夜想曲は奈落の底で

詩方夢那

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第一章 The war ain't over!

2-2  積み木崩し(2021年春)

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「勿論、内向きで捻りの無い流行と広告代理店に媚び切ったアルバムであったとしても、完成度だけは高ったよ。言うなれば、メディアがこぞって取り上げる最新の高級スイーツの様に、万人が喜ぶ出来栄えだ。ラジオで流れてもテレビで流しても当たり障り無く、ロックが不良の音楽というイメージを払拭するには申し分ない。だけど、僕はショーケースの中の高級スイーツが欲しいわけじゃない。唯一無二、例えるなら掘り出された瞬間こそが芸術的な半貴石の塊の様な作品に力を尽くしたい。このままでは、僕には価値が見出せない」
 淡々と己の意見を語り尽くすルーシーに、ハリーは溜息を吐き、机に投げ出した片腕に軽く体重を掛けて空虚な白い机に視線を落とす。
「高級スイーツ、か……確かに、そうだな。誰が聴いてもいい曲、だが、毒が無い。いつまでも毒づいているのもどうかと思われるのは分るが、ロックである以上、そういう何処か尖った所が無ければ面白くないってのは分らなくもないな」
 ハリーも件のアルバムは既に聴いており、この数年、バンドのアルバムがどの様な物になっているのかは誰よりも分っている。
「……お前さんの気持ちは分ったよ。それで、どうしたい?」
「アマミ君がこのまま突き進むというなら、僕はついて行けない」
 ルーシーの視線が空虚な机上という名の洞へと落ちてゆく。

「……辞めたいのか?」
 はっきりと物を言うルーシーを相手に、ハリーもまた遠慮のない質問を思い切り投げかける。
「様子を見たい気持は有る。だけど、このままじゃあ次の制作には入れないだろう」
「どちらとも言えないか……あー……」
 ハリーは背凭れに身を任せた。ルーシーが返答を濁すのはよほどの事だ、と。だが、それにはそれなりの回答が有る。ハリーは軽く息を吐いて居住まいを正した。
「じゃあ、こういうのはどうだ? 社会情勢の影響から音楽活動に対するモチベーションが低下した。しばらく休養したい、と」
「でも、どっちつかずじゃあ次のレコーディングに差し障る」
「この先半年くらいはアマミもソロで忙しいだろうし、結論を急ぐ事はないだろ? 社長には俺からも言ってやる。そうだな、アマミがソロツアーしてる間に、もしバンドで何かする必要があった時には、無期限休養って事で引っ込んでいればいい」
「でも、後任を決めた方がいいかもしれない」
「まあ、それはその時だ。いざとなったら俺の知り合いを誰かスカウトしてくる」
 ルーシーの視線がハリーのそれと交わった。
「尤も……アマミが本領発揮してくれりゃ、それでいいんだが……次をどうするのか決めない事にゃ分からんだろうし、今は一旦保留、社長の意見を聞いてから考えるって事でいいだろうよ」
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