夜想曲は奈落の底で

詩方夢那

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第一章 The war ain't over!

15-3 そんな奴は、怒り狂った鬼子母神に喰われればいい

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「俺は結婚なんてしないし、見ず知らずで躾のされていない子供の父親になんて絶対にならない。これが俺の意見で、それを捻じ曲げる事は法律的にも認められない」
「由雨生!」
 改めて結婚を拒絶するレインに父親は鬼の形相を向けるが、レインは動じない。
「あと、最低でも車の名義人は俺だから、譲渡もクソもないよ。もし代金の返済が残っているのが気に食わないっていうんだったらすぐにでも工面して払うよ。ただ、支払い前でも車輪のロックは外してもらう。仕事に使う車が出せないのは業務妨害だよ」
「また屁理屈を……」
 父親は奥歯をかみしめ、怒りを必死に噛み殺そうとする。
「屁理屈じゃない。全部常識で当たり前の事。とーさんは俺が非常識だと思ってるだろうけど、非常識な生き方をする為に必要な常識は全部知ってる。どんなに脅されたって、騙されないよ」
「このっ!」
 父親は立ち上がり、レインに掴み掛らんとする。
 母親はそんな父親の服を掴み、落ち着く様にと声を掛ける。
「あぁ、そうだ。あのパソコンケースとギターケースは捨ててくれていいから、それだけは伝えておくよ。中身は賞味期限切れてるし、ギターケースはヒンジ壊れてるし、パソコンケースはグラボ組み買えたらもう使えないジャンク品だから」
「舐め腐った真似をっ」
 母親につかまれたまま父親は席に戻ろうとしないが、レインはそんな父親を前に動じなかった。

「もう一度言っておくけど、俺は結婚なんてしないし、父親にだってならないよ」
 レインがそう宣言した時、小さな手がルーシーの皿に伸びた。
「おい!」
 異変に気付いたルーシーが声を上げた時に、既に小さな手はピザの二切れを掴んでいた。
「駄目じゃないか!!」
 ルーシーの声に視線を向けたレインも声を上げたが、小さな手の主は二切れのピザを掴んで隣のテーブルの下に潜り込んだ。
 レインは堪らず立ち上がる。
「きみ、泥棒をしたら駄目だろう!」
 レインが隣のテーブルへ近付こうとしたその時、ハイヒールの足が子供を蹴り付けた。
「ざっけんな、ナニしてくれてんだ、このクソガキがぁ!」
 末の子供の顔を拭いていたリナは、末の子供をそっちのけに二番目の子供を蹴りつけた。
「おい、やめろ!」
 ルーシーは立ち上がりリナを制止しようとする。
「うっせぇ、テメーはカンケーねーだろーが!」
 リナはルーシーに子供用の皿を投げ付けた。
「うわっ」
 幸い、皿は樹脂製で落ちても割れる事は無かったが、リナは子供を足蹴にする事を止めない。しかし、一方の子供も蹲ったまま、口に押し込んだピザを吐き出す事は絶対にせず、耐えている。
「や、やめて! リナちゃん、やめて!」
「うっせぇ、ババアは引っ込んでろ! ウチのしつけに口出しすんじゃねーよ!」
 レインの母親はリナを止めようとするが、リナの口汚い罵倒に怖じ気づき足が竦む。
 そしてその混乱に乗じて、ルーシーとレインの隙間に手が突っ込まれた。
「おい!」
 それはルーシーにぶつかりかけた一番上の子供で、形だけレインの取り分になっていた唐揚げをかっさらい、そのまま走り出す。
「誰か、子供を!」
 どうする事も出来ずレインは叫ぶが、状況は収まらない。
「放せよ! 悪いのはこのガキなんだよ!」
 状況の深刻さに気付いて我に帰ったレインの父親はリナの肩を掴んで制止を試みるが、ペーパーナイフの様な長い爪に顔を引っかかれてしまう。
 その間に末の子供は泣き喚いて嘔吐し、レインの母親が慌てて介抱に入ろうと立ち上がるが、転倒しかけて父親に激突、よろめいた父親の上体がリナに被さり、リナは叫んだ。
「ヘンタイ、ヘンターイ! この人せー犯罪者でーす!」
「子供、子供がーっ!」
 喚くリナの声とレインの母親の悲鳴に泣き叫ぶ子供の声、その遠くからは、別の子供の悲鳴と野太い男の怒鳴り声が響いた。
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