三度目の衝撃 ―元社畜が破天荒ギルドに転生した理由―

詩方夢那

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第二章 成り行き任せ、異世界ライフ

43.公認ギルドの初仕事:折り返しの荷物

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 一行は順調に船着き場へと向かい、荷馬車ごと川を渡る特別便で対岸へと向かう。
 荷馬車を渡す船はいかだの様な物で、乗り心地はあまり良くない。とりわけ上陸の際は水面で動き出す馬車に揺られる為、一行は経験した事の無い気色の悪い揺れに見舞われた。中でも車輪に慣れないジーナはその揺れに酷い吐き気を覚えたが、上陸した馬車は列が整うとすぐに動き出す。
 船着き場から帝都南東の入り口はそう遠くなく、荷馬車の列は船着き場から整備された道を疾走する。帝都に近付くにつれ道はわだちの刻まれた馬車道となり、警備の敷かれた馬車専用道となる。だが、走りやすさの反面道幅が狭まるため、先頭車両の両脇に居た二人は先頭の馬車の前後に分かれ、一列の隊列をなす事になった。
「あれ? 前を走ってるの、警備の馬ですよね?」
 窓から先頭の様子をうかがっていたオルドは首を傾げた。
「きっと馬車道に入ったのね。二頭立ての馬車の両脇に馬が走れるほどの幅が無くなったのよ。此処からは、少し早くなるかしら」
「へー……」
 アナスタシアがそう語った後、車列の速度は緩やかに上昇する。先頭を任されたメテオーロは程よい速さを模索しながら、滞りなく車列を帝都へと向かわせる。
「そのまま進め! そのままだ!」
 行き違いの退避区間が設けられた部分で交通整理に当たる官吏は一行の車列と、その後に続く別の商団の馬車を通過させる。
 そうして行き違いの区間を過ぎると、次第に車列の速度が落ち始めた。関所の存在を伝える標識を認め、停車に備えた減速が始まったのだ。
 やがて車列は緩やかに停止し、関所の門番の前でメテオーロは馬を降りた。
「エストゥアのパエジ・エステリ商会だ。証明書は二台目の荷馬車に」
 関所の官吏は二台目の馬車に向かい、扉を叩いた。
「通行手形を出せ」
 アナスタシアは横柄おうへいな官吏の態度に辟易へきえきしながら、持っていた手形を見せる。
「それは?」
 荷馬車に対してあまりにも荷物が少ない事を不審に思い、官吏は小箱を指さした。
「これは東大陸のジンセンというハーブです」
「は?」
 アナスタシアの説明に対し、それを知らない官吏は表情を険しくする。
「とても珍しい植物の根で、滋養のお薬に使われています」
「見せろ!」
「ちょっと!」
 アナスタシアの制止を振り切り、官吏は強引に小箱を取り上げふたを開ける。
「何だこれは、酷い臭いだ! 新手の火薬だろう!」
「馬鹿言うんじゃありません! それ、いくらすると思ってるんですか! その箱いっぱいの金塊が有っても足りませんよ!」
 アナスタシアは官吏の手から箱を奪い取る。
「……荷物の便覧は?」
 アナスタシアと言い争う官吏の脇から、別の官吏がオルドに声を掛ける。
 オルドは納品書の写しを管理に手渡した。
「……これは提出してもらう。ほら、行くぞ、それは薬なんだよ」
 納品書の写しを受け取った官吏はアナスタシアと言い争っていた官吏の腕を掴み、門の方へと引き返す。
「まったく、帝国のお役人って本当に横柄ね!」
 アナスタシアは荷馬車の扉を閉めた。
 程無くして車列は緩やかに動きはじめ、届け先へと進んだ。

 荷物を受け取ったのは帝都で東大陸の品を中心に卸売りを行う商人だった。
 護衛に当たった一行は荷物が引き渡された時点で任務完了となり、帝都見物に向かう予定だった。ところが、受け取り主の商人は、この荷物を届けたエストゥアのパエジ・エステリ商会宛に大切な書類を届けて欲しいと荷馬車の御者に告げる。
「退治屋のメテオーロ、ちょっといいか」
 御者はメテオーロを呼び、革製の書類入れを見せた。
「ドンゴゥ商会からパエジ・エステリ商会宛の書類を届けて欲しい」
「え、俺達はただの護衛で」
「我々はパエジ・エステリに雇われた荷馬車屋で、これから別の商人の荷物をエストゥアに送る仕事が有る。護衛を兼ねて輸送出来るのは君達だけだ。乗合馬車と渡し船の代金込みで一人銀銭一枚、受けてくれるか?」
 メテオーロは思案した。馬車と船の運賃を除くと日当は銅銭七枚ほど、悪い仕事では無いが移動距離は長い。だが、もしエストゥアに戻り、パエジ・エステリ商会に再び向かう事が出来るのであれば、その場で今朝の警備費用を請求する事が出来る。公認ギルドに対する助成金を受け取っているとはいえ装備は不十分で、メテオーロ以下従業員はその日暮らしをするのがやっとの収入しか得られていない。
「……分かりました。引き受けましょう」
「そうか、それじゃあ、これに署名を」
 メテオーロは仕事を引き受けた事を証明する紙切れを受け取り、オルドらが待つ広場に向かった。
「悪い、もう一件仕事を受ける事になった、このまま元の街に引き返す」
 帝都見物かと思っていた一行は驚き、アナスタシアはやや不服な表情を浮かべる。
「帝都見物は出来ねぇが、日当は銅銭七枚、運賃込みで銀銭一枚ずつを即金で受け取ってきた」
 銅銭七枚の価値を理解するアナスタシアは目をみはった。
「決まりだな。それじゃ、船着き場までの乗合馬車に乗るぞ」
 ジーナは再びの馬車移動に命の危険すら覚えていたが、既に疲労で歩く事も辛く、一行に従うしかなかった。
「それにしても……日当を一人に対して銀銭一枚出すほどの書類とは……何か危ない橋を渡っているんでしょうかね、ドンゴゥ商会も」
 メテオーロの隣を歩きながら、男はメテオーロの持つ書類入れを見遣った。
「東側は帝都直行の荷物の値を吊り上げ、第二都市も帝都への発送を値上げしている……エストゥアは抜け道だし、そういう事だろうな」
 メテオーロは男を見遣り、返す様に男は呟いた。
「あまり関わりたくはないですねぇ」
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