16 / 31
第15章「夜のスタジオ」 (七原視点)
しおりを挟む
スタジオのドアを開けると、湿ったような音のにおいが七原を包んだ。
機材が放つ微かなノイズ、照明の下でわずかに反射するシンバル、床を這うコードの束。そこには懐かしい輪郭だけが残っていた。
「おお、来たか」
奥から梶本の声がした。軽く手を振るその姿に、七原は少しだけ肩の力を抜く。
「……久しぶり」
「元気だったか?」
「うん、まあ……生きてた」
自嘲気味に笑うと、声がわずかに掠れているのがわかった。
七原はマイクスタンドの前に立ち、軽く息を吸った。耳鳴りのような沈黙が、胸の奥に漂っている。
音が肌に触れるようで、喉の奥から染み出してきた声が空気を変えていく瞬間。
「準備できたら、軽く合わせてみようぜ」
梶本の声に、小さくうなずく。
ギターがコードを響かせる。それにドラムのリズムが重なり、空間が動き出す。
七原は一歩、マイクに近づいた。
──いける。たとえ声が震えても、逃げない。
最初の一音は不確かだった。けれど、音が空間になじむにつれて、彼の声も芯を持ちはじめる。
声帯が震え、肺の奥から絞り出された想いが、音楽の中で輪郭を得ていく。
視界の端で、梶本が笑っていた。目が合い、彼が親指を立てる。その何気ないしぐさに、七原はほんの少しだけ、胸の奥がほどけた気がした。
曲が終わると、スタジオに静寂が落ちた。アンプのノイズだけが、名残のように残る。
「……なんか、戻ってきたな」
梶本のその言葉に、七原は目を伏せて笑う。
「うん、ちょっとだけ」
その「ちょっと」が、今はすべてだった。
機材が放つ微かなノイズ、照明の下でわずかに反射するシンバル、床を這うコードの束。そこには懐かしい輪郭だけが残っていた。
「おお、来たか」
奥から梶本の声がした。軽く手を振るその姿に、七原は少しだけ肩の力を抜く。
「……久しぶり」
「元気だったか?」
「うん、まあ……生きてた」
自嘲気味に笑うと、声がわずかに掠れているのがわかった。
七原はマイクスタンドの前に立ち、軽く息を吸った。耳鳴りのような沈黙が、胸の奥に漂っている。
音が肌に触れるようで、喉の奥から染み出してきた声が空気を変えていく瞬間。
「準備できたら、軽く合わせてみようぜ」
梶本の声に、小さくうなずく。
ギターがコードを響かせる。それにドラムのリズムが重なり、空間が動き出す。
七原は一歩、マイクに近づいた。
──いける。たとえ声が震えても、逃げない。
最初の一音は不確かだった。けれど、音が空間になじむにつれて、彼の声も芯を持ちはじめる。
声帯が震え、肺の奥から絞り出された想いが、音楽の中で輪郭を得ていく。
視界の端で、梶本が笑っていた。目が合い、彼が親指を立てる。その何気ないしぐさに、七原はほんの少しだけ、胸の奥がほどけた気がした。
曲が終わると、スタジオに静寂が落ちた。アンプのノイズだけが、名残のように残る。
「……なんか、戻ってきたな」
梶本のその言葉に、七原は目を伏せて笑う。
「うん、ちょっとだけ」
その「ちょっと」が、今はすべてだった。
0
あなたにおすすめの小説
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。抱かれたら身代わりがばれてしまうので初夜は断固拒否します!
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
隣国の国王キリアン(アルファ)に嫁がされたオメガの王子リュカ。
しかし実は、結婚から逃げ出した双子の弟セラの身代わりなのです…
本当の花嫁じゃないとばれたら大変!
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだんキリアンに惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】
まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる