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第一章 The war ain't over!
4-1 トラウマ掘削機(2022年春先)
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「よろしくお願いしまーす」
額装された一枚の絵画を北欧へ向けて送り出す。日本は春を迎えているが、北欧の空模様は分らない。レインは配送業者に託されたそれが無事に届く事を祈りながら扉を閉めた。
それから程無くして再び呼び鈴が鳴る。何か不手際でもあったかと慌てて扉を開け、レインは絶句した。
「なんであんたが此処に居るんだ」
この場で会うはずのない人間が、目の前に立っていた。
「その、ごめん、ハリーに話聞い」
レインは扉から手を放し、振り向きざまに廊下に投げ出された上着と手提げ鞄を掴むと、閉まりかけた扉を乱雑に開けた。
「いいから付いて来い」
低い声で言い放ち、まだ冷たい風が吹く中をレインが向かったのはあの喫茶店だった。
「いら……」
ドアベルに呼応した白北は客の顔を見て思わず声を失った。
そこに立っているのは、色白長身、マスクをかけていてもなお、眼光鋭く人を魅了する美人である事が窺える男、イエロー・リリー・ブーケのヴォーカリスト、ケリーで知られる天海絢都だった。
「お、奥のお席へどうぞ……」
レインは以前ハリーと話したのと同じテーブルに着き、呆れた様な不愉快な様な表情で目の前の男を見つめる。
手拭きと冷水を届け、白北はレインに同じでよいかと尋ねる。
「あぁ」
光の無い目で男を見つめたままレインは返答し、白北は厨房に引き返す。
「……どうして此処に来たんですか」
低い声に込められていたのは困惑ではなく、怒りだった。
「だから、その、ハリーに話を聞いて」
ケリーは気まずそうに視線を泳がせる。
「断ったはずです。後釜を狙うギタリストなんて、ごまんと居るでしょう?」
「でも、俺は……俺は君じゃなきゃダメなんだっ!」
叫びたい感情を押し殺しながら、ケリーはテーブルに身を乗り出し、真っ直ぐにレインを見た。
黒目がちなのに三白眼な強い眼差し、それは十三年余り前にレインを射止めた眼差しだった。
「……もう騙されないよ」
約十三年前、レインはその眼差しに射止められてイエロー・リリー・ブーケに参加し、散々な思いをした。決して不遇な扱いは受けなかったが、レインの体に売れ筋に乗ったバンドの活動ペースは耐えきれなかった。
「大体、見る目無いんですよ。どうして辞めたか分かってますよね、実質馘首ですよ、馘首。しかも、もう俺はそっち側の人間じゃないんです、これ聴いたら分かるでしょうけど」
レインは古いスマートフォンを取り出し、店内の無線通信を有効にする。
流れ始めたのは、断末魔の悲鳴の様な声に連綿と続く鬱々としたギターリフ。
「今の相棒と初めて作ったアルバムです。元はスウェーデン、今はフィンランドに拠点が有るレーベルから出しました。あぁ、歌ってるのは俺ですよ」
男はコーヒーが置かれた事にも気付かず、茫然とそのスマートフォンを見つめた。
画面に映し出されているのは、最大手の動画配信サイトの再生画面。アルバムジャケットと思しき画像はモノクロで、画面の反射によってその姿を隠しているが、明らかに明るい物ではない。
額装された一枚の絵画を北欧へ向けて送り出す。日本は春を迎えているが、北欧の空模様は分らない。レインは配送業者に託されたそれが無事に届く事を祈りながら扉を閉めた。
それから程無くして再び呼び鈴が鳴る。何か不手際でもあったかと慌てて扉を開け、レインは絶句した。
「なんであんたが此処に居るんだ」
この場で会うはずのない人間が、目の前に立っていた。
「その、ごめん、ハリーに話聞い」
レインは扉から手を放し、振り向きざまに廊下に投げ出された上着と手提げ鞄を掴むと、閉まりかけた扉を乱雑に開けた。
「いいから付いて来い」
低い声で言い放ち、まだ冷たい風が吹く中をレインが向かったのはあの喫茶店だった。
「いら……」
ドアベルに呼応した白北は客の顔を見て思わず声を失った。
そこに立っているのは、色白長身、マスクをかけていてもなお、眼光鋭く人を魅了する美人である事が窺える男、イエロー・リリー・ブーケのヴォーカリスト、ケリーで知られる天海絢都だった。
「お、奥のお席へどうぞ……」
レインは以前ハリーと話したのと同じテーブルに着き、呆れた様な不愉快な様な表情で目の前の男を見つめる。
手拭きと冷水を届け、白北はレインに同じでよいかと尋ねる。
「あぁ」
光の無い目で男を見つめたままレインは返答し、白北は厨房に引き返す。
「……どうして此処に来たんですか」
低い声に込められていたのは困惑ではなく、怒りだった。
「だから、その、ハリーに話を聞いて」
ケリーは気まずそうに視線を泳がせる。
「断ったはずです。後釜を狙うギタリストなんて、ごまんと居るでしょう?」
「でも、俺は……俺は君じゃなきゃダメなんだっ!」
叫びたい感情を押し殺しながら、ケリーはテーブルに身を乗り出し、真っ直ぐにレインを見た。
黒目がちなのに三白眼な強い眼差し、それは十三年余り前にレインを射止めた眼差しだった。
「……もう騙されないよ」
約十三年前、レインはその眼差しに射止められてイエロー・リリー・ブーケに参加し、散々な思いをした。決して不遇な扱いは受けなかったが、レインの体に売れ筋に乗ったバンドの活動ペースは耐えきれなかった。
「大体、見る目無いんですよ。どうして辞めたか分かってますよね、実質馘首ですよ、馘首。しかも、もう俺はそっち側の人間じゃないんです、これ聴いたら分かるでしょうけど」
レインは古いスマートフォンを取り出し、店内の無線通信を有効にする。
流れ始めたのは、断末魔の悲鳴の様な声に連綿と続く鬱々としたギターリフ。
「今の相棒と初めて作ったアルバムです。元はスウェーデン、今はフィンランドに拠点が有るレーベルから出しました。あぁ、歌ってるのは俺ですよ」
男はコーヒーが置かれた事にも気付かず、茫然とそのスマートフォンを見つめた。
画面に映し出されているのは、最大手の動画配信サイトの再生画面。アルバムジャケットと思しき画像はモノクロで、画面の反射によってその姿を隠しているが、明らかに明るい物ではない。
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