夜想曲は奈落の底で

詩方夢那

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第一章 The war ain't over!

8-4  グラインド・ゴシップⅢ

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 鷲塚は訝しげにレインを見る。レインは伏し目がちにタブレットから視線を逸らしていた。
「事情は分かった、だが、見ての通り、うちレベルの事務所ではどうにもならないほど、君に関する好き勝手な言説が流布されている……復帰してくれとまでは言わない。だが、一度でいい、イエロー・リリー・ブーケのレインとして公の場に出てくれ」
「お断りします。イエロー・リリー・ブーケのレインはもう死んだんです」
「とはいえ、こうして生存証明が出されてしまった。コメントを出すだけでも出した方が君の為だ」
「死人に口はありませんが、法律で殴り合うなら止めません」
 鷲塚は溜息を吐いた。
「バンドの風評にもかかわる事なんだ、やめたからと言って看過は出来ない。ただでさえコリーが脱退して大変な状況なんだ、他のメンバーにまで話が飛び火したら、ケリーのソロやハリーのサイドプロジェクトにも迷惑がかかる。ましてやこのままルーシーが脱退したら、また妙な憶測が立ってしまう。これ以上私を困らせないでくれ」
「困らせているのは申し訳ないですが、今更表に出るのは御免です」
「困らせている自覚が有るなら協力してくれ。それに、こちらに戻って来てくれるなら、この先々に出てくる妙な話の否定もしやすくなる。現役の所属タレントに対する名誉棄損は重大だからな」
「……結局それですか」
 レインは椅子の背もたれに体重を預ける。

「ただでさえ今はコリーの後任が居らず、事務所を離れてしまって困っているんだ。イエロー・リリ・ブーケという稼ぎ頭が動いていない状態で、過去の所属タレントの面倒なゴシップに費用を払うのは痛い出費だ。今の君なら分かるだろう?」
「事情は分かりますが」
「分かっているなら、協力して欲しい。それにだ、またメンバーと集まってみれば、気が変わるかもしれない。君だって一度も自分の意思でレコーディングに参加できなかった事は心残りじゃないのか? 今でも音楽は続けているんだろう?」
「それはそうですが、畑違いも甚だしいです」
「だとしても、弾けないわけじゃあなかろう。カバー演奏の動画も見せて貰った、歌だってあんなにうまいじゃないか」
 レインは押し黙る。
「君はこの下らないゴシップから解放され、うちは稼ぎ頭の復活で立て直しが図れる。バンドに至ってはこの数年来の不完全燃焼極まりない活動からも脱却できる。丁度、七月の頭にファンミーティングの予定が有るんだが、その時にサプライズ出演してくれるだけでもいい。ファンクラブ向けの有料配信でも流す予定なんだが、君が出演するとなれば経済効果はそれなりにある」
「ゴシップを撤回させる交換条件ですか……」
「そういう格好にはなるが、これが最善策だ」
「……返事はいつまでに」
「連休明けには聞かせて欲しい。期日にはこちらから連絡をさせてもらうよ」
「分かりました……お約束は、出来ませんが」
「分かっているだろう、頼むよ」
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