二度と来ないからと捨て台詞を吐き、エレベーターへと走った。
 この店はジドウギャクタイをしている店だ、などと叫びながら母親もエレベーターに向かう。すると、折よく開いた扉の向こうに立っていたのは、走っていた男児と同じ年頃の女児を連れた男だった。
「さ、行きますよ」
 不機嫌さと、奇妙な光景を見た事への困惑から顔を歪める大人達を不思議そうに見上げながら、女児は連れられるまま客席へと歩く。
「ちょっと! この店はジドウギャクタイを!」
「いいから!」
 女は思い出した様に叫ぶ母親と困惑したまま、泣き叫ぶ事も出来ない男児の腕を引き、エレベーターへと駆け込んだ。
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