今日から僕は犬になります

鈴本 龍之介

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第13話 クリスマスプレゼント

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僕はご主人様の手に引かれながら、ただ思うがままに着いていく。
そしてご主人様が足を止めた先はどこかで見覚えのある場所だった……

「あれ、ここって確か……」
「そうだ、最初にお前と出会った場所だ。まあ、お前は酔っててあんまり覚えてないと思うが……」
「でも何でここに?」
「まあせっかくだからな、記念になるだろ」

と、ご主人様は中に入ってく。
後に続いていくと、バーのマスターがいた。

「あ、大塚さん!久しぶりじゃないですか~」
「あぁ、悪いな」
「そんな謝らなくて結構ですって!でも毎日のように来てたのに、突然来なくなって心配しましたよ~」
「俺もそれだけ忙しくなったって事だよ」

ご主人様は談笑しながらカウンターに着く、僕は隣を陣取った。
しかし、ご主人様はこのバーの常連だったのかー……
けど、どうしてここに来なくなってしまったんだろう……?

「なんでここ、行かなくなっちゃったんですか?」
「なんでだろうな……」
「なんでだろうなってわからないんですか?」
「たぶん来なくても良くなったんだろうな」
「はぁ……」

行きたいなら行きたいと言ってくれればいいのに……
ちょっとモヤモヤしてると、マスターがさらに話しかけてきた。

「あれ、隣にいるのって確か……」
「そうそう、あの時のあいつだよ」
「あー、飲み潰れてた子かー」
「あの時はご迷惑かけてすいませんでした!」
「いやいや、いいんだよ。うちはそういう所だから慣れっこだって!」
「こいつ家に連れて帰ってもグデングデンだったからなー」
「あ、あの時はしょうがなかったんですよ!仕事クビにされてヤケクソだったんで……」
「でも、大塚さん。この子顔変わりましたねー、なんていうかたくましくなったというか……」

たくましくなった……?
僕が?
確かに昔の働いていた時の僕は、あまり仕事というのを理解してなかったんだと思う。
やる気だけはあったけどいつも空回りしてたし、自信のない自分を誤魔化していただけかもしれない……
こうやってここでご主人様と出会って僕は変わった気がする。大きな自信を持って変わったとは言えないかもしれないけど、これもご主人様のおかげだ。

「そりゃそうだろ、俺の家でビシバシやってるからな」

そう言うご主人様の顔はどこか誇らしげで僕はとても嬉しかった。
店内にはいい感じに盛り上がっているカップルがちらほら……
決して繁盛してるとは言えないお客さんの量だけど、そのカップル1組1組の熱量で店内は暑かった……
いや、たぶん暖房が効きすぎてるだけかも……

「マスターさ、悪いんだけどそろそろ持ってきてもらってもいいかな?」
「お、あれっすね!少々お待ちをー……」

ご主人様がマスターにそう言うと、マスターは裏へと消えていった……
何なのだろうか?特別なお酒でも取り寄せてもらったのか?

「お待たせしました!これですね!」
「おう、ありがとう」

ラッピングに包まれたそれはプレゼントにしか見えなかった。今日はクリスマス……プレゼントという事は僕にくれるということか?
なんて考えている間にご主人様はそのプレゼントを渡してきた。

「これ、やるよ」
「プレゼント……ですか?」
「まあ、あんま期待すんな」

ぶっきら棒なご主人様だが、僕が開けるのを横目でひっそりと伺っている。
ちゃっかり反応を気にしてるところが可愛いなぁ……
僕はその期待に応えて、中身を確認する。

「これって……スーツですか?」
「そうだ、スーツだ」

スーツのプレゼントとは……はて?
洋服のプレゼントは聞いた事あるけど、スーツはあんまり聞いたことがないなぁ……

「なんでスーツを……?」
「お前、仕事したくないか?」
「仕事……ですか」
「無理にとは言わないが、俺が無理矢理に連れてきたからな……働きたいと思ったら自由に働いてもいいぞ」

ご主人様は僕がある程度成長したのを見越して、スーツを買ってくれたんだと思う。
一緒に過ごした半年間で僕は確かに成長できた。
今の僕なら自信を持って仕事が出来るかもしれない……
大きく変わるなら今しかない!

「わかりました、僕仕事探します!今ならやれそうな気がします!」
「そうか、なら良かった。仕事が決まっても家事の心配はするな、落ち着くまではそっちに集中しろよ」
「はい!ありがとうございます!」

ご主人様は今まで見せなかった慈悲深い顔で僕の事を見ている。きっとご主人様は喜んでるんだ。
今なら出来る、いや……今しか出来ない。


僕は今日、キスをした。


相手が男でも関係ない。
好きな気持ちを表したかった、伝えたかった。
その方法がキスでもいいじゃないか。
周囲の人々は驚いていた。
けど世間体なんて気にしてるんだったら、それは本当の愛じゃない。

短くて一瞬のひと時から唇を離すと、ご主人様はポロリと一粒涙を流してすぐに拭った。

「なにしてんだよ、バカだな」
「す、すいません……」
「ほら、そろそろ帰るぞ」

店を出る。
ご主人様はまた手を取ってくれた。
頑張るよ、ご主人様……
僕、前よりも変わるから!
だから、応援しててね!
冷たく寒い冬に少し明かりが灯った気がした……
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